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アニラブ-animal love-  作者: もふじ
第1章 狐編
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狐編 中

狐の蓮は人間の男の姿に化け、菫と出会った。

そして、一緒に荷物を持つことになって…

 僕と菫は「秋」の前まで、くだらない話をしながら歩いた。

 くだらない話でも、笑いあったりして楽しく感じた。


「ありがとうございました! 助かりました」

 菫は僕から荷物を預かり、ペコリと頭を下げる。

 僕は、ブンブンと手を横に振る。


「いやいや、僕もここに向かっていたから気にしないで」


「え!? そうだったんですか!? じゃあ、入りましょうか」

 菫は驚きながらも嬉しそうに笑った。

 そして、引き戸を開けると、中にはほとんど男性だがたくさんの客がワイワイと食事をしていた。

 色んな間隔でテーブルや椅子が置かれていて、空いている席はあまりなかった。

 昼間でも酒を飲んげいる人がいるようで、少し酒の匂いもしていた。

 おぉ、中はこんな雰囲気なんだ! 人気なんだな、ここ。


「ただいま戻りましたー!」

 菫の姿を見ると客たちは、おかえり、菫ちゃん! などと言葉を返している。

 菫はふふっと笑い返す。

 扱いなれてるな…。


「おかえりー、菫ちゃん。ありがとうね、重かったやろ?」

 厨房の方から、30代の女性が出てきて菫から荷物を預かる。


「あ、秋さん! いえいえ、色々あって、蓮君に手伝ってもらったので大丈夫です」

 菫はニコッと笑うと、「秋」と呼ばれた女性はまぁ! と嬉しそうに柔らかな笑顔を見せる。

 ……「秋」ってそういう意味だったのか。食欲の秋とかそういう意味だと思ってた。

 僕は、秋と目が合うと小さく会釈をする。

 顔を上げると客のほとんどの人に睨まれていた。

 え……。


「蓮君もありがとうね! 紳士的やね!」

 秋は、ふふっと笑うと厨房へと戻っていく。

 菫も厨房に行こうとしたが、1度立ち止まって僕のところへ戻ってくる。


「蓮君、真ん中の方に席が空いてるので、そこにどうぞ! 注文が決まったら、また呼んでくださいね」

 菫は、真ん中の方にある席を指すと、じゃあ後ほど! と言って厨房へと戻って行った。

 僕は菫が指した席につくと、テーブルにへばりついて、はぁ…。と大きなため息をつく。

 き、緊張したぁ…。

 勢いで、色々話しちゃったな。今、僕の顔は絶対赤くなっている。だって、菫だよ? 八方美人って言われているんだよ?

 緊張しない人中々いないんじゃないかな…。もう大混乱だ。顔に出てなかったらいいけど…。


 でもさ


 笑ってたよね。


 僕は目を閉じ、ふぅと安心の一息を吐く。

 そして、起き上がって、メニューに手を伸ばすと誰かが俺の隣の席に座って肩を組まれる。

 え゛っ。


「なあ、兄ちゃん。菫ちゃんとの、色々って何だ? 色々って…」

 深緑の着物を着ている40代くらいの男が僕に少し威圧をかけながら言う。

 男の顔は笑っているが、僕の肩は強く掴まれる。

 ……痛い。


「えっと、ぶつかってしまって……。それで、お詫びにというか荷物を持ったんです」

 苦笑いで答えると次は紺色の着物を着た男が僕の頭に片腕を置き、顔を見てくる。

 ひっ!


「話すためにわざとやったんじゃないのか?」


「それだけは絶対にありません。断じてありませんっ」

 僕は、訊いてきた男をキッと睨む。

 男はふーん、と少し笑う。

 何なんだ、そんなことするわけないだろ。

 ……会いたいとも、話したいとも思ってたけどさ。

 少し周りを睨みながら見ていると、僕の向かいの席にこげ茶の着物に羽織を着ている50代くらいの男が座る。

 あ、賢そうな人が来た…。


「それで? あいつのこと、好きなのか?」

 その男は肘をテーブルの乗せ両手を組んで、その上にあごを置き、僕をじっと見てくる。


「そりゃあ……好き、ですけど」

 僕が答えると、絡んできていた男も、ワイワイと騒いでいた客たちもピシッと固まる。そして、ひそひそと話し始める。

『あいつ、言ったぞ』『すげぇな、ここまでやる奴は久々だ』『大丈夫か、どうなっても知らねぇぞ』

 客たちは僕をちらちらと見ながら話す。

 訊かれたから、正直に答えただけじゃん!? この視線は何!?

 最後に『やっぱり菫ちゃん狙いか』という声が聞こえると、僕に絡んできている男が同時にそうなのか?と言わんばかりに睨んでくる。

 うぐっ。こわっ。


「じゃ、じゃあ、逆に訊きますけど、皆さんは菫のこと好きじゃないんですか!?」

 僕はグッと目を瞑り、菫たちにはギリギリ聞こえないように強く言うと、また静かになる。

 次は、何?

 僕が恐る恐る目を開けると、肩や頭に置かれていた手の力は弱くなる。

 僕はまばたきしかできない。


「お前……」


「は、はい!!」

 僕は背筋をのばして、肩を組んでる男を見る。


「何だよ、そういうことかー! お前面白いなぁ!!」

 男は、嬉しそうにバンバンと僕の背中を叩く。

 その声と同時に、店の中は元の雰囲気に戻る。

 え? え? どういうこと?

 僕の向かいに座っていた男はガタッといきなり立ち上がる。

 つい肩が上げってしまう。


「お前気に入った! 今日は、俺がおごってやる! 秋ちゃん、酒頼む!」

 立ち上がった男は俺の頭をぐしゃぐしゃと撫でてから、秋に注文をする。

 わぁ、大きな手だな。それに、温かい。

 人間はこんなに大きくて温かくて力強い手に育てられるのか。


 ……いいなぁ。


 男が注文すると、僕の両脇にいる男達はよっ! 銀之助さん、太っ腹!! ごちそうさまです! と言う。

 銀之助と呼ばれた男は、お前らはおごらねぇよ、と呆れたように言う。


「はい、お酒。少なめにしなよ」

 秋は、酒が入っている徳利を僕たちの席に持ってくる。

 菫は4人分の杯を持ってきて、ニコッと笑いかけてくれる。

 俺は、少し顔を赤くしてしまう。


「お前、素直で純粋やなぁ。安心するわ」

 銀之助はわははと笑うと、杯に酒を入れ俺の前に置いてくれる。

 え?急に何!?


「ほら、飲め!好きなだけ飲みやがれ!」

 銀之助は自分の分も杯に入れ、グイッと飲むと美味い!と言ってニッと僕に笑顔を見せてくれる。

 僕はコクンと頷くと、くいっと酒を飲みこむ。

 …か、辛い。

 でも、大人たちは美味しそうに酒を飲んでいる。

 銀之助たちは、グビグビと飲んで顔を赤くしていく。

 僕は、注いでもらった分だけ少しずつ飲む。

 皆でご飯を食べたりお酒を飲んだりするのも楽しいな。

 人間は何で楽しいことをいっぱい知っているんだな。

 その楽しみの1部がいなくなったとしても、ちゃんと悲しんで泣くこともあって…。僕にはない感情をいっぱい持ってる。


 だから、僕はね



 人間が好きで、憧れているんだよ?



次話で狐編は一旦終わります。

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