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秋桜-AKIZAKURA-  作者: 来龍
冷酷の貴公子と寡黙の令嬢
4/13

第三話 生徒会会長

三笠と契約(突っ込むのもよろしくないので、あえてそのまま語った)を結んだ翌日の朝、登校時間のことだった。


城馬が自転車でこちらに駆け寄ってきた。因みに俺は学校が近いので徒歩である。

彼女は学校から家が遠いため、自転車通学なのだ。


「あ、聖童くん。おはよう!」


「城馬か、おはよう」


たまにだが、彼女と一緒に通学することもあるのだ。通学しながら雑談することも悪くはなかった。

その時、小さな風が吹いた。


「……っ!」


なんと、城馬のスカートが捲れあがり、白い下着が目に映った。あわてて視界を反らす。


――真っ白で、模様も何もない清楚な下着だった。


「え……っ!?」


彼女もそれに気がついたのか、顔を真っ赤にして慌ててスカートの裾をつかみ下着を隠す。


「聖童くん!見た……!?」


「み、見てないぞ……!?」


「嘘っ!絶対見たでしょ!聖童くんのエッチ!」


言って、城馬は顔を真っ赤にしながらスカートの裾を押さえて先に進んだ。

俺は慌てて彼女を追いかけようとしたが、もうどうでも良くなったのでそのまま放っておいた(慌ててというのは嘘である)。


渋々と城馬が戻ってきた。


「……今のところは追いかけてくるのが普通じゃない?」


「生憎、俺はそういうシチュエーションは放っておく質なんでな」


「私のパンツを見たことにお詫びの言葉は無しなの?」


「ッ……!自転車で逃げたのはお前の素振りだろ、何考えてるんだ……」


パンツはともかく、先に行き追いかけるというのは自分からの先駆け行為にしか俺には見えなかったぞ。


「へぇ、聖童くんは話を逸らした挙句、女の子のはしたない格好を見、且つそれを人のせいにするんだ。へぇ」


「つぅ……。あー、悪かった」


「むぅ……、何その棒読み!反省の色無し、今日先生に言いつけるから。生徒指導の先生に」


「すまん。俺が悪かった……」


これには勝ち目がなかった。生徒指導の先生はどんなに理不尽(とは言えないが)な理由でも、女子生徒の絶対的な味方なのだ。これには正直お手上げだった。


「素直に「ごめんなさい、すみませんでした城馬様」と言ったら許してあげたのに」


「何様だお前!しかもキャラが上から目線になってる!?」


「あ、また暴言吐いた。もう言いつけよ」


「委員長たる人間の性格が悪すぎると俺は突っ込みたいわ」


「私のパンツを見たことに代わりは無いでしょ?」


「だからそれに対しては詫びてるだろうが!」


「本当に男の子ってエッチなことに凄く関心があるよね。もう、いやらしい」


「……話が脱線しすぎだぞお前。いつのも委員長たる威厳はどうした」


明らかにキャラが脱線している。こいつの性格が読めない。


文武両道、気のしっかりした真面目な少女であり、女の子らしい一面や振る舞いを持つ城馬ではあるが、たまにおかしな事を言ってくる。ボケとツッコミに例えるなら、お前は中立者だ。本当、性格の読めない女は怖いとつくづく思う。


「ところで聖童くん」


そんな事を考えているうちに、城馬が話を振ってきた。


「何だ?」


「もうすぐ文化祭だけど、何か案考えてる?」


「……そういえば」


そうだ。今月は来月の十月に向けての文化祭の準備があるのだ。俺は生徒会に勤しんでいたため、案などは全て城馬やクラスに任せっきりだった。


うちの学校は学園祭実行委員会が存在しており、メインはそちらにほとんど任せているのだ。学祭の指揮は実行委員が執り、生徒会は警備やその補助的な仕事に回る。


生徒会会長と副会長である俺は、学際の見張りと言うことで校内をうろうろする。一見楽そうに見えるが、その後報告書を書かなければならない。毎年の学園祭の向上は生徒会が裏で支持しているのだ。


「悪い、生徒会の仕事であまり参加できていない……」


「クラス会ではじーっとしてたけど?」


「……」


そう、俺は“何一つ”原案を出していない。クラスでボケーッとしていた。まあみんなが何とかしてくれるだろうと思い、俺は生徒会の仕事を考えていたのだ。


今まで生徒会の会長補佐をしてきた俺にとって(校内徘徊も含めて)、副会長としての役割を果たせるのではないかと考えていた。今までの仕事は書類整理と部活動の予算決算案の提出。初めてとはいえ、大体のことは城馬から教えて貰ったおかげで何とかこなすことは出来た。


彼女は生徒会とのつながりも深く、部活動の予算決算にも関わっていたため、どのような事なのかを(大体)知ることが出来た。ちなみに城馬は空手部で部長を務めていた。ただし今は受験生のため引退したが、週三通いである。


話が逸れたが、そのおかげで俺は生徒会からは一定の評価をいただいている。これは、裏で支えてくれた城馬のおかげだ。


「生徒会のこともいいけど、クラス会の案は最終的に学祭実行委員会に行くんだから。何も出していなかったら、それこそ生徒会に叱られるよ?」


「……すまん。今から考える」


城馬のリアルな説得に、俺は学園祭の原案を考えるのだった。



授業の四時間目が終わり昼休みに入った。クラスメイトは机をくっつけて弁当を食べるなり、食堂や購買で済ませる奴もいた。俺の場合、事前にコンビニで昼飯を買っていたので教室で食べる。


「一緒にいいかしら?」


そこに現れたのは三笠だった。昨日あれだけ泣いていた彼女は凛としており、冷静沈着だった。昨日の印象とはまた違った三笠である。


「……どうぞご自由に」


特に拒む理由もなかったので、三笠にスペースを譲る。彼女は小さな手作り弁当を取り出した。


料理や洗濯は女子の嗜みと言っていたこともあり、中身はシンプルなものであった。卵焼き、ウインナー、ミートボール、ミニトマトとサラダの盛り合わせで、ご飯には手作りのふりかけがかけられていた。確かに弁当箱のサイズにはぴったりな作りだった。


思えば、三笠とお昼をとるのは初めてのことだった。というか、さっから周りの視線がすごく気になるんだが…。じぃっとこちらを見てくる。特に女子。


「ほかの女子の視線を気にするなんて、いい度胸しているわね」


「どういう意味だ?俺は何も疚しいことなど考えてはおらん」


「いいこと?私と貴方は契約している仲なのよ?そのことを忘れないように」


「……契約という言葉をここで使うな」


これ以上話すと埒があかない。そこでクラスからの変な聞き込み調査なんて真っ平ごめんだ。幸い、その言葉は周りのしゃべり声でかき消されていたので内心ホッとした。俺は袋からお握り二つとスティックパン、コーヒー牛乳を取り出す。


「貴方、結構食べるタイプ?見た感じかなり量があるみたいだけど……」


「そうでもない。今日はたまたま好きな物が売っていたから買ってきただけだ。お前にもパン、少し分けてやるよ」


「じゃあありがたくいただくわ」


言いながら、俺と三笠は昼を過ごした。すると、周りからひそひそ話が聞こえてきた。


「カオス」だの「何があったの?」だの「怖い」だの意味不明なフレーズが聞こえてきたが、何も気にしないことにした。


俺は単に三笠と昼を過ごしているだけだ。何が悪いと言ってやりたい。


「私たちの場合、異名が付いているからその影響じゃないかしら?」


「どうだっていいだろ、そんなもん」


特にクラスに迷惑をかけているわけではない。ただ、冷めているだけだ。


周りからはどう思われたって関係ない。人間は信用するに値しない。人間は裏切りであり偽善者。ただ、それだけの話である。


「冷酷の貴公子と寡黙の令嬢が一緒に昼をとっているだけのことだろ。何か問題でもあるのか?クラスにとってそれは迷惑なことなのか?」


そうつぶやき、俺はひそひそ話をしていたグループの周辺に視線を向けた。なぜか分からないが、皆ビクッとなって静まり返った。三笠は箸をおいて、一言。


「……聖童くん」


「……」


彼女はさらにそっと一言。


「やりすぎ」


「……すまん」


どうやら今の行動は周りに対する威嚇行為とみなされたらしく、俺は余計な事をしたようだ。静かに飯を食おう。



「聖童くんはいるかしら?」


俺のクラスに、一人の女性が入ってきた。


――ロングヘアーを白いリボンで蝶々結びに縛り、凛とした顔立ち。一見鋭そうに見るが優しさが込められた黒い瞳。身長はやや高めである。


「――成瀬会長?」


入ってきた女性は、生徒会会長・成瀬来夢なるせ らいむだ。学校中では「会長」と呼ばれており、その信頼度は教師を含めて非常に高い。城馬とも深い交流がある。


俺が生徒会に就任する前から、彼女はこの学校の生徒会に入っていた。成瀬に対する生徒会の信頼は厚く、いつも頼りにされていた。この人には幾分、お世話になっている。信頼云々は別として。


「俺ならここだ」


言って、手を挙げる。彼女はこちらに気づき、俺の席に向かって歩いてくる。俺と三笠の昼食はここで一旦中止される。


彼女の凛々しい顔を拝見。本当に生徒会会長らしい雰囲気を放つ。


「食事中に悪いわね。実は、放課後に生徒会室に来てほしいの。詳しい話は放課後にするわ」



「ほかの生徒会は?」


「いいえ。貴方と私だけよ」


「……わかった」


どういうことか、成瀬は俺に「一人で生徒会室に来い」と言ってきた。何かやらかしただろうか。一瞬悪寒が走る。成瀬はこちらの様子を悟ったかのように言ってきた。


「ああ、安心して。この間の他校に対する過剰防衛の処罰でもなければ、日ごろのあなたの態度をチェックすることでもないから」


「人の心を読むな!お前はエスパーか何かか!?」


「……よかった。突っ込んでくれて」


「……っ!」


しまった、嵌められた。完全に成瀬のペースに乗せられている。こいつは案外、人の様子をうかがって遊ぶのが好きなのである。俺もそれで何回かやられた。


周りからは「会長やるぅ~!」「すごい、あの冷酷の貴公子を……っ!」と成瀬に対する称賛の声が贈られた。こっちにとっては惨めだ。


成瀬は三笠のほうに視線を向ける。


「こんにちは、三笠さん。聖童くんがお世話になってるわ」


(いじった上に流すのか……!)


「……」


成瀬は三笠に一言挨拶をしたが、三笠は何もしゃべらず黙ったままだ。成瀬をじっと見つめている。その眼差しに敵意は感じられなかった。観察しているといったところか。


成瀬も三笠のことは知っていた。実をいうと、俺はともかく三笠も生徒会では有名なのだ。いい意味でもなければ悪い意味でもない。ただ、少し特殊なだけだ。


「あんまり刺激するなよ、成瀬。程々にしておけ」


「聖童くんは三笠さんとどういう関係なの?」


「……そこは聞かないでほしい」


さすがにそれは答えられない質問だった。こればかりは勘弁してほしい。


「まあ、それは割愛するわ。じゃあ、放課後ね」


「ああ、わかった」


「三笠さん、またね」


言って、成瀬は俺のもとから離れ教室から出て行った。完全に成瀬のペースに乗せられていた。相当人に慣れているような振る舞いだ。数多くの人間と関わらなければあそこまでの振る舞いはできないだろう。感心しつつも、少しイラついていた。一方の三笠はじっと成瀬が去った後もその場を見つめていた。


成瀬と三笠。外から見るとものすごい組み合わせである。明るい成瀬とカオスな三笠は対照的だ。そこに城馬を加えれば、面白い組み合わせになるかもしれない。


「……言っておくけど、私はそんな組み合わせお断りよ」


読まれていた。というか人の心を読むな。お前も成瀬と同じエスパーか。女性はどうして男性の考えを読み取ることができるのだろう。恐ろしく疑問だ。


「貴方が間抜けなだけよ、聖童くん」


「誰が間抜けだ」


だからいちいち人の心を読むな。恐ろしくて何も考えられない。


「生徒会長のペースに乗せられて……。貴方本当に生徒会副会長?聞いて呆れるわ」


「言っておくがお前、生徒会ではお前の名が知れているからな。成瀬がお前に声をかけたのもそのためだ」


これは事実。言ってやった。後半は嘘だが。


「やだわ。貴方のような下種ごときが私の名を生徒会に知らせるなんて。頭おかしいの?おかげで生徒会長に目を付けられちゃったじゃない」


「いい気味だ。少しは大人しくしてろ」


俺はふんと鼻で笑った。



――腹に鈍い痛みが走る。どうやら三笠から密かに右ストレートを食らったようだった。幸い、異物は出ずに済んだが結構効いた。地味に痛い。


「これ以上私に恥をかかせたら、次はタダじゃ済まないわよ?」


「ぐ……っ!」


三笠は右拳で俺の腹を深く抉るようにぐりぐりと回した。


「次は本気で殺すわよ?」


とどめの一撃と言わんばかりにもう一発食らわしてきた。これはかなり効いた。見事に溝にクリティカルヒットした。


二発KO。三笠の完全勝利であり、俺は腹を押さえて痛みに悶絶するしかなかった。しかも周りはそれを見て見ぬふりをしていた。恐ろしくて近寄れなかったのかもしれない。そしてチャイムが鳴り、三笠は弁当箱を持って静かに俺の席から離れていく。おまけに城馬はその場にいなかった。


三笠め、後で覚えておけ……!



授業も終わり放課後、何とか痛みに耐え抜くことができた俺は(一時間近く痛かった)そのままトイレに直行し、用事を済ませて生徒会室に向かった。その際、三笠とは何も言葉を交わしていない。先ほどまで文化祭の会議だった。しかし、俺はこの日何もできなかった。その理由は割愛する。そのせいか、生徒会室に向かう前に、「聖童くん!待ちなさい!」と城馬の激しい怒号とともに厳しい説教が待っていた。

しかも超激怒、本気で怖かった。三笠に殴られるわ腹は痛むわ城馬の説教は長いわで、今日はもう散々だ。


正直、腹は立っていたが仕方がないと、この際割り切っていた。


学校は北館と南館に分かれていて、生徒会室は北館の三階にある。三年生の教室委は南館にあり、一年と二年は北館にある。要は遠いということだ。


生徒会室に着き、扉を開ける。そこには生徒会会長・成瀬来夢が椅子に座って待ち受けていた。両腕の肘を机につけ、顔を組んだ手に乗せていた。力強い瞳がこちらを見つめてくる。俺は静かに入り、扉を閉めた。


「来たわね。随分遅かったじゃないの」


「用事があったものでな」


「鶴来に説教されてたんでしょう?見たわよ」


「……っ!」


俺の長い沈黙に、成瀬はニヤニヤしながらこちらを見てくる。人の反応を見て楽しむなコラ!


「文化祭の発案を出さなかったとか何とかで、鶴来さん相当激怒してたみたいだね。見てて笑っちゃったわ、ふふふ」


(この悪魔め……っ!)


この女……!性格は悪魔そのものだ。人の失敗をあざ笑う生徒会長がどこにいる!?

 俺の学校の女子はこんな連中しかいないのか…?真面目な人間ほど悪魔なやつばかりだ(俺が知る限り)。人をいじるのも大概にしてほしい。もっとまともな人間はいないのか。


「まあそれはさて置き、聖童くん。改めて、話し合いましょうか」


「……」


成瀬の表情が変わり、真面目な生徒会長の顔つきになった。椅子に腰を掛ける。

二人だけの静寂が包む生徒会室。俺は成瀬に向き合って座っている。生徒会会長と副会長による会議が開かれた。


「今日あなたを呼んだのは、学園祭で行内の徘徊についてのことなのだけれど……」


「ああ……。それで?」


「北館と南館の二手に分かれて、人数を率いて見回ろうと思うの」


今回の話し合いは、学園祭による校内徘徊についてだった。成瀬の提案はこうだ。


生徒会の人数は八名いる。そこで二手に分かれ四名の内二名を校内に派遣し徘徊させる。残りの人は生徒会室で仕事をする。基本的に学園祭実行委員会が指揮を執る。 


生徒会はその補佐に過ぎない。しかしこれが重要な役割を果たし、トラブルが起きた件数はなんと毎年ゼロ(ただし調理のトラブルは学際側が対処する)。授業中に校内を徘徊するくらいだからそれは当然の結果であろう。


「――私たち生徒会に、学園祭の“娯楽”は一切ないわ。そうでもしなければ、学園祭のトラブルを防ぐことができないんですもの。確かに指揮は学際実行委員が執るけれども、私たちがその補佐をすることで、燐彩高校の学園祭は成り立っているのよ」


成瀬は言う。“生徒会は学校を変えるため、楽しくするためにあるのだ”ということを。彼女は生徒会にいる時からそれをよく口にしていた。成瀬の決意や想いは本物だ。


その証拠に、成瀬による生徒会の実績がある。地域ボランティアの積極的参加や、生徒たちにより学校生活を楽しんでもらいたいという願いから、部活動の新設増加や売店の設置を行うことで、生徒たちから人気の声が出た。学校からはそれらが評価され、賞状をもらったことがある。三年になって、生徒会会長に立候補し見事に当選。しかも二位とは断トツの差があったという。一票差で当選した俺とは大違いだった。


時々自分でも、“なぜ俺のような人間が生徒会に……?“と思うことはしばしばある。城馬には申し訳ないが。


「この学校の学園祭は表では実行委員会、裏では生徒会が支えているわ。今年の学園祭は私たちにとって“最後”になる……。絶対に成功させたい……」


成瀬は窓の外で生徒達が部活動に励んでいる様子を目にする。ちなみに、城馬は本日空手部に行っており、三笠は不明。何をしているのやら……。


成瀬は踵を返し、こちらに向かって俺の手を取った。


「聖童くん。三年生で生徒会副会長に就任した貴方を、私は信頼しているわ。ほかの生徒会もそうだけど、――貴方には特別な思いを抱いているの」


「と、言うと……?」


「私の親友である鶴来が推薦してくれたんですもの!間違いないわ!」


ずっこけた。思いっきりずっこけた。本音はそこか!先ほどまでの感動が台無しだ。

俺の信頼はそこからきているのか!?それって城馬じゃなかったら俺信頼されてないって事だよな?ものすごく悲しい……。


「今まで変な目で見てきたし正直怖かったけど、やっぱり聖童くんは私の右腕ね!」


「どっちが建前でどっちが本音だ!?」


明らかに前者が本音だろう。後者は偽造だ。さらに悲しくなった。やはり、俺は生徒会を退任した方がいいのだろうか。本気でそう思えてきた。ものすごい屈辱を味わっている気分だ……。


「かつては人間嫌いだった“冷酷の貴公子”の活躍は絶対に大きいわ。これはいい収穫ね、さすが鶴来!」


「……」


本気で帰りたくなった。同時に怒りも沸いた。これ以上付き合っていると埒があかない。何なんだ、今日という日は……。


「まあそれは置いておいて……」


「置いておくな。こっちにとっては重大なことだ」


「実際に聖童くんを信頼しているのは本当よ?」


「……?」


おい、言っていることが矛盾しているぞ?

城馬の推薦と俺の信頼。先ほど言っていたことと全く矛盾している。説明を求めたい。


「確かに鶴来の推薦は大きいわ。でもね、他の生徒会はもちろん、貴方に対する信頼も大きいの。みんな私なんかのために一生懸命頑張ってくれて、聖童くんは私の補佐を勤めてくれている。お陰で私はすごく助かっているし、良き人たちに出会えて良かったなって、心から思えるの」


「……」


「生徒会のみんなの支えがなかったら、絶対に私はここまで来れなかったわ。生徒会会長になれたのもみんなのおかげだし、聖童くんは私の右腕として活躍してくれているわ。これは偽りではなく本当の事」


「……そうか」


「変な目で見てきたというのは嘘です。ほんと言い過ぎちゃった、ごめんね」


「……嘘でも言っていいことと悪いことがあるぞ」


確かに俺はこんな性格だ。変な目で見られても仕方がないかもしれない。しかし言われると割と傷つく。

だが、成瀬が俺のことを信頼してくれていたのは素直に喜ばしいし、ありがたいことだった。


「聖童くんは“冷酷の貴公子”と呼ばれて、どう感じているの?」


「別にどうとも思わん。言わせたい奴には言わせておけばいい。それだけだ」


「……」


成瀬は黙ったままこちらをじっと見続けている。そして踵を返し、窓のほうに向いた。

そしてそっと一言つぶやいた。


「――聖童くんは、私や生徒会のこと、嫌い?」


「……」


ふいに、成瀬の一言で俺は固まった。


“人間は信用するに値しない。人間は裏切りであり偽善者だ“。俺が持ち続けた信念。

これは変わることはない。俺は生徒会に入り、人間観察も行っていた。成瀬は、それを見破っていたのだろうか?


「私以外、あまり他の生徒会の人とは接しないよね……。今日貴方と二人きりになって話がしたかったのは、それが聞きたかったのよ」


そういうことか。確かに俺は他の生徒会とは滅多に話をしない。コツコツと自分の仕事とどのような人間がいるのかを確かめてきた。それは事実である。


「他の役員の人から聞いたんだけど……。怖くて近寄れないという人がやっぱり多いみたい。私も最初は怖かった」


やはり成瀬も俺を怖がっていたのは本当のようだった。彼女は続ける。


「聖童くんはすごい人間嫌いで人は偽善者だって鶴来から聞いたの。やっぱり私もそう思われているのかなって、ちょっと心配だった……」


「……」


「でも、話していると面白くていい人だなって思えた。仕事はしっかりしてくれるし、私の手助けもしてくれて。この間は、私がいないとき一人で全部仕事を片付けたって聞いたしね」


そんなこともあったか。誰もいない間、出来る事は全てやっておこうと思い、一人で仕事をした時もあった。生徒会としての仕事が少しでも出来るならと思ったのだ。


「あの時は本当に助かったのよ。誰も手の付けられなかった仕事も全部聖童くんがしてくれて、生徒会のみんなも驚いてたわよ?」


「何か余計な事でもしたか?」


「いいえ。そうじゃなくて、本来私がしなきゃいけない仕事を聖童くんが代わりにしてくれたこともあって、とてもありがたいと思っているの。裏で貴方に支えられているんだって、改めて実感したの」


「……それは」


これは彼女の感謝の表れだろう。裏で支えるのが俺の仕事だ。生徒課副課長として、できることをやっただけだ。人間不信と仕事は別だ。


「聖童くんは人一倍のがんばり屋だから、私の右腕として、今後も活動してほしいの」


「……」


俺は一呼吸おいて、成瀬に言った。


「俺は生徒会もお前のことも嫌いじゃない。城馬の期待にもこたえてあげたいこともあるし、生徒会会長を支えるのが俺の仕事だ。出来ることは……、すべてやる」


「それを聞いて安心したわ。ありがとう、聖童くん。これからも、よろしく頼むわね」


「……ああ、もちろんだ」


うまく答えられないが、彼女の感謝は素直に受け止める。生徒会副会長としての自覚が改めて目覚めたような気分だった。


それだけ成瀬が期待してくれているということがよくわかった。彼女の右腕としてやっていけば、城馬の期待にもこたえられるだろう。今後を気を引き締めていかねばなるまい。


「それで、先ほどの話なんだけど……」


「ああ、そうだったな……」


改めて、学園祭の話に戻し、二人で立案を考え結果的に成瀬の出した最初の案で行こうという結論に至った。ほかの生徒会には後日伝えるということで話し合いは終了し、俺は生徒会室を後にした。


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