第九話 生徒会長の悪戯
「失礼します」
「どうぞ」
職員室のドアを開け、成瀬は山口先生を呼んだ。
「山口先生。三笠さんと聖童くんの二人を連れてきました」
「おう、ご苦労さん」
成瀬に連れられ、俺と鈴姫は職員室にいた。
「さて、まあ気楽に聞いてくれて構わん。三笠に椅子を出してやってくれ」
「はい、分かりました」
成瀬が近くにあったいすを持ってきて、鈴姫を座らせた。
山口先生は昨日の事件を通して、俺たちは今日から始まる個別指導の説明を受けた。授業の時間割は変わらず、担当教員が変わること、昼休みは基本的に自由に行動しても良いとのことだった。但し屋上は禁止、松葉杖をついている間は大人しくしているようにと言われた。
俺に対しては、鈴姫の面倒見役を告げられ、サポートとして城馬と成瀬が就くとのことだった。
先ほど成瀬に言われたとおり放課後の生徒会には参加しても良いと許可が下りた。ホームルームは個別に行われるため、連絡や行事予定は副担任の里崎先生がしてくれるそうだ。
学園祭に関しては、鈴姫の介護を優先し生徒会の仕事として一緒に含めて行うことになった。総じて言うと、クラスの出し物企画には一切出ないことになる。
「――と言うわけで、説明は以上だ。ついでに言うと、体育は聖童は参加してくれて結構だ。他に何か質問はあるか?」
「……いいえ、ありません」
「特に問題はありません」
「よし。事件の騒動が落ち着くまで、お前達は少しの間別室で指導を受けることになる。それから三笠、保健室の山脇先生から伝言で、定期的に病院に行く際はあの人と一緒に行く事になったから、その辺りは保健室に行って確認しておいてくれ」
「わかりました」
鈴姫は保健室の山脇先生に定期的に病院の送り迎えをしてくれることが決まった。学校も鈴姫の生活状況は概ね把握している。それらを踏まえて、鈴姫のサポートが決まったのだ。騒動のことはあえて触れなかったのは、その優しさが表れている証拠とも言える。
「よし。三笠は下がって良い。聖童、お前は残れ」
「……?」
「三笠さん、行きましょう」
鈴姫は成瀬に連れられ、職員室を出た。俺は山口先生に呼び止められ、職員室に残る。
「実はお前に頼みたいことがあるんだ」
「何でしょう?」
山口先生は一冊のノートを俺に手渡した。ごく普通のノートである。
「それを使って、今日からしばらくの間個別指導の記録、報告書を書いて欲しいんだ」
――個別指導の報告書……。まるで教師の仕事である。具体的にはその日の様子を書けばいいのだろうか。
「まあ、内容はお前が思っている通りに書けばいい。その日の報告だ。それともう一つ、三笠の様子についても記録して欲しい」
「……と、言いますと?」
「……知っての通り、昨日の一件で職員達や一部の生徒は大騒ぎしている。全校生徒には名前は伏せるが、昨日の事件を伝え、その代わりに黙秘するように誓約書を書かせると、徹底的沈黙を守らせるんだ。特に、外部からはマスコミの騒動が一番気にかかるところだ。今回の事件をを知られてしまったら、あいつらは大げさに報道するからな。そうなっては、この学校の評判はガタ落ちしてしまう。三笠の様子を記録するのは、今後この事件を起こさないための一種の監視とも言える……」
「……監視、ですか」
「あまりこういうのは言いたくないんだがな……」
山口先生は腕を組み、うーんと俯いた。鈴姫の監視という事に対して、おそらく上層部から何らかの指示が下されたのか、そのような物言いだった。
「……分かりました。ですが、徹底的に監視を行うと彼女に精神的苦痛を与えてしまうことになりかねません。――“程々に”彼女の様子を書いておきます」
「……ああ、それでいい。その方がかえって分かりやすい。じゃあ後は頼んだ。もういいぞ」
山口先生は俺に日誌を渡して立ち上がり、別室に移動した。今日からしばらくの間は、鈴姫の保護に
あたる。生徒会副会長の仕事の一環として、鈴姫のよきパートナーとして腹を括った。
職員室を出ると、成瀬と鈴姫が近くの中庭のベンチに座っていた。そろそろホームルームも始まる頃だろう。
「すまん、待たせた」
「そうでもないわ、大丈夫よ。私は今日のホームルームは無しになったから、これから二人を教室へ案内するわ」
成瀬にそう言われ、鈴姫はゆっくり立ち上がり俺は彼女を支えながら成瀬について行った。エレベーターを使い、教室がある四階に上った。
エレベーターからさほど遠くないところに、教室はあった。場所は南館である。三年の教室のすぐ上だ。
「ここよ。鍵を開けるからちょっと待ってて」
教室の鍵が開けられ、ゆっくりと開ける。小さな教室で、机が縦三つ横二つに並べられていた。六人部屋の教室で、設備は完備である。しかもパソコンまで置いていた。この教室は俺も初めて見た。まるで優等生達だけが集まる教室に感じた。
「ここは特別教室。目的は主に勉強会や個別授業を行うための部屋よ。私も何度か、この教室を使ったことがあるの」
「勉強会で?」
「ええ。友達と集まって勉強会をするときに、申請書を提出して借りることが出来るのよ」
「そんな便利な部屋があったとはな……。教室から見る景色は中々いいものだな」
本当に絶景だった。街の景色がゆったりと眺められる。これは俺はもちろん、鈴姫にとっていい環境じゃないかとさえ思えてしまう。
「貴方達には特別に、パソコンの使用もオーケーよ。今日からの生活は密室での環境になるから、勉強に必要な調べ物はしてくれて構わないわ。ちなみに、このパソコンは職員室のパソコンにデータが送信される仕組みになっているから、使用する際は注意してね」
流石徹底的に完備されているだけのことはある。先ほど山口先生に言われた「監視いう言葉が脳裏をよぎった。
「ああ、防犯カメラはないから安心して。普通の教室と大して変わらないから」
「流石にそれはまずいと思うんだが……」
設備が徹底されていることは頷けるが、行動まで監視されるのは苦痛である。山口先生があのノートを手渡してくれた意味が分かった。カメラがない分、こちらで彼女の様子を記録すると言ったところか。
「席は二人とも一番前ね。授業以外は自由にしてくれて構わないわ」
「わかった。基本的には大人しくしていてくれと言うことなんだろ?」
「そう言う事」
特に何も問題はなかった。この教室なら、俺もそうだが鈴姫も大人しくしていられるだろう。おまけに鈴姫のサポートには城馬と成瀬もいる。ここなら、彼女もそこまで負担にはならないはずである。
俺は鈴姫に声をかけた。
「鈴姫、ここなら安心して授業も受けられるだろ?」
「ええ、とても快適だわ」
彼女も意気揚々だった。これなら彼女の精神面の負担は心配なさそうだった。
「お前には世話をかけるな、成瀬。この借りは生徒会の仕事できっちりと返す」
「それは実に頼もしいわ。教室も気に入ってくれたみたいだし、安心して生活が出来そうね」
「貴方が選んでくれたの?この教室を……」
「さあ?それはどうかしらね」
成瀬はニっと唇をつり上げ笑った。明らかに「私がやりました」的な表情である。
俺は成瀬に対して、非常に優秀である分、人に慣れ、受け入れられるところが何よりの強さであると認識している。が、その反面腹黒さを兼ね備えた恐るべき生徒会会長である。そのドス黒さは以前生徒会の時に証明されている。
具体的に言うと、一人の生徒会員(女子)が成瀬に頼まれた仕事を期間までに果たせなかった事があった。成瀬はそれに対して、当初は「気にしなくても良いわ」とその生徒会員を慰めていた。しかし、別の仕事を任されたとき、仕事量が前回の数倍多くなり、期限も三日(前回は四日)という有様で、その生徒会員はヒイヒイ言いながら大急ぎで仕事をしていた。これは完全に成瀬による「期限を守れなかったらどうなるか」という威圧感そのものであった。
これには俺も含め、生徒会員ほぼ全員強い悪寒を感じたのだった。
今回もそのドス黒さが発揮されているんじゃないかと内心不安に思ったりもする(鈴姫に対してではなく、俺に対して)。こいつは俺を扱うのが非常に上手く、俺もそれなりの反骨精神で立ち向かっているのだが、のらりくらりとかわしてはそれを逆手に取り、想像を絶する仕事を任されたこともしばしばあった。
まあそのおかげもあってか、成瀬の信頼を含めて勝ち取ったと言うことは言うまでもないが。
「何かあったときは聖童くんに言って頂戴。私たちは必要以外、彼の連絡を受けて行動するわ。これは一種、生徒会副会長の大きな仕事ね」
じゃあそれを使ってお前らを使い放題に……。
「この人今、すごくいやらしい事を考えていたわよ。やだ、汚らわしい」
「聖童くんはけっこう腹の中では根に持つタイプだからね。考えが見え見えだわ」
「ぐ……っ!というか、人の心を読むんじゃない!」
「やだ……っ!白状したわよの人!」
しまった……。思わぬ罠だった。俺が疚しいことを考えているという風に捉えられてしまった。
「三笠さん、気をつけてね」
「ええ、大丈夫よ。その時は“ぶっ殺す”から」
「怖いことを言うな!何も考えていない!」
今日早くも二度目の罠に嵌められてしまった。やはり、鈴姫と成瀬二人は相性が抜群であるらしい。
この二人を相手にするには相当の労力を使うざるを得ない。完全にペースは二人に握られていた。どこぞのラノベ主人公だとつくづく思えてしまう……。
「私、思うのだけれど男が女の子を弄ぶのは、変態を通り越して警察レベルだと思うのだけれど……。どうかしら?」
「それは“犯罪レベル”の話だろう……。過度な溺愛はさすがに俺も引くが……」
「聖童くん。女の子は非常にデリケートなの。壊れやすい子は特に細心の注意を払って接してあげないといけないわ。女の子によるいじりも、コミュニケーションの一環として甘んじて受けてあげたら?」
「お前が言うとカオスに響くんだよ……。前者は同意するが、後者はコミュというより、ただお前がやりたい放題にしたいだけだろ……」
「そこは甘んじて受けなさいよ。男なら潔く」
「かっこいい台詞だと思ったら大間違いだぞ鈴姫」
何キメ顔で台詞を吐いてんだ。使いどころ間違えてるぞ。
「というわけで、三笠さんの世話はよろしくね。そろそろ一時間目も始まるから。私はこの辺で失礼するわ」
「ああ、世話をかけた」
「そこは“お互い様”よ。じゃあ三笠さん、また後ほど」
成瀬は鈴姫に一言つぶやき、教室のドアを閉めた。「後ほど」というフレーズが気にかかるが…。
「貴方って成瀬さんには何かと頭が上がらないのね。これは生徒会会長の威厳か何かのような類なのかしら?」
否定はしない。あいつに頭が上がらないことは否定しない。いろいろと俺に施してくれたのは城馬と成瀬なのだ。彼女たちには、尊敬と感謝が人一倍強いことだけははっきりと言える。
「でもね、司……」
「ん?」
「ああいう人たち程、大きな壁にぶち当たったとき本領を発揮できないんじゃないかと私は思うのよ。成瀬さんは非常に生き生きとしているけれど……」
「いいや、違う」
俺は鈴姫の発言を否定した。
「――それはどちらかというと城馬が近い。あいつは押しにかなり弱いからな。成瀬はのらりくらりとかわすのが非常に上手いんだ。壁にぶち当たったときは、強行突破。言うなら敵の本陣に突撃する奴だ。その鍛えられた知恵は実際に生徒会でも証明されている」
成瀬は状況と先読む力が非常に優れている。
生徒会の仕事で、全部活動の予算案の際に減額を示された時は、教頭と校長に突撃して交渉したのである。二人とも成瀬の知恵には頭が上がらず、予算を増額に持って行くことに成功した実績を持っている。
これは去年の話だが、それは学校全体を驚かす出来事だった。
次の生徒会の仕事は文化祭である。学校生活最後の文化祭なのだから、成瀬の本領はここで思いっきり発揮されるだろう。あいつはイベントには非常に強いのだ。
そんなことを鈴姫と話し合い、五分後に教室の扉が開かれた。
「フハハハハ!集まっているかァ、生徒諸君たちよ!」
「……」
――コイツ誰ダ!
明らかに先ほどの空気がガラリと変わった瞬間だった。格好は貴公子が着るようなスーツにマントを被り、しかも顔には仮面で覆われている。
誰ダオ前!
「一時間目は保健体育の授業だ!この私自らが、貴様達をじっくりと調教してやろう!」
固まっている間、この教師(!?)は一時間目の保健体育を宣告した。しかも、生徒を貴様呼ばわりし、調教……。うわあ、凄く最悪だ……。
「おっと、自己紹介が遅れたな!私は彪化逢魔!非常勤講師であり、学園祭やイベントによく関わっている。専門教科は保健体育と体育だ!」
「……」
名前からして怪しすぎる。何もかもが滅茶苦茶だ。こいつにイベントをやらせるととんでもないことが起きるやもしれん。これは早急に成瀬に言って、退場をお願いするべきか。
「おっと!言い忘れていたが、こう見えても生徒達からは親しまれている質でな。貴様達も存分に楽しんでゆくがよい!」
「……」
これには何も言えなかった。ということは、教師からの信頼も得ていると言うことか?俺は鈴姫の方を見る。
「……」
彼女は彼女で、保健体育の教科書とノートを出してそのまま待機していた。俺も渋々教材を出す。鈴姫は何も応じていないのか、静かに目の前にいる変態教師の話を聞いていた。恐らく、俺の顔は真っ青に近いだろう…。
「さあさあ!始めようか!では、教科書五十二ページを開け!」
……こうして、地獄の保健体育の授業が始まった。
ここで、この教師の本領が発揮された。
……一言で言おう。完全にこの授業はアウトである。内容は割愛させてもらう。
十八歳であるとはいえ、高校生にはきつすぎる内容だった。朝から止めて欲しい……。今朝の件と言い、この授業と言い……。もう最悪だった。
「これはこれを〈ピーーー〉することで〈ピーーー〉となる……。どうだ、楽しかろう?」
全然楽しくねえよ、寧ろ今すぐ出て行け!内心そう思っていた。一方の鈴姫は静かに聞いていた。何とも思わないのか、こいつは……。
今日の日誌にはこの教師のクレームを存分に書きまくってやる……。そうすれば、次からの授業はまともになるだろう、
「先生、一つ聞きたいことがあります」
そう思った矢先、鈴姫が変態教師、彪化先生に質問をした。
「先生は童貞ですか?それから騎○位はどれくらい気持ちが良いのですか?」
ぎゃああ!こいつ、とんでもない質問をしてきやがった!何てこと聞きやがる!
もうそれ手遅れだろう……。
「ほうほう……。なかなか面白い質問をして来るではないか!良いだろう、教えてやろう!あ、ちなみに最初の質問は割愛で」
この教師、童貞だった。独身なのか?
しかし、それにお構いすることなく彪化先生は質問に答えた。その内容はえげつないもので、「ヒダ」だの「射○」だの「○液」だの「亀頭」だの「○内」だの……。どこまで調べているんだよこの変態は。
というか、発言内容がもうセクハラ以上に犯罪である。普通なら警察に捕まってもおかしくないだろう。高校生に対してとんでもない、放送禁止用語連発のイケナイ課外授業にも等しかった。
しかし、鈴姫は動じることなくさらに続けた。
「では指と手の違いは?どちらの方が気持ちが良いですか?」
「断然後者だ!気持ちいいぞ!貴様、さては……」
「私は処女です。自分はまだ一度もしたことはありません。将来、好きな人と子作りをするにあたって気をつけるべき点を教えていただければと……」
「やめんかコラア!!」
ついに怒鳴った。堪忍袋の緒が切れた。もう完全にぶちキレていた。
「貴様らいい加減にしろ!聞き手となるこっちの身にもなれ!特に教師、即刻職員室に突きだしてやる!」
「まあまあそう怒るな。彼女も真剣に聞き出してくれているのだ。それを応えてやるのが誠意というもだろう?」
「状況と場を弁えろコラッ!」
俺は鈴姫にも視線を向けた。
「お前もお前で何考えているんだ!聞いているこっちは寒気どころか強い悪寒を感じたわ!高校生が性に開放的になるんじゃねえ!」
本当に勘弁して欲しかった。正直、帰りたい気分だった。苦痛以外の何でもない。その意味においては俺の理性は完全にぶっ壊れていた。性的な意味ではなく。
もうこれ以上この授業を続けさせるわけにはいかないと判断した俺は、職員室に行こうとした。
「司、落ち着きなさい。この先生は悪意があって私たちに教えているわけではないわ。確かに後半は明らかに趣味に走っていたけれど」
「じゃあ何故止めなかった」
「おもしろかったのよ。どこまで技量があるのか試したくなってきたから。つい、ね」
「……」
卒倒しそうになった。本気で。鈴姫はこの授業を楽しんでいたらしい。
……鈴姫を楽しませる一環として、あえてこのような授業を施したのだろうか? 彼女に少しでも昨日の件から遠ざけようと、誰かが考えたのだろうか……?
思考が頭を駆け回った。
彪化(もう呼び捨て)は俺の考えを読んだのか、悟ったように話しかけた。
「……実はこうしてきたのは、授業が始まる前に成瀬生徒会長から声をかけられてな」
「……何?」
成瀬が?いったい何のために……。
「彼女から三笠とお前について少し教えて貰ったんだ。最初授業に行くときは普通の授業をしようと思っていた。しかし、生徒会長が授業直前に私の所に来てこう言った」
「何と?」
「普通の授業じゃ三笠さんは満足しないから、思いっきり暴れてください、とな。私の本性はこういう人間だ。教師達の一部はそれを知っているし、生徒達も興味本位で聞いてくるだけで、実際にやったという報告は一切聞いていない。これは一種の遊びなのだよ」
遊び?話が読めない。同時に成瀬が考えていることも読めなかった。
そこに、鈴姫が介すかのように言った。
「つまり、貴方をいじり倒すことが目的よ。同時に、成瀬さんは私の事を分かってくれた上でこの授業を実施してくれたって訳よ。私が下ネタを吐く事なんて、日常茶飯事でしょう?」
「貴様も中々面白かったぞ。このように暴れられたのは久しぶりだ!成瀬生徒会長をはじめとする女子達も、私の本性を聞いたときは大爆笑していたぞ!もっと語ってください、とな!」
「先生、後で先ほど質問した解答を教えていただけませんか?」
「良いぞ!教えてやろう!手順をしっかり覚えて、健康を害さないように注意するんだぞ!」
「成瀬ええぇぇぇ!!!」
俺は思いっきり叫んだ。
全てお前の仕業かあぁ!!
通りで上手く進んでいると思ったわ!普通なら誰しもが嫌がるこの授業を、あいつは思いっきり肯定しやがった!
俺をいじり倒すことが目的……、ふざけんじゃねえ!
「この授業の本来の目的は、健康のための授業だ。最初の半分は冗談半分で済ませようと思ったが、少々やりすぎたようだ。まさか、三笠があそこまで質問をしてくるとは思わなかったので、私もスイッチが入ってしまったぞ、はっはっは!」
何が「はっはっは」だ、この変態教師め!二人はこの状況を完全に楽しんでやがる。
鈴姫も涼しそうな顔で俺を憐れんでいた。その表情は明らかに笑っていた。
完全に成瀬と鈴姫のつぼに嵌められていた。俺はどうやら、この二人には弱いらしい。
「貴方をいじり倒すことに対して、私は下ネタも自身が屈辱的な身になっても惜しまないわ。貴方を弄ぶことこそが、今の私の生き甲斐だわ」
「そんな生き甲斐さっさと捨ててしまえ」
「まあ、三笠も思いっきり楽しめたようだし、それで良いではないか。聖童よ」
「てめえに言われると余計に腹が立つんだよ」
「ほう?教師に反抗か?下克上!ふははは、面白い!そういうのは嫌いではないぞ!おもしろみがある!」
「とりあえず、その脳みそを手術してこい」
本当、大概にして欲しい。鈴姫は俺をいじるためなら何でもするらしい。彪化も、成瀬に協力した上で今回のふざけた授業を実施したというわけだ。恐らくこれは、教師公認にちがいない。
かくして一時間目はドタバタが続いたままチャイムが鳴り、地獄の授業は終わりを告げた。
……絶対に報告書にクレームをつけて担当教師を変えてやる……!
来龍です。第三部の開幕です。
最初に、お断りをさせてください。
ここからはキャラクター崩壊、方向性が「?」と感じられる方も多くいるかも知れません。
以前、「キャラクター崩壊」の話をしましたが、アホ丸出しの展開、章立てになってしまったことをここで深くお詫びいたします。
ギャグ展開、シリアス、話の軸……。トータルで計算するとガタ落ちした印象を感じられた方には特に、申し訳ありません。
「それでも読んでやろうじゃないか」と、暖かい心で見守っていただければ幸いです。ここまで読んでくださった読者の皆様に、心から感謝申しあげます。




