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機甲猟竜DF ‐泣き虫庭師と虹の竜‐  作者: 結日時生
第一話 「はじめての狩り」
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1-1 飛竜来襲

「一口に邪竜って言っても色々な種類が居るんだな」

 人が疎らになった講義室。階段状に設けられた座席の一席で、青年はぼやいていた。ハッキリとした二重瞼の瞳は、何も映し出されていないスクリーンを気だるそうに見つめている。

 しっかりと立てられた栗色の前髪。その下から覗くなだらか形をした綺麗な額が印象的な童顔の青年だ。

「そうだな。基本的には爬虫類や伝説上のドラゴンに近い姿をしているものが多いけど、中には哺乳類に近い姿をした種類も居るらしいし」

 青年のぼやきに、希人は答える。頭の中に新しく入れた情報を整理しきれていない青年に比べ、希人は幾分か冷静だ。切れ長の瞳から落とされた冷たい視線は、手元の資料に向けられている。


【邪竜の類型に関して】

 外見的な特徴は、爬虫類をはじめとした現存する脊椎動物や、各地の伝承に残るドラゴンや幻獣に近い姿をしている。

 ただしその生態や身体能力、および体構造は現存する生物の常識から大きく逸脱しており、見たまま通りの怪物と言える 。

 その生活圏により半水棲陸棲型・陸棲型・飛翔型などの大まかにな分類に分けられる。中でも出現頻度が多いのは………。



 ――邪竜。15年前、それは突如として出現した。

 伝説上のドラゴンや幻獣を彷彿とさせる姿をし、既存の生態系のすべてを食い荒らす悪鬼の如き巨大生物。

 常識から大きく逸脱した生命力と適応能力を持つ邪竜は瞬く間に分布を広げ、世界は異質な命の存在に怯えていた。

 黄金の瞳と灰色の表皮。多くの邪竜に共通したその特徴は、今やすべての生物が忌み嫌うものである。


「なんか俺頭パンクしそうだわ~。これ全部覚えるの大変じゃない?」

「まぁな。でもある程度は頭に入れて置かないと修大も後々困るんじゃないのか?」

「う……」

 希人から〝修大〟と呼ばれた青年は顔を引き攣らせた。大きな二重瞼の目が泳ぐ。

「ま、まぁそうだよな……俺が実戦に出るのはまだ先だろうけどさ」

「俺はもしかしたらもうすぐかもしれないけどね……」

 言い終えた希人の表情は硬い。

 直に来るだろう邪竜と対峙する日。それは希人にとって、邪竜との戦いへ身を投じる日となるからだ。

 ……もっとも、邪竜と最前線で戦うのは彼自身ではないが。

「まぁあんまり気負い過ぎんなって! ちかげちゃんやミリー、何よりサラが一緒なんだしさ!」

「そうだな。まぁ頑張ってみるよ。サラの背中を守ってやらないといけないしな」

 修大からかけられた言葉に緊張が解れたのか、希人の表情は和らいだ。幅広の口元がかすかに緩む。

「そうだ。レモンの方は今どんな調子だ?」

「まぁ大分良くなったよ。リハビリも順調に進んでるし、歩いたり走ったりするだけならもう問題ないかな」

「そっか、なら良かったよ」

「でも前線に出られる迄になるにはもうしばらくかかりそうだ。悪いな、負担かけて」

 今度は言い終えた修大の表情に少し翳りが見えた。確かな輝きを湛えた大きな瞳は希人から逸らされ、手元へ落とされる。

「いや、無理しなくていいよ。俺達の都合だけを押しつけられるものでもないしさ」

 歯痒さや罪悪感、そして不甲斐無さを自身へ抱く修大。そんな彼に希人はやさしく声をかける。黒目がちな奥二重の瞳は、愛情や優しさを込めるとより一層に穏やかさを増す。

「そうだな……よし! 今日の座学研修も終わった事だし、昼飯行こうぜ! ひ・る・め・し!」

「あぁ、もうそんな時間か……つーかそんな強調しなくてもいいだろ」

 晴れやかさを取り戻した修大の表情。太陽の様に屈託のない笑顔を希人へ向け、跳ね上がる。立ち上がって並ぶと希人より一回り小さい修大だが、引き締まった筋肉質の体は小柄ながらも華奢な印象を与えない。

 まるで子犬の様に忙しない修大。そんな彼の様子には時々呆れるが、希人にとっても彼との食事は楽しいと感じるものだった。

 篭目希人から見た木野修大はとても大切な友人である。互いに知り合ってから半年にも満たない付き合いだが、希人にとってこんなに心を許せる友人ができるのは久々の事であった。

「いや、もう俺腹減ってしゃあねぇわ。早く行こうぜ~!」

「あっ、おい! 先行くなよ!」

 窓から射し込む、眩しすぎる程の日射し。夏の太陽が映える青空を背に、二人の青年は食堂へ続く廊下を歩いていった。








「今日も無事終わったな……このまま邪竜とか出なければいいんだけど」

 すっかりと日の落ちた夏の夜。宿舎の自室に戻った希人は、ペット用の餌皿にペレットフードを盛っていた。

 盛り付けが終わると、樹脂製の皿はケージの中へそっと置かれる。すると盛り付けれられたフェレット用飼料の匂いに誘われ、そのケージの主が目を覚ました。

「うまいかイガジロー」

 小さな口で咀嚼し、ペレットフードを噛み砕いているのはハリネズミである。黒と白の硬質な毛に覆われた体を揺らし、餌を飲み込んでいく。

 〝イガジロー〟と名づけれたヨツユビハリネズミは、希人にとってのかけがえのない家族の一員である。愛らしい黒目がちな瞳を見つめ、希人は一日の疲れを癒していた。

「明日も平和だといいんだけどな……」

 愛らしいイガジローの姿を見つめ、希人は切に願った。明日も平穏の中で過ごせるようにと――。



  *  *  *  *  *  


 人でごった返す週末の繁華街。

 喧騒を行く人々は皆、忙しなく歩いていたり視野が狭まっていたりで、その注意力を頭上に割く事はなかなか難しい様だ。


 ……もっとも、頭上を見上げたところで闇夜に紛れる暗灰色の姿を視認できる人間は限られるだろうが。

 

 半分に欠けた月を背に、大きな翼が羽ばたく。羽毛の質感を欠いた蝙蝠のような翼。

 月の光を遮られ、漸く誰かが気がついた。訪れた災いの根源に。

 

 まるで宙を泳ぐかの如く滑らかに、その巨影は翔けて行く。長い尾はしなり、その主と共に闇夜へ消えて行った。

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