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「そういうことで、今度のクエストは、危険だから準備はしっかりしておいてくれ」
「了解」
「分かりました」
拠点に帰った後すぐに、家具運びと設置が終わり、自分たちの部屋を片付けていた暁と鈴奈を呼び、一通りの経緯などを説明し終わった後、文句や質問を一切せずに暁達はクロツキに、返事を返して自分達の部屋へと退散した。
(弧万智さんの話だと、トロールとキュクロプスの大群って言っていたからな……)
クロツキは、自分の部屋を決めた後すぐに、片付けをして、明日のクエストについて考え事をしているとノックが聞こえてきた。
「開いているよ」
「そうか、ちょっといいかクロ」
クロツキの返事で暁は答えながら入ってきたので、暁の方を向く。
「どうしたんだ。暁」
「弾薬を持って来たんだよ」
「あぁ~、すまない暁」
暁が差し出した袋を受け取りクロツキは礼を言いながら、代金を渡す。
「ちょうどだな。じゃっ、また、明日な!」
暁は、代金がぴったりなのを確認して、クロツキの部屋を出ていく。
(さてと、弾薬も補充できたし、疲れたから寝るか……)
クロツキは、明日のクエストのことを考えるのを止めて、崩れ落ちるようにベットの上に倒れて寝た。明日の戦いに向けて――。
早朝、霧で前方が見えない中を一五〇人規模の集団が馬に乗り、目的の場所へと進んでいた。
「後どの程度で、目的地に着くんですか?」
集合場所に集まった後に全員が馬に乗り、三〇分進んだ辺りで鈴奈がつぶやく形で漏らした言葉に戦闘ギルドの一つであり、今回の戦いに残ったレッド・ドッグの団長ヘル・ロベスが答えてきた。
「もうすぐだよ。嬢ちゃん」
「えっ、はっ、はい、ありがとうございます」
鈴奈の慌てぶりに、その場に居た全員が笑い、緊迫していた空気が和らいだ。
「ヘル団長」
レッド・ドッグの副長を務めている男の声で、全員が笑いを止めその場に制止する。
「どうした。ディアミス」
「着きました。目視だけでも五体ほど見えます」
「なに?」
ディアミスの言葉に団長は意味が解らないとでも言いたいのか疑問的な返事を返し、弧万智を含めた一度このクエストに参加した者全員が険しい顔になる。
「どういうことですか?」
クロツキの質問に弧万智が答えてくれた。
「この前は、もっと先の悪鬼の渓谷で戦ったのよ」
弧万智の返事にクロツキを含めた初参加のメンバー全員が絶句し、唾をのんだ。
「あぁ~、たぶんこれが失敗した場合に起こるやばい事態だろうな」
静まりかえっている中でヘル・ロベスが確信して喋る言葉に、弧万智とディアミスが頷き、かえでが発言してきた。
「一応、索敵をかけたんだけど、こっから先に三〇体はいるね」
「なら、今から戦闘開始ということだな!」
かえでの後に暁が言った言葉で全員が敵に気付かれないように馬から降り、武器を構え自分たちの戦いやすい場所へと動き出す。
全員が持ち場に着いたころを見計らい、ヘル・ロバスが近くに居た弧万智に合図を送り、周囲の仲間にも伝達する。
「一・二・三で、戦闘を始めるぞ」
合図が全員に行き渡った頃に押し頃した声で、確認の言葉が聞こえてきた。
「行くぞ」
「一」
「二」
「三」
最後のカウントが終わったと同時にかえでとボビーというプレイヤーが飛び出し、近場を警備していたトロールに向かう。
“インパクト・クラッシュ”
“ガイスト・ウェーブ”
隙を突かれたのと、ほぼ同時に発動した技により、一撃で倒れるトロールを横切るかえでとボビーにクロツキとリッカという少女の声がかかる。
「かえで、右!」
「右に行って!」
『『えっ』』
『『了解』』
クロツキとリッカは自分達の声が見事に被り、顔を少しだけ赤くするもすぐに気を取り直した時にかえで達の声が同時に聞こえてきて、今度はキュクロプスが倒れる姿を見ているとすぐ近くで仲間の救援がかかったので武器を構え横を向くとリッカも同じように武器を構え頷いて来たので急いで救援に向かった。
「リッカさん一斉に攻撃を行います」
「わかったよ」
“ダブル・ショット”
“全弾射撃”
クロツキの言葉に対してリッカの返答が返ってきたのを合図に、リッカが担いでいた砲撃銃・星崩がうなり、クロツキも攻撃を開始し仲間が応戦しているキュクロプス二体に浴びせる。
「鈴奈!全体回復を頼む」
「はい」
クロツキ達が戦っている間、暁は戦いの音で集まってきたゴブリン達を殲滅するか役を務め、鈴奈は回復職が追い付かない補助のサポートに徹していた。
辺りが暗くなった頃ようやく戦闘が無事に終了したクロツキ達は一時の安らぎを満喫していた。
「これほどまでに、かわってくるとはな」
「えぇ、私も、少し驚いているわ」
「そうですね。彼らがこれほどまで……」
レッド・ドッグの団長と副長、パペット・マーケットの団長は酒を飲みながらクロツキ達を見て、関心していると偵察に行っていたかえでとタカのんが戻ってきた。
「後は、悪鬼の渓谷だけだよ」
「周囲には、何もいませんでした」
偵察組の報告で安心したのかより一層辺りが、騒がしくなる中弧万智へとタカのんが改めて報告に行くのに反してかえでは、気の合ったボビーのところへ向かい宴に加わった。
(さすが、かえでという所かな……)
かえでの姿を目で追いながら、クロツキがそんなことを思っていると背後から声がかかってきた。
「どうも、いまさっきはなかなかでしたね」
「ぅん、あぁ、リッカさんでしたか」
片手に酒と盃をもったリッカが立ってこっちに訪ねてくる。
「そこに座ってもいい?」
「喜んで」
クロツキの横に腰を下ろしたリッカから盃を貰い酒を注いでもらった。
「え~と」
「クロでいいですよ。リッカさん」
「そう、じゃっクロさん」
「はい」
酒を飲みながらのんびりと周りを見ていると、鈴奈と暁がこっちへやって来た。
「おっ、クロ、彼女でも作ったのか」
「えっ、えっ」
暁の冗談に鈴奈だけが本気に受け取り混乱しているのをみて、リッカが片手を振り否定してきた。
「違うよ、そのひとは冗談を言っているだけだよ」
「えっあっ、そうですか。もう、からかわないでください」
「すまん、すまん」
鈴奈の反撃を防ぎながら、謝っている暁と鈴奈が落ち着くのを待って自己紹介をした。
「えっと、リッカさんこちらの二人がギルドメンバーの残りの鈴奈と暁です」
「はじめまして」
「どうも」
「よろしくね。私は、リッカって呼んで」
挨拶が終わると、暁達も腰を下ろし、また、飲み始め、その日は深夜まで宴が続いた。
「ここか……」
「えぇ、そうよ」
クロツキ達を含めた集団は、黒く異臭を放つトロールとキュクロプスに埋め尽くされた渓谷を見ながらクロツキが呟いた言葉に弧万智が返事を返してきた。
「もうそろそろ、準備を始めてください」
ディアミスが周りの人達にも声をかけながら、戦闘がすぐにできるよう呼びかけてきたので、弧万智は仲間のもとへ行き、クロツキは自分の荷物のもとへ向い、武具と弾薬などを確認していると2人組が近寄ってきた。
「ねぇ~、また、私たちと一緒に組まない」
「うん?…リッカさんか。そうですね」
準備を済ましてきたのだろう武器を担いでボビーと共に寄ってきたリッカが誘って来たので、二つ返事で合意し、クロツキも確認の終わった装備を持ち、リッカ達と共に暁達と合流した。
「さて、もう他の組は戦闘を開始したみたいだし、俺たちも行きますか」
暁達と合流した頃に聞こえてきた雄叫びと戦闘音を耳にしたクロツキは近くにいた仲間に聞こえる音量で喋る。
「「おぉぉ!」」
クロツキの言葉を聞いた全員が呼応して、戦闘音が聞こえてくる戦場へと参加するために駆け足で向かった。