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―――援軍が加わってからの戦況は防衛側に大きく傾き、魔物たちは三時間程で駆逐され戦いは終わった。
「・・・無事、終わったね」
「そうだな」
かえでと暁が勝利の余韻に浸っていると鈴奈が皆に聞こえるように言葉を発する。
「この後は何をしますか?」
鈴奈の一言で、皆がギルドマスターであるクロツキに顔を向け言葉を待つ。
「そうだな、まずは休息―――と行きたいんだが、まずは、拠点を決めないとな」
クロツキの言葉を聞き、その場にいた全員が立ち上がってギルド会館へと歩き始めた。
ギルド会館へ到着したクロツキ達は資金内で買える建物を地図上から選び購入したが向かった先で言葉にできない光景を目のあたりにしてしまった。
都市の中心街にあるギルド会館より大分離れた場所にそびえ立つ廃墟の前でクロツキ達は立ちすくしていた。
「おい……」
「……これって」
「廃墟ですね」
「「・・・・・・」」
暁とかえでが我慢して直接言わなかった単語を鈴奈は、あっさりと言い放ち、周りに沈黙が訪れた中クロツキは、するべき行動を提案する。
「まず、掃除だな……」
「掃除ってレベルではないと……」
クロツキの言った言葉に対して、鈴奈がツッコミを入れてきて、会話がなくなるが、すぐにかえでが意見を提示してきた。
「ログアウトできない状態で、大変だと思うけど、私の知り合いの一人に商業系ギルドのマスターをやってる人がいるんだけど、・・・・・相談してみる?」
他に案もなかったので、クロツキは頷き、かえでが連絡をいれてから待ち合わせ場所へと暁と鈴奈を置いて向かった。
「久しぶりねぇー」
「うん。久しぶり弧万智」
二大商業ギルドの一つであるパペット・マーケットのギルドマスター弧万智の気迫とプレッシャーを感じていないのか直に返事を返したかえでを見ているクロツキへと視線を向けた弧万智に急いで挨拶を返す。
「初めまして。黄昏の夕日という――――」
「知ってるわよ。ギルドマスターのクロツキちゃんでしょ」
クロツキが自分の名前などを言う前に遮り、自分の名前を言われたので、少し驚いていると弧万智が喋り出した。
「貴方達のギルドは、防衛クエストの一件で知ったわ。たったの四人で押し寄せてくる魔物の半数以上を討伐したギルドとして、今、都市内では噂になっているわ」
弧万智の言葉の内容に驚き喋れなくなっていると、弧万智は話題を振ってきてくれた。
「なにかようがあって呼び出したんじゃないの?」
「そうそう。あのね弧万智に私たちの拠点の整備をお願いしたんだ」
「整備って……」
かえでの説明では意味が解らなかった弧万智は、クロツキの方を見てちゃんとした説明を求めてきた。
「拠点にしようと地図上で選んだ場所が、廃墟で使える状況じゃないんです」
クロツキの説明でかえでの言いたかったことを理解したのか頷いて、すぐに質問が返ってきた。
「廃墟って、いつギルドをつくったの?」
「事件の後すぐに、つくりました」
「なら、なぜギルド会館を使わずに拠点を買ったの?」
弧万智の疑問も頷ける。こんな状況なのだからギルドを創ってもギルド会館を使用していた方が効率がいいのにとでも思っているのだろうと思いながらもクロツキは、理由を説明する。
「今回のことが、いつまで続くか分らない今は、長期間の滞在を考えて自分たちだけの場所を確保していた方が今後を考えると良いと思って購入しました」
「あぁ、そういうことなら、解るわ」
「どいう意味?」
理由が分かった弧万智は納得をしていたが、どうやらかえでは意味が解らなかったらしく聞いてきたので、弧万智が答えてくれた。
「もし、同じことを考えてギルドを創る人が増えたら、ギルド会館は混雑するからよ」
「それがどうしたの。みんなで使えるから問題がないと思うんだけど」
「違うよ。かえで、会館が混雑するってことは、利用料金が高くなって、拠点を買うよりも高く値が張る可能性が出てくるんだよ」
クロツキと弧万智の言葉でようやく理解したのかかえでは、頷いてきた。
「なるほど。なるほど。了解です」
「でっ、どういった風に整備するの?」
弧万智の質問にクロツキは、見てもらった方がいいと言い、拠点のもとへと向かった。
「―――これは、ひどいわね」
弧万智の一言で、その場に居たクロツキ達はただ、ただ、苦笑いしかできなかった。
「弧万智さん」
「弧万智で良いわよ、要件は何?」
クロツキは、急に言われたので焦ってしまったが、要件を伝えた。
「あっ、はい、どれくらいの費用になるか聞きたくて」
「今回は、状況が状況だからタダで良いわよ」
弧万智のそんな言葉を聞いた後、パペット・マーケットによるリフォームが始まった。
空が赤色に染まるころ、廃墟だった場所には立派な建物がそびえ立っていた。
「よいっしょっと」
「あのぅ~、どこに置けばいいですかぁ~」
建物の中では鈴奈と暁が家具を運んでいた。
「そういえば、クロさんとお姉ちゃんはどこにいったんですか?暁さん」
「あぁ~、あの二人は、弧万智っていう人に呼ばれたから、そっちに行ったぞ」
「そうですか。分かりました。私たちで早く終わらしましょう」
鈴奈は、少し心配に思いながらも暁と自分を励ますかのように張り切って家具運びを行った。
―――一方、クロツキとかえでは、控え室なのだろう、ギルドの個室で弧万智がやってくるのを待っていた。
「ねぇ~、クロちゃんあの子って可愛くない?」
かえでの言葉で自分たちが入ってきた扉の横に立っている黒服のフードに包まれたタカのんという名のプレイヤーをクロツキは見る。
(そういえば、フードで良く見えないけど……)
「ゲームの中なんだし、あぁいう姿で作ったんだよ。きっと……」
クロツキは、可愛く思いつつも、かえでにはばれない程度の返事を返す。
「そっかぁ~。そうだよねぇ~」
クロツキとかえでが、タカのんを見ていろいろと話していると後ろにもある扉が開く音が聞こえたのと同時に聞き覚えのある声がかかってきた。
「あの子は、男性よ。クロツキちゃん、かえでちゃん」
「「えっ?」」
二人の驚きの声がはもると、弧万智は笑いながらクロツキ達の向かいの椅子に座りタカのんを手招きするが少年は、不機嫌そうに弧万智の後ろに回り文句を言ってきた。
「また、僕のことを女だと勘違いしてる人達にあったなと思うとやる気が出ませんよ。マスター」
「まぁ~いいじゃない。見た目がそんなんだから勘違いされるんだし」
「そうはいっても、僕は自分で選んだんじゃないんですよ」
タカのんの文句に、弧万智は慣れたように返事を返すと、タカのんもまたいつもの言っているような感じで返事を返していた。
「あのぅ~、呼ばれた要件をもうそろそろ教えて欲しいんですけど・・・」
クロツキの言葉で、弧万智とタカのんは険しい顔になり、弧万智が喋り出す。
「その件だけど、協力して欲しいことがあるのよ」
「はぁ~、内容の―――」
「いいよ。弧万智にはお世話になったからね」
クロツキが内容を聞こうとしているのを無視して、かえでが返事を返しクロツキの顔を覗き込んで返事を迫ってきた。
「いいよねぁ~。クロちゃん」
「まっ、まぁ~、拠点ではお世話になっているから協力することには文句はないけど、内容はちゃんと聞かないと」
かえでに圧倒されつつもクロツキは返事を返し、弧万智の方を見ると一枚の紙を見せてきた。
「これは?」
クロツキは、差し出された紙を手に取りながら弧万智に質問を返すと今度は、タカのんが説明をしてきた。
「新クエストの一つです。内容は、この前あった防衛クエストの続きだと思っていただければ」
「なぜそんなものがパペット・マーケットに届いているですか?」
タカのんの説明を聞いた後、クロツキは疑問に思ったことを弧万智に聞いた。
「やっぱり、届いていないのね」
「届いていないとは……」
クロツキが弧万智に質問していると、視界の隅でいつの間に引っ付いたのかタカのんにかえでがしがみ付いているのが見えたが、かえでを注意するより早く弧万智が質問の返事を返して来たので無視することにした。
「一応、全ギルドとギルド会館の掲示板に提示されているわよ」
「そうですか。防衛の後は拠点の引っ越しなどで忙しかったので……」
「そう思って呼んだわけ」
(ん?呼ばれた理由は分かったが、なぜそれが、協力して欲しいことになるんだ……)
クロツキが呼ばれた理由を考えていると、それを察したのか弧万智が喋り出してくれた。
「以前の防衛ですごい活躍だったでしょ?」
「いえ、そんなことは――――」
「そんなことがあるのよ。初めは、参加したい人だけで、クエストをやったんだけど、失敗しちゃってね。そこで、貴方達にも参加して欲しいのよ。今回もまた、失敗すると大変なことになるみたいだから」
弧万智の説明で、クロツキは一瞬、顔を歪めたが、防衛クエストの失敗したときのペナルティーを思い出し、返事を返した。
「分かりました。黄昏の夕日も参加させていただきます」
「良かったわ。最初の失敗で、参加してたギルドの半数が諦めちゃったから」
「諦めたとはいったい何故ですか?」
「今回の敵が、Aクラスの大群なのよ。お蔭で、一部の戦闘ギルドと私のギルド以外のギルドは、勝てないとか言って、諦めちゃったのよ」
弧万智の言葉を聞いて、少し驚いたが、タカのんにちょっかいを出していたかえでが元気よく言ってきた。
「大丈夫だよ。一体一体確実に、し・と・め・れ・ば」
かえでのテンションで落ち着きを取り戻したクロツキは、頷き立ち上がった。
「かえでの言う通りですよ。それで集合時間は……」
「頼もしいわね。明日の早朝にギルド会館の門前に集合よ」
クロツキ達は、弧万智から集合時間と場所を聞き終わった後、パペット・マーケットの拠点を出て、自分たちの拠点へと向かった――――