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天才少女と凡人な俺。  作者: さかな
第七部 二学期 想イノ果テニ
97/134

33 中編 (拓真)

 

 

 

 

 

 一日目の行事が終り今のはホテルに俺等はいます。


ホテルについてから全クラスに教師からの話しがあり、それが終わると各自の部屋へと皆は向かった。勿論、女子と男子の止まる階は違っており、階段付近には常に教師の目が光っている状態です。


なので、俺が牧下に何か出来るわけでもなく、佐々路と雪菜にお願いしている感じになってしまっている。


そして部屋。


俺と神沢、レイに崎本の四人で過ごす。部屋に着くなり疲れたと言ってレイは荷物を乱暴に投げ捨てベッドへと横になる。俺はそんなレイの荷物を端っこに寄せて自分の荷物もそこに置いた。


「神沢と崎本の荷物もこっちに置いておこう。一つに纏めた方が部屋を広く使える」


荷物を持ったまま何もしようとしない崎本と神沢に俺は言う。そして二人から荷物を渡され俺は纏めて部屋の端っこに置いた。


「でたでた、拓真の母性本能」


「なにが母性本能だっ!! 昔からお前が整理整頓をちゃんとしなかったから俺はこうなったんだっ!!」


そうなのだ。俺が少しばかりキチンとしてしまう性格になったのは全てレイのせいなのだ。昔から物を片付けるという事を知らないレイに注意をしながら自分で片付けてしまっていたのが原因だろう。


それから俺はキチンとしないと気がすまない阿呆な凡人に成り下がってしまったのだ。


「まぁまぁいいじゃんかよ。俺は風呂の時間まで寝かせてもろう」


適当な返答しレイは速攻で寝てしまった。そして俺と神沢と崎本だけの空間へとなる。


まぁこれといって俺は崎本と話すことはないのだけれど、ここで話をしないと場を持たす事が出来ない。


「崎本は風呂の時間までどうするんだ?」


俺はこの質問をした事を後悔する羽目になる。


「何言ってんだよ小枝樹。もう少しで風呂だぞ? 高校生の修学旅行の風呂なんだぞ?」


いったいこの崎本という男は何を言いたいのだ。俺にはさっぱり分からない。


「もう少しで風呂だから何なんだよ。お前ってそんなに風呂が大好きな女々しい男だったのか?」


「ばかっ!! そうじゃねーよ。修学旅行の大イベントの一つ。それは女子風呂を覗くという事だっ!!」


崎本の言葉を聞いて俺は少しだけ固まってしまう。だって別に大イベントでもないし、普通に犯罪行為だし……。だけど確かに修学旅行というだけで警察沙汰にはならない。まぁばれたら停学は確定なのだが……。


そんな危険な行為を求めている崎本は本当に阿呆な奴だ。というか修学旅行で浮かれていて斉藤からの依頼をコイツは忘れているんじゃないのか?


疑問が過ぎってしまうのも無理はない。だって崎本ってバカなんだもの……。


「いやいやいや。何が女子風呂を覗くだっ! そんなもんばれたら一発で停学だぞ? それに噂が流れてこの先の学校生活を全て台無しにするんだぞっ!?」


「それでもよ小枝樹。男のロマンが詰まった女子風呂を覗こうともしないで本当に俺等の修学旅行は大切な思い出になるのかな」


崎本……。


コイツの目は本気だ。それに今まで感じてこなかった程の男らしさまで感じてしまう。崎本は本物のバカだが、何も考えていないバカではなかったんだ。


俺等との楽しい思い出を作る為に、自分の身を呈してまで女子風呂を覗こうとしているんだ。俺はそんな男の気持ちを無下にはできない……。


「崎本……」


俺は崎本に敬礼をした。それはまるで今から戦場へと赴く戦士への弔いのようだった。だが、涙は流さない。決意を固めた戦士への冒涜になってしまう。


でも、でも……。


「崎本、俺はお前が友でよかったよ。絶対にしくじるなよ。そして、生きて帰ってきてくれ」


「あぁ、俺は絶対に生きて帰ってくるさ」


「崎本おおおおおおおっ!!」


「小枝樹いいいいいいっ!!」


俺と崎本は熱く抱擁を交わした。だが


「お前等さっきからうるせぇんだよっ!! 何が女子風呂を覗くだっ!! ガキの貧相な身体見たっておもしろくもなんともねぇだろっ!!」


城鐘レイ、降臨。


今の今まで寝ていたレイは俺と崎本がうるさかったせいで起きてしまったようだ。それにしても寝起きの悪いレイちゃんだな。もっとこう、大人な対応というか優しさというか、そういう気持ちは生まれなかったんですかね?


よし。こうなったら怒っているレイをいじってやろう。


「ガキの貧相な身体って言っても高校生だぞ? 出る所は出てるし引っ込んでる所は引っ込んでるんだぞっ!? なぁ崎本」


「そうだぞ城鐘。まだ見ぬユートピアというものは理想と現実が混濁した混沌とした世界だとでも思っているのか? あーこの台詞はラノベ読んで覚えただけだからな」


自分の知識の浅さを軽々と肯定してしまう崎本に再び敬礼っ!!


「そうじゃねーよ。別に覗いてまで見るものじゃないだろって俺は言いたいんだ。つか、崎本から混沌とかユートピアなんて言葉が出てきてる時点で色々疑ってたから訂正しなくていい」


ベッドから身体を起こし、的確に突っ込みを入れるレイ。そして俺はすかさずレイに言う。


「そんな事言って、レイがガキの身体に興味ないのはアン子が好きだからだろー」


「ば、ばか、拓真っ!?」


ニヤニヤしながら言う俺の言葉を聞いたレイは本気で焦っていた。それはもうベッドから身を乗り出してしまうほどに。


「ほほー、城鐘は如月先生が好きなのかー。またそれは高嶺の花に目をつけたもんだ」


そして間髪入れずに崎本が援護攻撃を繰り出す。だが、レイはそれだけで倒せるほど弱い戦士ではない。ここで攻撃の手を止めれば俺ら勇者一行は一瞬にして灰燼へと帰すであろう。


ならばここで様子を見ているわけにはいかない。


「それにレイは昔からアン子が来ると恥ずかしがって意地悪な事ばっかり言っていたんですよー、崎本さん」


「あら、それは典型的な好きな子を苛めてしまうアレですわね。本当にツンデレさんの城鐘さんらしい行動ですわ」


崎本の奴乗ってきてやがる。だが、このテンションは悪くない。このままレイを畳み掛けてこの戦いを終わらせてやる。そう、完全勝利は我が手に


「それでも城鐘さんは頑張っていたのよ? アン子さんの誕生日の時とかは━━」


「あぁっ!! もう、分かったよっ!! 俺の負けでいい。それで、どういう風に女子風呂を覗くんだ?」


勝った。まぁ俺がレイに負ける事なんて絶対にないことなのだけれど。それでもなんだこの高揚感。俺は新たな快感に目覚めてしまったという事なのか……?


レイから白旗を振ってくるなんて、もうなんかもう……。ってなんかおかしいな。


確かにレイは負けを認めたが、その後に続いた言葉が腑に落ちない。すると崎本が喜びながら俺の手を掴み


「やったな戦友っ!! これで城鐘っていう大きな戦力を加えることに成功したぞっ!! これで覗きミッションを失敗する事は万に一つもない」


覗きミッション? いつそんなミッションが成立していたんだ? つか待て、俺はレイをおちょくるのに夢中で大事な事を忘れてしまっていた。


そうだよ、初めに話しに上がったのは覗きの話だ。それの行動を阻止する為の行動で俺はいつの間にか崎本サイドに立ってしまっていた。その結果ってもしかして俺も覗きをしなきゃいけないの……?


「ちょっと待て崎本っ!! 覗きの話を肯定したわけじゃないぞっ!? 俺はただレイをからかってやりたいって思ってただけで━━」


「おいおい拓真。今更なにを言ってるんだよ? もしかして天才さんが覗きに臆したなんて言わないよな? なぁ崎本」


やばい。完全にレイと俺の立場が逆転してしまった。


「そうだよ小枝樹。もうミッションを破棄する事なんてできないんだよ。ひっひっひ」


不気味な笑みを零す崎本。そして俺に対する憎しみだけのオーラを纏ったレイが俺へと近づいてくる。


「ま、待ってくれ……。天才の俺からしてもこのミッションの成功率は物凄く低い。それに失うものが大きすぎる。だからその、こんなミッションは今すぐにでも破棄して、別の楽しい事を考えるほうが良いと思うんだが……」


小さな抵抗。そしてその抵抗が無意味なものだと分かっていても、俺にはこれくらいしか出来ないでいた。そして


「問答は無用だ」


「いくぞ、小枝樹」


左にレイ右に崎本。この二人が俺の腕を掴む。そしていつの間にか入浴の時間になっていて、俺は引き摺られながら部屋から出て行く。


「いやだっ!! 俺はまだ死にたくないっ!! 本当に勘弁してくれっ!! いやだ、いやだあああああああああああああっ!!」


ホテルの廊下に俺の断末魔が響き渡った。





 そして今、俺らはホテルの大浴場にいます。


この時間帯は一般客を入れない俺らの貸切。即ち、女子風呂にも一般客はおらず女子生徒だけになっている。ここで俺らが掲げたミッションは女子風呂を覗くだ。


というか俺が掲げたわけじゃないですからね? あくまでも主犯は崎本くんですからね。こんな所でしか活躍する場所が無いからって張り切りやがって……。こっちとらいい迷惑ですよ。


「それで参謀、作戦はどのようになっている?」


服を脱ぎ終わった崎本が下半身にタオルを巻き、俺に言ってきた。つか、誰が参謀だ。なんで俺がこんな変態的な行動の作戦を立てなきゃいけない。


でも待てよ。ここで俺が作戦を立てれば、崎本とレイに仕返しが出来るかもしれない。バレないような作戦を言い、それは絶対にバレるという作戦を立てればいい。だが、そんな簡単に上手くいくものなのだろうか。


「作戦なんて何も考えてない。それにこのホテルの浴場の造りすら俺は知らないんだぞ? そんな状況で作戦なんて━━」


「大丈夫だぞ、拓真。その問題ならクリア済みだ」


俺の言葉を遮ったレイが一枚の紙を手渡してくる。それはその紙を取り内容を確認する。そこには、精巧に記された風呂の設計図。どこでこんなものを入手したのかは聞かないでおこう。


つか、こんなものがあるなら俺の作戦なんていりませんよね? どこか覗きやすい場所を探して覗けば良いだけの話ですよね?


そんな事を考えながら大浴場の設計図を眺めているとある事に気がついた。それは、完璧な作りになっていて覗く場所が無いという事だ。きっとこの設計図を書いた人は覗きに対して敏感な人だったのであろう。


そうじゃなきゃ、ここまで死角を殺す事は出来ない。そして俺の答えが決まった。


「いやいや、この設計図見てお前でも分かるだろレイ。この大浴場に死角はない。どの角度から攻めても女子風呂を覗く事は不可能だ」


現実とは残酷なものだ。覗きたいと願っている者達の気持ちを簡単に壊してしまう。だが、それでいい。覗きは歴とした犯罪行為ですからね。良い子はまねしない様に。


「確かに拓真の言うとおりだ。この大浴場に死角はない。だが、唯一覗ける場所がある。それはここだっ!!」


声を張り上げたレイが俺の持っている大浴場の設計図を指差した。そしてレイが指差した場所は、露天風呂の壁。


確かにこの設計図を見ても分かるように、覗ける場所があるとするならば露天風呂の壁しかない。その場所は女子風呂の露天風呂と隣接していて壁一枚で隔てられている状態だろう。だが、まだ分からない。壁がどんな作りになっているかで話しが変わってきてしまうからだ。


そして俺らは露天風呂へと直行し壁の造りを確認する。そして絶望した。その造りはピカピカに磨かれていて凹凸も何もない壁。試しに足を掛けようとしてみるが、あまりにも完璧に出来ているその壁は人類の足を拒むかのように地べたへと滑り戻してくる。


初めからこんな事だろうとは予測できたんだ。こんなにも覗きを警戒している設計図だぞ。壁にまで配慮するのが当然なんだ。


覗きたいと思っていない俺でも悔しいと思ってしまう。そして頭の中を巡らせる。この完璧な防御を打ち破る方法を……。いや、壊す事なんて不可能だ。


それに登るとなったとしても戦力は俺とレイと崎本。三人だけじゃ到底無理だ……。それに時間だってもう殆どない。そして俺は自分の中でまとまった答えをレイと崎本に告げる。


「すまない二人とも……。何度考えても俺にはこの壁を攻略する方法が見つからない……」


俺は拳を強く握り締めた。悔しかった、悔しかったんだ……!! 何が天才だ。俺は結局、何も出来ないままの凡人じゃないか……。壁を攻略する事すらこなせない、陳腐な凡人だ。


「大丈夫だよ小枝樹」


崎本の言葉。だが、今の俺には何が大丈夫なのか分からなかった。そして


「何が大丈夫だっ!! 俺はもう何も出来ないって言ってるんだぞっ!? この壁を攻略するなんて不可能なんだっ!! だから、諦めるしかないんだよ……」


「何言ってんだよ小枝樹。俺らには沢山の仲間がいるだろ」


沢山の仲間……? 何を言っているはコッチの台詞だ。だって今の俺には崎本とレイだけしか……。


俺は俯いていた顔を上げた。そこには、崎本の後ろにいるクラスの男子連中。そこにいる皆は俺の事を見ながら強い者達の笑みを見せてくれていた。そして俺の肩に崎本が手を置いて


「まだ諦めるのは早い。絶望なんて吹き飛ばしちまえばいいんだ。下を向いてちゃ目の前の希望すら見えなくなっちまうし、それに今の俺らが目指してる場所は下なんかじゃない。上だ」


「崎本……」


崎本は言い終り壁の天辺を見つめた。その先にある俺等の楽園を目指すために。


「そうだよな……。天才がこんな所で諦めたらカッコ悪いよな……」


そして俺は決意を固め


「ここに居る皆に告げる。この先にある楽園をその眼に焼き付けられる者はたったの一人だっ!! だが悲観する事はない。その者の為にその身を捧げられる光栄さ、そして何よりも仲間の輝ける未来の為に私達は今、その礎となるっ!!」


「「うおおおおおおおおおおおっ!!」」


戦士達の雄たけび。その声は皆が俺の声に賛同してくれたものだと思うと目頭が熱くなってきてしまう。だが、嬉し涙はまだ取っておこう。この先の楽園へと崎本を送ってからでも遅くはない。


「総員に告ぐっ!! 勇者崎本の為に祭壇を造れっ!! 神へと近づく為の塔を造り上げるのだっ!!」


俺の号令と共に男子生徒達が一斉に動き出す。それはたった一人の友を神のもとへ、人類がまだ見ぬ楽園へと向かわせる為に、歯を食いしばりながら痛みに耐えながら身を粉にして礎となる強い意志。


忠誠を誓っているわけではない。仕える王が居るわけでもない。ただ、友の為に……。


そして見る見るうちに祭壇は出来上がっていく。そして最後


「おい小枝樹っ!! 最後の天辺はお前だっ!!」


崎本の言葉の意味が分からなかった。だって、楽園を目指したのは崎本なんだ。なのに、どうして俺に……?


「そうそう。昔から最後を飾るのはお前の役目だっただろ拓真」


レイも……? 何で俺なんかに最後を……?


「ダメだ……。俺はなにもやってないから……。それに俺は一度、諦めようとした……。もう無理だって言って投げ出そうとしたんだぞっ!? ここまで来れたのは皆のおかげだ……!! だから、俺は……」


「甘えた事言ってんじゃねぇぞ小枝樹っ!!」


崎本の怒号。俺は恐怖を覚えながらも崎本を見た。


「確かに小枝樹は諦めたかもしれない。でもそれがなんだっていうんだっ!! 俺等が今ここで頑張れるのは小枝樹が最後の最後まで楽園に行く方法を考えてくれたからだ。ほら、俺らは馬鹿だからよ……。小枝樹が居なきゃなにも出来ないんだ。だから、楽園には小枝樹が行くんだっ!!」


その言葉を聞いて俺は礎になろうとしている男子生徒達を見渡した。やっぱり何度見ても苦しそうで、でもこんな命令を下したのは俺で……。なのになんで、皆笑ってんだよ……!!


俺は選ぶ。


「分かった。俺が楽園に行く」


俺が言うと崎本もレイも笑った。そして俺は一歩、また一歩と楽園へと続く祭壇の頂点へと登っていく。思い返せば沢山の事があったような気がする。


突然、崎本が楽園を目指すって言い出して、その後楽園を馬鹿にしたレイをからかって……。そう、この旅は俺と崎本とレイの三人から始まった旅だったんだ。なのに、最後になってみれば沢山の仲間が集まっていて、本当に俺は幸せな旅をする事ができたよ。


この先の楽園では何があるのかは分からない。伝承とは全く違った楽園なのかもしれない。でも、俺はもう諦めない。仲間の為に、友の為に俺は楽園へ━━。







「それで、言い訳はそれで終りなの小枝樹」


今の俺は廊下で正座させられている状態です。はい、それを今から説明しますと完全に覗きがバレたって事ですよね。現状では佐々路さんに怒られています。


では、ここに至るまでの説明を簡単にしていきましょうか。


まずは楽園……、もとい壁を登り終えて覗きに成功した俺がいたのです。だがその壁の向こう側には女子の姿がなく、居たのは身体にタオルを巻いた佐々路さんと雪菜さんでした。


彼女達曰く、時間ギリギリまでお風呂にいたらしく最後の二人だったらしいです。そして露天風呂を楽しんでたら隣の男湯から僕達の熱い友情劇が聞こえてきたそうです。


まぁそうですよね。壁一枚で隔てられている露天風呂なら普通に聞こえてしまいますよね。その声が聞こえていた二人は覗いてくる輩を捕らえる為に身体にタオルを巻いて待っていたようです。


そしてそこに現れたのが僕こと天才少年、小枝樹拓真なわけでした。終り。


「はい、もうこれ以上何も言う事はありません……」


そして捕まったのは俺だけという事実。うん。何が仲間だよおおおおおおおおおおおっ!! 何が友だよおおおおおおおおおおおおおおおっ!!


結局ばれてんの俺だけじゃねぇかっ!! つか、レイと崎本はどこにいったあああああああああっ!!


あいつ等マジで後で殺してやる。


「はぁ……」


反省している俺の姿を見た佐々路が深く溜め息を吐いた。そして


「まぁどうせ、隆治に唆されてやったんでしょ? 覗きしようとか隆治しか言い出さないし。でもこれは歴とした犯罪だからね。もうやっちゃダメだよ」


「はい……。本当にすみませんでした……」


優しい佐々路の言葉。そして今俺の目の前に居るのがどうして佐々路だけなのか皆様気になっているご様子ですね。


どうして佐々路だけしか居ないのか。それは佐々路が雪菜を説得してくれたからだ。「ここはあたしが小枝樹に言っておくから」と言って雪菜を部屋に帰してくれたのだ。


その優しさが心に染み渡るようだ。


俺は許してくれた佐々路に謝罪をし立ち上がった。そして自分の部屋へと帰ろうとした時


「小枝樹もさ、覗きとかするくらいならあたしに頼んでくれれば全部見せるんだよ?」


浴衣姿で俺に抱きついてくる佐々路。そして俺の身体に当たる柔らかなもの。


「ま、待て佐々路。そ、そのなんだ……。佐々路が言ってたように俺は崎本に唆されただけなんだ。というか攻略できない壁を目の前に我を忘れてしまったというか……。だから、俺は別に何かが溜まってるとかそういうんじゃないからっ!!」


焦る俺のよそに佐々路は微笑んでいた。そして


「あはは、冗談だよ。でもここから話すのは真面目は話ね」


俺に身体をくっ付けたまま真剣な表情になる佐々路。俺はその表情は冗談の混ざってないものだと思い、同じく真剣な表情になる。


「マッキーの事なんだけど、たぶん結構キツイ状態かも。今は雪菜がどうにかしてくれてるけど、それも上手くいくかわからない……。神沢の方は大丈夫……?」


「状況はたぶんソッチと然程変わらないだろう。まだこれといってアクションを起こしたわけじゃないけど、俺も上手く出来るかどうか分からない状態だ」


「そっか……」


神沢と牧下の事を本気で心配している佐々路。その健気さは俺が一之瀬を好きになっていなかったら、とても可憐な少女に映っていただろう。それくら、今の佐々路が可愛く見えてしまっている。


だからこそ、俺は言わなきゃいけない。


「その、真剣な話をしている中悪いとは思うんだが、そろそろ離れてくれないか……? 俺の理性も限界に近い」


そうなのだ。真剣な話をしている最中でも俺の身体には佐々路の柔らかな御山がこれでもかと言わんばかりに主張してくる。そんな状況で思春期男子に理性を保てと言うのがおかしな話だ。


すると佐々路は俺の顔を見上げながら怪しげな笑みを浮かべた。そして


「別にあたしは良いんだよ? 小枝樹がしたいこと全部したいって言ったじゃん。夏蓮の事が好きだからって本能からは逃げられないよね」


風呂上りの女子が言っていい台詞ではありません。いつもと違って風呂上りのせいか、佐々路の髪は真っ直ぐになっていて、制服姿や私服姿は見た事あるけど、浴衣姿は本当にずるい。


それに風呂上りの火照った身体ってマジで凶器に等しい。俺の事をからかっているのは分かるけど、本当に俺の理性が吹き飛んでしまいますよ?


そして俺は


バンッ


佐々路を壁際に追い込む。いわゆるカベドゥーンです。


「ちょ、さ、小枝樹っ!?」


カベドゥーンをした俺は佐々路の顔へと自身の顔を近づける。それは吐息を感じてしまうくらいの距離だ。そして少しだけ佐々路の浴衣の肩の部分を下ろし、鎖骨が見えるくらいの所で俺は佐々路の肩と浴衣を掴む。


「何今更驚いてんだよ。お前が良いって言ったんだろ?」


「で、でも、ここって普通に廊下だし。だ、誰かに見られたらまずいじゃん……///」


恥ずかしがっている佐々路はその身を小さくした。その姿は本当にいたいけな女の子で、なんか少し俺も興奮してきた。って馬鹿なんですか俺っ!!


「誰かに見られても俺はかまないけど? 佐々路は嫌なのか?」


「べ、別に嫌じゃないけど……。そ、そのやっぱり恥ずかしいよ……」


やべぇ。冗談でやってるのに佐々路がすげー可愛い。俺ってこの子に告白されてフってるんだよな? どうしてこんな可愛い子を俺はフったんだ?


そんな疑問が出てきてしまうくらい今の佐々路は本当に可愛い。恥ずかしさと緊張。そして少しの恐怖を纏わせながら眉間に皺を寄せている。頬を赤く染めているのは恥ずかしいからなのか、風呂上りだからなのか。今となってはその真実を知る術はない。


「なぁ、いいだろ佐々路?」


俺は佐々路の耳元で囁いた。その声を聞いた佐々路の体が少しだけビクつく。そして俺は佐々路の瞳を再び見つめた。


「う、うん……/// でも、少しだけだよ……?」


そう言い佐々路は目を閉じた。その姿を確認した俺は佐々路の肩から手を離す。そしてスタスタと自分の部屋へと歩き出した。


そんな状況に気がついたのか佐々路は


「えっ……? ちょ、小枝樹どういうことっ!?」


「お前が俺をからかったから俺もからかっただけだ。それにさっきの牧下の話しを聞いて俺も頑張んなきゃいけないって思ったんだよ。だから俺はこれから神沢と真剣な話しをする為に部屋に戻る」


「もう……」


残念そうな表情を見せ、肩を落とす佐々路。そんな姿を見ると本当に佐々路は俺の事が好きなんだって実感する。こんな俺に告白して、だけど今でも友達でいられる不思議な感覚。


もしかしたそんな風に楽観的な考えになっているのは俺だけで、佐々路はもっと苦しい思いをしているのかもしれない。だから


「それとさ、俺は一之瀬の事が好きだけど、お前は俺の事を諦めなくてもいいぞー。これを言うと本当に一之瀬の事が好きなのか疑問に思うかもしれないけど、さっきの佐々路は普通に可愛かった」


微笑みながら俺は言う。そんな俺の言葉を聞いた佐々路は先程よりも頬を赤く染め上げて、何も俺には言い返してこなかった。


だから俺はそのまま自分の部屋へと戻っていく。神沢と腹を割って話すために。







 






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