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天才少女と凡人な俺。  作者: さかな
第一部 一学期 春ノ始マリ
9/134

4 前編 (拓真)

どうも、さかなです。

何だかんだ四章まで書いてしまいました。

最近は少しずつ『天才少女と凡人な俺。』を読んでくれてる方が増えてきて本当に嬉しい限りです。


今後も切磋琢磨し良い作品を書いていくのでご愛読お願いします。


では第四章も楽しんでください。

 

 

 

 

 照り付ける日差しを避けながら影の多い所を進む。子供の事、自分の中のルールを作り影だけしか踏めないとか色々な事を考えながら毎日を楽しく過ごしていた。

 そんな楽しかった子供時代の事を懐かしく思いながら、俺は一人影を踏みながら歩いていく。

 誰もいない場所。静かな場所。静寂過ぎるこの場所は少し耳が痛くなるような感覚にさせた。

 だが風の音が俺の心をほんの少しだけ安らかにさせた。

 昼食時のこの時間。誰もが空腹を満たしながら自分達の時間を有意義に使い、これからの未来できっと楽しい昔話になる今を謳歌している。

 なのに俺は……。


「何で俺が、一之瀬が落とした箸を取りに行かなきゃいけないんだ」


 はい、そうです。俺は天才少女、一之瀬夏蓮いちのせかれんにこき使われているのです。こんなにも丁寧に話しているのにも関わらず、俺の心の中は黒い塊がとんでもないくらいに渦を巻いています。

 はははははは……。

 ………………。

 何で俺がこんな事をしなきゃいけないんだああああああ!! 俺はなんだ、パシリかっ!? 天才なら何してもいいのか!?

 俺は腹が減ってんだよっ!! 一之瀬の箸なんかどうでもいいわっ!!

 という風に直接言えれば俺はきっと救われます。だけどそれを言えないのが現実であって……。誰もが人生の中で悩む難問なんですよ。

 そんな事を考えながら、俺はトボトボとB棟裏、うちの学校の敷地内の一番目立たない場所を歩いています。


 昼休み、みんなが昼食をワイワイと取っているこの状況下で、俺は一人ぼっち……。つかこんな事になったのも全部俺のせいか……。

 俺は今日しでかしてしまった事を後悔しながら、一之瀬が落とした箸を探していた。

 そう、俺がこんな事になったのも全ては今日の朝の出来事のせいなんだ。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 最近の俺は少し変だ。

 朝、起きたばかりの俺はそんな事を思った。寝起きの奴にしてはとても頭がクリアな状態だった。自分の行動、自分の思考、そして何より俺は自分の感情を抑えられなくなっているような気がしていた。

 一之瀬夏蓮との出会いが、関わりが俺をここまで変えてしまったのか。

 俺は制服に着替え、洗面所で歯を磨き、顔を洗い、寝癖を整えながら考えていた。

 だが変わったのは俺だけではない。自分の中で最近変わってしまった奴の顔を思い出す。


「……雪菜」


 俺は自分の顔を鏡で見ながら、雪菜の事を思いだしていた。その鏡に映りこむ自分の顔は、朝から眉間に皺を寄せている。

 何で俺はあの時、あんなにも感情的になったんだ。確かに『たっくん』と呼ばれて動揺したのは認めてる。でもあんなに感情的になれば雪菜が傷つくのも分かっていたはずだ。

 そんな後悔の念を浮かべながら俺は思った。


「……雪菜に謝らなきゃな」


 謝って済む問題なのか、本当に雪菜は俺を許してくれるのか。そんな不安だけが俺の心に存在し続けた。だが考えているだけじゃ何も始まらない。

 俺は学校に行く支度を終え、リビングで朝食を取っている家族を無視し、雪菜を迎えに家を出た。

 

 ◆

 

 雪菜の家は俺の家からさほど離れてはない。徒歩5分くらいの場所だな。そんな短い時間でも俺はどう雪菜に謝れば良いか考えていた。

 あーでもない、こーでもないと思考しているうちに


「……ついてしまった」


 結局良い謝り方が見つからないまま俺は雪菜の家の前にいます。

 雪菜の家はお洒落な三階建てのアパート。小汚い感じはなく外から見た清潔感はちゃんとしている。そんな雪菜の家のドアの前に今俺はいる。

 やべぇ……。言い合ったあの日から朝迎えに行ってなかったから何だか緊張する。

 俺の心臓は鼓動を早め、インターホンを押そうとしている指は震えていた。だがここまで来てしまったのだから俺は腹をくくり


 ピーンポーンッ


 インターホンを押す。そして雪菜の家のドアが開かれた。


「あら、おはよう。拓真ちゃん。最近来てなかったからとうとう雪菜が見放されたんじゃないかって心配だったのよ」


 スーツ姿で化粧をしている最中のこの人が、雪菜の母親だ。慣れ親しんだ人なのに今は何だか緊張している。それでも俺はいつもの様に接した。


「おはようございます。雪菜、起きてます?」


「多分、起きてるとは思うけど……」


 おいおい。アンタ母親なんだからちゃんと娘の事を見てやれよ。昔からどこか抜けてる所がこの人にはあったからな。

 俺はガキの頃からこの人を知っている。昔から本当に意味不明な事をよく言う人だった。それでも、あの事件、があってからは本当に雪菜が大好きだという気持ちを凄く表に出すようになった。


「じゃあ後は俺が雪菜をどうにかしますから、おばさんは仕事の準備してください」


「本当にいつも拓真ちゃんには助けられるわ」


 そう言い、おばさんは微笑んだ。

 雪菜の母親は仕事をしている。ここの家は共働きをしている家ではなく、雪菜には父親がいない。昔にいた時はあったが、その話はまた今度にしよう。

 今、俺がしなきゃいけない重要事項は『雪菜を起こす事』そして『雪菜に謝ること』だ。

 俺は雪菜の部屋の前まで行き


「おい雪菜。俺だ、拓真だ。取り合えず部屋入るぞ」


 俺はいつもの様に一回声をかけ、何も用心せずに雪菜の部屋へと入る。だが、雪菜の部屋に入った瞬間、とんでもない光景を目にする事になる。


「……た、た、た、拓真////」


 驚きを露にする雪菜。まぁそれもそうだろう。だって俺の目に映っている光景は

 制服のシャツを着ていて、そして制服のスカートに片足を入れている雪菜なんですから。まぁあれですよね、完全に着替え中の雪菜を目撃してしまいましたよね。

 これはあれか、ギャルゲーで言うプロローグで幼馴染の着替えを見てしまうあれでしょうか。はたまたラブコメでありがちなラッキースケベ的な何かでしょうか。

 もし今俺が考えた事が現状なら、俺はこの後いったい何をされるんでしょうか。


「ま、待て雪菜っ!!不可抗力だっ!!偶然だっ!!故意的に見ようとは微塵も思っていないぞっ!!」


 苦しい言い訳を並べる俺に対して雪菜が取った行動は本当に正しい行動だった。


「た、拓真の━━」


 そう言い雪菜は近くにあった物を持ち上げた。そして


「エッチィィィィィィィィィィィィィィッ!!!!」


 朝からなんなんだよっ!! すげぇシリアスな感じだったのに、一瞬で台無しだよっ!! つか雪菜が投げてくる物が当たって普通に痛いし。もう本当に嫌になってきたよ……。

 勢いよく閉められる部屋の扉。その場で立ち尽くす俺は、顔面に雪菜の枕が刺さっている状態です。

 部屋の前が散らかったままだとマズいので、俺は静かに雪菜が投げ飛ばしてきた物を片付け始めた。

 何だか謝れる雰囲気じゃなくなった……。つかこの間の事を謝る前に、今しでかしてしまった事を謝らなければいけなくなった。

 そんな俺は片付けを終え、このまま此処にいても気まずい思いをするだけだと思い、雪菜の母親に挨拶をし、家の外で雪菜を待つことにした。

 

 

 

 外で待つ事数分。着替えた雪菜が家から出てきた。


「……さっきのは本当に不可抗力だったんだ」


 俺は自分で自分を弁解しながら出てきた雪菜に話しかける。だが雪菜は俺の事なんか知らん振りで


「拓真なんか知らない」


 そう言い、足早に一人で学校へと向っていった。俺はそんな雪菜の後を追いかけるように走り出した。

 

 

 ◆

 

 

 そして学校に着いた今。俺は再度雪菜に弁解を試みた。

 昇降口から教室までの間、俺は何度も雪菜に話しかけ、そして何度も謝った。だが何も返答をしない雪菜。本当に怒っているのだと俺でも分かってしまう。

 だが俺の説得フェイズは教室の中へ入っても終わらない。


「なぁ雪菜。本当にわざとじゃないんだよ」


 何度も何度も同じ事を言われ続けた雪菜の怒りが爆発した。


「もうしつこいなっ!! わざとじゃなくったって覗いた事には変わらないでしょっ!!」


 雪菜の声は教室中に響き渡る。そんな雪菜の声を聞いたクラスは静まり返った。

 ………………。

 終わった。

 俺のノーマル凡人高校生ライフは今まさに終りを告げていた。だがそれでも抵抗できる所はまだあるはずだ。


「お、おい雪菜、声が大きいっ!!」


 そう言いながら俺は雪菜に詰め寄る。だがそんな事をしている最中でも教室にいて雪菜が大声で言った言葉を聞いていた連中からは「え、小枝樹くんが覗いたの?」とか「幼馴染だからって覗くのは……ね」とかもう色々と俺はピンチですよっ!!


「……そんなの知らないよ。もう拓真なんか嫌い」


 言って雪菜は教室から出て行った。

 もう、いったいなんなんだよ。最近雪菜といるとろくな事がないような気がする。それでも雪菜にはちゃんとあの日の事を謝りたいと思っている俺も居るわけで。

 教室で晒し者になっている俺は深く溜息をついた。だが落ち込んでいる時には悪魔大元帥が現れるわけで。


「ちょっと小枝樹くん。今の白林さんが言った事は本当なのかしら」


 本当にもう……。なんですか、今日は厄日ですか。何で俺がこんな目に……。つかもとはと言えば全部コイツのせいなんだ。コイツと関わりをもったから雪菜と喧嘩する羽目になったんだ。

 まぁ今日のは俺が悪いんだけど。

 そんな事を考えていたら雪菜の着替えていたシーンが脳裏に浮かんでしまった。


「小枝樹くん。何でそんなにいやらしい表情をしているのかしら。もしかして、白林さんを覗いた時の事を思い出していたりして」


 その通りです。とは言えません。だって悪魔大元帥さんは物凄く強く拳を握っていらっしゃるんですもの。俺にどうしろと言うのですか神様。


「待て待てっ!! 何で一之瀬が怒ってるんだよ」


「女子の着替えを覗いた人間に対して怒りを覚えない女子はこの世界に存在しないわ」


 そう言った一之瀬の周りでクラス中の女子が「うんうん」と頷いていた。もうそれはそれは怒りに満ちた表情で。

 完全に今の俺は悪者だ。雪菜は教室から出て行くし、クラスでは変態を見るような目で見られるし……。まぁでも本当の変態ではない。何度も言うがあれは不可抗力だ。でも見てしまったのは事実なんだが……。

 俺は攻め立てる一之瀬に対していつもの様に対応した。


「え、えっと、その。あ、あの……、ごめんなさい」


「分かれば良いのよ。この変態さん」


 ははははははははは……。俺、変態になりました。とか思ってる場合じゃねぇっ!! 俺は変態じゃねぇぞっ!? 何で朝からこんな目にあわなきゃいけないんだ。本当に今日も災難だ。

 そんな中、この学年一のイケメンが俺の前に姿を現す。


「おはよう、小枝樹くん」


「……あぁ、おはよう神沢」


 俺の心は完全にブレイクされていて、神沢に挨拶をするのもやっとだった。つーか俺は散々痛めつけた一之瀬はもう佐々路の所に行ってるし。完全に俺を放置したな。

 だが俺の精神を壊しにかかっているのは一之瀬だけではなかったのだと俺を気がつく。


「何だが朝から災難だったね小枝樹くん。でも、幼馴染だからって覗くのは駄目だと僕は思うよ」


 ………………。

 このイケメン野朗はああああああああああっ!! お前までメンタルクラッシュ出来るのっ!? 俺を虐めて楽しいの!?

 あろうことかこのイケメンさんは恩を仇で返す卑劣なイケメンでしたよ。俺が頑張った時間を返せっ!!俺の心はもう限界ですよ。本当に誤解なんだよ……。誤解なんだよ……。

 俺は神沢に対して乾いた笑みを一瞬見せ、神沢が言った事に対する返答もせずに自分の机で項垂れた。

 

 

 ◆

 

 

 今日の俺は本当に不幸だ。朝の出来事が尾を引いて、変態扱いされてしまっている。

 一時限目が終わっても、二時限目が終わっても、授業の間の休み時間に俺の方を見てはヒソヒソ話をしている輩ばかりだ。俺の心は崩壊寸前ですよ。

 そんな俺は三時限目が終わった休み時間に意を決してある奴に連絡をした。だが直接話すと俺の心が崩壊してしまうのでメールを送ることにする。


『拝啓。一之瀬様。この度は清々しい朝の雰囲気を壊してしまい誠に申し訳ありませんでした。私の配慮が足らないばかりに一之瀬様には大変不快な思いをさせてしまった事を深くお詫びします。ところで話は変わりますが、今日の私の状況を見て頂ければ分かると思いますが、このアウェイ感漂うこの空間で昼食を取るのが困難になってしまいました。なので昼食は私と一緒にあの場所で取りませんか』


 よし。これなら完璧だ。これなら一之瀬もきっと了承してくれるだろう。俺の作戦はいつだって完璧なんだ。

 俺は送信ボタンを押し、返信を待った。そして数秒後


『死になさい。変態』


 ………………。

 会話というキャッチボールをする気がないのですかこの天才はっ!! なんだよ、俺が全部悪いのかよ。まぁ俺が悪いのかもしれないけど。

 それでも普通にメールくらいしてくれよ。つかお願いしてんだよ。本当にもう……。助けて……。


『本当にすみませんでした……』


 俺は一之瀬へ謝罪文を書いたメールを送り返す。

 もう全部俺が悪い事を認めるから助けてくださいよ天才さん。心の中で俺は悲痛な叫びをあげ、今にも泣き出してしまいそうな表情で一之瀬のメールを待った。


『……わかったわ。昼食はあの場所で食べましょう。事の真相もちゃんと話してもらいますからね』


 何故だろう。俺の意見を了承してくれたのに、何だか行きたくない気持ちが生まれました。だがこれが現実だ。その現実を受け入れ俺は昼休みまで耐え忍ぶ事を選んだ。

 

 

 ◆

 

 

 そして待ちに待った昼休み。俺は逃げるように教室から急いで出て行き、B棟三階右端の教室へと足を運んだ。

 鍵を持っているのは一之瀬なので、当たり前のように俺がついても教室の扉は開かない。俺は一之瀬を待っているこの間にある疑問を浮かべた。それは

 この教室はいったい何に使っていたんだ。教室と呼んではいるものの、室内は普通の教室の三分の一程度だし、教室というよりかは何かの保管室だ。

 今は使われていない机や椅子を収納しているようだが、現役で使われていた時はいったい何に使っていたのだろう。そんな事を考えていると


「遅れてごめんなさい。ちょっと楓に捉まってて」


「全然大丈夫だよ。頼んだの俺だし。あんま気にしないでくれ」


 一之瀬が来て教室の扉を開ける。やっとの思いで逃げ出してきた俺は、本当にこの場所を愛しているのだと改めて思った。

 狭い空間、誰もいない静かな場所。昼休みでもこんな偏狭な地へと足を運ぶ変わり者は俺くらいなわけで、今日一番の自由な気分を味わえる。これが水を得た魚という事なのだろうか。なんか違うな。

 ともあれこれでゆっくりと、何の気兼ねもなく昼食を取れる。

 俺は頬を緩ませながら机の準備をし、そこに今日の弁当を広げ……。

 しまった。今日の朝は雪菜の事をどうにかしないといけなかったからコンビニに寄っていない。そして少しでも早く誰にも見られない、噂話が聞こえない場所に行きたくて購買にも行ってない。要するに

 食いもんがない。

 だあああああああああああああああっ!! 俺はいったい何をやっているんだあああああああっ!!

 購買行きたくても、今日の皆の視線怖いし、少しでもここにいたいから買いに行きたくない。なら俺はどうすれば良い。俺の空腹を俺はどう満たしたら良い。教えてください神様ああああああっ!!


「いったい何を悶え苦しんでいるの小枝樹くん」


 俺が準備した机に鞄を置き、一之瀬は今の異常な俺に話しかけてきた。そりゃ目の前で頭を抱えながら机に何度も頭突きしている奴を見たら。それを悶え苦しんでいると表現した一之瀬に乾杯だよ。


「……一之瀬」


 おでこを赤く染めながら俺は涙目で一之瀬に訴えることにした。


「食べる物がない……」


「は!?」

 

 ◆

 

 事の全てを話した俺は一之瀬に罵倒される事になる。


「本当に貴方という人はどれだけ軽率なの。もう少し考えて行動するべきよ。確かに貴方の説明で白林さんとの事は不可抗力だったと私も思うけど、幼馴染だからって簡単に女子の部屋に入ることはよくないわ」


「はい、すみません……」


「それに、そういう事件が起こってしまったからって自分の昼食を買い忘れるというのはどういう事。今日まで貴方と関わってきて私的な貴方の評価は高かったのよ。なのにこの失態。本当に今の貴方は間抜けな変態よ」


「……はい。返す言葉もありません」


 今の俺は何故か机の椅子の上で正座をし、一之瀬に説教をされています。まぁ説教されるのは仕方がないよな。昼飯も食えないし、一之瀬には説教されるし、本当に今日はついてない。


「……はぁ。怒るのはこれくらいにしてお昼ご飯をたべましょう」


 丸く小さくなっている俺に、一之瀬は嘆息気味に言った。そんな優しくしてくれる一之瀬に俺は


「……でも、俺食いもんないし」


「私のを少しあげるから、それで我慢してちょうだい」


 そう言って一之瀬は机の上で弁当を広げた。そんな一之瀬の姿、言動に感動してしまった俺は


「……一之瀬。本当にありがとな」


 感極まり涙目でお礼を言う。本当に今の一之瀬が天使に見える。いつも悪魔大元帥なだけあって本当に天使に見えるよ。


「そんなお礼なんていいわ」


 そう言いながら一之瀬は弁当箱の横に置いてあった箸箱に手を伸ばした。だが俺もその時、箸箱に手を伸ばしていたわけで。おのずと手と手が触れ合うことになった。

 箸箱に最初に触れていたのは一之瀬で、つかもう普通に一之瀬は箸箱を握っていた。俺はそれよりも刹那な時間遅れたため、一之瀬の手の上に自分の手を置くことになった。


「………」


 手と手が重なり合った瞬間、俺と一之瀬は少しの間見つめあった。見詰め合ったといっても、触れた瞬間の戸惑いから来るもので他意はない。だが時が動き出した瞬間


「……ご、ご、ごめんなさいっ!!」


 一之瀬はその手を大きく振り上げた。俺の手を勢いで解いた一之瀬の手を見ていると、宙に浮いているピンク色の長細い箱。俺はその浮いている箱から目が離せなくなった。だって

 開いている窓から箸箱が落ちていく様だったから。

 箸箱が落ちていく様子は一之瀬も見ていたみたいで。


「……小枝樹くん。早くお箸を拾ってきて」


「え……?」


「こうなったのも全部貴方のせいなんだから、早くお箸を取ってきなさいっ!!」


「わ、わかったよ」


 俺は一之瀬の怒号の中、お箸を取りにB棟の裏庭へと走っていった。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 そして今に至る。


「つか俺等がいる教室の真下ってこの先だったよな」


 俺は地面を見て歩いていたのを止め、校舎の曲がり角を曲がった。だが曲がった瞬間、俺はこの校舎裏に一人でいる奴を見つける事になる。

 そこには一人の女の子がいた。

 膝を抱えしゃがみながら一人でいる女の子。見た目はとても可憐で、いや一之瀬の事じゃないぞ。儚げなな女の子。黒くて長い髪を縛り、そのポニーテールを風が揺らした。

 一之瀬と同じで黒髪なのに、とても透き通っている青のような色に見えた。遠くから見ても分かるくらいの白い肌。その髪の色と、肌の色が少女の儚さを感じさせていた。

 俺はそんな少女に近づき


「こんな所でなにやってんだ?」


 声をかける選択肢を選んでいた。なんだかほっとけないと言うか、この少女が何かに見せていた笑顔が気になったというか。

 いや、きっと今の俺は何も考えずに話しかけていた。一年前なら有り得ないことなのに……。これも全部一之瀬のせいだ。

 そんな俺の声に気がついたのか、しゃがんでいた少女は慌てながら立ち上がった。


「え、あ、そ、その。わ、わ、私は、こ、ここの、お、お花に、お水をあげていただけで……」


 俺は自分の目を疑った。だって今俺の目の前にいる少女は、本当に高校生かと疑ってしまうくらいのミニマムな存在だったからだ。そして眼鏡女子という特性まで兼ね備えているしまつだ。

 つか細川より身長が小さいってありなのかっ!? 完全にロリキャラじゃないですか。最近需要が多いのは分かるが、こんなにもあからさまなのはアリなのか!?

 俺の出現で困惑するロリ少女。そんなオドオドしているロリ少女に俺は


「へー。ここに咲いてる花ってもしかしてアンタが水をずっとやってたのか?」


 俺はできるだけ冷静を装った。だって今俺が考えている内容を初めて会った人に知られてしまうのはまずいだろう。


「え、えっと。は、はい……。こ、こんな場所、だ、誰も来ないから……。わ、私、と、友達いないから……」


 少女の言葉を聞いた俺は昔の情景を思い出していた。そう、あの日あの公園で起こった出来事を。


「小枝樹くーんっ!!」


 感傷に陥っていた俺の意識を呼び戻したのは、最近いつも聞いている天才さんのこ声で。


「おー。俺等がいつも居るのはその辺なのか」


 俺は手を振って場所を伝える一之瀬に向って言った。そしてそんな一之瀬がいる事に安心感をおぼえる俺もいた。


「え、え、い、一之瀬さん……」


 一之瀬の存在に気がついたのか少女は驚いた表情で一之瀬の名前を呟いていた。


「なんだ。アンタも一之瀬を知ってるのか。まぁそりゃ知ってるか。あいつはこの学校でかなりの有名人だからな」


 俺は何も考えずにその言葉を発した。だが


「う、うん。だって、い、一之瀬さんとは、お、同じクラスだから……」


 そうかそうか。ここにいるロリ少女も一之瀬と同じクラスなのか。

 ………………。

 それって俺も同じクラスじゃね……? 待て待て待て待て待てっ!!

 確かに俺は人の名前を覚えるのが不得意ですよ。いや、神沢も同じクラスなのに知らなかったわ……。でもでも、こんなにも頻繁に同じような事が起こるわけがない。

 だからこそ俺が出した結論はこうだ。『このロリ少女が嘘をついている』これで決まりでいいですか。誰も反論がないのなら、今回のこの件はこのロリ少女が嘘をついて━━


「さ、小枝樹くんも、い、一緒のクラスだよね……」


 完全に詰んだ……。あぁそうですよ。俺が悪いんですよ。何もかも俺が悪いんですよおおおおおっ!!


「何をやっているの小枝樹くん。早くこっちで探しなさい」


 俺が悶々と自己懺悔をしている中、悪魔大元帥が俺を呼びつける。


「わ、悪い。早く取りに行かないと一之瀬が怒るから。俺行くわ」


 俺はロリ少女との会話を中断し、目的の箸を探すのを再開しようとした。だが俺は何故か


「あ、そうだ。俺とか一之瀬はよくあの教室に放課後いるから良かった顔出しに来いよ。じゃ」


 そう言い俺は走り出した。影を踏まなきゃ駄目とかいう自分ルールを捨て去って。

 でも何で俺はロリ少女にあの教室へ来てもいいっていう事を仄めかすような事を言ったんだ。あの場所に俺は誰も来て欲しくないって思っていたのに。

 そんな事を考えながら俺は箸を探していた。

 

 

 ◆

 

 

 放課後。

 俺は今、B棟三階右端の教室にいます。今の状況を説明する前に、簡単に箸を取ってこの教室へ戻ってきた時の話をしよう。

 はい。それはもう一之瀬さんに怒られっぱなしですよ。それはそれは昼休みの時間を全て使って怒られました。そして昼食を俺は取ることができませんでしたとさ。ちゃんちゃん。

 ………………。

 腹減った……。

 今の俺は力無く机に項垂れています。もう腹が減って殆ど動けない状況です。そんな俺の横には一之瀬ではなく、ニコニコと笑って椅子に座っているイケメンがいます。本当に鬱陶しいです。


「何で神沢がここにいるんだ。俺はここに来ても良い許可を出した覚えは無いぞ」


 いつもの元気は無く、俺は淡々と神沢へ言った。そんな体力ゲージが赤い俺へ神沢は


「許可は一之瀬さんからもらったよ」


 そう言うと窓際で外を見ながら黄昏ている天才を神沢は指差した。俺は顔だけを一度、一之瀬の方へと向けすぐに神沢の方へと戻した。


「分かった。一之瀬が許可を出したなら俺が言える事は何も無い。だがこれだけは言わせてもらう。何でそんなにヘラヘラ笑ってんだ」


 ニコニコと笑ってて本当に鬱陶しい神沢へとクレーム出す俺。すると


「こうやって放課後に友達と残るのって僕初めてだから、何だか少し嬉しくて」


 純粋な笑顔で言う神沢。イケメンの笑顔。何かうぜー

 俺は最後の力を使って椅子から立ち上がり、黄昏天才少女一之瀬夏蓮に近づき、小声で


「おい一之瀬。ここに来る事を許して良いのか? もし俺等の契約がばれたら面倒なんじゃないのか?」


 疑問に思っていたこと、俺の中で懸念している事を一之瀬に伝える。だが一之瀬は俺の方へと振り返り冷静に淡々と言う。


「大丈夫よ。もしばれたとしてもそれは全て小枝樹くんのせいだから、貴方がこの世界から消えるだけよ」


 それが大丈夫じゃないんだよっ!! 簡単に俺の存在を世界から消そうとするのはやめましょうよ。おかしな話ですよ、何でばれたら俺が消させるんだ。つか、本当に消されるのか……?


「あ、あのさ。もしばれたら俺って本当に消される……?」


 俺はビクビクしながら一之瀬に尋ねた。


「小枝樹くん。あまり一之瀬財閥をなめない方がいいわよ」


 一之瀬財閥こええええええええええっ!! それよりも、そんな事を満面の笑みで言えちゃう一之瀬の方がこえええええええ!!

 俺は本当の恐怖を目の当たりにし、神沢をここから追い出す作戦へと繰り出した。


「おい、イケメン。今日はもう帰れ」


「なんでよー。もっと僕とも楽しく遊ぼうよー」


 なんだろう。今の神沢の言葉聞いた瞬間に寒気したぞ。何か色々な意味で身の危険を感じさせる言葉だったぞ。だがそれでも俺はこんなイケメンには負けない。


「うるせーな。お前はさっさと帰れ」


 俺は神沢の頬を引っ張りながら縦縦横横してやった。


「痛いよ、小枝樹くん。痛いってばー」


「なんかお前、ホッペを引っ張られててもイケメンだからムカつくな」


 俺は更に神沢の頬を縦縦横横と引っ張った。まぁ引っ張ると言っても痛くは無いよう力の加減は調節している。なんだか自分でも普通に友人と遊んでいる光景に思えてきた。

 そんな時に事件は起こる。

 ガラガラッ

 教室の扉を誰かが開けた。俺等は開いた扉の方へと目線が行く。そしてそこに居たのは


 身長はとても小さく本当に高校生なのかと疑ってしまうくらいの体躯。そして長い黒髪は後ろで結ばれていてポニーテールになっている。透き通るようなその黒髪は一之瀬のそれとは違い青い感じに思えてしまうくらい透き通っている。

 そして少し大きめな黒縁の眼鏡、更にはその眼鏡の色とは正反対の肌の白さ。そんな儚げな少女は今、俺等の目の前にいる。

 だが待て、このロリ少女は昼休み裏庭で会った同じクラスのロリ少女だ。でも何でこの場所に来たんだ?

 俺は放課後でこの少女に言った自分の言葉を思い出していた。


『あの教室に放課後いるから良かった顔出しに来いよ』


 俺が言った言葉を真に受けて本当に来てしまったのか。今は神沢をどう追い出すかを俺は考えていたのに、思わぬ伏兵で戸惑っています。

 そんなロリ少女はモジモジいながら、それでも自分の中での精一杯の声量で


「あ、あ、あの。わ、わ、私と、友達になってくださいっ!!!」


 静かなB棟三階右端の教室で少女の声が響き渡った。

 

 

 

 

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