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天才少女と凡人な俺。  作者: さかな
第六部 二学期 文化祭ノ夜ニ
75/134

26 前編 (拓真)

どうも、さかなです。


今回から第六部になります。


文化祭です。文化祭なのです。恋愛です。恋愛なのです。


ということで今回は恋愛的な感じにしたいと思っているのでご期待ください。



 

 

 

 

 

 

 秋風が吹き始める今日この頃。少し肌寒くなってきているのを感じながら、今日も平和に学校生活。


平凡だと言われてしまうくらいに普通すぎる毎日。俺が愛してやまないノーマルな日常。


そんな日常を愛しているこの俺は小枝樹さえき拓真たくまと申します。


はい、いたって普通の高校生です。嘘です、もと天才です。


何故もとなのか。それは自分が自分で在っていいと友人達に教えられたからなのです。天才というのは結局、他者が決め付けた評価であって今の俺にはそんなもの関係ない。


「そう、俺は凡人だ」


「ふぁぁあ。朝から何言ってんだ拓真?」


俺の横を歩いている赤毛の男子高校生が大きな欠伸をしながら言ってくる。彼の名前は


城鐘しろがねレイ。俺の昔からの親友の男。過去に蟠りが出来てしまいつい最近まで疎遠になっていた奴だ。


それは俺がレイを裏切ってしまった為に起こった悲劇。まぁ蓋を開けてみればそんなたいそうな事柄でもなかったのだが。


身長は平均的な俺よりも少し高い感じがして神沢かんざわと同じくらいだな。体躯は服を着ているとそこまで筋肉質には見えないが、レイは隠れマッチョだ。翔悟しょうごみたいに太い筋肉ではないが触れれば鉛のように硬い。これはつい最近知ったことだ。


そんな事よりも冷静になって成長したレイを見ると普通にイケメンだ。大人っぽい雰囲気を漂わせる。こりゃ神沢イケメン伝説が打ち砕かれる日も遠くないのかもしれない。


そんなレイに俺は


「ん? まーあれだ。今日から新たな物語が始まるって事だ」


「意味わかんねーよ」


間、髪いれずにレイが答える。まぁこんな普通な日常系が大好物な凡人な俺です。そんな時


「たあああああああくまあああああっ!! れええええええいちゃあああああんっ!!」


本当にどうしてアイツはこうも騒がしいんだ……。というか人の名前を公衆の面前で叫びながら走ってくるのはやめなさいっ!!


「どうしてあたしを置いてくの……?」


俺とレイの所に辿り着いた肉まん女。自身の右手に肉まんを持ち涙目で俺等に訴えかけてきていた。そんな女を見て俺は嘆息し答える。


「はぁ……。あのな雪菜ゆきな、登校中に肉まんが食べたいと我侭を言い、俺等の拒否を無視してコンビニに入っていったお前を待つ道理は俺等にはない。したがって俺等は何も悪くない」


俺の正論を聞いた雪菜はその嘘泣きをやめて今度はむくれだした。


ここで雪菜、もとい。白林しらばやし雪菜をご紹介しよう。


目の前の雪菜を見てもらえれば分かると思うが、好物は肉まんだ。身長は女子の平均くらいで髪は春の時から少し伸びてしまっているのか長すぎず短すぎずだ。もうセミロングと言ってもいいのかもしれない。


その髪の長さが少しだけ雪菜を女性的に、かつ大人びて見せた。むくれ方も肉まんを頬張る仕草も昔と何も変わらないのに、どうしてか雪菜が大人の女性に見えて仕方が無かった。


確かに雪菜は俺にとってのヒーローだ。それはレイと二学期になってぶつかった時、雪菜がずっと俺とレイを待っていてくれたと知ることが出来たから。


それだけじゃない。雪菜はずっと俺の事を見てくれていた。そんな雪菜が俺にとって大切な人だと再認識している。


だが、それと今の状況は話が別だ。


「つかお前はいつまで経っても寝坊はするし、寝坊してるのに朝飯食い始めるし、挙句の果てには遅刻するかもしれない状況下なのにコンビニで肉まんを買おうとする。もうお母さんはアンタの将来が心配だよ」


もう俺はコイツのオカンでいいや。するとレイが


「もうその位で良いじゃないか母さん。ユキも悪気があってやってるんじゃないんだよ」


「そうやってアナタが甘やかすから雪菜がこんなになっちゃったんでしょ!!」


俺とレイの夫婦漫談。久しぶりというか初めてというか……。レイのノリの良さには感服する。そして感じる何も変わらない日常を。


「小枝樹に城鐘、雪菜おっはよー!! つかアンタら二人は朝から何やってんの?」


俺とレイが漫談をしている最中、一人の女子高校生が朝の挨拶をしてきた。


佐々ささみちかえで。俺等のクラスメイトで俺の友達だ。


身長は雪菜と変わらないくらいで、髪は癖毛なの髪先が外側にはねている。そんな佐々路に告白された事のある俺は佐々路の事を結構知っているぞ。


コイツは幼少期に魔女と蔑まれていた。それは平気で嘘をつく人間だったからだ。だが、コイツがつく嘘は誰かの事を思っている嘘だったんだ。


人間は真実を知りたがるのに、それを知って苦しむ阿呆な奴等がいる。そんな事を幼いながらに理解していた佐々路は嘘をつき続けた。その結果、魔女というレッテルを貼られてしまったんだ。


まぁ俺からみたら魔女とかどうでも良いけどね。佐々路が良い奴なのは分かってるし今更考える必要性もない。


「小枝樹、なにいきなり難しい顔してるの?」


俺の一瞬の脳内説明を見破った佐々路が俺の腕にくっついて来る。そして、もう佐々路の胸が、その胸が、俺の腕に押し付けられる。


一学期と夏休みに佐々路には何度かこういうことをされている。だからこそ佐々路の胸の感触がもう、なんかもう……。外見よりも意外と大きいんだよね。佐々路の胸って。


って何を考えてるんですか俺はああああああああっ!! 別の事、別の事を考えよう。そうだ、佐々路と言えば。


夏休みの旅行の時に、俺は覚えてないがキスをしたんだった。そして佐々路に告白された時もキスを……。


不意に隣にいる佐々路の唇を見てしまった。


本当に俺は何を考えてるんですかあああああああああっ!!


「どうしたの小枝樹? 顔赤いよ?」


この女分かっていて言ってる。本当に佐々路は、もう本当に佐々路は、あぁ魔女だ。


そんな佐々路に俺は


「あ、朝からくっつくのは止めなさいっ!! 学校の近いくなんだから他の奴等に見られでもしたら━━」


「あたしは別に大丈夫だよ? だって━━」


俺の言葉を遮り言う佐々路。そして妖艶な微笑を見せた瞬間に俺の耳元で


「だって、あたしは小枝樹が大好きだから」


そう言うと佐々路は俺の身体に絡みつかせていた腕を外し走りだす。そして


「んじゃ、あたしは先に学校に行ってるねー」


立ち尽くす俺をこの場に残し、佐々路はそそくさと学校へと行ってしまった。それに最後に言った台詞、俺の事全然見てなかったよね……? 普通にレイと雪菜に言ってたよね……?


あの女、マジで後で説教してやる。つか朝っぱらから、その、なんだ、大好きとかは勘弁して欲しい。心臓に悪いから……。


そんな佐々路の後姿を見ていると


「はっはっはー。楓ちゃんが先に行くのであればあたしもその後を追うっ!! 拓真にレイちゃん遅刻すんなよー」


そう言う雪菜はどこからともなく二個目の肉まんを取り出し、咥えながら走り去っていった。


そして残される俺とレイ。二人とも嵐のように過ぎ去っていった佐々路と雪菜を見つめ無言になっている。そしてレイは俺の肩に優しく手を置くと


「なんか、ごめんな拓真……。ユキをずっと一人で面倒見てきたんだよ。マジでごめん……」


俺を哀れんでいるわけではない。ただこの6年間、俺を一人にし雪菜という娘を任せっぱなしにしていた自分に後悔しているようだった。


「大丈夫だレイ。もう、慣れた」


乾いた微笑みを見せる俺にレイは何も言わずに頭を下げた。


「まぁなんだかんだ言っても雪菜の迷惑はここ最近になってからなんだけどな。ほら俺ってお前がいなくなってから不貞腐れてたし」


冗談を明後日の方向へと投げ捨て、俺は普通にレイに言った。その内容は確かで、雪菜があんな風に俺の前で馬鹿をやるようになったのはB棟三階右端の教室と出会ってからだ。


それは俺の心を癒したわけではないが、俺の在り方を変えるのには十分すぎるほどのもので、再び俺に笑顔が戻ってから雪菜も昔のようになったんだ。


「本当に雪菜を相手するのは大変だよ。でもアイツを守るって言ったのは俺だしな。だから俺は雪菜を守っていくよ」


そう言いレイへと笑みを見せ付けた。だがレイはそんな俺に合わせる訳でもなく真剣な表情、いや普段と変わらない表情で俺から目線を逸らし


「ユキを守るね……。つかさ拓真はいつまでユキの兄貴でいるつもりなんだ?」


雪菜の兄貴? 確かに俺は雪菜を妹のように思っているけど、それをどうしてレイに言われなきゃいけない。


「雪菜は俺の家族だよ。俺が兄貴なのは至極当然だ」


「はぁ……。本当に拓真は……」


自信満々に言った俺にレイは嘆息した。その理由が今の俺には全然分からない。そしてレイは続けてこう言う。


「たまにはユキの事をちゃんと見てやれよ。兄貴としてじゃなく拓真として」


なにやら意味深長な事を言うレイは少し呆れていた。そんなレイの言葉を聞き終わっても意味が分からない。疑問符を浮かべている俺に呆れたレイは足早に学校へと向かっていく。


そんなレイの後ろを色々な事を考えながら付いていくことしか俺には出来なかった。






 そして学校に着き、俺とレイは教室へと向かう。再び同じ平凡な生活を送ることが出来る事に感謝だ。


だが、それは天才だという俺の存在が明るみになって時点で起こりえない事だったのかもしれない。


俺とレイは昔のように親友に戻れた。でもそれ以外の他人は何も変わらない。


俺が天才に戻って仕出かした代償は大きいということだ。学校中の生徒の俺を見る目は何も変わっていない。それどころか、俺とレイが教室で殴り合っているのを目撃した人達や、その事実を知っている人達の目線を特に酷かった。


俺だけがそんな風に見られるのならまだしも、レイも同じように見られているのには納得できない。それに他の奴等もだ。俺と仲良くしている奴等にもとばっちりがいっている。そんな気になってしまう。


それでも俺に出来る事は普段どおりに過ごす事しか出来なくて。昔の小枝樹 拓真であり続けることだけなんだ。


そんな事を考えていると教室の目の前についてしまった。どうせ俺とレイが教室に入ればクラスの連中の痛い視線を食らうことになる。まぁもう覚悟は出来てるけどな。


そして俺は教室の扉を開いた。すると


「あ、おっはよー小枝樹くーんっ!!!!」


「ぐへっ!!」


教室の扉を開けるやいなや、俺の身体へとタックルをかまして来る一人のイケメン男子高校生がいた。急な出来事だったせいで、俺はそんなイケメンの身体を支える事が出来ず、勢いでその場に倒れてしまった。


そして俺の身体の上に跨っているイケメンはというと


「もう小枝樹くんったら、僕みたいな美少年を受け止められないとか、もっと鍛えた方がいいぞ」


コイツは何を小説に出てくる美少女ヒロインみたいな事を笑顔で言っているんだ。あれか? コイツは本物の馬鹿なのか? 


確かに顔は綺麗だし髪の毛を伸ばしてセットさえすれば普通に女の子に見えてしまうかもしれない。というか重い


「おい、お前は後で死刑にしてやるから、今は俺の上から退いてくれ神沢」


神沢かんざわつかさ。この学年一のイケメン。それは学校内でファンクラブが出来てしまうほどの人気ぶりだ。


身長はレイとあまり変わらず、俺よりも少し大きいくらいだ。髪は金髪でとても細い、サラサラとしていてもうただの王子です。


そんな王子神沢は何故か俺に凄く懐いている。まぁ確かに、一学期の時俺は神沢を助けるような行動をとりましたよ。だけどね、あれは断るよりも受理するほうが面倒くさくないと思ってやったわけであって、別に俺は好かれるような事をしたつもりはありませんよ?


そんな事を全く知らない神沢は


「ほら、早く起きないと背中が埃だらけになっちゃうぞ」


絶対にコイツ進化してるよね。確実に前よりもデレてるよね。つか本当にコイツきもい……。


こんなのが友人で良いんですか俺。まぁいいでしょう。これさえなければ神沢は良い奴なんだ。そう自分に言い聞かすしかない。


脳内で自問自答をしていると、目の前に天使が舞い降りてきた。


「し、死刑は駄目だけど、か、神沢くんも、さ、小枝樹くんから、退いた方がいいよ。し、城鐘くんが教室に、は、入れないから」


マイエンジェルの降臨とお告げのおかげで、やっと神沢が退いてくれた。本当に朝からついてない……。


だが、天使様に対しての礼儀だけは絶対に忘れてはいけないのだ。


「ありがとな牧下。誰も何も言わなかったら神沢はずっと俺を椅子にし続けていたかもしれない」


立ち上がり背中の埃を落とすと、俺は牧下の頭を撫でた。本当にもう、この子は可愛いっ!!


牧下まきした優姫ゆうき。俺の友達でありマイエンジェルです。


体躯が小柄な為、本当に高校生なのか初めは疑ってしまったくらいのミニマムだ。長い髪は後ろで馬の尻尾を作り上げていて、サイドの髪は揉み上げにかぶさる様に垂れている。そんな髪の毛はとても細いのか澄んだ黒色。光の加減で時たま青色に見えてしまうくらいの透明感だ。


そしてなにより黒縁メガネというなんとも素晴らしい属性までも習得している猛者だ。いや、天使だ。


今は普通に話しているが出会った時の牧下はとても内気で、普通に話すことすら困難だった。まぁそんな牧下の友達に俺が無理矢理なった感じですよ。


そして雪崩式に他の奴等とも友達になったというわけです。


「も、もう。か、神沢くんは、す、少しはしゃぎすぎだよっ! そ、それに、し、城鐘くんも見てるなら、さ、小枝樹くんを助けなきゃ」


「待て、どうして俺が怒られる流れになった……?」


目の前で繰り広げられる楽しげな風景を見ながら、俺は少し嬉しさを感じている。


それはどこにでもある普通の風景なのかもしれない。牧下に起こられた神沢は少しだけ落ち込み、その巻き添えをくらってしまったレイが牧下に抗議する。


あんだけレイの事を嫌っていた神沢も今はきっとレイを友達だと認めてくれている。それに一番にレイを迎え入れてくれたのは牧下だ。だからなのかレイと牧下は結構仲が良い。


でも待てよ。確か牧下は神沢の事が好きで、だけどレイとも仲良しで、俺のマイエンジェルで……。


どうしてだろう、何か変な感情が沸きあがってきている。そして俺は楽しそうにしている3人のもとへと行き、牧下をレイと神沢から離した。


「ど、どうしたの、さ、小枝樹くん?」


そんな行動をとった俺に疑問を浮かべている様子の牧下。身長が小さいから意図せず上目遣いになっている。ちくしょう、マジで可愛い。


俺は一瞬だけレイと神沢に視線をずらし、牧下へと戻す。そして


「あんな赤髪と金髪なんてお兄ちゃんは許しませんからねっ!!」


………………。


いったい何を言ってるんですか俺はああああああああああああああああっ!!!!


確かに嫌だと思ったよ? 神沢に取られるのはまだしもレイにまで取られるのは許せないって思ったよ? だけど完全にこれじゃ変態だっ!! 


俺は変態じゃない、俺は変態じゃない、俺は変態じゃない、俺は変態じゃない、俺は変態じゃない、俺は変態じゃない……!!


「すまん……。今のは忘れてくれ……。心から頼む……」


もう謝る事しか俺には出来ない……。自分で犯してしまった過ちがもうどうにもならないと分かっていても、謝らないよりかは幾分かましなはずだ。


そして俺は恐る恐る牧下を見る。するとそこには、天使のように微笑んでる牧下の姿。


そうだ。牧下は天使なんだ。悔い改め懺悔するいたいけな俺を許してくれているんだ。なんとも心優しきマイエンジェル。


「や、やっぱり。さ、小枝樹くんは、へ、変態さんだね」


やめろおおおおおおおおおっ!! 微笑みながら俺を変態だと言わないでくれええええええええええっ!! また心閉ざしちゃうよ? 閉ざしちゃうよおおおおおおおおおっ!!


この瞬間、俺の評価が一気に落ちていくのが分かった。本当に朝からついてない。まぁ俺の友人を異界の人達に紹介する場面だし、これで何となく俺の事も分かってもらえれば幸いです。


とにかくこれで俺の友人は全員紹介したな。あ、翔悟は他のクラスで部活の朝錬もあるから割愛させてもらいます。でも何だか可愛そうだから紹介しておいてやるか。


門倉かどくら翔悟しょうご。現在バスケ部の部長で身長が180を超える木偶の坊です。スポーツをしているからなのか、はたまた元々なのかは分からないがとても爽やかな奴だ。


そんな木偶だが、何度も俺の事を助けてくれた親友だ。一学期の時も二学期に入ってからも翔悟は俺の事を救ってくれた。


だからこそ、今はレイとも仲良くしてくれている。俺の親友だからレイも親友とか言って、本当に青春ど真ん中野郎ですよ。


つか確かバスケ部って二学期までに部員数増やさないと廃部だったよな? アイツ何も言ってこないけど、大丈夫なのか……? まぁ細川もいるし大丈夫なんだろうな。


細川ほそかわキリカ。一年生でバスケ部のマネージャー。


翔悟とは中学の時からの知り合いらしく、細川に翔悟は好意を抱いている。つか傍から見たらこの二人、もう付き合ってるんじゃないかと思ってしまうくらい中が良い。


そんな細川の見た目は結構ちっさめの後輩だ。牧下よりかは大きいが女子の平均からして見たら小さいに属するだろう。


そして今紹介してきたメンバーが俺の友人だ。どいつもこいつも癖のある変人ばかり。でも、だからこそ俺の日常が楽しくなったのもまた事実。面白可笑しく生きていくにはこれ以上ない変人ぞろいだ。


俺は少しだけ微笑み、そろそろ自分の席に行こうとした。だが不意に俺の肩を掴む奴がいた。俺は誰なのか確認する為に振り向く。そこには


「なぁ小枝樹……。なんだか最近、俺の扱い酷くないか……?」


「んー? 何言ってんだ崎本、お前の扱いが酷いのは初めからだ」


「何でだよ……!! 俺だってちゃんと紹介してくれてもいいじゃんかよっ!!」


待て待て待て待て。どうしてコイツは俺の脳内が見えているんだ……? 俺は自分の友人達を紹介している時に声に出しては言っていない。なのに何故、崎本には分かってしまったんだ……? もしかしてこれが、いじられキャラの勘、だとでも言うのかっ!?


はじめて見たよ、こんな素晴らしい特殊能力。崎本、お前は決してモブじゃないんだぞ。そんなお前を称してしゃんと紹介してやろう。


崎本さきもと隆治りゅうじ。コイツは


普通です。以上。


「だから何で適当なんだよっ!?」


「つかどうしてお前は俺のモノローグがわかるんだっ!!」


「そんなの、俺が小枝樹を友達だと思っ━━」


キーンコーンカーンコーン


神が今、崎本を見放した。


完。


というのは置いといて、チャイムが鳴りクラスの生徒達は自分達の席へと向かっていく。崎本も諦めたのか項垂れながら自分の席へと向かっていった。


そして俺も自分の席へと向かう。窓際の一番後ろの席。それはノーマル凡人高校生が愛してやまない場所。


二学期になってからずっとこの席だが、何故だかその喜びが初々しいと感じた。まぁ二学期始まってすぐに色々あったから仕方が無いか。


そんな事を考えながら俺は自分の席に座り鞄を置く。そして窓の外の景色を眺めた。そこには雲ひとつ無い晴天が広がっていて、今の俺の心のように青く輝いて、い、た……。


なんだ……? 薄っすらと窓に反射して誰かが写っているな……。とても怖い顔をしていらっしゃる。何故だろう、その視線からは殺気しか感じ取ることができない……。


この時俺が感じた素直な気持ちは、振り向きたくないだ。


振り向いたら殺られる。振り向かなくても殺られる。もう俺に逃げ場は無い……。助けてください神様。つかこの際神様じゃなくてもいい。誰か、助けてください。


「あら、どうしてコッチを向いてくれないのかしら、小枝樹くん」


先手を取られたああああああああああああああっ!! しかも何だか笑ってるよ。その笑顔が普通に怖いよっ!!


俺がマゴマゴ思考していたために後手に回る羽目になってしまった。だがまだ大丈夫だ。俺にはこんな時ように身に着けているスキルがある。


そして俺は意を決し振り向いた。そんな俺の瞳に映りこむのは


一之瀬いちのせ夏蓮かれん。この学校の天才少女。


天才というだけではなく美少女でもあるから驚きだ。髪は黒く長い艶やかで、瞳は切れ長で美しく整った顔を更に際立たせる。モデルのように細い体をしているが、男子高校生が見てしまうくらいの膨らみもある。


それでも上半身は佐々路が勝ってるな。うん。


そんな一之瀬が俺は大嫌いだった。天才という評価を受けているだけあって一之瀬は何でもできる女の子だった。そんな風にずっと思っていたからこそ、俺は一之瀬が嫌いだったんだ。


でも、一学期の時にあの場所で会って、わけも分からないまま、契約、なんてものを交わされて、なし崩しに大嫌いな天才少女と関わっていった。


そして俺が見た一之瀬は、想像していた天才少女なんかじゃなくて、どこにでも居る普通の女の子だったんだ。


笑えば可愛いし、泣いていれば守りたくなる。苦しんでいるなら力になりたくて、どうして良いのか分からなくなってしまったなら、その手を掴み導いてあげたい。


そんな気持ちにさせてしまうほど普通の女の子だった。


つか俺が一之瀬を嫌っていたのは自分が天才だったからだ。俺は誰も救えない助けられない幸せに出来ないのに、あの頃俺が見ていた一之瀬はどんな人でも助けて救って幸せにしていた。


結果的にただの嫉妬だったということですよ。


だが、そんな一之瀬と関わって俺もまた誰かを救うことが出来た。そして大切な人達がまた出来たんだ。だから一之瀬にはとても感謝している。感謝してるけど……。


今目の前にいる一之瀬は普通に怖いです。


「本当に貴方という人は、どうして私の存在を簡単に忘れてしまうの」


「すみません……」


謝ることしかできない弱い俺です。


「だいたい、最後の最後まで私に挨拶もしないで、何をのうのうと外の景色を眺めているの。小枝樹くんはもっと他者に対して気を使うべきだわ」


「仰る通りです……」


なんだ? 怒ってるのか何なのかいまいちわからないぞ? 普段の一之瀬なら今頃俺を瞬殺している。なのに今日の一之瀬は説教をしてくるわりには暴力的じゃない。まぁいっか。


「ちょっと、私の話を聞いているのっ!? はぁ……、もういいわ。それが本当の小枝樹 拓真なのよね」


そう言うと一之瀬は微笑んだ。そして思う。


本当の小枝樹 拓真。


そっか、一之瀬は今の俺をちゃんと見ようとしてくれているんだ。天才で凡人の俺を……。


なんだか普通に嬉しいな。一之瀬がここまで俺を見ていてくれているなんて。


そんな事を思った俺は少し調子になり


「なぁ一之瀬、どうして今日は皆少し騒がしいんだ?」


そうだ。一之瀬 夏蓮という悪魔大元帥と対峙していた為、そんなに気にしてはいなかったが、今日のクラスは少しだけいつもより騒がしい。


そんなくだらない質問をされた一之瀬は


「貴方っていう人は……!!」


うん、拳は握らないでください。せっかく良い奴だと思ったのに、すぐに悪魔大元帥になるんだから、もうコイツっ!


とか言ったら殺されそうなので心の中だけで終わらせておきましょう。なんともヘタレな俺。


「はぁ……。まぁいいわ。文化祭よ。そろそろ文化祭が始まるから皆活気だっているのでしょう」


嘆息気味に答えてくれる一之瀬。そして俺の頭の中を流れる単語。


文化祭。


そっか。確かにそろそろ文化祭だったな。そしてそれが終われば期末テスト。まぁ俺は嫌じゃないんだけど、また勉強会とかされたら困るな……。


だが、文化祭が始まると言ってもまだ何も文化祭の内容に触れた事をしていない。なのに何で皆興奮してんだ?


「これは貴方を馬鹿にしている訳ではないけれど、一応言っておくわ」


意味深長な言葉を並べ一之瀬は俺の方へと視線を向けて


「今日の最後の授業はロングホームルームよ。その時間で文化祭の事を決めるわ。まぁ今日だけっていう訳ではないと思うけどね。だから皆朝から元気があるんじゃない?」


俺が疑問に思っていた事を全て解決してくれる一之瀬。やっぱり一之瀬は天才少女だ。


そんな話をしていると教室に担任が入ってきた。その瞬間、今まで少しうるさかった生徒達が静かになる。そして俺も一之瀬との会話を中断し教卓前の教師へと視線を向ける。


それでも考えてしまう文化祭の事。きっと楽しい祭りになるのだろう。出店にお化け屋敷に喫茶店。演劇にバンドにミスコン。色々な楽しみを頭の中で描いている。


自分の過去を全て清算できた今の俺はそんな楽しい未来を想像していた。だが今の俺はノーマル凡人高校生活からかけ離れてしまっているわけで、この先の未来に波乱があるなんて思いもしなかった。





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