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天才少女と凡人な俺。  作者: さかな
第五部 二学期 再会ト拒絶
74/134

25 後編 (拓真)

 

 

 

 

 

 

 天才と凡人はいったいなんなのかと俺は考えていた。


自分のベッドの上、体を横にし天井を見上げる。カーテンを閉め切っているせいで昼間なのに部屋の中は薄暗くなっていた。


頭の後ろに両手を置いて俺は考える。


天才とは、天から与えられた特別な才能の持ち主。凡人とは、特別な才能を持たない人。そんなつまらなく当たり前のような考えはどうでも良かった。


天才が優れているのなら、凡人が優れていないことになる。凡人の中でも秀才というカテゴリーに入る存在がいるが、はたしてその人間は本当に凡人なのであろうか?


確かに天才と呼ばれる存在とは異なるものだと思うが、秀才と凡人はいったい何が違うのであろうか。努力を継続できなかった者が凡人で、努力を継続してきた者が秀才ならば、どちらも根本的には凡人という事になる。


その結果、天才は優れていて秀才も優れている、だが凡人は優れていないという答えになってしまう。


あーもう、自分で何を考えているのか良く分からなくなってきてしまった。とりあえず、窓でも開けて空気を入れ替えるか。


俺はベッドの上で膝立ちし窓を開ける。そして少しだけ涼しい風が入り込んできた。でもまだ二学期に入って然程時間は経っていない。まだまだ暑いと感じてしまう日もある。


平日の昼時、俺はそんな事を考えながら青い空を見上げていた。


ん? 何で高校生の俺が二学期の平日の昼時に自分の部屋でまったり考え事をしているかって? そんなの決まってるじゃないですか。学校でレイと喧嘩をし全てが解決したのはいいのですが、それが少し大事になってしまい俺とレイは仲良く


数日間の停学になりました。


もう色々とあの後大変だったんですよ。雪菜とレイと俺の三人が感動に包まれている中、阿修羅様いわくアン子様がお怒りになってしまい、俺とレイは指導室に連行。


連行され数分後、事態を聞いてきた教師達が押し寄せてきておおいに怒られました。それだけではなくここ最近の俺がやってきた生徒達に対する事や、その原因を作ってしまった転校初日のレイの発言に関してまで説教の嵐です。


それにほぼ無断で放課後の体育館を使った事、それにより他生徒を困惑させてしまった事、もう俺とレイの余罪がポロポロと出てきました。


つーか、体育館を使ったのは俺じゃなくて翔悟だっ! 何で翔悟がお咎め無しなのに俺が怒られなきゃならん。本当に世の中理不尽すぎますよ。


まぁそんなこんなで停学ライフを満喫しています。二年になって掲げていたノーマル凡人ライフなんて消炭になりましたよ。まぁもう、どうでもいい事なんですけどね。


って良くねええええええええええええええええええっ!!!!


早いよ? 今回の俺のノリ突っ込みは早いよ? それくらい後悔しているんですよおおおおおおおおっ!!


俺のノーマル凡人ライフはどこにいったっ!! 誰が俺の平凡な日常を壊したんだっ!!


あ、俺か……。


一瞬にして冷静になり、そして外からは小鳥の囀りが聞こえてきました。うん、まだカラスの鳴き声じゃなくて良かったね。俺ポジティブっ!!


そう思い俺は笑顔でガッツポーズをした。そんな自分の姿を客観的に見ると本当に間抜けな人間だと再認識してしまいます。


どうして俺がこんなに自分お部屋で暴れられるのかというと、父さんも母さんも仕事で家にはいないし、妹のルリも普通に学校に行っています。


今回の停学になった経緯を父さんと母さんに話したとき二人とも笑っていた。それに父さんなんて『まぁたまには良いんじゃないか』と言い俺の事をバカにする笑みを見せ付けていた。


母さんは『私の息子が停学になるとは思わなかったわ』とか笑いながら言い、そそくさと晩飯を作り出すしまつ。ルリに至ってはもう普通に呆れていましたよね。


『お兄ちゃんって、本当に天才なの……?』


もう言葉じゃ伝えられないほど惨めな人間を見ている目で妹に言われてしまいましたよ。それはもう、本当に、ゴミクズを見ているような目で……。


そんな家族はさっきも言っていたように今はいません。だからこそ今の俺はフリーダム。


誰にも縛られずに自分の時間というものを有意義に使う事の出来る、いわば想いと力を兼ねそろえた戦士なのであります。


そして俺は再び青空へと向けてガッツポーズを━━


「ねぇ拓真ー。なにしてんのー?」


決めポーズを取ろうとしている最中、窓の下、俺の家の前から声をかけてくる一人の女の子がいた。


そんな女の子は俺が何年も前から知っている女の子で、高校に入ってからとてもモテるようになった女の子。それは俺の幼馴染で平日の昼間にどうしてここにいるのか俺は不思議に思ってしまいました。


「おい、どうして雪菜がここにいるんだ……?」


「ん? あーうん、学校サボった」


サボった……?


どうしてなんだ、何故なんだ。雪菜は何を理由に学校をサボったんだ。もしかして、俺の育て方が悪かったって言うのか……? だから学校をサボってしまう悪い子になってしまったって言うのかよ……。


そんなの認めない。俺は絶対にそんなの認めないからねっ!!


そう思いながら俺は家の階段を素早く下りていき玄関のドアを開ける。そしてそこでのほほんと肉まんを食っている幼馴染女子がいた。


「おい雪菜。サボったってどういうことだ? お前はバカなんだからちゃんと学校行かなきゃダメだろっ!!」


雪菜が学校に行かなくてはいけない理由はバカだからである。だからこそ、ちゃんとした場所でちゃんとした教師のもとちゃんと勉強をしてちゃんとした大人になってもらいたいんですよ。


これが親心なんですよっ!!


そんな雪菜は何事も無かったように肉まんを頬張りながら


「んー? だってレイちゃんが肉まん奢ってくれるって言ったから」


そう言いながら既に右手に持たれている肉まん。それにかぶりつく雪菜はとても幸せそうだった。


そんな雪菜の後ろから気まずそうに出てくる赤髪野郎。そしてその赤髪は苦笑いを浮かべながら


「そ、そのなんだ。悪い、拓真……」


「………………」


もう言葉も出てきませんでしたよ。どうしてレイがついていながらこの傍若無人娘の雪菜をコントロールできないんですかね。つーか、どうして停学中のレイが外に出てるんですかねっ!?


何もかもがどうでもよくなってしまった。


「わかった……。もう良いから家に入れよ」


俺は項垂れた。それはも誰が見ても分かってしまうくらい項垂れた。そして気まずそうに俺の家へと入ろうとしてくるレイ。だが雪菜は


「そうだっ!!」


今度は何ですかっ!? いきなり何かを思いついたように叫ばれても、コッチには何も伝わってこないんですよ雪菜嬢。


「よし、公園に行こうっ!!」


はははははははは。お願いです、もう勘弁してください……。


そう言った雪菜は俺とレイの手を掴み軽快に走り出した。






 そして今は俺の家の近くの公園にいます。平日の昼間ということもあって誰もいません。


夕方近くになれば学校終りの小学生が遊びにあるであろう。俺と雪菜とレイも昔はよくこの公園で遊んでいた。


というか思いだしてみれば雪菜に出会ったのもレイに出会ったのもこの公園だったな。また三人でここに来れるなって思ってなかった。


昔の事を思いだし浸っている俺はベンチに座っている。雪菜はブランコで遊んでいて、レイはそんな雪菜をブランコの柵に座って見守っていた。


高校生になっても無邪気な心を忘れていない雪菜は楽しそうにブランコで遊んでいる。その笑顔を見て俺はやっと雪菜を救えたような気がしたんだ。


ずっと独りで俺とレイを待っていて、おかしくなってしまっていた俺の傍から離れないでいてくれて、本当に雪菜は強い女だ。


そしてふと見上げた空はとても青くて輝いていて、本当に今が現実なのかと疑いたくなってしまう。壊れたものが直せると口では簡単に言えるが、それを直すのはとても困難でとても辛い。


だからこそ人は皆そこから逃げ出したくなってしまう。直すという行動をとるよりも忘れるという行動のほうが遥かに楽で傷つかない。


成長し色々な事を知れば知るほど人は逃げたいという気持ちや、諦めてしまおうという想いが強くなってしまう。だからこそ純粋に雪菜が凄いと思った。


どんなに苦しくても、どんなに辛くても、雪菜は逃げなかった諦めなかった。本当にバカな雪菜に何度救われればいいんだよ。


自分の不甲斐なさや雪菜の強さを噛み締めて笑顔がこぼれた。その時


「おい、拓真」


「どうしたレイ?」


雪菜の傍か離れて俺のほうへと歩いてくるレイ。そしてレイは俺の隣へと座った。少しだけ真剣な話になるんじゃないかと身構えてしまっている俺。だがそんなことは関係なく雪菜はもうブランコでもう……。


というか高校生がやるブランコは少しばかり恐怖心がなくなってしまっているのか、かなりのアクロバティックなものになっている。いや、雪菜だけだな……。もうサーカスにでも入ってください。


まぁ雪菜の事はおいといて俺はレイに顔を向けた。


「その、なんだ。一つだけ聞きたかった事があるんだよ」


レイはベンチの背もたれに自身の体を預け、青く輝いている空を見上げながら言う。


「どうしてあの剣道の試合の時、拓真はワザと俺に負けたんだ……?」


あの剣道の試合。それは俺とレイの関係が壊れてしまうききっかけになった事象だ。


俺はレイとは間逆に俯いた。そして


「そんなの、レイの夢を壊したくないって思ったからだ……」


「俺の、夢……?」


俺の言葉を聞いたレイはその視線を空から俺へと向ける。そして俺もレイ同時にレイの事を見て目と目が合った。そんな俺が見たレイの表情はとても困惑しているもので、何が何なのか全く分かっていないような顔だった。


「そうだよ。あの時も言っただろ? お前の夢を応援したいって本気で思ったから手を抜いたんだ」


「おいおい待てよ。どうして俺の夢を応援するのに拓真が手を抜く必要があったんだ?」


どうしてワザと負けようとしたのか。それは俺という存在が夢を持った子達にとって邪魔な存在だと思ったからだ……。


「聞いちまったんだよ。レイの親が俺とレイを比べているって話をさ……。それを聞いた時、何がヒーローだって思った。正義のヒーローのように俺は何でも出来るって思ってたし、実際何でもやればできた。だけど真実はヒーロー何かじゃなくて、皆から夢を奪ってしまう悪者だったのによ……」


天才は忌み嫌われ、天才は理解されない。何でも出来てしまうんだからしょうがないじゃないかと、言い訳じみたくだらない事を叫んでしまいたいって何度も思った。俺は天才に生まれたくて生まれた分けじゃないって言いたかった。


だけど子供な俺はそんな叫びを呑み込んで、ヒーローになれないという現実を受け止める事しか出来なかった。


そして何も感じないく、全てを拒絶した小枝樹 拓真が出来上がった。


俺はレイがいなくなってしまった後に何が起こってきたのかをレイに全て話した。そんな話を聞いたレイは


「……俺のせいじゃねぇかよ」


「違うよ。レイは何も悪くない。悪いのは心の弱かった俺なんだからさ。もっと誰かに頼っていればそんな事にはならなかったかもしれない。自分で思っていたよりも俺は弱かったんだ……。だからレイのせいじゃない」


「何でだよ……。もっと俺を責めてくれよ……。責めてくんねぇと、どう拓真に償えばいいかわかんねぇよ……」


今のレイの表情が後悔をしていると物語っていた。それくら苦しそうで、見ていることさえ辛くなってしまう。でも


「何言ってんだよ。償いならもう出来てんじゃねーの?」


「……拓真?」


レイは俺の顔を見ながら困惑していた。そして俺はレイに言う。


「またこうしてちゃんと、レイは俺の隣に戻ってきてくれたじゃねーか。俺は何よりもそれが嬉しいんだ。また3人で、いや今はもっとパワーアップしてんぞ。新しい砂の山はもう作られ始めてるんだ」


俺の言葉を聞いてレイは微笑んだ。その微笑みは苦しめや柵から解放された人が見せる安堵の微笑みだ。そんなレイを見て俺は再び空を見上げた。そして思う。


俺はずっとヒーローに憧れていて苦しんでいる人達を助けたいと、守りたいと思って生きてきた。だけど結局俺はそんなヒーローになかなかなれなくて気がついて見れば俺を救ってくれるヒーローが傍にいたんだ。


そのヒーローはとても泣き虫で寂しがり屋で、いつも俺とレイの後ろをついて歩いてきた。だけどそのヒーローはとても純粋で意地っ張りで我侭で、ずっと独りで待ち続けていたんだ。


面と向かってお礼を言うのは少し恥ずかしいので心の中で言わせてもらう。


ありがとな、雪菜。


無邪気にブランコを楽しんでいる雪菜の事を見つめながら俺は思う。あの肉まん娘がいてくれたから俺の壊れてしまったもの全てが戻ってきたんだ。本当に雪菜は俺の大切な人で、傍にいて欲しいと願ってしまう人だ。


その時


「敵襲っ!! 敵襲っ!!」


ブランコに乗っている雪菜が意味不明な事を叫び始めた。本当に敵襲とはいったいなんですか……? こんな平和な場所で敵なんて繰るわけないでしょ。


「あー本当にマッキーの言うとおりだ。ここに3人ともいたー」


「だ、だから言ったでしょ。き、きっと、さ、3人とも、こ、ここにいるって」


聞きなれた女の子の声に俺は公園の入り口へと視線を移す。そこには数人の男女がいた。


「本当だ。牧下さんはやっぱり凄いね」


「おい、神沢走ると危ないぞ」


「雪菜ちゃんはどこだ、雪菜ちゃんはどこだっ!」


そんな見慣れた奴等の声を聞いただけで笑顔がこぼれた。だが今はそんな自分事はどうでもいい。どうしてコイツ等ここにいるんですか……? 


「いやいや、当たり前のように登場してきてるけど、どうして皆がここにいらっしゃるのですか?」


意味不明は話し方になってしまった……。それくらい今の俺はテンパってる。すると自称魔女娘が笑いながら言い出す。


「ははは、何言ってんの小枝樹。サボったに決まってんじゃんっ!!」


笑いながら言うことではないですよね佐々路さん。というか佐々路がサボったと言っているという事はここにいる、牧下に神沢、翔悟に崎本も皆学校をサボったと言う事になるんですかね。


確かにバカな崎本や翔悟、そしてイケメン野郎は良いですよ。だけどね俺のマイエンジェルが学校をサボるという悪事をしてしまっている事が気がかりになってしまいます。


悪事を侵してしまった天使はいったいどうなるんだ? あ、堕天使になるのか。


とかアホな事を考えている場合じゃない。牧下は天使なんだっ!! 決して堕天使になんかなってはいけない……。


頭の中に堕天使牧下が降臨した。その姿は小さいにもかかわらずとても妖艶で素晴らしいなりをしています。お尻からは尻尾が生えていて、その美しい背中からは小さな黒い羽根が……。


「なにニヤニヤしてるのよ小枝樹」


「さ、佐々路さんっ!?」


「またマッキー見ながら変な事考えてたでしょ」


佐々路の言葉に俺は動揺を隠せない。そしてその声は牧下にも聞こえていたみたいで、少しだけ俺から距離をとる牧下。


「ち、違うっ!! 俺は別にいやらしい事なんて何も考えてないっ!! 堕天使なんだ、堕天使なんだっ!!」


堕天使なんだよおおおおおおおおっ!! もう言い訳にもなってないよっ!!


そう言うと俺はその場で崩れ落ちた。もうどうにでもなってくれよ……。その時だった。


俺の横にいたレイが歩き出す。そんなレイの歩みは牧下の方へと向かっていた。だが


「牧下さんをまた怖がらせようとしてるの? 僕達は小枝樹くんと白林さんの所に来ただけで、君には何の用もないよ」


レイと牧下の間に神沢が入る。その表情はいつもの神沢じゃなくて、レイに対して敵意を剥き出しにしていた。そして表情動揺に冷たい言葉を神沢は言い放った。そんな神沢を睨むことさえしないレイ。すると


「だ、大丈夫だよ。か、神沢くん」


神沢の腕を掴み前へと出てくる牧下。そして牧下とレイが対峙する。一瞬の間が空きレイの口が開いた。


「牧下、だっけか……? その、なんだ。あの時は怖がらせて悪かった……。つーかアンタの気迫が凄すぎて逃げようとしたのは俺の方だったけどな。ちっさいのに強いんだな」


レイが他人を認めた? ガキの頃にはそんな姿見たこともない。少し悔しいが、俺の知らないレイがそこにはいたんだ。


「わ、私は、つ、強くなんてないよ。あ、あの時、し、城鐘くんは一人だったけど、わ、私には皆がいたから」


レイを見つめながら微笑む牧下のその表情は、とても強いものに俺も見えた。そして牧下は


「だ、だからもう城鐘くんも大丈夫だね。み、みんながちゃんといるから」


牧下の言葉を聞いて驚いているレイ。そんなレイに佐々路が近づいていき


「こうなったマッキーは誰にも止められないよ城鐘。観念してあたし達の友達になりなさい」


そしてレイは辺りを見渡す。きっとレイの瞳には映っているだろう。微笑んでいる牧下に、いたずら魔女の佐々路。ちょっと不貞腐れている神沢に、牧下同様微笑んでいる翔悟の姿が。えっと崎本は、何故だかは分からんが雪菜と一緒にブランコに乗っています。


そしてレイは


「お、おい待てよ。俺はお前等を苦しめたんだぞ……? 俺のせいで皆がバラバラになっちまったかもしれないんだぞ……? なのに、なんで」


自分のしてきた行いを後悔しながら、そして自分が受け入れられちゃいけないんだとレイは自分に言い聞かせている。


「俺は、また拓真とユキに会えたからそれでいいんだ……! 俺がいたら、ダメになっちまうだろ……」


「強気な城鐘はどこにいったんだ?」


微笑みを真剣な表情に変えた翔悟が話し出す。


「確かに俺等はお前のせいで苦しんだ。お前のせいで考えたくない事も沢山考えた。その事実は何があっても変わらない。それでも城鐘がいなかったら、俺等は本当の拓真に出会えなかったかもしれない」


翔悟の言葉は俺の胸に突き刺さるようだった。


だってそうだろ。俺が皆に本当の事を話してさえいればこんな事にはならなかったんだ。全部俺が弱いからこんな事になっちまったんだ……。


「俺等はさ、きっと拓真に甘えていたんだ。拓真に助けられて救われて、拓真なら何があっても解決してくれる。そんな甘えがあったんだ……。だけど今回の事でちゃんと分かった。拓真がすげー弱い人間だって」


翔悟の言葉に救われた。俺の弱さを受け止めてくれる人がこんなにもいる。どうして俺は孤独なヒーローになろうとしていたんだろう。ヒーローにだって仲間が必要なんだよな。


「お前がした事を皆は簡単に許してくれないかもしれないけど、拓真の親友なら俺の親友でもある。だから俺は許すぜ、レイ」


そう言い翔悟はレイの肩を叩いた。そして俺は思いだす。翔悟との出会いを。


あの時も青春ドラマみたいな事を翔悟が言ってきたんだ。だけど俺はそれで少し救われたような気がした。


もう一度、親友と呼べる仲間が出来たのだと……。翔悟はバカだから俺と同じような事をレイにもしてる。だが、レイもバカだ。それは俺の親友だから。


「本当に、拓真の回りにはロクな奴がいない。まぁでも、そんなんだから拓真が気を許したんだろうな。はっきり言っておくが拓真の親友は俺だっ! 二番煎じのお前なんかには負けねーぞ、翔悟」


笑い合っている二人の姿を見て安心した。きっと俺の知らない所で何かが起こり、二人の間には何か特別が出来ていたんだろう。


だが、その溝も今この瞬間に無くなって、そして新しい絆が生まれる。


今俺の目の前にいる皆は笑っている。レイも雪菜も翔悟も佐々路も神沢も牧下も崎本も……。俺の大切なものが全部戻ってきたんだ。


いや、違う。どうしていなんだ。どうしてお前がここにいないんだよ。一之瀬。


「つか、一之瀬はどうしたんだ?」


思っていることを俺は口にしてしまった。でも待て、考えれば一之瀬が学校をサボってもまでここに来ることじたいがが無いだろう。アイツは一之瀬財閥の次期当主で天才少女なんだ。自身の体裁を守って当たり前だろう。


今の俺は一之瀬がいないという現実を言い訳を並べて肯定しようとしていた。その時


「夏蓮ちゃんなら」


「……雪菜?」


「夏蓮ちゃんなら、きっといつもの場所にいるよ」


いつの間にかブランコに乗っていた雪菜が俺等の近くにまで来ていて、俺の言葉へと誰よりも早く返答した。そしてこの場にいる全員が雪菜の方へと顔を向ける。


「どうして雪菜はそう思うんだ……?」


不安だった。雪菜の言っている事を信じたいのに、心のどこかで一之瀬が俺から離れようとしているんじゃないかと思ってしまったから。


「だって夏蓮ちゃん言ってたもん。私には待ってる事しかできないって……。だから迎えに行ってあげて、拓真」


待ってる事しか出来ない……? 雪菜が言っている事が本当だとすれば、一之瀬は二学期に入ってからずっと独りであの場所で待ってた……?


どういう結果になるのかも分からないのに、アイツは俺を信じて待っててくれたのか……? だとするなら、俺が一之瀬に出来ること……。


「分かった。ちょっくらあの天才少女を迎えに行ってくるわ」


「ちょ、ちょっと待ってよ小枝樹っ!! 今のアンタは停学中なんだよっ!? 先生にバレたら━━」


「そん時は飽きるまで怒られてくるよ。つかこの俺だったら学校に侵入してもバレないだろ。あんまり天凡てんぼんなめんなよっ!!」


佐々路の制止を無視し俺は学校へと走り出した。






 どうして俺は気がつかなかったんだ。自分の事ばかり考えていて一之瀬を見ていなかった。アイツは何度も俺の事を支えようとしていてくれていたのに。


二学期に入ってレイが来た時も倒れそうになった俺を支えてくれて『私が居るから、ここには私が居るから』そう言って苦しそうな表情を俺に見せていた。


そして俺が全てを拒絶した後、授業中に『大丈夫よ小枝樹くん』そう言って微笑んでくれたんだ。なのに、俺はその優しさにも気がつかないで自分の事ばかり考えて、アイツが一番恐れている孤独に気がつかなかった。


公園を出るまで俺は強がっていた。皆に笑顔を見せて安心させたかった。でも、今の俺は一秒でも早く、一之瀬の隣に行きたい。


停学中に学校に侵入したなんてアン子にばれた日にはぶっ殺されるんだろうな。あー怖い怖い。そんな役回りって言えばそうなのかも知れないけど、俺がしたいからする。理由なんて単純なものなんだ。


そして俺は学校へと辿り着く。今の時間は昼休み。教師達も職員室にいるだろう。抜き足差し足で忍び込めば大丈夫だ。


昼休みにB棟へと来る奴なんて今じゃ俺等くらいしかいない。そう思っていてもやっぱり怖いな。何が怖いかってアン子だよっ!!


マジでアイツは何をするか分からない。だからこそ慎重に侵入する。まぁこのタイミングでなにかイベントが起こるほどここのシーンは重要じゃないんだよね。


とか脳内で考えているうちにB棟に辿り着いた。そして案の定、昼休みのB棟は静まり返っている。


ここまでくれば焦る事はない。ゆっくりでいい、それでも確実にB棟三階右端の今じゃ俺等の居場所になっている教室を目指した。


上履きを履いていないせいか、いつも聞こえてくる自分の足音が聞こえない。それでもA棟から聞こえてくる生徒達の笑い声が微かに聞こえた。


静寂。その雰囲気は俺にとって心地が良くていつまでも浸っていたいと思ってしまうくらいだった。だけど今の俺にはやるべき事がある。


一之瀬がいなかったら開かないこの教室の扉を、俺は何も疑わずに開いた。そして


窓を開けていたからなのかその美しく長い黒髪が靡いて、その風が彼女の香りを俺の鼻まで運んでくる。そんな女の子らしい香りに刺激された俺は目を奪われた。


綺麗に整っている顔。切れ長なその瞳は異性を虜にしてしまうんじゃないかと疑ってしまうほど純粋で、初めてここで出会った彼女を思いださせた。


でも、その時の彼女はとても強い印象を受けたが今の彼女はとても弱そうで本当に天才少女なのかと疑問に思ってしまう。


そんな彼女は俺の顔を見ながらこう言うんだ。


「小枝樹、くん……?」


不安げな表情を見せる彼女の声は震えていた。きっと怖かったんだ。また独りになってしまうかもしれないと怯えていたんだ。だから俺は微笑んで、こう言い返すんだ。


「待たせちまったな、一之瀬」


その言葉と言って後悔が頭をよぎる。


俺は何度、一之瀬を待たせればいいんだ。この子を何度苦しませればいいんだ……。


そんな思いを抱いても、苦しんでいた一之瀬の前では悲しい表情になんかなれない。だが


「べ、別に貴方の事なんて待っていなかったわ。というか、来るのが遅いんじゃないの、小枝樹くん」


一瞬でそこまでいつもの君に戻られたら心配していた俺が道化になってしまうよ。それでも辛そうな一之瀬よりかはいいのかな。


そんな事を思いながら俺は窓際にいる一之瀬の隣へと向かった。


そして隣に立ち俺は


「はいはい、強がらなくていいよ。一之瀬がここで待ってるって言ってた事はもう知ってっから」


「なっ……/// ゆ、雪菜さんね……。雪菜さんが言ったのね」


雪菜に無いする怒りを表情に浮かべるも、俺に的を射抜かれた事を言われ顔は真っ赤だった。そんな一之瀬が本当に可愛いって思った。だからこそ言わなきゃな


「ありがとな。ずっと待っててくれて」


そう言い俺は一之瀬の頭の上にポンッと手をおいた。その行動で一之瀬は俯き、更に顔を真っ赤にさせていた。だが、その行動も一瞬で俺はすぐに手をどける。そして開いている窓の外を眺めながら話し出すんだ。


「本当にさ、俺ってヒーローになりたいとか言いながら誰の事も見れてないんだって思ったよ。一之瀬はずっと皆の事を考えてくれてたのに……」


静かに俺の話に耳を傾ける一之瀬。その表情は見えないが確かに今の俺を真っ直ぐ見つめてくれているのだけは何となく分かった。


「凡人だって嘘をついて、天才だって隠してて……。いつの日か皆にも一之瀬にも言わなきゃいけないって思ってたんだ……。でも怖くて言えなかった……」


「怖くて……?」


小さい声で俺の言葉に反応する一之瀬。そして俺はそんな一之瀬が疑問になっている答えを言う。


「そう。一之瀬との出会いがなくなっちまうのが、俺は怖かったんだ……」


悲しい表情なんてしてない。ただ青い空を見つめ続けながら俺は言い続ける。


「俺が天才だって分かったら一之瀬との関係は破綻する。初めにいっただろ? 俺は才能があるものなんて求めてないって……。当たり前だよな、俺は天才だったんだから……」


いったい俺は何を一之瀬に伝えたいんだ。全く言葉が出てこない……。もっと言わなきゃいけない事があるのに、沢山あるのに……!! ダメだ……、今でも言うのが怖い……。俺は、一之瀬を


失いたくない……!!


「ねぇ小枝樹くん。一つだけ聞きたい事があるの」


ふいに脈絡のない一之瀬の言葉に戸惑い、俺は振り返った。そして見た一之瀬の表情はとても真剣で本当に何かを俺に聞きたいと語っていた。


「なんだよ……?」


「どうして小枝樹くんは、一年生の時ここからの景色をずっと見ていたの?」


なんで一之瀬がそんな事を知っているんだ……? 誰かが言ったのか……? もし言っているとするならアン子しかいない。だけどアン子にそんな素振りはみえなかった。ならどうして……?


待て、そんな詮索は今はどうだっていい。素直に答えればいいんだ。そう思い俺はもう一度窓の外を見つめる。


「一年前、ここの鍵をもらって俺はこの教室に入った。その時の俺は何もかもが信じられなくて、全てを拒絶してて……。何か変わるかもって安易にこの教室から外を眺めたんだ」


そうあの時、俺はこの教室から見た景色に救われた。何もないこの景色が、俺に囁いたんだ。


その瞬間、天才に戻る前の俺が思っていた事を思いだした。そうだよ、俺はここの景色に救われたんだ。きっとそれは俺だけじゃない、一之瀬だってそうなのかもしれない。だからあの時感じた事を一之瀬にも言おう。


「何も無くて良い。何も無いが良い。それでも綺麗に見えるだろ? この景色にそう言われたような気がしたんだ」


「何も無くて、良い……? 何も無いが、良い……?」


「そうだよ。天才の俺に何も無くて良いってこの景色が━━」


そう言いながら俺は再び振り向いた。そこには


眉間に皺を寄せ俺の事じゃなく外の景色を見ている一之瀬が泣いていた。そんな一之瀬を見て抱きしててやりたいって思った。苦しんでる一之瀬を、泣いている一之瀬を抱きしてたいって思ったんだ。


でもそんな一之瀬に俺は何も言えなかった。だが


「小枝樹くんが見ていたここの景色には何も無かったのね……。やっと……、やっと小枝樹くんの隣にこれた……!!」


ガバッ


我慢できなかった。一之瀬の顔を見た瞬間に自分の理性は正常に働かず、直進的に自分のしたい事をやっていた。


「何言ってんだよ。一之瀬はずっと俺の隣にいたじゃねぇかよ。俺が笑ってる時も、俺が苦しんでる時も、俺が悲しんでる時も、俺が怒ってる時も、一之瀬はいてくれたじゃんかよ」


抱きしめる一之瀬の体は細く、力を入れ過ぎれば折れてしまうんじゃないかと思った。だけどちゃんと一之瀬の温もりは伝わってきた。


「独りにさせてごめんな。怖かったよな。俺も独りは怖い。だから、もう一之瀬を独りにはしない。約束だ」


俺の言葉に返答はないが、すすり泣く一之瀬の声と共に強く俺の体にしがみ付く一之瀬の気持ちが伝わってきた。


「おーい、夏蓮に小枝樹ー」


窓の外から聞こえる魔女娘の声。その声が聞こえた瞬間に俺と一之瀬は急いで体を離す。


そして俺は気まずい雰囲気の中、外の奴に声をかけた。


「おー今から行こうと思ってたんだ。つか大声出すのやめなさいっ!! 俺が侵入したってバレたら大変だろっ!!」


「あーごめんごめんっ!! つか夏蓮はいるの?」


この教室に俺が入ってるんだからいるに決まってんだろうがああああああああああっ!!!!


佐々路はあれか? 馬鹿なのか? あー馬鹿だったと言いたいが成績はまぁまぁ良い。なのに何で分かってないんですかねっ!? つか今の俺はそれよりも一之瀬にどう言い訳を━━


「ふっ、あはははははははっ!!」


「一之瀬……?」


急に笑い出す一之瀬。初めはその姿に疑問を抱いたが、何となく分かったような気がする。


「よし一之瀬。今日はサボるぞ」


「ちょ、小枝樹くんっ!? サボるって」


俺は一之瀬の言葉を聞き流しながらその手を取った。そして


「つかよ、一之瀬は泣いてるよりも笑ってる方が可愛いぞ」


「か、可愛いって///!?」


俺に言われた一之瀬の顔が再び赤く染まるのを見た。そして思う天才と凡人の差。


何か特別な事が出来れば天才なのだと思ってた。何も特徴のない人間が凡人だと思ってた。だけどそれは自分で決める事じゃなく他人が決める事。


評価の中に天才と凡人がいるだけなんだ。何をずっと俺は悩んできてんだよ。今さら考えることでもなかった。


俺は俺であって凡人は凡人だし天才は天才だ。そんな誰かが決め付けた事を気にしてちゃ何も上手くなんていかない。自分らしく生きていけばいい。


時に悩んで苦しむかも知れないけど、それはそれでまた一興。全てを楽しめばそれで良い。


俺にとって大切な場所があるように誰にだって大切な場所がsるって思うんだ。気づいてる奴もいれば気づいてない奴もいる。それでもどんな奴にもそんな場所がある。


天才少女と凡人な俺が出会ったこの場所が、俺にとって大切な場所なんだ。それと同時に出会えた仲間も大切なんだ。だから俺はもう迷わない。


天才な俺を受け入れて、ヒーローになりたいと願っている俺を認めて、そして今日も楽しく皆と笑っていたいと思ってる。


そんな凡人な俺。











はい。どうもさかなです。


今回で第五部が終りになりました。

はぁ、長かった。とても長かった。でも書き終えた今の心境は『きもちー』です。


そしてふと思う。挿絵が欲しい……。もう挿絵とかじゃなくてもキャラデが欲しい……。


でもこんな人気のない作品のキャラデをしてくれる人がいるわけでもなく、悶々とした日々をおくるさかなです。


とまぁ、そんな私情はどうでもいいとして。本当に五部まで完結してよかったです。

今日まで読んでくれた皆様に感謝ですっ!!


内容的に拓真編が完結した感じなんですけど、これでよかったのか不安でしかたがないです……。


まぁ第六部からは夏蓮の話しと恋愛的な要素が強くなってきます。

まだまだ終りまで長いかも知れないですが、どうぞ『天才少女と凡人な俺。』を御ひいきに。


でわ、さかなでした。

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