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天才少女と凡人な俺。  作者: さかな
第一部 一学期 春ノ始マリ
7/134

3 中編 (拓真)

 

 

 

 雪菜と言い合ったあの日から数日たった。

 いまだに俺と雪菜との間には他人が見ることの出来ない溝がある。次の日になった時、俺はいつもの冷静さを取り戻していたが、雪菜は違ったみたいだ。

 普段のようにベタベタして来なくなり、俺を避けるようになった。

 まぁ確かに、あの日俺は少し言い過ぎたのかもしれない。昔の事を思い出してつい強めに言ってしまった。

 どうも過去の話しを持ち出されると冷静でいられなくなる。その点はもう少し直していかなきゃいけない所だと、俺は改めて痛感した。

 ともあれ今の俺と雪菜との間には耐え難い溝があるわけで、俺はこの問題をどう解決しようかと難儀していた。


「小枝樹くん。今、ちょっといいかしら」


 一之瀬が俺に話しかけてきた。だが「ちょっといいかしら」ってその言葉のどこに俺の拒否権がある。普通に今の俺は雪菜との事で思考するのに忙しい。でもどうせ拒否する事は出来ない。だったら

 スキル『諦める』


「どうした?そんなに改まって」


 俺は雪菜との事を考えるのを止め、一之瀬の言葉に耳を傾けた。


「その、今日はあの場所に行くのかしら?」


「まぁ、一之瀬が行くなら行くけど」


 俺が思っていたよりも一之瀬の質問は簡単なものだった。それに対して普段と同じ様に返答すれば俺の心中を晒す事もない。


「この間もそうだったけれど、私が行かなくてもあの場所の鍵は小枝樹くんに貸すわよ……?」


「いやいや。確かに俺はお前から鍵を取り戻したいと思ってる。だから契約を結んだ。だがもし一之瀬が俺に鍵を貸すなら契約は破綻する。別に何も考えないで鍵を借りる事は簡単だ。でもそれは、あの時本気で俺を説得した一之瀬に失礼だろ?だから俺もちゃんと契約が終わるまで、一之瀬が来ない時は行かないって決めたんだよ」


 後の質問攻めフラグを回避するために、俺は一回で全ての事を一之瀬に話した。


「……そう」


 困惑した表情を浮かべた一之瀬は一瞬だが俯いた。でもその瞬間は俺にしか見えてないくらいの速さで、一之瀬は直ぐさま次の話題を振ってきた。


「なら今日は私も行くから、小枝樹くんも勿論来るのよね」


 強制ですか。この言葉を聞いて本当に確信したが、俺には拒否権が全くもっていいほど無い。だからこそ俺は


「行きますとも。一之瀬夏蓮様が行くのであれば、騎士たる私めがお供しなくてはなりません」


 中世に存在しそうな騎士を演じながら俺は一之瀬への返事を返した。

 そんな俺の返事を聞いた一之瀬は笑顔になり


「じゃあ、また放課後にね」


 そう言うと一之瀬は俺の前から立ち去っていった。

 何だかんだいって、俺も最近は一之瀬に慣れてきているようだ。初めはどういう風に対処していいか分からなかった事も、最近では何となく分かる。

 佐々路が言っていたように、一之瀬は一之瀬なりに俺を気に入っているのかもしれない。

 あんなにも大嫌いだった一之瀬夏蓮が、今は何となく大丈夫のような気がした。俺はいったい、何に悩んで何で苦しんで何を迷っているのか。

 今もまだ頭の片隅で現実が満たされ笑顔になっていく俺を、深い所にいる俺が否定しているような気がした。

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 そして話は事件が起こった今に戻る。


「それで何で神沢がここにいる」


 俺はB棟三階右端の教室へと一之瀬が連れて来た奴に対して不満気に言う。


「だからさっきも言ったとおり久し振りの依頼人よ」


 何でこの一之瀬夏蓮という女はこんなにも冷静に意味不明な事を言えるのでしょうか。俺にはさっぱり理解できません。


「依頼人なのは分かってる。だが言わせてもらうが、俺は一之瀬がやっていた様な『なんでも屋』をやるつもりはない。つーか何で俺がこんなイケメンを助けなきゃならん」


 そう言うと俺はこの教室にいる神沢を指差した。

 神沢は俺よりも身長が少し高く、美少年的イケメンだ。これはもうモテる為に生まれて来たんじゃないかと言わんばかりの整った顔立ち、だが翔悟みたいにスポーツマンという感じはせず、どちらかと言えば線が細いスマートなイケメンさんだ。

 髪の毛も綺麗な金髪でサラサラしていて何もかもが申し分ないイケメンだ。つかこんな事を考えていると俺の心が折れそうで怖い。


「おいイケメン。何で困っているのかは分からないが、イケメンなら自分の力で何とかしなさい」


 俺は神沢へ、他力本願にならず自分の力という素晴らしいものを教えようとしていた。だが


「小枝樹くん。今の貴方は神沢くんをひがんでいる様にしか見えないわよ」


 急所に当たったあああああ。効果は抜群のようだあああああ!!

 危なかった……。危うくメンタルクラッシュさせられる所だった……。やはり一之瀬夏蓮という女は恐怖の対象でしかない。こんなにも簡単に人の精神を破壊する攻撃を繰り出すことが出来るのだから。


「待て待て。僻んでる訳じゃない。だがまぁ、話しを聞くだけなら構わない。でも最後に手伝うか手伝わないかは俺が決めるからな」


 負けた。俺は一之瀬にまたも負けた。流石は天才少女。というかこれ以上反論したら完全に俺の精神は崩壊していただろう。精神崩壊したニュータイプになっていただろう。

 俺は自分の意思ではなく、自分の心を守ったんだ。普通の人間ならばきっと俺と同じ選択をするはずだ。間違いない。


「じゃあ、小枝樹くんの許可もおりた所だし神沢くん、今回何故私達に助力を求めたのか説明してちょうだい」


 項垂れてしまっている俺をよそに、一之瀬は事の本題を神沢へと問う。

 そんな一之瀬の問いに神妙な面持ちで神沢は話し出した。


「……その。取り敢えず完結に言うね。今僕はストーカーに遭ってます。それをどうにかしてほしいんです」


「………………」


 このイケメンはいったい何を言っているのですか!? バカなんですか!? バカなんですかあああああああああああ!!!


「ちょ、ちょっと待て神沢。お前はあれか、俺に対する当て付けか!? 自分がイケメンだからってそれを自慢しにここまできたんですか!?」


 やべぇ……。感情がおさまらない。だってこいつイケメンのくせに、イケメンのくせにいいいい……。


「待ってよ小枝樹くんっ!! 僕はそんな自慢をしに来たんじゃないよ。それに君だって結構人気があるじゃないか」


「イケメンだからってやって良い事と悪い事が━━」


 ん? 待て待て待て待て。俺待て。何か今、神沢は俺が聞きなれない事を口にしたぞ?


「おい神沢。お前今なんて言った?」


 俺は自分の耳で聞いた事が真実なのか知りたかった。


「だから、僕がイケメンっていう自慢をしに来た訳じゃないって言ったんだよ」


「違う違う。その後だ」


「えっと、小枝樹くんだって結構人気あるじゃないか」


 聞き間違えじゃ、ない……だと……!? だが待て、俺が人気あるなんて聞いた事がない。

 俺は今の言葉の真意を確かめる為に一之瀬へアイコンタクトをした。すると


「確かに小枝樹くんは結構人気があるわよ。女子の間でも話題に上がる事があるわ。私が聞いた女子の意見を統計すると、小枝樹くんは普通に格好いい分類の男子に属していて、そんな自分を過大評価せず女子との会話も嫌がらずに普通にしてくれる、かつ女子の事をいやらしく見ない紳士的な雰囲気。そういう所が評価されているみたいね」


 俺の知らない所ですげー高評価されてる。なになに、これは夢ですか? つーかドッキリですか? いったい俺はどんな反応をしたら良いんですか。

 あたふたしてしまっている俺を見かねたのか、一之瀬は嘆息気味に話しを続けた。


「だからね。小枝樹くん、貴方は自分が思っている以上に男子としての評価は高いの。もしも今まで言い寄られた経験が無いのだとするならば、それはきっと白林さんが抑止力になっているのよ」


 雪菜が抑止力? やべー話の内容が全然分からなくなってきた。つか今って俺の話しが主だったっけ?


「確かに白林さんとよく一緒にいるよね。一之瀬さんが言っている事は何となく僕も分かるよ」


 あれー? 何で神沢も理解してる感じなんだ。俺だけ蚊帳の外なのは気のせいか?


「つか何でそこで雪菜が出てくんだよ」


 無理矢理話しの内容を理解しているフリをして、俺は仲間外れからの脱却を試みた。だが


「……あのね小枝樹くん」


 またも一之瀬は嘆息気味に話し出す。


「私から見ても白林さんは可愛い子よ。そして性格も穏やかで楽しい明るい感じな子として認識しているわ。そんな子が幼馴染でずっと昔から仲良くしている小枝樹くん。それを第三者が見れば、自分では入り込めない程の絆を感じるものよ。その小枝樹くんと白林さんの関係が抑止力になっているの」


 一之瀬の説明で何となく分かった気がした。だがそうだとするのなら何故俺の人気は維持される。


「何となく分かったけど、俺と雪菜が仲が良いって思ってるなら何で俺の人気は下がらないんだ?」


 俺は今まで他人という存在をちゃんと理解していなかった事、そして女子という異次元を生きている存在を理解していなかった事を心から後悔していた。


「それでも小枝樹くんの人気が落ちないのは、男子とも女子とも分け隔てなく接している所が女子の高評価につながるの。結論、小枝樹くんは普通に人気がある男子」


「だあああああああああああああああああああ!!!!!!!」


 俺は頭を抱えながら叫んだ。


「つか今のこの状況なに!? 俺を辱めて何が楽しいの!? 俺、もうあれだよ、あれだよっ!! つかもう降参だから神沢の依頼の話し聞こっ! というかさっさと話せ神沢っ! 俺の気持ちが変わる前に」


 今の状況をどうにかこうにか打破したかった俺は強行突破にでた。もう神沢の依頼内容を聞かない限り、永遠に俺の話しをされそうで怖くなった。

 その言葉を聞いた一之瀬と神沢は少しの間戸惑いを感じさせたが、すぐさま冷静になり神沢は今回の依頼内容を話しはじめた。

 

 

 ◆

 

 

 神沢の話しが終わる事、外の景色はオレンジ色に輝いていた。


「ようするに、ここ最近になって誰かが自分の後をつけている気配がする。そしてそれが誰だかは分からない。でもそれが薄気味悪いからストーキングをやめさせたい。そういうことで良いですかね」


 話し終わった神沢に再度、俺は事の内容を確認した。


「それで合ってるよ。小枝樹くん」


 神沢は頷きながら俺を肯定した。そして全ての内容を聞いた俺は一之瀬に意見を求めた。


「それで一之瀬はどう思う」


「……私にはなんとも言えないけど、神沢くんが迷惑している事は分かるわ」


 腕を組み、悩ましげに答える一之瀬。そして眉間に皺を寄せながら一之瀬は更に言う。


「でも、何故の女子は神沢くんをストーキングしているのかしら?」


 一之瀬の口から発せられる些細な疑問。だが俺はその言葉に違和感を感じた。


「おいおい待てよ一之瀬」


 俺は冷静な表情で一之瀬の言葉の不備を指摘しようとした


「なんで一之瀬にはそのストーキングしている奴が女子だと断定できる。神沢は誰かにつけられているとは言ったけど、そいつの存在はちゃんと確認していない。なら女子と決め付けるのは早くないか?」


「……確かにそれは小枝樹くんのいうとおりかもしれないわね。今の発言は決断が早すぎたわ。やっぱり固定観念というものはよくないわね」


 俺の言葉を聞いた一之瀬は冷静に自分の駄目な部分を理解していた。これが天才少女なのだと俺も再度認識する。

 自分の落ち度を認められるのは普通だが、それを瞬時に理解するのは難しい。だからこそ、俺は一之瀬の些細な言葉に反応し、指摘したんだ。

 俺と一之瀬が意見を交わしている最中、神沢は自分の鞄の中をゴソゴソと何かを探している素振をみせた。そして


「あったあった。多分これは犯人が僕に対して送ってきた手紙だよ」


 そう言うと神沢は一枚の紙切れを俺と一之瀬の前に出した。その紙切れに書かれていた内容は




『神沢君へ。私は貴方の事が好き。凄く凄く好き。この胸に抱いてしまった想いはもう止められないの。私は貴方の事をずっとずっと見てた。今も見てる。そう……あの日の後もずっとずっと見てる。私は貴方に出会っておかしくなってしまった。だってこんなにも誰かを愛してしまう事が初めてだったから。でも……貴方が初めてで良かった。私の初めてを奪った貴方にも罪がある。だから……、だから私のものになってっ!! 私が貴方を一生愛するから。そして貴方も一生、私を愛して。』




 やべぇ……。吐き気がしてきた……。

 なんだこの詩的な、いや厨二臭がプンプンするイカれた手紙は。つかこの手紙を書いた奴は絶対にイカれてる。

 俺は少し気分が悪くなり、一之瀬にに助けを求めるアイコンタクトをする。だが一之瀬も


「……今の手紙の内容を見て、少し気分が悪くなったわ。いかにもベタな物語に出てきそうなイカれた女ね」


 このストレートな物言いが一之瀬の良い所だ。俺は一之瀬の言葉を聞いて幾分か気分が楽になった。

 高校生活をおくっていく上で、こんなヤバイ手紙を見るとは誰も思わないだろう。つか俺は全然想像していなかった。これで俺がもう普通の高校生活をおくれないという事が決定してしまった。


「でも、今の手紙の内容から分かるように犯人は女子に絞れたわね」


 少し気分の悪そうな一之瀬は、俺に意見を求める為に頑張って話し出した。


「確かにそうだな。追求すればまだまだ女子じゃない確率は上がるが、今回の件の犯人は女子で決まりで良いと俺も思う」


 辛そうにしている一之瀬をこれ以上虐めてもしょうがない。言った様にまだまだ追求すれば男子の可能性もある。それは

 一人称が『私』だがそれは男子でも使える表現。そして『好き』は今の世なのかオネエ系という存在が居るように同性愛の可能性もあるという事だ。まぁここまでくると考えすぎな気がする。

 だが俺はこの手紙の内容に引っかかる文面があった。それはなんだが聞いたようなデジャブ的感覚になってしまう文面だった。


「それで、今回の依頼。小枝樹くんは受けるの受けないの?」


 またいきなり本題に戻しますね一之瀬さん。ここまで仮説を立てて、犯人が分からないまま終わるのは嫌ですよ。まぁ何となく犯人の目星はついてるけど。


「乗りかかった船だ。今回の依頼もちゃんと引き受けるよ。でもな神沢」


 俺は真剣な表情で神沢をみる。そして


「俺に期待するのだけはやめろ」


 細川にも言った言葉。その言葉を俺は神沢にも言った。それだけ、俺は期待させるのが苦手な凡人なんですよ。つー感じにしておこう。


「それでも、僕の為に動いてくれてありがとう」


 神沢の言葉が俺の心に刺さる。俺が何かしてくれると期待しているその瞳を、俺は見ていた。

 本当にこのイケメン野朗は何も失った事のない、純粋な人間なんだ。

 今の俺はそんな悲観的な考えを浮かべていた。

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 そして神沢の依頼を遂行する日になった。

 俺等はB棟三階右端の教室へと集まり参戦会議をしていた、


「まずは今日の作戦をおさらいしておくわ」


 一之瀬が両手を腰に当て、俺達を仕切るように言い出す。その姿はまさに軍曹。歯向かったら容赦無く殴られてしまうような感覚になる。

 そんな雰囲気を醸し出しているのにもかかわらず


「つか一之瀬のそお格好はいったいなんだ」


 俺は軍曹、もとい一之瀬の今着ている服に対して突っ込んだ。だってこいつが今着ている服は


「あら小枝樹くん。なにか問題でもあるの」


「いやいやいや、お前の着てる服って完全にホームズだろ」


 そうなのだ。今まさに一之瀬が着ている服は、制服の上から羽織った茶色と色のチャック柄のコートにそれと同じような柄の帽子だ。それに加えて玩具のパイプまで咥えているしまつだ。

 こいつ本気でこんな格好で外に出るつもりなのか。俺には理解出来ない領域の人間なんだと改めて思う。


「何故これから尾行という行動をするのに探偵の代名詞でもあるホームズの格好をしてはいけないのかねワトソン君」


 やべぇ……。こいつノリノリだ……。


「ではワトソン君。私の事はおいといて、これから私達がしなくてはいけない事を説明してくれたまえ」


 一之瀬の言葉を聞いた俺は、教室内に居る神沢に翔悟、それに細川へと目を向けた。

 翔悟と細川は『お前がどうにかしろっ』的な視線を送ってくる。だが今の一之瀬を理解できていない神沢は俺に小声で


「ねぇ。一之瀬さんっていつもあんな感じだったっけ?」


「神沢よ、諦めろ。お前の見てきた天才少女は外面だ。一之瀬夏蓮という女は本来、あんな感じの痛い奴にたまになる」


 その時だった。

 バンッ

 机をおもいっきり叩くホームズ。その瞬間に誰もがホームズを注目した。


「何でもいいから早く説明をして頂戴、小枝樹くん」


 何で俺を睨むのかな……。そんなに眉間に皺を寄せたら綺麗な顔だ台無しですよ、ホームズさん。

 そんなつまらない事を考えているとまた一之瀬に怒られるので、俺は説明を始めた。


「今回、俺が考えた作戦は単純な尾行だ。あくまでもうちの生徒が犯人だと仮定した上での尾行になる。したがって完全な証拠が無い限り取り押さえることは出来ない。そしてもし今回の尾行で犯人が特定出来ない場合は外部犯の可能性が高いので、数日様子を見て神沢がストーキングをされていたらもう警察に言うしかない」


 一息で今回の作戦を言う俺。そしてすかさず続けた


「今言ったのが今回の作戦だ。最初に言ったように単純な尾行で犯人の目星をつけて尾行する、そして神沢は犯人を誘き寄せる為のエサだ。異論はありませんか」


 俺は教室にいる全員に同意を求めた。すると


「ちょ、ちょっと待ってよ小枝樹くんっ!! 何で僕がエサなんだよっ!!」


「はい。イケメンに発言権はありません」


 俺は神沢の質問を一蹴する。というか今回の作戦は神沢がエサにならない限りできない作戦だ。こればっかりは拒否をされると俺が困る。


「落ち着いて神沢くん。小枝樹くんが言っているのは単純な捜査方法の釣りというものよ。そして犯人が喜んで食いつくエサは……。貴方なのよ神沢くんっ!!」


 決まったああああああっ!! 推理漫画の犯人を指差して当てるシーンにそっくりだ。最近一之瀬が本当に天才なのか疑問に思ってしまいますよ。

 そんな一之瀬の姿を見ている翔悟と細川は、もう何がなんだか分からないと言わんばかりの表情をしている。つか何でこいつ等は全然話しに入ってこないんだ?


「ちょっと待ってくれ、一之瀬に神沢に拓真。俺とキリカは話の内容を聞いて無くって何がなんだか全然分からないんだが……」


 おー、一之瀬さんは何も話さず二人を連行してきたのね。つか普通に付いて来る君達もどうかと思うぞ。

 そんな二人に俺は今回の経緯を話した。

 

 ◆

 

「なるほどな。また拓真と一之瀬が俺等を助けてくれた時みたいに頑張ってるんだな。なら協力するよ。な、キリカ」


「はい。あの時は色々助けてもらったので、今度は私が頑張る番です」


 翔悟と細川は笑顔で今回の件に協力すると承諾してくれた。

 なんだか翔悟と細川がバカに見える。それでも何だかんだ協力してくれるこの二人は本当に頼りになる友人だ。

 和気藹々と話す翔悟と細川と神沢。俺はそんなみんなを眺めていた。そんな俺に


「良かったわね小枝樹くん」


 ホームズさんが話しかけてきた。だがホームズさんの表情は真剣で


「私はね、こんな風になりたいのよ。友達と、信じあえる人たちとずっと笑っていたい。でも私には出来ないのかもしれないわね……」


 俯き悲しい表情を浮かべる一之瀬。だから俺は


「んな事ねーんじゃね? 一之瀬がずっと笑っていたいって思ったんなら、きっとこいつ等は何年経っても一之瀬と笑ってくれるよ。つかこんなんで満足すんなよ。友達100人できるかな。だろ」


 俺は天才少女の一之瀬夏蓮が大嫌いだ。でもいつも前向きで、自分の欲しているものを何が何でも手に入れようとして、他人まで巻き込んで色々しる。そんな一之瀬は尊敬できると思った。

 自分では出来なかった事をしている一之瀬が憎い反面、羨ましいと感じている俺もいる。だからこそ今回の件も俺は了承したのかもしれない。


「ワ、ワトソン君。きっと私は貴方に救われているのかもしれないわね」


 そう言うと一之瀬は微笑んでみせた。そんな一之瀬に俺は


「そりゃ俺は、ホームズさんの助手ですから」


 そんな冗談を言い、俺も笑った。

 きっと笑っていられる。こんな風なくだらない事がこれからもある。だから俺も今は昔の事を思い出すのはやめよう。


「よし、そろそろ作戦を実行する。あらかじめ犯人だと思う奴をピックアップしておいた。人数は四人。それぞれ神沢を監視しつつ別行動をする。もし俺等の中でこの紙に書いている女子に感付かれそうになったら近くにいる者が対処してくれ。もう一度言うが今回の作戦は尾行。確固たる証拠が無い限り犯人を取り押さえることは禁止だ」


 俺の言葉を聞いたみんなは頷き納得した。そんな中一之瀬が


「ならみんなで連絡先を交換しておいた方がいいわね」


 そう言うと一之瀬は自分の鞄から携帯を出す。その姿を見た翔悟、細川、神沢も携帯を出す。そして各々連絡先を交換し始めた。


「小枝樹くんも早くして頂戴」


 一之瀬さんの催促だ。俺は渋々携帯をだす。


「これで何かあった時に連絡が取れるわね。というか私達、友達だったのに何で連絡先を知らなかったのかしらね」


 そう言うと一之瀬は笑った。つられてみんなも笑う。つか何でここに居るやつ等はこんなにも温かいんだ。俺が無くしたもの。俺がずっとほしかったもの……。


「よし、それじゃ作戦を開始する。みんなくれぐれも無理だけはしないでくれ。無理して怪我でもされたら、作戦考えた俺のせいになるから」


 俺は苦笑しながらみんなに言った。だが


「ばーか。何があっても誰も拓真のせいになんかしねーよ」


 翔悟の言葉でみんなが頷く。嬉しいと思ったのか、俺は少し恥ずかしくなり


「ば、俺は身長のデカイ木偶の坊の翔悟を少し心配しただけだよっ!!」


「……お前、木偶の坊は酷過ぎるだろ」


 こんな冗談が言い合える。一年前の俺では考えもつかなかった光景。だから俺も、一之瀬と同じようにこの関係を大切にしたい。今の俺はきっとそんな事を思っていた。


「それじゃ作戦を開始しましょっ!!」


 一之瀬の号令とともにみんなは教室から出て行った。

 

 

 

 

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