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天才少女と凡人な俺。  作者: さかな
第五部 二学期 再会ト拒絶
64/134

22 中偏 (拓真)

 

 

 

 

 

 

 本当に最悪な一日だ。


全ての人を拒絶したとうだけで俺は周囲の奴等から敵意を出され、挙句の果てに天才という真実からも目を背ける奴等がいた。


だが、そんな事は俺にとってどうだっていい。自分が天才だと自慢したいわけでもない。だた、レイが求めた俺になっただけだ。


昔のように全てをこなし、なんでも出来てしまう小枝樹 拓真に……。


そしていつも以上につまらない学校の授業。普段なら殆ど授業になんか集中しないで、適当に時間を潰したりしていた。だが、そんなつまらない事をする事すら無駄だと感じてしまう。


それだけじゃない。こんな少し学力が高い高校での授業なんか、俺にとっては誰かに教えてもらう必要すらないんだ。こんなもの教科書や参考書を読めば一瞬で理解できる。


例えるなら、高校生が小学生の授業を受けている感じだと思う。それほど俺にとって高校二年で学ぶことがつまらないし、くだらなく不必要なと再認識した。そんな時


「大,中,小の3個のさいころを同時に振るとき,出る目の数の積が16となる場合の数は何通りありますか。えーこの問題を、そうだな小枝樹」


「6通り」


間髪いれずに俺は答えた。その瞬間、周囲の目が俺の方へと向く。そして聞こえてくる「やっぱり天才って本当なの?」「つか今のスカした態度なんかムカつくな」そんな言葉を聞こえないフリをして俺は流す。


そして思う。こんな問題を高校生というこの状況下で真剣に取り組んでいること事態おかしな事なんだ。


今の授業は数学で教師は杏子きょうこだ。どうして昨日にあんな出来事があり、今日の朝にも少し問題を起してしまっている俺を当てるのか理解しがたい。


今の状況は別に嫌ではないが、授業をろくに聞いてもいない俺が考えもせずに答えを言ったのが気に食わないのだろう。そんな視線を感じるしそんな嫉みすら感じる。


そして俺は不意に隣の席の奴を見た。


俺の隣の席の女はそん状況にものともせず、普通に授業を聞き続けている。そんな女の無関心な表情を見て俺は思った。


それでいいんだよ。一之瀬……。こんな俺に興味がないのは当然なんだ。一之瀬は俺とは違う天才だ。全ての人を笑顔に出来てどんな人でも喜ばせることが出来る。


最初から分かってたんだ、俺と一之瀬は対極な存在なのだと。誰の事も幸せに出来ない俺はそんな一之瀬を嫌いだったんだ。


そうだ、何もかもが半年前の時に戻っただけなんだ。俺だけが一年前に戻っただけで他には何も変らない。


今の一之瀬の表情を見て少しホッとしてしまっている俺がいた。それはもう戻る事の出来ない選択を覚悟もなしに行ってしまったからだ……。


でもやっと決心が出来た。一之瀬に俺は必要ないと思えたから……。


この一瞬で最後にしよう。一之瀬の知っている小枝樹 拓真を……。





 全ての決心をつけ、何もない孤独な天才へと俺は戻った。


もう俺には何の柵もない。俺がいなくても皆はどうにだって出来る。やっぱり俺が一番楽なのは誰も受け入れず、天才でいる事だけだったんだ。


そして放課後、俺は誰にも挨拶をせずに教室から出て行った。雪菜や佐々路が辛そうな表情で俺を見ているのには気がついたが、そんなもの今の俺には何も関係ない。


冷たい人間だと思われても構わない。俺に関わらない方が幸せになれる。その行動に後悔はない。俺が消えれば何もかも全て上手くいくんだから。


そして廊下を歩いていると俺を見た生徒達がしきりに俺の話しをしていた。その内容は数学の時と同じような内容で、それに加えて悪口が追加されている感じだった。


だが俺には何も感じない。こんなものレイを裏切って家族に裏切られた直後より数倍マシだ。


何の能力もない凡人達が天才の俺を僻んでいるだけなんだ。そんな感情や言葉で変れるほど、俺はもう純粋じゃない。


そんな人達の中を歩き、気がつけば人が殆どいない場所に俺はいた。ハッと我に帰り俺は周囲を見渡す。そんな俺がいたのは


A棟とB棟を繋ぐ渡り廊下だった。


どうして俺はここにいるんだろう。一瞬だけだが記憶喪失になってしまった人や夢遊病でその途中目が覚めてしまった人と同じような感覚になっていた。


だけど今の俺は天才だ。どうして俺がここにいるのなんて直ぐに分かるし明白だ。


そう、俺はB棟三階右端の今は誰も使っていない教室に行こうとしていたんだ……。完全に無意識だった。一年前の俺は他者を拒絶してあの教室に行くようになっていた。


だからこそ俺は無意識にあの教室に行こうとしていたのか……? それ以外にも理由があるんじゃないのか……?


やはりそんな疑問は一瞬で解決されてしまい、俺は小さく呟く。


「俺は、あの場所を━━」


「拓真か……?」


俺の独り言を遮り、一人の女が話しかけてくる。


その女は、薄ピンク色のスーツを着ていて茶色く染まって巻かれているエレガントな髪の毛を揺らす。体のラインを強調してしまうスーツを着ているからなのかそのスタイルの良さはグラビアアイドル並だ。


俺はその声に反応して振り返る。そして


「なんだ杏子か」


そこに居たのは如月 杏子で、その存在は俺の幼馴染のようであって現在では担任教師である。


そんな杏子がどうして俺に声をかけてきたのか、そんな事は考えなくてもわかった。


「どうしたんだよ。声をかけてきたのは杏子だろ。何か俺に話したい事があったんじゃないのか」


振り向き名前を杏子の名を呼んだ俺。そんな俺を見ながら何も話さない杏子。ただ分かっている事は、今の杏子の表情がとても苦しそうだということだけだ。


「何も話さないなら俺は帰る」


「どうして……」


俺が一歩歩んだ瞬間、杏子は俯き話し始めた。


「どうしてそんな冷たい顔をしてるんだ……」


冷たい顔……。


今の俺には自分の表情を確認する手段がない。だから杏子が言っている事が本当なのかは俺には完全に理解できはしない。


だが、そんな確認を取らなくても、自分が自分の事を誰よりも理解している。そうだな、今の俺は感情という柵を捨て去ってしまっているんだな。


そう自分で解釈し、杏子に向って口を開いた。


「そうだな。今の俺はとても冷たい人間になってしまっているのかもしれない。だけどそれは、俺が受け入れないといけない……、違うな。これが本当の俺なんだ」


俺の表情は微動だにせず、なんの感情も込められないままその台詞を杏子へと言った。


「何が本当のお前だっ!! どうして自分から傷つこうとする……!? どうしてお前の考えはいつもいつも極論なんだっ!!」


「確かに俺の考えは極論かもしれないね。だけどさ、杏子も考えてみろよ。中途半端な考えは自分の思い描いている行動にそぐわない。その結果、中途半端だったという現実が誰かを傷つけるんだ。なら俺に出来る事は自分を肯定するか、自分を否定するかの二択なる。想いだけでもとか、力だけでもとか、その両方が備われば確かに大切な人を救えるのかも知れない」


俺は自分の意見を、自分の気持ちを伝える為にあえて間を置いた。そして


「だけどそれは誰かを傷つけて守る正義だ。俺は誰も傷つけたくない。なら俺が俺を否定して、全てを拒絶するのが一番なんだよ」


これが俺の気持ち。もう俺が天才という現実で誰かに傷ついて欲しくない。どんなに俺が傷ついても……。


「拓真の言いたい事は分かった。だが、その意見には矛盾がある」


矛盾……? 俺の描いた思想に矛盾なんてない。俺は天才なんだ。そのへんの凡人にそんな風に言われる筋合いはない。


「矛盾だと? ならその説明をちゃんとしてくれ」


「あぁいいだろう。お前は誰も傷つけたくないと言ったな? 確かに今の拓真のやっている行動は誰も傷つけはしない。でも、お前と深く関係を持っている奴等は誰よりも傷つくんだぞ」


俺を睨みながら言う杏子。その表情はまるで物語りに出てくる、自分の仇が親友だった主人公のようだった。


傷つけたくはない、それでも自分の感情に嘘も付きたくない。そんな杏子の気持ちがヒシヒシと伝わってくるようだった。だが


「はぁ……。確かに杏子の言っている事は尤もだ。だがな、その傷は一瞬だ。いずれ皆、俺の事を最低な天才野朗だと蔑むだろう。その時になれば俺はやっと自由になれる。誰からも想われず、誰も想わない。きっとさ、それがずっと俺が思い描いていた未来なんだって感じるよ」


そうだ。俺はきっと人というコミュニティーに入りたいと思っていなかったんだ。誰かと分かりあい支えあい、他人という存在が常にいる空間を俺は望んでなんかいなかったんだ。


今の社会では誰もが誰かと繋がりたいと思っている。それは現実という世界だけではなく、バーチャルのネット世界にまで侵食している思想だ。


だが、そんな関係を持ちたいと思っている人間は全てネットに依存し、自分というものを作り上げ偽りの存在として他人とかかわっている。


それは自分という個の存在をリアルでは完璧に表現できないからだ。人という温かみのあるリアルな存在は恐怖を生む。その恐怖に耐えられなくなってしまった人間は、少し前までなら孤立して何も出来なかったのだろう。


だけど今は違う。ネットに接続すれば簡単に知らない人とコミュニケーションをとる事ができ、自分と同じ趣味を持っている人と簡単に出会うことすらできる。


そして安易な考えのままその環境に慣れ、最終的には依存していく。


だけど、そんな現実も仮想空間も本当に存在しているのだろうか。現実世界のコミュニティーも仮想空間のコミュニティーも俺にとって同じような存在にしか思えない。


それはどう頑張ったって他人に完全なる自分を理解してもらう事が不可能だからだ。どんなに仲の良い友達だって、どんなに長い時間を共に過ごしてきた家族だって、本来そこに存在している涸を完全に認識するのは不可能なんだ。


どうしてそれが不可能になってしまうのか、それは人間は自我のある生き物だからだ。


どんなに良い言葉を並べている人間がいても、それは結果的に自分の為にやっている事を公言しているだけだ。理想を語り他者を思いやる言葉さえ言えれば、それを少なからず一人以上の人間に認められるだろう。その言葉の意味を完全に理解していなくてもだ。


誰かに信用してもらう為に必要なのは自我をなくし、他人を思いやることを言っているだけで良い。それができ、後々自分の正体がバレなければいいんだ。


人は形にこだわる。自分が描いていた理想のものが現実でフワフワとしていても、自分が認識できればそれに依存し考えるのを止める。だってそうだろう、自分の理想を体現してくれる存在がいるんだ。自分が考えなくても自分の言いたい事を不特定多数に伝えてくれる。


そんな存在があれば、誰も自分の考えなんて作りはしない。これはあくまで俺の考えだが、今の生きている人間は自分で考えているようで他人の考えを模倣しその先へと進んだ考えを持っていない人間ばかりだ。そんな出来上がってしまった答えをあたかも自分の考えだと思っている愚かな凡人だらけなんだ。


決して俺は自分が天才だからといって、自分を誰よりも優位に立っている存在だなんて思っていない。むしろ、俺だって同じように考えるのを止めたいと思っているくらいだ。


結果的に俺が何を言いたいのかというと、誰も他人の事なんてわからないと言うことだ。


そんな考えを脳内で繰り広げていると、杏子が口を開いた。


「それは違うっ!! 拓真はそんな未来望んでなんていないっ!! どうして素直にならないんだ、どうしてそこまで全てを拒絶するんだ……!! お前はお前だろ……? お前は小枝樹 拓真だろっ!!」


「悪いな杏子。その言葉はもう、一学期の時に一之瀬に言われたよ。だから俺もこんな自分で良いんだって思ってきた。でも、やっぱりレイはそんな俺じゃ許してくれないんだよ」


感情的に声を張り上げた杏子とは対照的に、俺は淡々と話す。


「皆と出会えて本当に良かったって思ってる。そんな場所を提供してくれた杏子にも感謝してる。でもさ、俺だけが幸せで、俺だけが笑っていられるなんて、レイにとっては不快でしかないんだよ。だから俺は考えた、皆とレイを天秤にかけて。その答えが今の俺だよ」


そんな俺の言葉を聞いて何も言い返す言葉がないのか、杏子は虚ろな瞳で何も考えたくないという表情になっていた。それは俺の覚悟を知ってしまったからなのか、はたまた何も出来ない自分を後悔しているのか。俺には分からない。だが


「私はさ、全部知ってたんだ……」


虚ろな瞳で空間を見続けながら杏子は静かに話し始めた。


「レイが転校してくるって事、全部知ってたんだ……。夏休みに入る前くらいに知ってたんだ……。だけど、その事をどう拓真と雪菜に話していいのか分からなかった……。お前達に話せば何かが変ってしまうんじゃないかって怖かったんだ……!! 私は結局、また拓真も雪菜も、レイも救えないんだ……」


渡り廊下の手すりに近まり、杏子はその体をゆっくりと地面へと崩していった。


「あの時もそうだった……。拓真とレイが喧嘩をして、いつもの様にどうにかなるって思ってたんだ……。でも、それから拓真とレイが一緒に笑っている姿を見ることはなかった。あの時、私がもっと子供だったらお前等はこんなにも苦しまなくたって良かったんだっ!! 全部、全部……、私が悪いんだよ……」


その瞳から廊下へと零れ落ちる涙。その波を見てそのが杏子の気持ちなんだって伝わった。だから俺は


「杏子は何も悪くないよ」


「……拓真?」


「あの時の事は全部俺が悪いんだ。レイの気持ちを知って夢を知って……、その妨げになるのが俺だったんだ。だから俺はワザとレイに負けた。でもそれがダメだったんだ。結局、俺が選択肢を誤ったんだ。だから杏子は何も悪くない。お前は最善を尽くしていたんだよ」


そう。杏子は何も悪くない。悪いのは全部俺だ。そしてこんな風に杏子を悲しませてるのも苦しませているのも全部俺なんだ。


だけど、辛いって思うことは今の俺には許されない。こんな風になってしまう未来を俺は予想していたから。それでも俺はレイを取ったんだ。レイへと償いを取ったんだ。


そして俺は、泣き崩れている杏子を残し、一人その場を去って行った。






 

 昇降口。


杏子を置き去りにし、俺は一人で帰る事を選択した。それはあまりにも杏子が辛そうだったから。俺にはそんな杏子を見守ることも、ちゃんと慰めることも出来ない。それが今の俺が自分に課した罰だから。


どんなに頭の中で言い人を演じていても何も意味は無い。これが俺の本当の思考というわけでもない。言い人を、凡人を演じてきてしまったせいか、その時の感覚が未だに抜けていないみたいだ。


自分の頭の中で思考を巡らせながらも、俺は下駄箱から自分の靴を取り出し、上履きから履き替えようとしていた。その時


「よぉ拓真。もう帰るのか?」


聞き覚えのある嫌な声。その自分のほうを見なくても誰なのか分かってしまう。それだけ幼い頃の時間を共有していたって事なんだろうな。


「なんだよ、レイ」


俺はその人物の名前を呼び、睨みつけるようにソイツの顔を見た。


「おいおい、そんなに怖い顔しなくてもいいだろ? 別に俺はお前に何かをしようとなんて思ってないんだから」


そう言いながら笑うレイの表情は、とてもじゃないけど危害を加えないと言っている人間の表情には見えなかった。


「あっそ。だった俺に用なんてないんだろ。それじゃ俺は帰るから」


「昨日俺は、B棟の三階にあるお前が入り浸ってた教室に行った」


レイの言葉で足が止まった。その状況になっていたという事は雪菜から昨日聞かされている。だけど、レイの口から聞かされるとなると、雪菜が言っていた事を思い出し動くことが出来なくなる。


「それで今の拓真の友達に会ってきたよ。本当にくだらない集まりだった」


レイの話しを聞きながら俺はレイの方へと振り向き、その表情を怒りへと変えていた。


「なんだっけ? 門倉だっけ? アイツの昔の親友って俺の前の高校に転校してきたんだよ。その話しをしてさ、今はバスケしてないって言ったらアイツ青褪めながら項垂れたよ。本当に笑えるよな」


楽しそうに話すレイ。


だけど、その内容は翔悟を傷つける内容だ。つか翔悟に親友がいたのは知ってるし、傷つけたのも知ってる。だけど、ならどうして翔悟は俺に相談してくれなかったんだ……。もしも相談してくれてたら……。


そんな風にもう戻る事のない過去を想像するのはやめよう。きっとレイは俺を挑発しようとしているだけだ。それを我慢するのも俺の罰だ。


「そしたらさ、他の奴等も加勢してくんの。マジで友情とか思ってんのかな? だけど、あのちッさい女の子が俺に意見したのにはビックリしたけどね」


ちッさい女の子って牧下のことか……? 牧下はそんな風に感情を前に出すような奴なんかじゃない。なのに、それでも起こったって事は、俺の事を……。


「だけどさ、どうしてあの一之瀬が一緒にいんだよ? 確かにお前と同じで天才なのかもしれないけど、俺には一之瀬 夏蓮が優越感に浸るために作られた空間に見えたよ」


一之瀬が優越感に浸るだと……?


アイツはそんなつまんねぇ考えを他人に押し付けるような奴じゃない。一之瀬はいつだって誰かの事を考えていて、自分の事なんて何も考えないで、俺とは対極の天才なんだ。


ダンッ


気がついた時、俺はレイの胸倉を掴んで下駄箱へと押し付けていた。そして


「てめぇに一之瀬の何がわかんだよ……!! それにな翔悟を傷つけたことも牧下の気持ちを踏み躙ったことを俺は許さねぇぞ……!! アイツ等に何かしてみろ、そん時は俺がお前をブッ飛ばす」


怒りのゲージが振り切れていた。自分でも何をしているのか分かってなく、それでもレイを許せないという気持ちだけはハッキリと分かっていた。


「そうだよ拓真。それがお前だよ。その顔が本物のお前なんだ。もっと怒れよ、もっと俺を憎めよっ!!!! そうじゃなきゃ俺の気持ちが晴れないからな」


強く掴んでいるのに、苦しそうな表情を見せることがないレイ。そしてその言葉を言ったレイは俺の手を振りほどいて襟元を直した。そして


「まぁせいぜい苦しめよ。お前がしてきた罪はお前が感じるだけじゃダメなんだ。お前が大切だと思っている人間達が苦しんで、お前と出会ってしまったことを後悔しなきゃお前の罪は洗い流せない。それを指を咥えながら見てろ」


そう言いレイは俺の前から居なくなった。


そして昇降口に取り残された俺は膝をついた。


レイに対して懺悔したいと思っているのに、レイの言葉に挑発されて俺はレイをまた傷つけたんだ……。


それでも許せなかった。皆の事は関係ないのに、アイツは俺以外に人間を傷つけようとしている。それが許せないんだ……。


俺はどんなに傷ついてもいい。それだけの事をレイにしてしまったんだから……。だけどこのままじゃ俺と仲良くしていた奴等が皆苦しむ……。俺はどうすればいい……。


そうか、俺はもっと皆を拒絶しなきゃいけないんだ……。俺が皆の事を大切だと思ってるって感じているからレイは俺じゃなく皆を傷つけようとする。だったら、俺が皆の事を何も思っていないともっとレイに見せ付けなきゃいけない。


そうすればきっとどうにかなる……。


もっともっと自分を殺して何も感じないようになるんだ。そう、何も感じない。俺は何も感じない。誰が傷つこうが何も感じない。そうだ。誰がどんな風に苦しもうが何も感じなきゃ言いなんだ。そうすればレイは……。


その瞬間から俺は全ての感情を完全に自分の世界に閉じ込めた。昨日よりももっと深く、そして自分でも分からない所に感情を隠す。


それが今の俺が求めている事で、誰も傷つけない最善の策なのだと自分で思う。


そんな自分の気持ちを変換させて俺は靴を履き外へ出る。そんな場所で見た風景はいつもと変らないと思っていた。でも


夕方になっているのに、未だに青い空が見えている。それはきっとまだ夏が終わっていないという証拠なのだろう。それでもそんな風に感じることは何度もあった。でも今俺が見えている世界は


灰色だったんだ。


なんの色もなく、全てが灰色。そんな世界が俺の求めていた世界で。俺はもう後悔していない。感情という人間に不必要なものを取り払っただけで、世界がこんなにも変るなんて知らなかった。


そして俺は最後のしまいきりそうな感情で思ったんだ。




俺は、あの場所を……。B棟三階右端の一番奥の今は誰も使っていない教室が



大好きだったんだ……。




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