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天才少女と凡人な俺。  作者: さかな
第一部 一学期 春ノ始マリ
6/134

3 前編 (拓真)

どうも、さなかです。

第二章を投稿したさいに何分割かにして投稿してみてはとアドバイスを頂いたので、今回は数回に分けて投稿したいと思っています。


では第三章お楽しみ下さい。

 放課後の静けさ、落ちゆく夕日の煌き。そんな場所が俺にとって心地のいい場所で、色々な事を忘れさせてくれる。

 優しく気持ちが良い風が俺の髪を靡かせた。

 こんなにも落ち着いて居られるのはいつ位振りだろう。それは考えれば直ぐにでも答えが出る事だった。

 そう。あの忌々しい天才少女。一之瀬いちのせ 夏蓮かれんとここで出会って以来だ。

 何故そんな天才少女さんが今は居ないのか。そんなの俺に分かる訳ないでしょ。あいつは俺に


『少し席を外すわね』


 そう言い残しこのB棟三階の一番右端の教室から姿をくらませたのだ。つか今の俺は一之瀬が居なくて清々してる。だってこんなにも自由を感じているのだから━━

 気分が良くなりすぎた俺は座っていた立ち上がり両手を大きく広げ、何も無い教室のくうを優しく仰いでいた。その時

 ガラガラッ

 教室の扉が開けられる音。そして教室に入ってこようとしていた人物と変な格好をしている俺は目が合った。


「……何やっているの、小枝樹さえきくん」


 その人物は変質者を見るような目で俺を見てくる。呆れているのか、はたまた普通に軽蔑しているのか。その瞳はきっと両方を訴えかけている目だった。


「……いや、その。なんか大空を飛んでみたいとか思っちゃったりなんかして」


 俺は今の格好のまま言い訳のような自分でも理解し難い事を口にしていた。だがそんな俺を見ている人物はそこで何も言わなくなり、じっと俺の事を見続けていた。

 俺はその視線に耐え切れなくなり、大きく広げていた両腕を下ろし少し項垂れながら


「……悪い。今のは見なかった事にしてくれ、一之瀬」


 やべぇ……。心が壊れそう……。つか俺は何を血迷ってあんな恥ずかしい事してしまったんだ。考えろ、考えるんだ俺。


「まぁ、そんな事はどうでもいいわ」


 どうでも良いとか言うなよっ!! 何かもう色々と突っ込まれた方が幾分か楽だよっ!!

 脳内ツッコミをしている俺をよそに一之瀬は話しを続けた。


「そんな事よりも、小枝樹くん。今日は久しぶりの依頼人が来たわよ」


 待て待て。何が依頼人だよ。俺はそんな面倒な事やりたくねーよ。つか待てよ思い出した。何で俺があんな恥ずかしい格好してたか

 そうだ。一之瀬がこの教室に居なかったからだ。でもそんな一之瀬は今居る。そして厄介事を持ってきた。

 はぁ。俺の素敵過ぎるほどのノーマルで凡人的な高校生活はいつになったら戻って来るのやら。

 そんな事を俺が考えている間に依頼人はこの、B棟三階右端の教室へと入って来た。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 話は遡り事件が起こる数日前。

 それはバスケ部の一件が終わった後の平凡な俺の日常の中で起こった。


「おはよーっす」


 俺は普段と同じ時間に登校し、教室に入ると同時にクラスにいる連中に挨拶をする。それがいつもの定番。デフォなのだ。

 だが今日はいつもと何かが違っていた。


「おはよう。小枝樹くん」


 なんでだろう。一之瀬はいつもの様に挨拶をして来るのに、他のやつ等はしてこない。

 俺は何かを疑問に思い普段からどうでもいいと思っている教室内のみんなの姿を確認した。俺が見えた光景は、クラス中のやつ等が窓際に集まり校庭を眺めている姿だった。


「おい一之瀬。いったいなんなんだこれ?」


 事の真相を確認するために俺は一之瀬に話しかける。だが


「……それが、私にも分からないのよ」


 おいおい一之瀬みたいな天才少女が分からない事ってあるのか。つか一之瀬が分からないなら凡人な俺にはもっと分からないだろう。

 俺は少しの溜息を吐き、一之瀬から離れ窓際に集まっている連中へと話しかける。


「おいおい。いったい何の騒ぎなんだよ」


 あまりにも普通すぎる俺の発言。普通、凡人、平凡。これらを愛して止まない俺でも何かもっと良い言葉があったんじゃないかと落胆してしまった。


「あ、小枝樹。おはよう」


 やっと俺の存在に気がついたみたいで、友人Aが俺に話しかけてくる。まぁ俺が疑問をここに居る奴らに投げかけた事はこの際忘れよう。

 つか友人Aからも返答が無い事から察するに、俺の言葉はここに居る人たちにはきっと届いていないのだろう。なんか辛い……。


「てか小枝樹もこっち来て見てみろよ」


 やっと俺と一之瀬が疑問に思っていた今の状況を確認する状態まで来た。まぁ俺の存在が確認された瞬間にこういう状態になるのは目に見えていたけどね。

 いやいやいや。マジで強がりとかじゃないからねっ!!

 俺は友人Aに言われるがままに教室の外を見た。

 そこには、男子生徒と女子生徒が相対している形で立っていた。まるで決闘でもするんじゃないかと勘ぐってしまうような状況だ。

 何が起こっているのか、何故みんながこんなにも興味を持っているのか、俺には皆目見当も付かなかった

 だって男子と女子が向き合って立っているだけだぞ。それもこんな真昼間から。つかまだまだ朝だ、昼にもなってないぞ。これが夕方とかだったら告白にも……

 待て。いやいやいや。告白ってそんなこんな時間から有り得ないだろ。どんだけ欲求不満なんですか。

 だがその時だった。


「……私。私、神沢かんざわくんの事がずっと好きでしたっ!! ずっとずっと神沢くんだけを見てた……。だから、私と付き合ってくださいっ!!」


 なん……だと……。今俺が見ているのは紛れもなく告白だ。それも殆どの生徒が見ている眼前での告白だ。俺は素直にこう思った。

 あの女、頭おかしいだろ。媚薬でも飲んで来たのか。なんなんだ、あのテンションの高さ。いや、その冗談とかじゃなく真面目に引いてます。

 そんなドン引きしている俺をよそに、他の生徒達は盛り上がっていた。

 よく聞いていると「早く答えてやれよー」とか「よく頑張った」など俺には到底考えも付かない言葉達が飛交っている。

 なんでこんな光景を見せ付けられてこいつ等は引かないのか、きっと俺には何年経っても分からないであろう疑問だ。人間とはこんな簡単な事でも分かち合うことが出来ないものなのか。

 俺は少し悟りの境地が見えたのかもしれない。

 そんな悟り始めてしまっている俺の横で


「やっぱり神沢かんざわはモテるな」


 友人Aが言う。やっぱり神沢はもてる。もしかしてこいつは校庭にいる男子生徒の事を知っているのか。俺は自分の精神を回復させつつ、友人Aに問いかけた。


「おい。お前、あの男子の事知ってるのか?」


「……小枝樹。お前は何も知らないのか?」


 質問を質問で返された。質問を質問で返すことは良くない事だってどっかの紳士的な黒豹のおっさんが言ってたぞ。


「……はぁ。あそこにいる男子はな。俺等の学年で一番のイケメン。神沢かんざわつかさだよ」


 神沢 司……?

 誰だ。つか学年で一番イケメンな奴を知らない俺ってマジで駄目じゃね……。何かもっと色々な奴と交流したほうが良いんじゃないかって本気で思ったよ。

 そんな風に思わせてくれた友人Aにマジ感謝。ありがとう。


「俺等の学年で一番イケメンなのは分かった。それは良いとして、何で全校生徒が見える状況であの女は告白してるんだ?」


 今の状況が完全に理解できていない俺は、更に友人Aに質問を投げかけた。


「はぁ!? 女子が神沢に公開告白してるのはこれが初めてじゃないだろっ!?」


 ん?初めてじゃない? 友人Aの言葉が正しいのなら、こんな羞恥プレイを好む女子がこの学校にはまだまだいるって事か!?

 つか何で俺はそんな状況を知らない。こんなにも目立つ行為をしているやつ等が居たのに、何で俺はそれを知ることが出来なかったんだ。

 そんな疑問を抱えている俺に友人Aは答えを与えてくれた。


「まぁでも、朝から公開告白した女子は今日が初めてだな。いつもは昼休みか放課後だったからな」


 友人Aの言葉で謎は全て解けた。真実はいつも一つってどっかのジッちゃんが言ってたような気がする。……ん?なんか混ざってるか? まぁそんな事はどうでもいい。

 ようはあれだ。昼休みと放課後だろ。そう俺は基本的に昼休みと放課後はあの教室にいる。B棟三階の一番右端の教室だ。

 そんな誰も来ないような場所に居ればこんな欲求不満野朗共の告白を見ていなくて当たり前だ。

 つかあの教室から見える景色は完全に学校の裏だ。こそこそ告白している奴は何度か目撃した事はあるが、こんな公開された告白なんて見ることは無い。

 でも待てよ、あの神沢とか言う男子どっかで見た事あるな。あ、そっか。B棟三階、一番右端の教室からでも見える学校の裏でもあいつ告白されてたわ。そっかそっか……。

 マジであの男消えないかな。何かどっかで標本みたいにされないかな。いやいやいや別に羨ましい訳じゃないですよ。これっぽっちも嫉んでなんかいませんからね。

 自問自答で言い訳をしていると心が折れてしまいそうになる……。

 そんな心がナイーブな俺は項垂れ嘆息気味にイケメン野朗の返事とやらを聞くことにした。


「……その。僕は今誰とも付き合う気はないから……。ごめんなさい」


 フリやがった。

 

 あのイケメンに告白している女子は結構かわいい、性格は分からないが少し仲を深めても良いだろう。寧ろ可愛い女子で性格も良かったら、その時付き合えばいい。

 あれがイケメンの余裕というやつか。

 校庭にいる女子はイケメンのその言葉を聞き、何も言わずに頭を下げ校舎へと走っていってしまった。

 そんな一連の流れを見た俺は友人Aへ質問を投げかける。


「つか、何で公開告白なんだ? 告白なんか誰にも見られない場所ですれば良いんじゃないのか?」


 まぁ校舎裏は俺が見ているけどな。なんだ、この学校にプライバシーはないのか。


「あれだよ小枝樹。神沢にはファンクラブがあってさ、何でも『神沢に告白をするなら大人数が見える状況』でやらなきゃいけないらしい。そんな掟が最近決まったとか決まってないとか。まぁ真実は俺にも分からん」


 決まったとか決まってないとか。真実は分からないとか。結局お前は何も知らないんじゃねぇかよ友人A。

 何故だ。何故なんだ。俺は事あるごとに友人Aを頼っている気がする。なのにいつもこいつは何も知らない。もしかしてこいつも凡人なのか……!?

 だとするのなら俺はこいつに恐怖を感じる。だってそうだろ、もしも友人Aが凡人だとしたら、俺のアイデンティティーが奪われる。

 こんなやつに、俺の存在意義を奪われる。俺は友人Aを過小評価していたというのか。いやそんな筈はない。


「小枝樹くん」


 俺は他人を過大評価もしなければ過小評価もしない。それが俺の長所でもある。


「ちょっと小枝樹くん」


 まぁ逆を返せば、他人に興味がないと言えなくもないが……。それでも俺は友人Aを軽視していたつもりはない。その時だった

 ガバッ

 俺は何者かによって制服のネクタイを引っ張られた。それはもう首が絞まってしまうくらい


「……小枝樹くん。貴方はいったい何度私を無視すれば気が済むのかしら。というか私を無視するのがデフォになっているのは流石に私の気のせいよね」


 あれ? 俺はいつ敵とエンカウントしたんだ? もしかしてバックアタック? いやいやいや、現実から目を背けるのはやめましょう。


「……ごめんなさい。い、一之瀬さん」


 ネクタイで首を絞められているせいか上手く話せない。


「あら。声が小さすぎて何を話しているかわからないわ」


 この女は鬼畜かっ!! お前が首を絞めているから喋れないんだよっ!! つか、お前を無視するのがもしデフォなら、お前が俺のネクタイを引っ張って首を絞めるのもデフォにしてんだろうがっ!!


「あ、あの。だらか、本当にすみませんでした……」


 俺の謝罪の声が聞こえたのか、一之瀬は制服のネクタイから手を離し


「……はぁ。それで、この騒ぎがいったいなんだったのか分かったのかしら」


 嘆息しこの事件の一連の流れを俺に聞いてきた。少しの間首を絞められていた俺は息を整え、友人Aから聞いた話しを一之瀬に説明した。

 

 

 ◆

 

 

「という事らしい」


 俺は話し終わり自分の席に腰を下ろした。辺りを見渡せばさっきまでの公開告白がまるで無かったかのように、普段と変わらない朝の風景へと戻っていた。

 だが俺の話しを聞き終わった一之瀬さんはそうもいかなかったらしい。


「なるほどね……。小枝樹くんが言っている事が本当だとすれば、私はこんなにも素敵で爽やかな朝に、発情したビッチをこの美しい瞳で目撃してしまったわけね」


 確かに素敵で爽やかな朝だ。でも自分の瞳を美しいと言えるお前の方がよっぽど素敵だよ。つかなんだろう、さっきから一之瀬の回りに『ゴゴゴッ』っていう怒りに満ちたエフェクトが見えるぞ。


「……あのビッチ。次に見かけたら容赦なく腸を引きずりだしてやるわ。私の優雅な朝を穢した事を後悔させてやるわ……。ふふふふふ」


 今俺は認識した。俺は絶対に一之瀬 夏蓮という女を敵にしない。心からそう思えたよ。

 俺は自分の心の中で新たな誓いを立てた。


「そんな事よりも、さっき告白されていたのって神沢くんだったわね」


「やっぱり一之瀬も知ってるのか。まぁ学年一イケメンなら知ってるのが当たり前か。俺なんか名前言われても全然知らなくて、少し馬鹿にされたよ」


 俺がいい終わると、なんだか一之瀬の雰囲気が変わった気がした。なんだろう、なっていうか『この人はいったい何を言っているの』みたいな感じだな。うん。


「……小枝樹くん。神沢くんは━━」


 ガラガラッ

 一之瀬が俺に何かを伝えようとした時に教室の扉が開かれた。そこには


「おー。今日もモテモテ神沢くんが帰ってきたぞっ!」


 神沢 司がいた。

 神沢が教室へと入ってくるやいなやクラスのやつ等は神沢へと絡んでいった。俺はそんなみんなの姿をただただ呆然と見ている事しか出来なかった。


「……小枝樹くん。貴方って本当に他人に興味がないのね」


 やめろおおおおおおっ!! そんな悲しい人間を見る目はやめてくれっ!! 確かに俺が悪いけど、俺が悪いけどおおおおおおっ!!


「待て待て一之瀬っ!! 確かに俺は、その……。神沢を知らなかった。でも一之瀬、お前の事は一年の時からちゃんと知ってるぞ!? だから俺は他人に興味がない訳じゃないんだよっ!!」


 何で俺は今、一生懸命になって言い訳をしているのだろう。なんだか悲しくなってきちゃいましたよ。

 そんなアタフタしている俺をよそに、一之瀬は何故だか顔を真っ赤に染め上げていた。


「……べ、別に私の事を知っていたからなんなのよ。何かその言い方だと、私だけが特別みたいじゃない///」


「…………」


 この女はいったい何を言っているんだ。訳がわからねー。俺はただ他人に興味がないという事を否定したかっただけだ。それに一之瀬の事は本当に一年の時から知っている。いったいなんなんだこいつは

 その時


「おーおー。公開告白を見て小枝樹も発情しちゃったのかな?」


 俺と一之瀬の近くへと歩きながら話しかけてくる一人の女子。

 身長は一之瀬よりも少し小さく、話し方からも分かるように明るい感じだ。髪の毛は肩にかかる位の黒髪。毛先は癖毛なのか外側に向って跳ねている。そうそんな女子の名は

 クラスの女子Aだ。

 何なんだ友人Aにしろ、このクラスの女子Aにしろ、何でこんなにもモブなやつ等が登場する。つかモブじゃなくて俺が名前を覚えてないだけなんだけどな……。

 何か心が痛い……。


「……ちょっ、何を言い出すのかえで


「だってさー。夏蓮が何かウジウジしてて見かねちゃったんだよ。だからこの佐々ささみち 楓様に任せなさいっ!!」


「任せなさいって、いったい楓に何を任せるって言うの?」


 あの……。


「だからっ!! 夏蓮は全然アクティブに行動してないし、小枝樹は全然気がつかないし、そんな二人の仲をあたしが取り持ってあげるって言ってるの」


 いや、その、だからね。


「私と小枝樹くんの中を取り持つって……/// 楓が考えている事はきっと大いに間違っているわよ」


 だからさ、一之瀬さんも佐々路さんも……。


「なに言ってるのさ夏蓮。女のあたしから見たらかなりバレバレだよ?」


 なんだろうな。この疎外感……。


「な、何がバレバレだって言うの!?」


 んー。


「だからさ、夏蓮って小枝樹の事、す━━」


 いい加減俺を無視するのやめてくれませんかねえええええええっ!!


 つかなんなんだよっ!! 女同士で会話盛り上げちゃって。そんなに話したいなら俺が居ない所でも出来ましたよね!?

 それだけじゃないよ。一応だけど、俺が主人公だからね。俺が居なきゃこの物語成立しないからねっ!!

 なんて脳内妄想ツッコミをしていても何も解決しないわけで……。


「……お願いだからさ。一之瀬も佐々路も俺を置いて話しを進めないでくれ……」


 俺は嘆息気味に主人公なのにも関わらずお願いをした。


「ねぇ小枝樹。夏蓮ならもういないよ」


 俺は佐々路の言葉を聞き辺りを見渡す。

 確かにこの教室内に一之瀬 夏蓮という天才少女は居なかった。だとすれば

 なんだ、あいつはいきなり姿を消せる凄い奴なのか!? 忍者か!? はたまたある星から地球に戻って来る間に瞬間移動でも覚えたのか!? 額に人差し指と中指を当てたのか!?

 なんだかもう良くわかんねーよ。俺に何を求めているんですか神様。つかもうどうにでもなれよ。


「つか小枝樹は何で夏蓮と仲良くなったの?」


 この女はいきなりぶっこんだ質問をしてくる奴だ。つか一之瀬の瞬間移動には興味ないの? 俺はそっちの方が気になるよ。


「何でって言われても、まぁ色々あって、その、内容は言えないけど、兎に角あいつと関わらなきゃいけなくなった訳だよ」


 俺はいったい何を言っているんだ。一之瀬に俺等の関係性を秘密にさせられているせいか上手く説明できない。つか言ったらこの世界から俺消されるし……。


「ふぅん。そうなんだ」


「なんだよ。何か腑に落ちないのか?」


 意味深長な態度で返事をする佐々路に、俺はその真意をたずねる。


「夏蓮とは高一の入学式に仲良くなったのね。その頃から見てて分かるんだけど、夏蓮って少し男子が苦手みたいな所があるのよ」


 佐々路の言葉は意外なものだった。あの一之瀬が男子に対して苦手意識があったとは。俺には普通に接してくれているし、つか他の男子にも普通に接してる。本当に一之瀬は男子が苦手なのか?


「俺にはそんな風にみえないぞ?」


「んー。確かに普通に見てれば分かりづらいかもね。本人に直接聞いた事はないけど、たぶん男子は苦手だと思う」


 こいつのこの自信はどこからくるのか。根拠もないのにただ自分の勘で言っているだけだ。適当なのも大概にして欲しい。


「でもさ、なんか小枝樹は違うんだよね」


 またもや意味深長な佐々路の言葉で、俺は頭上に疑問符を浮かべていた。


「夏蓮って男子にも女子にも当たり障りのない感じに接してるけど、小枝樹にはあたしと同じ感覚で接してると思う」


 そこまで言われても俺にはまだ意味が分からず、そのまま佐々路の話しを聞いた。


「前にさ、夏蓮って性格悪いでしょって小枝樹に言ったよね」


「うん」


「あれさ多分だけど、性格悪い夏蓮を知ってるのってあたしと小枝樹くらいなんだよね」


 俺は佐々路の言葉を聞いて、今まで見てきた一之瀬を思い出していた。確かに一之瀬と関わるまではあいつがあんな奴だと微塵も思っていなかった。

 いつも他人に優しい天才少女。俺の抱いていた一之瀬のイメージはずっとこれだった。

 関わり始めてまだ日は浅いが、一之瀬の厳しさ、一之瀬の優しさ、一之瀬の感情を目の当たりにしている俺は佐々路の言葉を信じるほかなかった。


「夏蓮はさ、天才とか言われて回りにちやほやされてるけど、逆を返せばその期待に応え続けなきゃいけないわけじゃん? だから素直に凄いなって思えたの」


 期待に応え続ける……ね……。


「そんな夏蓮だからこそ、あたしは友達でいられるし、本当に心から尊敬できる」


 そう言うと佐々路は笑ってみせた。俺はいつかこんな風に誰かを尊敬できる日が来るのだろうか。そんなつまらない事を考えている俺がいた。


「一之瀬の事を真面目に俺に話してくれたことには感謝する。だがその真意は、一之瀬を俺に取られて嫉妬しているでいいか?」


「……ば、せっかく真面目に話したのに空気ぶち壊しじゃないっ!! つかあたしはいたってノーマル。……もう。何で朝からこんな話ししてんだろ」


 佐々路は怒った後、溜息を吐き起こった事柄を後悔していた。だから俺は


「何で朝からって、そんなの佐々路が一之瀬の事大好きだからだろ。友達として」


 驚いている様子の佐々路。だがその驚いている表情は一瞬で消え


「あーあ。何か夏蓮が小枝樹に素を見せるのが分かった気がした。まぁいいや。あたしも神沢いじってくるね。小枝樹行く?」


「俺はいい。全く興味がない」


「あっそ。じゃあまたね。夏蓮を頼んだぞ少年っ!!」


 最後に意味不明な言葉を残し佐々路は人だかりへと向っていった。そんな俺は授業が始まるまで机で寝る選択肢を選んだ。

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 放課後。

 何事もなく時間は過ぎていき気がつけば放課後。毎日の至福の時間。俺が待ちに待った時間。だが


「ごめんなさい。今日は用事があるから帰らなきゃいけないの」


 一之瀬の一言で俺は絶望していた。

 こんなにも放課後の一人、いや最近は一之瀬も居るから二人。の時間を楽しみに思っているいたいけな凡人を苦しめるんですか。もう泣くよ? そろそろ泣くよ?


「本当にごめんなさい……。だから今日は小枝樹くんに鍵を預けるわ」


 思いもよらなかった一之瀬の言葉。何がなんだが分からない俺がいる。だがそんな時でも俺の頭の中はすぐさま冷静になれる訳で


「いや、大丈夫。お前が来ないなら今日はおとなしく帰るよ」


 俺は軽く受け流す感じに一之瀬に言った。だって一之瀬が悪い訳じゃない。用事がある事は仕方のない事で、俺が何を言っても今の状況を打破する事は出来ない。

 けして諦めた訳じゃない。今回ばかりは本当にしょうがない事なんだ。まぁ本心はマジで行きたいけどね。でもしょうがない。


「……わかったわ。小枝樹くんがそう言うなら」


 一之瀬は自分の感情を無意味に他人に押し付ける奴じゃない。だからこそ俺は言ったんだ。こういう所は俺も感謝するべきだな。


「じゃ、用事ってのがなんなのか分からないけど、あんま無理だけはすんなよ」


 最初の一言目で一之瀬は辛い表情を浮かべていた気がした。今になって気がついた感じはあるけど、少し心配になった。だから俺は『無理はするな』とだけしか言えない。

 俺の勘違いだったとしても普通の言葉として処理できるくらいの言葉を選択したつもりだ。

 そんな俺に一之瀬は


「……ありがとう」


 その言葉を聞き、俺は自分の中にある何かに納得し教室を出て行った。

 

 

 ◆

 

 

 はぁ。教室を出たは良いが、行く当てがない。こんな早い時間に帰りたくはないし、どこで時間を潰すか。

 俺はそんなくだらない事を考えていた。いや待て、何か今俺が考えているのって普通の高校生っぽくない? 空いてしまった時間を家に帰る事もせず、どうにか有効利用しようとしてる感がまさにザ・高校生。

 やっと俺の念願かなった時間が訪れたんだ。あの場所に行かなくても俺はリア充出来るじゃないか。今の俺マジ充実。

 そんな事を考えながら俺は昇降口の前を通り過ぎようとしていた。その時


「……拓真」


 ふとどこかで聞いた事のある女の子の声がした。俺はその声が聞こえた方を振り向く。そこには


「なんだ。雪菜か」


 俺の幼馴染の白林 雪菜がいた。


「今日はあの場所に行かないの」


 雪菜の声音に違和感を感じた。だが雪菜の雰囲気はいつもと変わらない。


「あー、うん。今日は一之瀬に用事があるみたいで行かない事にした」


 とりあえず俺はいつものように雪菜と会話をする。これで何も無ければさっきの違和感はきっと俺の勘違いで終わるだろう。


「……一之瀬さん、か」


 俺の言葉を聞いた雪菜は一之瀬の名前を言い俯いた。やっぱり今日の雪菜はどこか変だ。俺はそんな雪菜が心配になり


「おい。どうしたんだよ雪菜」


 近づき俺は雪菜の頭を優しく撫でた。それでも雪菜は顔を伏せたままだった。なんだか雪菜の事が最近分からない。何を考えているのか、何を思っているのか。前までの俺なら分かってあげれてたのに……。

 俺は雪菜の頭を撫でながら、雪菜の気持ちを分かってあげられない自分を責めていた。


「……あのさ拓真。今日は久しぶりに一緒に帰ろっ」


 辛そうにしていた雪菜は居なくなり、頭の上にあった俺の手をどかし、雪菜は笑って俺を見上げながら言った。俺はその笑顔を何も疑わずに


「そうだな。久しぶりに一緒に帰るか」


 雪菜に笑いながら応えた。

 

 

 ◆

 

 

 雪菜との帰り道。本当に久しぶりで俺も雪菜も少しはしゃいでいた。色々は場所に寄り道をして気がつけば辺りは暗くなってしまっていた。


「ねぇ拓真。最近は楽しい?」


 賑やかな繁華街から離れ、自宅へと足を運び始めた俺等。雪菜は俺の前を歩きながらそんな質問をした。


「ん?どうしたんだよいきなり」


 静かな住宅街に入り、俺の声は少し響いた。


「なんかさ最近の拓真、無理してるんじゃないかなって思って」


 雪菜は晴れた夜空を見上げながら言う。俺もそんな雪菜に釣られて空を見上げた。そこには沢山の星が散りばめられていて、これは夢じゃないかと錯覚してしまうくらい綺麗だった。

 だからこそ、雪菜の質問に疑問をおぼえた。


「無理なんかしてないよ。俺はいつだって平凡。もう無理なんかしねーよ」


 俺の言葉を聞いた雪菜は立ち止まった。そして俺の方へと振り向き、眉間に皺を寄せた雪菜はとても辛そうに


「……じゃあ何で、あんなに大嫌いだった一之瀬さんと最近いるの?」


 俺は雪菜のその質問を返すことが出来なかった。黙り込んでしまった俺を見かねたのか雪菜は再び歩き出す。

 俺は何を言えずに、何も話せずに雪菜の後ろをただただ付いて行く事しか出来なかった。

 ゆっくりゆっくりと家に近づいていく。そんな中、雪菜が再び口を開いた。


「ねぇ拓真、この公園覚えてる?」


 そこには懐かしい公園があった。俺と雪菜の家の近くにある公園。それを忘れる方が難しい。


「あぁ、覚えてるよ」


 俺はやっとの思いで口を開いた。そんな俺の言葉を聞きながら雪菜は夜の公園へと入っていく。

 夜の公園はとても静かで、誰もいない。街灯の灯りと月の灯りだけが俺と雪菜を照らしていた。

 雪菜は公園にあるブランコに乗った。ギーコ、ギーコと漕ぎながら雪菜は少し昔話を始めた。


「ここでさ、あたしは拓真に救われたんだよね。あの時拓真が居なかったら、きっと今もあたしは笑ってないと思う。あの時の拓真の笑顔、今でも鮮明に覚えてる。あの優しく差し出してくれた手も……」


「……雪菜」


 笑顔のまま話す雪菜。ブランコを漕ぐのを止め、雪菜は立ち上がり


「あたしは拓真の事ちゃんと知ってるよ。分かってあげられてるよ。ずっとずっと昔から……。なのに、最近はあんなに大嫌いだった一之瀬さんといる」


 俯く雪菜。だが俺はそんな雪菜に曖昧な事しか言えなくて


「だから色々あったんだよ。一之瀬と関わらなきゃいけない事情が。俺だって最初は断ったんだ。でも済し崩しにこんな感じになって、それでも無理はしてない。これは本当だ」


 言い訳を並べる俺。今の自分が凄く嫌になってる。


「無理してないならちゃんと教えてよ」


 大きな瞳に沢山の涙を溜めて言う雪菜。俺はまた雪菜に心配かけてるんだな。だけど


「……それは、言えない」


 俺の言葉で瞳に溜めていた涙が雪菜の頬を流れるのが見えた。その瞬間


「……なんでよ。どうしてよ……。あたしに隠し事なんかしないでよ、たっくんっ!!」


 雪菜の言葉で俺の心臓は跳ね上がった。そう、たっくんという言葉で。

 雪菜は俺の態度で気がついたのか、涙を流しその瞳を見開きながら


「ち、違うの拓真……。い、今のは、違うの……」


「もういいよ雪菜」


「ちがっ……」


 泣きながら取り乱す雪菜を俺は少し睨みながら


「俺はもう、たっくんじゃない。一之瀬との事もお前には言えないし、お前が戻ってきて欲しい『たっくん』も戻らない。今日の事はちゃんと忘れるから、明日になればいつもの拓真だから」


 俺はそう言うと雪菜に背を向け公園から立ち去ろうとした。


「……ま、待って。待ってよ、拓真……」


 泣きじゃくる雪菜の声を聞こえないようにして、俺は歩き出した。

 

 

 

 

 

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