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天才少女と凡人な俺。  作者: さかな
第四部 夏休み 交差スル想イ
59/134

20 後編 (拓真)

どうも、さかなです。


今回の話で第四部が終了します。

『天才少女と凡人な俺。』を読んでくださっている皆様、本当にありがとう御座います。


まだまだ文章力もストーリーも未熟ですがこれからも『天才少女と凡人な俺。』をよろしくお願いします。


あと、ブクマをつけていない方でもコメントを承っています。

誤字脱字は自分でも読み返しているので何となく把握しているんですけど、いかんせん早く書かなきゃという思考に苛まれ編集をしていません……。

そこは大目にしてほしいって思っています。


ですが話の内容的な部分は中傷も指摘も肯定も色々な意見を聞きたいって思っています。


まだまだ未熟なさかなですが、なにとぞよろしくおねがいします。


でわ、さかなでした。

 

 

 

 

 

 佐々路の声はこの周囲に木霊した。


現実を受け入れて、自分という存在を認識して、他人という負荷のある物事を打ち払い、本当の自分の言葉。理性という人間だけに与えられた制御システムを改ざんし、感情という心の奥底にある真実の気持ちを曝け出した。


その言葉は、声は、今の俺にはあまりにも酷すぎた……。


大きな声で叫んで、自分の気持ちを曝け出した佐々路の息は上がっている。だけど立ったまま一瞬膝に手をついた佐々路は、もう一度荒れた呼吸を空気を吸い整える。そして顔を上げた佐々路は


「これが、あたしの本当の気持ちだよ」


笑ってた。ポロポロと涙を流しながらも、佐々路は笑ってたんだ……。


俺に可愛いって思ってほしくて頑張ってしてきた化粧が滲んでいて、何度も何度も自分の感情を殺す為に掴んだワンピースはシワクチャになっていて……。どれだけこんな俺の事を思ってくれてたんだよって心の中で呟いた。


本当に俺には何も出来ない。俺には誰かの気持ちを考える事なんて出来なかったんだ。もう引き返すことの出来ない状況にならない限り、俺は自分以外の他人が関与する事柄から目を背け続けるだろう。


だけど、今は真っ直ぐ佐々路を見るんだ。


「本当に俺の事が好きなんだな……」


「うん、あたしは小枝樹が大好き。ずっと小枝樹の隣にいたいし、小枝樹の苦しみを一緒に苦しみたい。きっとあたしと小枝樹だから、いっぱい喧嘩とかしちゃうかもしれないけど、それでもあたしは小枝樹の傍にいたい」


佐々路の言葉には想いを感じれた。俺の事を本当に大切だと想ってくれている。だからこそ辛いんだ……。


「ごめん、佐々路……」


こんなにも言葉を紡ぐのが辛いことだなんて思わなかった。それでも俺は自分の気持ちを伝えてくれた佐々路にちゃんと伝えなきゃいけないんだ。


「その気持ちには、応えられないっ……」


苦しかった。本当に心が何か俺の知らないものにグチャグチャにされているような感覚だった。だけどこの心の痛さは俺が受け止めなきゃいけない罰なんだ。全部、俺のせいなんだ……。


「やっぱりフラれちゃったかー」


佐々路から視線を逸らしていた俺は、その言葉で佐々路の方へと目線を戻した。


「何となくこうなるって分かってたんだよねー。そかそか、あたしじゃダメだったか……」


「もういいよ……」


「だけどさ少しはいけるって思ってたんだよ? あたしと一緒にいて小枝樹だってまんざらでもないって感じだったしさー。でもやっぱりダメか」


「もう止めろよ佐々路っ!!!!!」


聞きたくないと思った。佐々路が無理して明るい自分を演じようとしていたから。そんな佐々路を見たくないって思った。だけどそんな佐々路にしてしまったのは俺だ……。


「止められないよ。だって、ここで空元気にならなきゃ、あたし泣いちゃうもん……」


そう言う佐々路はもう泣いていた。それでも自分が涙を流してしまっている事実から目を背けようとしていた。


そんな佐々路を抱きしめてやりたいって思った。だけど今の俺にはそんな事出来るわけがなくて、ただただままならない気持ちを紛らわすために拳を強く握っていた。


「どうして小枝樹はそんなに優しくするの……? その優しさはいったいなんなの……?」


俺の優しさ……?


「そんなもん自分でもわかんねぇよ……。だけど俺は佐々路を選べないし、今の佐々路が泣いてる原因は俺にあるって事も分かってる。それでも俺はこんな状況になってても、佐々路には笑っていて欲しいって思ってるんだ。それが自分のワガママだってのも知ってる。それでも……」


「本当にワガママだよっ!!」


どんなに言葉を並べても今の佐々路を癒すことも救うことも俺には出来ない。その答えが今の佐々路の叫びだ。そして叫んだ佐々路はゆっくり俺の方へと近づいてきて


「でもやっと自分の気持ち伝えられた。だから、これでもう全部終わりだね」


俺の横を通り抜ける佐々路が俺の耳元で囁いた。


その言葉を聞いて俺は何も言えない。ただただ俺の近くから佐々路が去っていくのを感覚だけで知ることしか出来なかった。


少しずつ足音が遠ざかっていく。俺にはもうなにも出来ない。このまま佐々路が言ったように全てが終わるんだ。


佐々路に出会って、佐々路の苦しみに触れて、佐々路の体に触れて……。俺の知らない所でキスまでして、佐々路のことを凄く近くに感じていた。そんな佐々路を俺はここで失うんだ……。


本当に佐々路に出会ってから楽しかった。何かあるごとに俺にちょっかいを出してきて、アイツらしい冗談なのか本気なのか分からない言動。それに振り回されたりしたけど、俺にとっては大切な思い出だ……。


『頑張って作った砂の山は簡単に崩れちゃうんだよ……』


海での佐々路の言葉が甦った。それは本当に急な事で、どうして思い出したかなんてつまらない疑問は考えない。それは


砂の山は何度でも作り直せる。


「佐々路っ!!!!」


もう遠くの方まで行ってしまっている佐々路にも聞こえるくらいの大きな声で俺は叫んでいた。そんな俺の声が聞こえたのか、佐々路の歩みが止まった。


「お前が言ったように今、全部終わったよっ!! だけどそれは、魔女のお前と天才の俺の関係だけだっ!!」


やっとわかったんだ。俺が佐々路に伝えたい本当の気持ち。


「きっと佐々路と俺の出会いは凡人からしてみたら歪なものだった。それは俺も佐々路も普通じゃなかったからだっ!! 他人の事を想って嘘をつく女と、大切な人を守りたいって思ってた天才が俺等だろっ!! そんなもん普通じゃねぇんだよっ!! だからここで終わりでいいんだ」


どんなに叫んでも佐々路は俺の方へと向いてくれない。それでも俺は叫び続ける。


「魔女と天才だった俺等の関係は、佐々路が言ってた様にここで終わるっ!! だからここから始めようっ!!!!」


今度は俺が伝える番なんだ。


「佐々路 楓と小枝樹 拓真の関係をっ!!!!!!」


どうして俺はこんなにも熱くなっているのだろう。その理由を夏という季節のせいにしたいと俺は思った。


そんな風に思っても、佐々路はいっこうに俺の方へと向きを変えてくれない。それが自分の言葉が通じていないのだと俺は悟った。だから


「俺は全部いらないって思ってた。俺は独りでいいって思えてた。だけどあの場所で、B棟三階右端のあの場所には皆が居なきゃダメなんだって今の俺は思ってんだよっ!! そこには佐々路も居なきゃダメなんだっ!!」


俺の言葉に応えてくれるなんてもう思わない。それでも俺は


「やっとつまんねぇ俺等の関係が終わったんだよ……。やっと佐々路 楓と小枝樹 拓真でいられんだよ……。やっと」


この時の俺は地面を見ていた。コンクリートの灰色が夕焼けの赤色でぼんやりした朱色だった。仄かに香る夏の終わりの香り、まだまだ鳴り止まないセミ達の鳴き声。太陽が傾いているからなのか、少しだけ秋の雰囲気を感じていた。


「俺等は友達でいられんだよっ!!!!!!」


叫び終わった俺は清々しい気持ちと苦しい気持ちが混同した複雑な思いに苛まれた。佐々路には今の自分の気持ちを伝えられたし、ちゃんと向き合って佐々路の気持ちに答える事も出来た。だけどそれは、俺の大切な人を失ってしまうという事で、時間が戻って欲しいとさえ思っていた。


どんなに綺麗な言葉を並べても、どんなに自分の気持ちを伝えてもその思いが報われるのは本当に少ない事なのかもしれない……。


だけど俺はそんな現状を理解して受け止めて生きていくしかないんだ。俺には後悔をすることなんて許されてないのだから……。


そんな俺は力なくその場で崩れ落ち、もう何も見たくないと思った。全部、終わってしまったから。


「小枝樹」


終わってなんていなかった。


「……佐々路?」


俺は地面に膝をついたまま俯いた顔を上げた。そこには佐々路が居て、俺の事を見ながら微笑んでいる。


「ほら立って。いつまでも座ってると服汚れちゃうよ」


そう言い佐々路は俺に手を差し伸べた。俺はその手を掴み立ち上がる。


「ありがとね小枝樹。あたしなんかの為に叫んでくれて。やっぱり小枝樹は本当に凄いよ。あたしは諦めちゃった、全部諦めてもっともっと自分を嫌いになろうって思った。でも小枝樹は諦めないで、あたしに気持ちを叫んでくれた。だからやっぱり凄いね━━」


目の前にいる佐々路は再び涙を流した。だがその涙は一筋だけで、その輝きを見せながら佐々路は笑った。そして


「本当に砂の山がまた新しく出来ちゃった」


夕日に染められた少女が俺へと微笑みかけながら言う。その少女の微笑みは今まで見てきた笑顔の中でも一番綺麗で、自然と俺も笑顔になった。


「小枝樹が言うようにここからまた始められるんだよね……? 魔女と天才じゃなくて佐々路 楓と小枝樹 拓真の関係がちゃんと始めるんだよね……?」


笑っていたのもつかの間、佐々路の表情は少しの不安を表した。


「あぁ。始められるよ」


「……そっか。なら先制攻撃しちゃうね」


不安な表情から再び笑顔に戻る佐々路。そして少女のような笑顔を見えた佐々路は


チュッ


俺の唇を奪っていった。その感触は一瞬で、なにか唇に当たった程度のものだった。だけどそんな行為をさせるとは思っていなかった俺は


「さ、さ、さ、佐々路っ!? お、おま、お前なにやってんだよ///」


「だから先制攻撃だってば。だから今度はちゃんと覚えていてね。今あたしが小枝樹にした事も、あたしはずっと小枝樹の味方でいるってことも」


頬を赤く染めていたのは俺だけじゃなかった。照れくさそうに言う佐々路がそこにいたから。


「忘れねーよ。何があっても絶対に」


そうだ。俺と佐々路の関係はここから始まる。だからこそ俺は今の事を絶対に忘れたりしない。それだけじゃなく、これまでにあった沢山の辛いや苦しいも忘れない。きっとそれを忘れてしまったら、俺はまた誰かを傷つけてしまうから。


微笑む佐々路を見て俺も微笑んで、その現実がとても心地が良い。こんな風に全ての人が分かり合えて笑い合える時がきたらそれはきっと幸福だ。


そんな何かを悟ったフリをしている俺の夏休みは幕を閉じた。


沢山の苦しみや悲しいを乗り越えて、それ以上の幸せや大切を手に入れて……。






 9月1日。


本当の意味での夏休みが終わった。久し振りの登校は辺りを見渡して分かるように新鮮なものだ。


夏休みという大型連休を経た学生は色々変ってしまう。とくに変らない人もいれば、完全に夏の悪魔に持ってかれてしまった人間まで様々だ。


だがやはり気になってしまうのは恋人同士になった奴等だった。9月に入り涼しくなると思いきや、残暑という人間が作り出したつまらない表現のせいで、夏休みが終わったのにもかかわらず夏が終わっていないという状況だ。


まぁ俺が何が言いたいのかというと。何もしなくても暑いんだから人様の目の前でベタベタベタベタすんじゃねぇよ。


本当にリア充崩壊しろ。というか砕けろ、そして破裂しろ。


というユーモアたっぷりの脳内妄想は置いておいて。もう一度人間観察に戻りましょう。


そう思い再び辺りを見渡して見るが、これと言って面白そうなものはありませんでした。


「はぁ……」


小さく溜息を吐き、俺は二学期のことを考える。


二学期になればまた色々と面倒な事が沢山ある。生徒会選挙に文化祭、そして二学期終業式の夜に行われる冬祭り。


イベントが多いのは良い事なのかもしれないが、そのイベントのスパンがとても短い。それじゃなくても二学期にはうちの学校特有の前期テストがある。


一学期のテストは体育祭前の期末だけという普通に鬼畜な制度なのに、二学期には中間がないのに前期テストがある。それが終わればすぐに生徒会選挙。そして10月には文化祭、その後期末テスト、最後に冬祭り。


完全にオーバーワークになるよね……。特に二年の二学期ともなれば仕事を押し付けられること間違いない。一年生に仕事内容を教え、三年生のサポート。それから……。


あー考えるだけで面倒くさい。どうせまた二学期も一之瀬が面倒ごとを持ってくるに違いない。そうしたら俺に休む暇があるんですか? あれー? おかしいな、おかしいなー。


どんなに考えても休みがない……。その時


バシンッ


俺は自分の背中を誰かに物凄い勢いで叩かれた。


「おっはよー小枝樹っ!! なに暗い顔してんの? 二学期はまだ始まってないのだよっ!」


「いってーなっ!! 挨拶をしてくるのはいいが、背中をフルスイングで叩くのは止めなさい佐々路っ!!」


俺の背中を叩いたのは佐々路 楓だった。そんな佐々路は痛がっている俺を見ながらケタケタと笑っている。その姿を見ていて俺は思う。本当にこの女は馬鹿だ。


そんな佐々路は俺を見てケタケタ笑っていたのに、何か違和感に気がついたのかキョトンとした表情で


「あれ? 雪菜は一緒じゃないの?」


「あー? 雪菜ならいつもの如く寝坊したから置いてきたよ。まだ夏休みの感覚が抜けてないんだろ」


俺は自分の背中を擦りながら佐々路へと答える。その俺の言葉を聞いた佐々路は俺の隣に来て


「そっかそっか。なら今日は一緒に登校しよっ」


そう言われた俺はそのまま佐々路と二人で歩き出した。



 何か特別な事があるのではないかと勘ぐりながら俺は佐々路を登校している。別に無言だった訳じゃない、ただ俺が思っていたような話が出てこなかったから少し拍子抜けしているだけだ。


他愛も無い会話をして、一学期の頃と何も変らない通学路を歩く。変ったといえば夏の緑が鮮やかで、少しだけ秋に近づこうとしている草達もいた。そんな時だ


「ねぇ小枝樹。あの時は本当にありがとね」


不意に佐々路は微笑を浮けべながら話し出す。そして佐々路の言うあの時とはきっと佐々路が俺に告白してきた日の事を言っているのだろう。


佐々路に会ってからその話しをされるんじゃないかと思っていた俺は、心の準備が出来ていた。


「なんかさ、あの後家に帰って考えたら、凄く悲しくなった。あーあたし本当に小枝樹にフラれたんだなって……。でもね、小枝樹があの時大声で気持ちを叫んでくれてなかったらもっと辛かったって思うんだ」


俺の隣で歩く佐々路は空を見上げながら言った。


「まぁ普通に泣いたけどね。それでも気持ちを伝えられて良かったって思うし、こうしてまた小枝樹の隣で歩けてるのも嬉しい」


なんだか俺は、話している佐々路を見て凄く大人な女性に見えた。それがどうしてだか俺には分からないが、俺の隣で微笑む佐々路の中では何かが変ったのだろう。


「つかあの時も聞いたけど、どうして俺だったんだよ?」


「本当に小枝樹は鈍感だね。つーか一回言ってるのにわからないとかどんだけ? まぁ何度言ってもあたしは大丈夫だから言うけどさ、小枝樹はあたしを救ってくれたんだよ」


少し怒る佐々路の気持ちは何となく分かった。何度も何度も同じ質問をされれば俺だって怒る。


「きっと今まで生きてきた中で今が一番あたしでいられてる。『佐々路もいなきゃダメなんだっ!!』あの言葉本当に嬉しかった。小枝樹はあたしを女の子として必要としなかってけど、友達としてあたしを必要としてくれた。ううん、小枝樹だけじゃないね……。皆もあたしを必要としてくれた。たぶんそれにちゃんと気がつけたのは小枝樹を好きになったからだよ」


どこまでも素直で、どこまでも佐々路は純粋なんだ。自分を魔女だと卑下し、他人を利用することだけを考えてきたなんて言ってたけど、コイツの本質は他人の事を思いやることだ。


結局、俺とキスをした事実を隠していたのも、きっと俺を苦しませないためだったんだって思う。佐々路はまだ戻れるからとか言ってたけど、コイツはそんなに自分を優先するタイプなんかじゃない。


だとすれば、どうして佐々路は皆じゃなくて俺を選んだなんて言葉を使ったんだ?


清々しいといわんばかりの表情をしている佐々路。そんな佐々路の言葉を聞いて俺も少し楽になれたような気がした。そして


「なぁ佐々路。もう一つ疑問に思ってることがあるんだけど聞いてもいいか?」


「なに?」


少し聞くのが怖かった。その恐怖は何か特別で大きな力が俺等を支配しようと画策しているんじゃないかと、意味不明で現実的でもない恐怖だった。


「どうして……。どうして佐々路はあの時━━」


「たぁぁぁぁぁぁぁぁぁくまぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!」


おいおいこのタイミングですか? どうしてお前はいつもいつもタイミングを間違えてしまうのですかね? いや、登場することを拒否しているのではないのです。ただただお前の事を本当にバカな奴だと思ってしまえるんですよ。雪菜嬢。


「大声で俺の名前を叫びながら走ってくるなっ!!」


「どうしてあたしを置いてったのおおおおおおおおおおおっ!! いつもいつも拓真は酷いよおおおおおおおおっ!!」


俺の言葉なんて完全に無視して自分の言いたい事だけを叫ぶ雪菜。だからこそ俺が雪菜にとる行動は、説教だっ!!


「いいか雪菜よく聞けよ? お前は何度も何度も俺に注意されているのにもかかわらず、また寝坊をした。確かに俺が迎えに行った時にちゃんと起きて素早く支度をすれば遅刻はしない。だが、お前はいつもの如く寝坊している分際で朝食を食おうとした。それがどこまで俺の事をバカにしている行動なのかお前は━━」


「あ、楓ちゃんおはよう」


「おっはよー雪菜」


って……。


俺の事を無視してんじゃないよおおおおおおおおおおおおおおっ!!


雪菜も雪菜だが、佐々路も佐々路だ。どうして俺はいつもいつもこんなポジションで生きていかなきゃいけないんだよっ!! なんだ? 俺が間違ってるって言いたいのか? 雪菜に対しての行動は間違ってないよっ!! 親心だよっ!!


そんな風に脳内で叫んでいても現実の俺はただただ額を押さえ溜息をつくことしか出来てなくて。


「じゃ、雪菜も合流したしあたしは先に学校行ってるねー。あと━━」


軽く雪菜と挨拶を交わした佐々路はそそくさと学校へと向ってしまった。


そして残される俺と雪菜。


雪菜は名残惜しいと言わんばかりの視線を佐々路の背中へと向けていた。本当にこの雪菜嬢は素直じゃない。


自分がしたいことだったら俺なんか放っておいてすればいいだけの話なのに……。


「おい雪菜。佐々路の所に行きたいんだろ? だったらさっさと走っていけっ!!」


俺は雪菜の背中を物理的に押した。すると


「ちょ、拓真!? べ、別にあたしは」


「なに言ってんだよ。つべこべ言わずに佐々路追うっ!」


「拓真……。ありがとね。楓ちゃーんっ!! 待ってーっ!!」


俺に礼を言い雪菜は走って佐々路を追いかけていった。


そして俺は再び一人になる。まぁ基本的に雪菜はいつも寝坊してるから一人で登校する事なんて慣れっ子ですよ。


つーかさ、どうして雪菜も佐々路もあんなに素直じゃないんだ。自分がそうしたいって思うなら実行すればいいだけの話なのに。まぁ佐々路が最後にあんな言葉を言わなきゃ俺も雪菜の背中なんか押してないか。


『ありがとね雪菜。あたしの事考えてくれて』


あんな事聞いたら雪菜の背中を押すしかないでしょ。俺に出来ることなんてそれくらいしかないんだ。


どんなに自分が天才だとしてもやれることなんて少ない。確かにやればなんでも出来るけど、それは他人を介入しない単体のことだけだ。


チームという事柄に縛り付けられてしまったら天才だってただの凡人と変らない。誰かと手を取り合っていけるからこそ楽しいって思えるんだ。


これは俺が勝手に思うことだが、天才とは努力という過程をとばすことの出来る存在。そして誰からも愛される存在。だが、その愛は表面上なものでしかなく天才はいつまでたっても孤独なんだ。


それが真実は言わない。今の俺には沢山の友達がいるから。だけどそれがもし偽りだとしたら……。


そんなつまらない考えを浮かべるのはよそう。そうだ、夏休みの事をもう少し思い出してみよう。


この夏で俺は小枝樹家の本当の家族になれた。それは雪菜のおかげで……。もう雪菜には頭が上がらないですよ。そんな雪菜から聞かされた旅行の時の真実。初めは信じたくなかった、だけど結果的にそれは真実であって俺はどうしていいか分からなかった。


だけどそんな俺の背中を、雪菜は押してくれた。アイツはもう俺が守らなきゃいけない弱い雪菜なんかじゃない。


俺のヒーローだ。


それで佐々路と沢山の想いを言い合って、分かり合えることが出来た。本当に色々な経験をこの夏でしましたよ。


後は、一之瀬の誕生日だな。アレは本当にきつかった。つーか一之瀬 樹ってなにもんだよ。あれは本物の化け物だぞ!? というか、雪菜を見失った時に俺の背中を押してくれたのは一之瀬だったな。


あの時は本当にもうダメだって思った。だけど一之瀬がそんな俺を勇気づけてくれたんだ。だからこそ俺は雪菜を見つけることが出来た。


そう思うと、俺ってもう独りじゃないんだな。


そんな風に思えてきて少し嬉しくなってしまう。


今日から二学期。また翔悟とか神沢とか面倒くさい奴等と同じ時間を過ごさなきゃいけないのか。あーマジで面倒くさい。


そんな風に思いながらも、俺は少し笑った。


沢山苦しいことがあるし、きっと辛いことだってある。だけど今の俺が神様に願うのは




楽しい日々が続きますように。












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