17 前編 (拓真)
青い海を眺めながら俺は思う。
どうしてこの海はこんなにも青いのだろうと。だが、その疑問は些細なことで、普通に現実逃避したい俺が無理矢理に作った疑問である。
どうして俺が現実逃避したいのか。それは話せば長くなる。いや、そんなに長くはならないだろう。というか、一言で終わる。それは
「小枝樹くーーーーーんっ!!」
そう、このイケメン王子神沢が俺の体を蝕む元凶なんだ。どうしてコイツはこうも俺に懐いている。
一之瀬の別荘に着いてから皆すぐに海へと繰り出していった。
一之瀬の別荘は、俺が思っていたよりも遥かに上のものだった。さすが一之瀬財閥だと言いたくなるくらい素晴らしいのもだ。
別荘の目の前に広がる広大な海、そして辺りに溢れる自然。木造の綺麗なその建物には海側にウッドデッキがついていて、そこには白く清潔感のあるテーブルと椅子が備わっていた。
俺はみんながはしゃいでいるのを一人、このウッドデッキで見ていたのにもかかわらず、神沢がそんな俺を見かねたのか余計な気遣いをし、今は俺も海辺で遊んでいる。
どうして俺がデッキにいたのかというと、来る途中の車で酔ってしまったせいで体調があまりよくない。
そうそう、来る時の車の話しになるが、学校の前で待っていた俺たちの目の前に黒塗りのリムジンが登場したのにはビックリした。
一之瀬が手配したらしいけど、リムジンが来るなんて思ってもみなかった。さずが一之瀬財閥……。
というか、俺はどれだけ、さすが一之瀬財閥、と思えば気が済むのだろうか。でも、本当にさすが一之瀬財閥だ。
まぁそれで話は体調が悪いという所に戻るが。今の俺は本当に体調が芳しくない。なのにもかかわらず、海でテンションが上がってしまっている神沢を断れるほどの体力も残っていなかった。
そんなこんなで俺は無理矢理身体を動かしながら海で遊んでいます。
確かに体調は悪いが、海も綺麗だし空は晴天だし、それに
バシャーンッ
「も、もう、か、楓ちゃん。や、やめてよぉ」
「はっはっはっ!! あたしの水攻撃は誰も止められないのだっ!!」
海の浅瀬ではしゃぐ女子二人。
水をかけている女子は、大人っぽい黒のビキニだ。赤いバラのような花が上下共にワンポイントで装飾されているのが、色だけではなく更に大人な感じを演出していた。その水着を着ている女子の名は、佐々路 楓。
そして水をかけられている方の女子は、ミンク色のビキニで体系の幼さに合っている色だと思った。そして水着の細部にはヒラヒラとした布があり、お姫様のような演出に成功している、前回見たのがスクール水着だったからなのか、子供っぽい水着を着ていても歳相応の無邪気さを垣間見る事がだきる。そんな水着を着ている女子の名は、牧下 優姫。
本当に俺も思春期の男子高校生だと再認識してしまう。だって、海で遊ぶよりも女子の水着姿を眺めていたいと本気で思ってしまっているから。
そんな俺は佐々路と牧下から目を放し、砂浜で遊んでいる残り二人の女子に目を向けた。
「ねぇ雪菜さん……。いったい貴女は砂で何を作っているの……?」
「えっ? 何で夏蓮ちゃんわかんないの? どこからどう見ても肉まんだよ」
しゃがみながら砂遊びをしている二人。その中の砂で肉まんを作っている女子。
砂浜で遊んでいるせいか薄手のパーカーを着ていて水着がよく分からない。だが、しゃがんでいて見える下半身の水着は淡い青色をしているというのが見るかとが出来る。そんな女子の名前は、白林 雪菜。
そして、そんな肉まんを砂で作っている雪菜に対して疑問を抱いている女子は、雪菜同様に上半身はTシャツで隠れている。だが、雪菜の時にも言ったが下半身の水着だけは見ることが出来た。白の水着を着ている事だけは分かるが、それ以上の情報を今の状況で得ることは難しいみたいだ。
というか、水着がどうとか、そんな事忘れてしまいそうになる装備品を彼女は身につけていた。それは
大きなサングラスだ。
なんだ、芸能人気取りですか? まぁ確かにメディアにも出ていたようなお方ですから顔を隠すのは当たり前なのかも知れませんれど、ここってプライベートビーチだよねえええええええっ!!??
本当に天才が考えている事は理解出来ませんよっ!! どこぞの外国人セレブなんですか!? というかそんな格好をしながら砂遊びしている姿がシュールすぎるんだよっ!!
という脳内ツッコミをしているだけで体力が物凄い勢いで減っていく……。体調が悪いんだからそんなにツッコミをさせないでくださいよ一之瀬さん……。
俺はこの海に似合わない溜息を吐き、砂浜で座った。
体調が少し優れないのもそうだがやっぱり俺は皆の楽しんでいる姿を見ているほうがいい。この感情はいったいなんなんだ。もしかして、父性なのか……!?
いやいやいや、俺はまだ現役の高校生であって父性なんて芽生えるはずがない。というか女の子と恋愛関係になった事もないのに父性とか有りえないだろう。
そして俺は恋愛という言葉に少し引っかかりを感じだ。
もしかしら俺はこの中にいる誰かとそういう関係になるのかな。友達を超えた恋人に……。
でも、雪菜は幼馴染で妹みたいだし。佐々路は女友達の中でも一番、お互いのことを話せる奴で友達以上には見れないし。牧下は確かに可愛いけど、俺の好みだけど、でもそれ以上に友達でありたいと思ってしまう。
そして一之瀬は、俺の大嫌いな奴だった。天才で何もかもできて、金持ちで全てを持っていて、なのに今では少し一之瀬のことが心配を思ってしまう。
天才のくせに不器用で、自分の気持ちを誰かに伝えるのが下手くそで、それなのに誰かの為に頑張ろうとする。もしかして、俺はそんな一之瀬に……。
『貴方は選ぶのです』
不意に後藤が俺に言った言葉が脳裏を巡る。その言葉の意味を理解しようとしない俺がいるのに気がついた。
俺は誰かと誰かを天秤にかけるような事はしたくない。だって、皆大切な俺の友達なんだ……。やっと出来た、俺の友達なんだ……。
太陽の熱で温度が上がっている砂浜の上、座っているせいで尻が少し熱くなってきていた。だが、今の俺はそんな熱を感じる事が出来ないで、そんな砂を俺は強く手で握っていた。
そして俺は小さく呟く。
「……俺は、誰も選ばない」
風の音と波の音、潮の香りに木々の匂い。誰もが心を浄化できる場所で、俺は独り苦しんでいた……。
本当はもっと皆と楽しく遊びたい。でも、春桜さんに一之瀬の本当の姿を見せる時、皆が楽しく花火をしている姿を客観的に見て俺は思った。
俺は本当に、この場所にいてもいいのか……。もしかしたら、俺は必要ないんじゃないか……。
皆の事は大好きだし、もっと一緒にいたい。だけど、俺がいればまた誰かが傷つくかもしれない……。
そんな考えてもどうしようない事を、俺は海と友達を眺めながら考えてしまっていた。そんな時
「おい小枝樹。こんな所で何一人黄昏てんだよ」
笑顔で俺に話しかけてくるのは崎本だった。そんな崎本は俺の隣に座り
「つか本当にどうして遊ばないんだよ? こんな場所に来れるなんてもしかしたらもう二度とないかもしれないんだぞ?」
何をこの凡人は力説しているんだ。その姿を見てるだけでこの人間がどれ程バカなのか分かってしまう。そんな崎本に俺は
「車に酔って体調が悪いんだ。だからずっとデッキで休んでたのに、神沢が俺を無理矢理連れてきたんだよ」
そう、全ての元凶は神沢司にある。あのイケメンがか弱い俺を連行したんだ。つか、どうして俺とあんなに遊びたいと言っていた神沢は、俺を放って遊んでいるんだ。体調がよくなったら絶対に苛めてやる。
足元にある砂を弄りながら、悪い考えを俺は浮かべていた。
「でもさ小枝樹。どうして女の子と海に遊びに来れたのに、誰も俺にオイルを塗ってくれと頼んでくれないんだ?」
崎本の言葉で俺は目が点になってしまった。本当にコイツはいったい何を言っているんだ。つか、崎本が言いたいのはあれだろ。
よくラブコメ系の小説や漫画なんかである、可愛い女の子がうつ伏せになり、上半身の水着の紐をとって「ねぇ、オイル塗ってくれる?」とか言ってくるあれだろ。
そんな夢のような話が起こるわけないだろっ!! 本当にそんな事が起こるんだったら、俺だって牧下に言われたいよっ!! エンジェル牧下のスベスベで真っ白な背中に触れたいよっ!!
とまぁ、邪な事を考えていても俺は決して崎本には賛同しない。
「はぁ……。崎本、お前って本当にバカだな」
「な、何でバカなんだよっ!! 男の夢じゃないかっ!! 一之瀬さんに白林さん、牧下さんという三大美少女が今俺等と海に来てるんだぞっ!?」
コイツ意図的に幼馴染の佐々路の名前を抜きやがったな。
「おい、佐々路を忘れてるぞ」
「何言ってんだよ小枝樹。楓なんかただのチンチクリンじゃねーか。アイツにオイル塗ってなんて言われたら、そのオイルを頭からかけてやるわっ!!」
崎本の言葉で俺の脳裏に一瞬、佐々路がオイルまみれになっている姿を想像した。
「ふっふふ、あはっははっはっはっはははっははっ!! 確かにそれは面白いかもしれないなっ!! 佐々路が、オイルまみれ……。ふっふはっははっはははあはあっ!!」
何が面白かったのか分からないが、今の俺は佐々路のオイルまみれがツボだった。たまに崎本は面白いことを言うから、コイツが友達で本当に良かったと思う。あー腹痛い。
「楓がオイルまみれ」
「やめろ崎本っ!! マジで、あははは、腹が、はははは、よじれる」
「誰が、何まみれで、腹がよじれるって……?」
今の今まで笑っていた俺は、一瞬にして背後から憎悪の感情を感じると共に、その笑顔を失っていた。そして思う、振り向きたいないと。
「じゃ、小枝樹。俺は神沢達と楽しく遊んでくるから、生きて戻って来いよ」
崎本さん……? おかしいよね、裏切るの早いよね……? というか、どうして俺はこんなにもふざけた状況に陥りやすいのか。これはもう時空や次元を超えた悪意が俺を貶めているようにしか思えませんよ。
そして俺は引き攣った笑顔で振り向く。そこに居たのは
「どうも、小枝樹」
佐々路楓さんですよね、やっぱり。佐々路は笑顔だ。だが、その笑顔は怒りマークがついている笑顔で
「ま、待て佐々路っ!! 別に俺はオイルまみれになった佐々路の姿が面白いとか、そんな風に思って笑ってたわけじゃないっ!!」
何を言っているんだ俺はあああああああああっ!! もう完全に全部自白してんじゃないかよおおおおおおおっ!! どこまで頭の弱い子なんですか俺はああああっ!!
だが俺はアン子や一之瀬に鍛えられているおかげですぐさま防御体勢をとる事が出来る。その速さゼロコンマ二秒。
「まぁいいけどさ。邪魔な隆治もいなくなったし」
あれ……? 暴力が飛んでこない……?
でも待てよ。俺の防御壁が崩れ去る一瞬の隙をつく攻撃の可能性もある。そうだ、思い出すんだ。悪魔大元帥と阿修羅と戦った日々を。どんな時でも諦めず、生き抜くことだけを考えて戦ってきたあの瞬間をっ!!
どんなに無慈悲で殺戮的な攻撃にも耐えてきた俺が、防御壁を解除するタイミングを見誤ることなんてないんだっ!!
「つかいつまで腕で顔隠してんの? 別にあたしはぶったりしないよ」
………………。
俺が、見誤っただと……!? 何故だ。どこで俺は間違えたんだ。俺の考えうる佐々路の行動パターンならまだ障壁を展開しているのが一番なはずだ。いや待てよ、俺は佐々路の行動パターンを本当に頭の中でイメージできていたのか?
俺がイメージしていたパターンは、悪魔大元帥と阿修羅の行動パターンであって、佐々路の行動パターンを理解なんてしていなかったんじゃないか……? つか、なんか、恥ずかしい……。
「その、なんかすまん……」
俺はゆっくりと顔の目の前に展開していた防御壁を解く。そして顔に熱が帯びているのを感じた。
「もしかして、夏蓮とか如月先生みたいにやられるって思ったんじゃないの?」
俺の思考を完全に読まれている……。俺は佐々路の行動を読むことが出来なかったのに、佐々路は俺の思考を読むことが出来るのか……。完敗だよ、マジで……。
そんな佐々路は俺の横にちょこんと座った。
そして俺は至近距離で見る佐々路の水着姿に赤面してしまう。
だって、大人っぽい黒の水着だぞっ!! 俺みたいな女子に免疫のない男子は、もう完全に、もうだよ。というか、その何て言うか、佐々路は結構、胸がその、ね……。男性の好きな感じの大きさというか、思春期がというか童貞がというか……。
「ねぇ、あたしの話し聞いてる?」
俺は佐々路の声で我にかえることが出来た。
「わ、わるい……!! そ、その佐々路に見惚れてて何も聞いてなかったわ……」
「ば、バカじゃないのっ!? あたしに見惚れるとかありえないでしょっ!!」
焦りながら俺の言葉を否定する佐々路の顔は太陽で焼けてしまったのか少し赤く見えた。そんな佐々路は一通り俺の言葉を否定して話し出す。
「もう、本当に小枝樹は変態だよね。まぁでも、あたしは皆と旅行に来れて本当に嬉しいんだ」
俺の事を変態と言ったことはおいておこう。そんな冗談を交ぜながらいっている佐々路の表情は真剣だった。
「ほら、小枝樹は知ってるけどあたしって魔女じゃん? だからさ、こんなに心を許せる友達なんて今までいなかったから……。だから本当に楽しいし嬉しい。でも……」
膝を抱えながら体育座りのように座っている佐々路は少し強めに膝を抱きかかえた。
「本当に、あたしがここに居て良いのかなって思っちゃうんだよね……」
「居ていいに決まってんだろ」
俺はそう言い佐々路に微笑んだ。そして、俺は目の前にある沢山の砂で山を作る。
「ほら、ここには砂の山があるだろう? この山を作るのに必要のない砂なんて無い。この砂達一粒一粒がこの山を作るために皆を支えてるんだ。だから、佐々路だって皆が楽しいと思える空間には必要なんだよ」
俺は自分の事を棚に上げて、佐々路に良い言葉のようなことを言う。俺だって佐々路が思っているような事を胸に秘めているのに、言える筋合いなんてない。でも、佐々路にも笑っていて欲しい。これは俺のわがままなんだ……。
そんな俺の言葉を聞いた佐々路は俺が作った砂の山を見つめている。だが、砂の山を見つめていたのは数秒のことで、佐々路は立ち上がり俺の手を掴む。
「ねぇ小枝樹。少し海の方までいこっ」
佐々路の意図に気がつけない俺は、佐々路に引っ張られるがまま海の方まで行く。そして波が寄せるか寄せないかのギリギリの所にまで佐々路に連れてこられた。
すると佐々路はその場でしゃがみ込み、砂で山を作り始めた。
「さっき小枝樹は言ったよね。山を作るのに必要の無い砂なんて無いって。でもさ、よく見てて」
砂の山を作り終わり、立ち上がった佐々路は俺に砂の山を見るように言ってきた。ここまで言われても佐々路の意図には気がつけない。いったい佐々路は俺に何が言いたいんだ。その瞬間
ザバーンッ
波が押し寄せ佐々路の作った山が見事に崩れ去った。そして
「ね。波のせいで砂の山は簡単に崩れちゃう。確かに小枝樹が言ったように必要の無い砂なんて無いのかもしれない。でも、第三者が介入すれば頑張って作った砂の山は簡単に崩れちゃうんだよ……。あたしの事を慰めようとしてくれる小枝樹の気持ちは嬉しかった。でも、あたしはこんな風にしか考えられない……」
そう言う佐々路の表情はとても寂しそうだった。風に靡く前髪を押さえながら、佐々路の瞳は地平線の彼方を見ているような気がした。そんな佐々路に、俺は何を言えばいいんだ……。
佐々路が思っている事や考えている事は俺にもわかる。俺だって、少し前までなら佐々路と同じような考えをしていたと思うから。だからこそ、俺は佐々路に何か言ってやらなきゃいけないと思ったんだ。
「ならこうしよう」
俺は目の前で崩れ去った砂の山をもう一度丁寧に作り直す。
「誰かが俺等の全てを壊そうとしたら、もう一度俺等で作り直せばいい。確かに時間はかかるかもしれないし、すげー疲れるかもしれない。それでも俺は信じてるんだ。絶対にこの砂の山が直るって」
そう、俺が居なくなっても、誰かが砂の山を直してくれる。そうすればまた立派に砂は山になれるんだ……。
「でも、何度やっても壊れちゃったら小枝樹はどうする……?」
砂の山を作りながら佐々路の方へと顔を上げた。そんな佐々路の表情はとても悲しそうで、辛そうで、俺はこの子を守りたいと思っていた。
「それでも俺は何度だって作り直す」
「そんなの無理だよ……」
佐々路は俯き小さくか細い声で言った。
「そうだな無理だな。俺だってずっと一人で砂の山を作り続けてたら無理だって思うよ。でもさ、よく見てみろよ」
俺は少し遠くにいる楽しそうに遊んでいるみんなの方を指差した。そんな俺の指したほうを素直に見る佐々路。
「俺等にはさ、あんなバカ共がいるんだぞ? あいつらが簡単に砂の山を作り上げることを諦める奴等か?」
俺は微笑む。友達の笑顔を見ながら信頼をこめて。
それでも不安そうに皆を見ている佐々路に俺は話し出す。
「もしも砂の山が壊れたらまず初めに神沢が『大丈夫っ!! 絶対に作れるからっ!! だからもう一度皆で頑張ろうよっ!!』っていうだろ? そしたら牧下が『そ、そうだよね。み、皆で頑張れば、ぜ、絶対に作れるよね』って言うんだ」
起こるかどうかもわからない未来を、俺は少し楽しそうに話す。
「そしたらそれに便乗した翔悟が『確かに神沢と牧下の言う通りだ。俺等だったら絶対に作れるっ!!』とか意味わかんない自信が出てきて、そして崎本が『まぁ、皆が言うなら俺も信じてみようかな』って曖昧に賛同する。でも、そんな風に皆の気持ちが向上してる時に限って一之瀬が」
「そんなの絶対に無理よ。でしょ?」
俺の言葉の最後を的確に佐々路に言われてしまった。コイツは本当に一之瀬のことをちゃんと見ているんだな。騙しているて事に罪悪感がずっとあったのかもしれない。
「そうそう。一之瀬だったら絶対に否定してくる。でもそんな一之瀬を説得するのは佐々路だろ?」
俺は佐々路の目を強く見つめながら言った。それに応え佐々路も俺の事を見つめてくる。そんな佐々路の瞳は少し潤んでいて、感情が自分の中でグチャグチャになっているのが分かった。
「あたしは……、皆に必要とされてるのかな……?」
「あぁ」
「こんな魔女のあたしを、皆は必要としてくれるかな……?」
佐々路の声は震えていた。その声で鳴いているのだと分かる。正確に言えば、泣きそうだと思う。だからこそ俺は佐々路に大切な事を言う。
「なぁ佐々路。お前は俺の真実を知ってるだろ? 俺さ、この旅行中に皆に全部話そうと思ってるんだ」
俺の真実。みんなにまだ話していない、俺の本当の姿。
これまで話すチャンスなんて何度もあった。でも俺は今のこの楽しい空間を壊したくなかった。そんな俺のわがままで今まで何も話せないでいた。でも、もう嫌なんだっ!! 友達だって思ってるのに、何も言っていない事が俺はもう嫌だ……。
さっきの佐々路と同じように遠くの地平線を見ながら俺は言った。
「……大丈夫なの? それで小枝樹は苦しくないの……?」
「確かに苦しいかもしれないな。みんなに軽蔑されるかもしれないし、本当に砂の山が壊れるかもしれない……。それでも俺は、もう逃げたくない」
波の音がやけに大きく聞こえた。押し寄せる音と引いていく音。その音が俺の決意を鈍らせる。それでも俺は絶対に皆に話すと決めたんだ。だからもう逃げない。
「やっぱり小枝樹は強いね」
海に入っていく佐々路。そんな佐々路は浅瀬で水を蹴飛ばしていた。そして
「うん。わかったよ。あたしも皆に全部話す」
そう言い佐々路は笑った。
「あたしも全部話して、皆と本当の友達になりたい」
今まで何度も見てきた佐々路の笑顔。でも今の笑顔はそのどれよりも一番綺麗で、可愛いと思った。水飛沫が彼女を彩って、太陽がその水に反射し綺麗に輝いている。
その姿を見れるのはほんの一瞬のなのかもしれない。でも、時間がゆっくりと流れるように佐々路の可愛い笑顔が見えてんだ。
「佐々路ならきっと大丈夫だよ。この俺が保証してやる」
「小枝樹に保証されたら自信でてきちゃうよっ!!」
俺の知っているいつもの元気な佐々路に戻っていた。本当に佐々路はこういうほうが俺は好きだ。バカでアホでそれでも誰かに元気を与えられる。そんな佐々路楓が俺は好きなんだ。
「おーい!! 佐々路に拓真っ!! お前らもこっちに来てみんなで遊ぼうぜっ!!」
遠くから翔悟の声が聞こえた。その声は俺と佐々路を呼んでいる声で、俺はその声を聞いて佐々路を見た。
「門倉くん呼んでるけどどうする?」
「俺は体調が芳しくないからパスしたい気分だ」
「でも、小枝樹が体調悪いとかあんま関係ないよね」
おいおい、どうしてそこで笑うんですか。完全に俺の事を何も考えてない未来が待ってますよね。さっきまでシリアスに語り合っていたのに、どうしてそうも簡単にテンションを切り替えられるのでしょうか・俺にはさっぱり分かりませんよ。
「やめろ。俺は本当に体調が悪いんだ……。頼むからゆっくりさせてくれ……」
「ひっひっひ。皆と遊ぶのが面倒くさいとか思っている小枝樹くんは本当に大人だね。だから、連行します」
おかしいだろっ!! そこはゆっくり休んでねって優しく微笑むところじゃないのっ!? もうどうして俺はいつもいつもこうなるんだああああああああああっ!!
そんな叫びは脳内だけで、俺は佐々路に引きずられていく。砂浜のの上に俺の体の引きずった後が残りながら、体調の悪い俺は何かの生贄に捧げられるのであった。そして
「もう、あたしは決めたよ」
ちゃんとは聞こえなかったが、佐々路が何かを呟いていた事だけはこの時、俺は分かっていた。




