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天才少女と凡人な俺。  作者: さかな
第三部 夏休み 求メラレル選択
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15 前編 (拓真)

 

 

 

 

 

 夏休みが始まって色々な事件が起きた。


一之瀬 春桜に出会い、一之瀬 夏蓮の誕生日パーティーに行き、紳士執事に選択を迫られ、白林 雪菜と喧嘩をして和解して、そして小枝樹家の家族に俺はなった。


本当に、夏休みに入って二週間も経っていないのにどうしてこんなにも来い時間を過ごす結果になってしまったんだ。


それを考えれば色々と原因は出てくるが、それ以上に俺が認識してしまいたくない事。それは


俺は凡人ノーマル高校生ライフは完全に消えてしまったという現実だけだ。


二年生になってから俺の人生はおかしくなった。きっと一之瀬 夏蓮という天才少女と出会ってしまったからだ。


そもそも、俺は一之瀬 夏蓮という天才少女を知っていたのにどうして関係を築いていかなかったのか。それは誰もがわかってしまうくらい簡単なものだ。そう俺は


天才が大嫌いなのだ。


なのにも関わらず俺はあの天才少女と関わりを持ってしまう羽目になり、そして少しずつ変わっていった。いや、変ったのではないな。俺は昔の自分を取り戻してきたのだ。


誰かの為に自分の力を使って、誰かの笑顔の為に勝手に苦しい思いをしていたあの頃の俺に……。


レイの事件からずっと俺はこれじゃダメだと思っていた。でも、雪菜の件も家族の件も昔の俺を思い出したから出来たことだ。そんなボロボロになった俺に渇を入れてくれたのは一之瀬だった。


どうしようもなくなってしまった俺に強く言ってくれた。昔にレイが俺に言ってくれたように……。


でも、そこにはレイではなく一之瀬がいて、こんな俺に激励してくれる天才がいた。そんな天才とレイを重ねるように見てしまっていた俺は、未だにレイが必要なのだと思った。


自分の弱さを垣間見ることが出来て、ずっと逃げ続けていた俺は少し前へと進めた気がした。


見ないようにしていた自分の心を一之瀬 夏蓮のおかげて見ることが出来た。


今の俺は一之瀬に何かお礼をしたいと思っている。でも一之瀬のことだ、俺が何かお礼をしたいなんて言えばきっと


『別にお礼なんていいわ。それでもお礼がしたいと言うのなら、私は小枝樹くんの無様な姿を見れただけで満足よ』


とかなんとか言って、俺を貶しながら断られるに決まっている。


それをどう回避すればいいのか、それが問題だ。


まぁそんな事は今考えてもしょうがない。なので俺は召喚魔法を唱えることにした。


自室の机に置いてある現代でも召喚魔法を唱えることの出来るアイテムを俺は手に取る。


ここで備考だが、このアイテムの素晴らしい点は魔力がない一般の人間でも召喚魔法を唱えることが出来るということだ。


そして俺はアイテムを使い召還獣へとコンタクトを試みる。


「あ、もしもし翔悟か?」


そう何を隠そう俺の召還獣とは、木偶の坊 翔悟くんであるっ!!


「どうした拓真? お前から連絡くるなんて珍しいな」


翔悟の言っている事はもっともである。俺から翔悟に連絡することは殆どない。


まぁそれにはちゃんと俺なりの理由があってですね。


翔悟は部活でとても忙しい。一学期で廃部が決まっていたバスケ部。それを阻止するために他校との練習試合を提案した。でもバスケ部の廃部が決定したのは弱いからではなくたんに部員が足りなかったからだ。その為、練習試合当日は俺が助っ人で入る羽目になる。


先生との約束は、練習試合で勝てば廃部を取り下げるというものだった。だが結果は俺のせいで負け、バスケ部の廃部は決定された。


なら何故、夏休みに入っているのに翔悟は部活で忙しいのか。


それは、練習試合を見ていたアン子が顧問を説得してくれたらしく、二学期まで猶予をもらうことが出来たのだ。


そんな事があり、翔悟は部活の練習と部員の勧誘で忙しい。


だからなるべく翔悟に迷惑をかけない為に俺は自分からあまり連絡はしていなかった。


「そのあれだ、今日は部活じゃないのか?」


「あぁ、今日は部活ないぞ? つか何か今日の拓真すこし変だぞ?」


確かに普段の俺からすれば行動が異質なのかもしれない。それでも俺にはやらなきゃいけない使命があるのだ。その為に召喚状に連絡をしたんだ。


「あーうん、まぁ俺が変なのはどうでもいいんだけど。お前これから暇か?」


「自分が変なのはどうでもいいのかよ……。まぁ、今日は暇だな。それで遊びにでもいくのか?」


「まぁそんなところだな。普通に買い物に付き合って欲しいんだ。俺だけじゃきっと何を買っていいか全然わからないからな」


「おい待て。お前が何を買っていいかわからないのに、俺がわかるとでも思ってるのか? つか何の買い物だよ」


電話越しに俺と翔悟は意見し合う。


「何の買い物かは極秘だ。それを今、言ってしまうと俺の回避フラグが完全に折れてしまう」


「いや、意味わかんねーこと言うなよ……。まぁ兎に角、買い物に付き合って欲しいわけだな?」


「はぁ……。やっと俺の言葉が通じたか……。これだから木偶の坊と話すのは疲れるんだよ」


「そんな事言ってると、買い物付き合わないぞ」


「本当にすみませんでした。僕が完全に悪かったです。なので買い物に付き合ってください……」


俺は翔悟にみえていないものの、この場で土下座をしていた。そんな自分の姿を客観的に想像すると本当に惨めな姿が見えてくる。でも、これを我慢するだけで俺のミッションが完遂できるのだとするのなら、こんなのは安いものだ。


「わかったよ。まぁ拓真と二人で遊ぶのって初めてだから、なんか俺も楽しみだわ」


「これでこそ親友だっ! んじゃ、学校の最寄駅に13時集合で」


「あいよ」


そう言い電話を切る。


翔悟が言っていたように二人で出かけるのは初めてだ。一学期の途中で二人で下校をしたのを思い出す。


この時の俺は牧下の件で悩んでいて、そのせいで一之瀬とも喧嘩をしてしまっていた。でも翔悟のおかげで俺は悩みを解決できた。


俺にとっての親友はレイだけだと思ってたのに、翔悟は俺の心の中に少しずつ入ってきて、こんな俺の親友でいてくれる。だからこそ、今回も頼りたくなってしまったのかもしれない。


雪菜と決めた『レイもいる未来を生きたい』ちゃんと俺だってその未来を望んでいる。でも、きっとレイは戻って来ない……。それでもレイが戻って来るように俺なりに少しは考えている。


今のレイの居場所を知ること、レイの気持ちを蔑ろにしてしまった俺の償い。全部が全部元通りにならないかもしれないけど、レイと雪菜と俺。この3人で笑っている未来を俺も求めてる。


だからと言ってレイが戻ってくれば翔悟が用済みというわけじゃない。俺にとって翔悟はもうかけがえのない親友なんだ。翔悟だけじゃない。


神沢も牧下も佐々路も崎本も、一之瀬のも……。


俺の大切な友達だ。


二度と出来ないと思っていたのに、バカなアイツ等は俺を信じてくれてる。そんな皆に俺は嘘をついていて、翔悟にもいつか言わなきゃいけない。


きっと皆怒ると思う。そして真実を知った皆は俺の前からいなくなる……。でも、佐々路は違ったな。俺の真実を知ってるのに、俺の傍にいてくれる。そして俺の心配までしてくれる本当にいい奴だ。


そんな俺も佐々路の真実を知っていて、それは今の現状、他言無用なことだ。俺と佐々路の中ではそれが契約。


互いが互いのことを知っていて、自分達の傷を舐め合うような関係であっても、俺達の真実は他人を傷つけるものなんだ。


本当だったら今すぐにでも言いたい。翔悟にだってちゃんと伝えたいし、一之瀬にだって……。


家族の件が解決して俺は全てが終わった気になっていた。でも、俺がついてきた嘘はもう取り返しのつかないところまできていて、後悔をしている。


せかっく少し昔の自分に戻れたのに、どうして俺はつまらない見栄を張ったんだ……。どうして俺は昔の自分を肯定できなかったんだ……。


皆に出会う前から昔の自分に戻れていたら、こんなにも苦しい思いをしないですんだのに……。


それでも今のこの考えは結局、後の祭なわけで俺は今やるべき事を考える事にした。


一之瀬にお礼を言いたい。


それが今の俺の一番なわけで、それを成し遂げる為に翔悟に連絡したんだ。だから俺は、一之瀬に言おう。ちゃんと俺のことを知ってもらおう。


怖いけど、もう逃げちゃいけないんだ。






 そして俺は今、駅前で翔悟を待っています。


夏休みに男が駅前で待ち合わせ。今の俺を見ている他人達はきっと彼女を待っている凡人高校生に見えているはずだ。もし、そんな風に見えていなかったとしても今のは間違いなくノーマル男子高校生に見えているはず。


俺はそれだけで嬉しい。もう二度とノーマル高校生ライフをエンジョイできないと思っていた。いやー素晴らしい、友達と買い物に行けるという事実が本当に素晴らしい。


「ねぇ、あそこの人なんか一人でクネクネしてるよ」


おっといかんいかん。あくまでも俺は凡人であって変態ではない。もっと普通に、もっと普通に……。


それでも俺の喜びは止まらなかった。そして


「おい拓真、お前は何をそんなにクネクネしてんだ……?」


「おー、我が親友の翔悟くんではないかっ! いやー俺が何でクネクネしてるかって? そんな小さな疑問は冥府に捨ててしまいなさい。だって僕達は男子高校生なのだからっ!!」


テンションが上がってしまっていた事は認めよう。だが、思い返してみてもこの時俺が言った言葉の意味は俺にも分かりませんでした。


「やっぱり、今日の拓真は何か変だ……」


翔悟は嘆息し、俺を呆れた表情で見てきた。だが、今の俺はそんな事一切気にしません。


「よし翔悟。さっそく買い物をしようじゃないかっ!!」


そう言い俺は一人で歩き始めた。


「おい待てよ拓真」





 街中をぶらついていたら少しテンションが元に戻りました。本当にどこまで俺はバカなんでしょうか。確かに念願だったノーマル高校生ライフですよ。だが、それにしてもテンションのあげ方を知らなすぎじゃないでしょうか。


本当に俺はさっきまでの自分を思いだし、恥ずかしさで死んでしまいそうですよ。


そんないつもの自分に戻った俺に翔悟が


「それで、何を買いたいんだ?」


「いやだから、それは極秘なんだって」


そう冷静になった俺は今日の任務を思い出す。楽しい高校生ライフを送るのも悪くはないが、俺にはやらなきゃいけない事がある。


「でもよ、何が買いたいか言ってもらわないと俺だって役にたたないぞ?」


翔悟が言っている事は至極当然のことだ。俺が何を求めて買い物をしているのかをハッキリ伝えなければ翔悟はどうしていいかわからない。だが、そんな事はわかりきっている事なのだ、それをふまえて俺は翔悟に詳細を明かしていないのだ。


「まぁなんだ、買い物もそうだけどたまにはこうして二人で遊ぶのも悪くないだろ? あーそっか悪い、翔悟は俺じゃなくて細川と遊びたかったか」


細川キリカ。男子バスケ部のマネージャーで、俺と翔悟が出会う切っ掛けを作った人物。


初めて細川と出会った時、俺は少し彼女のことを理解できなかった。どうして理解が出来なかったのか、それはとても簡単な事だ。


細川は泣きながら俺を頼ってきた、それも自分の事じゃなく翔悟のことで。


バスケ部が廃部になってしまう事が本当に嫌だったのだろう。でも、誰かの為に涙を流しながら他人に協力を仰ぐような惨めな選択肢はきっと俺には出てこない。


いや違うな……。俺は雪菜を見つけられなかったとき、たまたま目の前に現れた一之瀬に泣き縋った。自分ではもうどうしようも出来ないと思って俺は一之瀬の助力を求めた。


きっとあの時の細川もそんな気持ちだったんだろう。それほど翔悟のことを大切に思っているという事だ。


でも翔悟に細川はもったいない気がする。かたやただの木偶の坊で、かたや見た目も悪くない可愛らしい後輩だ。本当に翔悟にはもったいない。


「そこでどうしてキリカの話になるんだっ!!」


「いやいや、皆もう気がついてるよ? 翔悟と細川が付き合ってるの。でも君達はどうしてかその事実を隠そうとしてる。だからあまりその話に触れないんだよ。でも俺は違う。翔悟の親友としてそういう関係性を知っておく義務がある」


俺は腕を組みながら自身ありげに翔悟へと言った。


「だから俺とキリカは付き合ってないんだよっ!!」


………………。


「は……?」


俺は翔悟の言葉をすぐに理解出来ないでいた。だって翔悟と細川だぞ、あいつらの関係を客観的に見ていたら付き合っているものだと誰もが思ってしまうだろう。


確かに俺はあまり二人の関係を見てはいない。でも、見る度に翔悟と細川はイチャイチャとしてた。俺見たいな普通の高校生活を望んでいる奴だったら許してくれるかもしれない。でも健全な男子高校生達はそんな所業を断じて許してはくれないであろう。


そんな状況を他者へと見せびらかせているのに付き合っていないというのはおかしな話だ。


だからこそ俺は代弁する。


「ごめんな翔悟。お前って嘘が下手だな」


「だから嘘じゃないんだよおおおおおっ!!」


翔悟の叫びは俺以外の買い物や遊びに来ている群衆にも聞こえてしまったみたいで、一斉に俺と翔悟のほうへと振り向くミーハーな奴等が多数いた。


「ば、ばか翔悟声がでけーんだよっ! でかいのはそのナリだけにしておけっ!」


急に叫びだす翔悟の声に驚いた俺は、とっさに翔悟を叱ってしまった。そんな俺等を微笑みながら見ている通行人達。俺はそんな辺りを見渡して、一つ溜息を漏らした。そして


「つか、本当に翔悟と細川は付き合ってないのか……?」


単純な疑問が零れ出た。


「本当に付き合ってないよ。確かにキリカの事は大切だ。でもそれだけで付き合えるものでもないだろう?」


翔悟が言っている事は尤もであった。何故そう思えたか、それは俺にも雪菜という大切な存在がいるからだ。


俺にとっての雪菜は大切な家族であって掛け替えのない人だ、だからこそ、恋人という未来が見えない。確かに大切なんだ、でもそれは恋人を超えてしまった特別な感情で俺は雪菜をそんなふうには見れない。


だが何となく、翔悟が細川を見ている目は俺とは違う気がした。


「付き合えるものでもないだろ、か。つーことは翔悟は細川と付き合いたいって思ってるってことなんだろ?」


「ば、俺は別に……///」


何を買うわけでもない雑貨屋の中、翔悟は興味もないようなものを手に取り、俯いて俺に言った。


そんな翔悟の手に持たれているキーホルダーらしきものを俺は奪い取り、置いてあった場所に戻した。そして


「つか、さっさと告白しちまえよ。細川だってお前が告白してくるの待ってるぜ?」


「どうしてそうなるっ! キリカは別に俺の事なんか……」


あー、何か普通にムカついてくるな。つかリア充うぜぇ。


「あのな翔悟、大切なものっていうのは自分が一歩前に出なきゃいけないタイミングを見誤れば、簡単になくしちまうものなんだぞ」


この言葉は俺だ体験したものだ。自分が出来なかった事を俺は翔悟に押し付けている。それでも、翔悟と細川はきっと互いが互いを好いている。だからこそ、自分達の一歩で進展するのなら俺は翔悟の背中を押したい。


「だから俺はキリカに自分の気持ちを伝えないんだ……」


「どういうことだよ……?」


「俺が拓真と初めて会った時に言ったと思うけど、俺には親友がいた。ソイツ中学からの付き合いでずっと俺と一緒にバスケばっかしてたんだ」


翔悟と出会ったときに言っていたことだ。翔悟には親友がいてうちの学校でもバスケ部を作った。でもその親友と翔悟の方向性が噛み合わなく、翔悟の親友はバスケの名門校へと転校していった。


初めてその話を聞かされたとき俺はこう思った。


親友を失っているのはお前だけじゃない。


醜くて卑しい考え。自分の心が真っ黒になってしまったのだと俺は感じた。でも、そんな風に失ってしまった事を話している翔悟は苦笑いを浮かべていて、どうして笑っていられるのか疑問に思った。それと同時に、俺は翔悟へ嫌悪感を抱いた。


だからこそ、俺の友達になりたいと言った翔悟の言葉は薄っぺらくて、なのに俺の心に響いた。だって、友達になりたいって言った翔悟の表情が真剣だったから……。自分の過去を苦笑いを浮かべながら言っていたのに、俺に対しては真剣でいてくれたから。だから俺は翔悟を信じることが出来る。


そして翔悟の真実が語られる。


「きっとさ、俺は昔からキリカが好きなんだ。人懐っこくて自分の意思をちゃんと人に伝えられて、無邪気で子供っぽくて……。そんなキリカを俺は好きになったんだと思う。でも、キリカは俺じゃなくて親友の奴とずっと一緒にいた」


歩みを止め、翔悟は俯く。大きな体が少し小さく見えた。


「そんな二人の姿を見ていて俺は思ったよ。あぁ、コイツ等は好き同士なんだ。俺の入る隙間はないんだって……。そんな風に思ってたらさ、俺は親友を失った。だから、俺はキリカに気持ちを伝えられない。思いを伝えてキリカを失ったら、俺はもうどうしていいかわからない……」


翔悟はずっと悩んでたんだ。なのに俺は親友とか言っておきながら翔悟の苦しみに気がつかなかった。コイツはいつもいつも笑っていて、頭は悪くてバスケ馬鹿で……。でも、細川への気持ちは本物だ。だからこそ、俺は翔悟の親友として言う。


「前言撤回だ。告白なんかしなくていい。つか、何で俺にその話をしてくれなかったんだよ。俺だって翔悟の親友なんだぞ? お前だけが俺の親友じゃないんだぞ? 俺等は親友なんだぞ」


俯いている翔悟に俺は言い続けた。


「俺はお前に救われた。でも救われたからどうしたいとか思ってない。なんか普通にムカついた、翔悟が俺に何も言ってくれなかったことが腹たった。だからさ、一つだけお前の言った事を否定してもいいか?」


「……なんだよ」


「お前は親友を失って、告白したら細川も失っちゃうって思ってる。確かに気持ちを伝えれば細川を失う可能性もある。でも、お前が細川にフられて辛いって思ってる時、俺がお前の隣にいてやる。なんたって俺はお前の親友だから」


本当はドヤってやろうと思った。でもどうしてか、気恥ずかしく思えてしまった俺は目の前に陳列されている大量生産商品を片手に言う。そして


「俺だって、もう二度と親友を失いたくないんだよ……」


きっと翔悟には俺の言葉の意味がわからないであろう。そう思ったとき、俺は自分の真実を親友に言えていない事実で苦しむ。そして俺は自分に言い訳をした。


もう少し時間をくれ、もう少し時間が経てばちゃんと自分を皆にいう事が出来る。だからお願いだ、夏休みの間だけはこのままでいさせてくれ……。


その時、翔悟の腕が俺の肩に触れた。


「拓真が俺の隣にいてくれるのか……。だったら俺もその言葉を信じるしかないだろ。お前が隣にいてくれるなら俺も頑張れる」


俺が最後に言った言葉は翔悟には聞こえていなかったみたいだ。それでも翔悟が俺は信じてくれると言ってくれた事が嬉しくて、それと同時に罪悪感が生まれた。


だが、落ち込んでいる事は出来ない。俺は翔悟へと笑みを見せ


「それだったらお前は細川へのプレゼントを探せ。告白とかじゃなくて、普段の感謝の気持ちってことにすればいい。俺も自分の買い物を済ませるからさ」


最後の俺の言葉が翔悟に聞こえていなかったのは幸運だった。何かを隠すように慌てている俺を、その場の雰囲気でものを言っている。それが翔悟に通じなかったらそれまでだ。だが


「ありがとな拓真。さっき見た店でキリカに似合うやつ見つけてたんだよ。拓真の買い物に付き合ってきたのに、何かごめんな……」


「いいよ。お前はお前の為すべきことをすればいい。俺も、探さなきゃいけないからな」


微笑みながら俺は翔悟へと言った。そして俺と翔悟はわかれて買い物をする事になった。





 一人でブラブラと彷徨っています。どうしても俺が欲しいものが見つからない。


つか、欲しいものなんかないけど、俺が良いと思える物がなかなか見つからない。今頃翔悟は自分の欲しいものを入手しさぞ喜んでいるだろう。


結局、召喚獣を呼び出したのに自力でどうにかしなきゃいけない羽目になっている俺って主人公にむいていないんですかね?


一通りの店を見終わって何も無かった事に俺はげんなりとしていた。だがその時、路地の端っこで個人的にやっている小さな店を見つけた。俺はその店に近づいて商品を見渡す。


屋台のようなその見せに並んでいる商品は銀細工の指輪やネックレスにブレスレット。見た感じ素人が作ったノンブランドの商品。


でも俺はそんな銀細工が歪な形をしているのを見て、俺はどうしてだか気になってしまった。


そして一際目立った場所においてあるブレスレット。その目の前には『願いが叶うブレスレット』と書いてある紙が置いてあった。


そんな紙の内用を読んだ俺は


「あの、本当にこのブレスレットって願いが叶うんですか?」


店にいる女の人へ俺は話しかける。するとその女は


「うん、本当にどんな願いも叶うよ。でもね、それには条件があるんだ」


はいはいでました。インチキくさい人間が言う言葉ですね。無理難題ま条件を提示してそれがダメだったら願いは叶わないパターン。本当にこういう商売をしている奴等は頭が悪い。


「条件を言う前に、アンタはこれを自分でつけるのかい? それとも誰かに贈るのかい?」


「まぁ、一応プレゼントなんですけどね」


「そうかい。なら条件は━━」


店の女は一瞬間を作る。そして


「贈るアンタも贈られる子も、二人とも願いが叶うと信じないといけないよ」


女の言う条件はとても単純なものだった。でも、それだからこそ一番難しい条件。願いは信じないと叶わないなんて子供でもわかる事なのに、それを信じ続ける事の難しさは成長をするにあたって思い知る。


でもなんだか


「じゃあそのブレスレット下さい」


「おや、オカルトみたいなのを信じなそうな顔してるのに買うのかい?」


「いやいや信じなそうな顔って……。何か信じてみたくなったんですよ。信じれば願いは叶うって……」


そう、俺は一之瀬の願いを叶えたい。その為に契約なんていう重々しい形式までとってるんだ。だから俺はこのブレスレットを信じてみようと思った。オカルトとか神頼みとか、本当に俺らしくない。


今まで自分で何でもやってきてしまった経験があるからなのか、信憑性のない事はあまり信じてこなかった。


いや違うな……。縁結びの神様に裏切られたからだ……。でも、もう一度信じるのも悪くはない。


俺の話しを聞きながら、店の女は小さい紙袋にブレスレットを入れていた。そして


「はいよ。このブレスレットを貰う子の願いが叶うように私も祈ってるよ」


紙袋を手渡され代金を払い、俺は翔悟へと電話を掛けた。


「もしもし翔悟か?」


「どうした拓真、もう買い物終わったのか?」


「うん。それでさ、悪いんだけど俺これから行かなきゃいけない所ができちまったから、今日は解散ってことで」


「本当に自由だなお前って……。まぁ、いいや。今日は俺の相談にものってくれたし、また今度遊ぼうぜ。それじゃな、頑張れよ拓真」


意味深な言葉を残し翔悟は電話を切った。いったい俺は何を頑張ればいいんだ。まぁいいか、それに俺はもう一人電話をしてアポをとらないといけない奴がいる。


「もしもし一之瀬か?」


「急にどうしたの小枝樹くん」


「いや、そのこれから一之瀬の家に行っても大丈夫か?」


俺は一之瀬 夏蓮と電話しながら片手にプレゼントを持って一之瀬の家の方角へと歩みを進めた。




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