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天才少女と凡人な俺。  作者: さかな
第三部 夏休み 求メラレル選択
34/134

12 中偏 (拓真)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いきなりの事というか、いつもの事というか……。よくまぁ、こんなにも楽しい事だけを考えて生きていけるよ……。


俺の部屋の扉を開いた雪菜嬢はプールの時と同様に、明日の祭りのチラシを持ち、どこからきたのか分からない自信に満ち溢れた表情をしている。


ここで俺が前の件と同じように宿題の話をしたら、俺が生きている世界とは異なる世界からの悪意を感じる……。そのイベントだけはどうにかしてスルーしなくてはならない。


「祭りに行くって言っても、皆には連絡したのか?」


「ううん。皆には連絡してないよ。明日のお祭りは、あたしと拓真とルリちゃんとアンちゃんで行こうと思ってるんだよね」


まぁ確かに、同じ高校に通っているというだけであって、皆とは地元は別だ。俺と雪菜は家が近いと言う事と、アン子が勤めているという理由から今の学校を受けたんだ。


そんな俺等の地元の小さな祭りにわざわざ呼んでもしょうがないと言ったら納得してしまう。


プールの時以来みんなには会っていない。春桜さんを説得する為にみんなには花火をしてもらったが、結局俺はその会に参加はしなかった。


春桜さんが心配だったというのもあるが、みんなが楽しそうに花火をしている姿を見て、俺は━━


「何ぼーっとしてんの? まぁ兎に角、明日はお祭り行くからね。夕方6時に拓真の家前に集合なんでよろしく。じゃ、すたたたたたたー」


用件だけ言って帰りやがった。でも、雪菜なりに俺の事を考えてくれてんだよな……。きっと、俺が今まで何を考えてたか、雪菜にはバレてる。


玄関の扉が閉まる音が聞こえ、俺は窓から顔を出し


「おい雪菜ー」


「ん? なにー拓真ー?」


「また、明日な」


俺の言葉を聞いた雪菜は笑顔になり、大きく手を振り帰っていった。





 夜。


明日の事を色々と考えてしまい、俺は眠れないでいた。


きっと賑やかな祭りの熱に当てられ、俺はどうにかなってしまうかもしれない。それでも雪菜が俺を気にかけ誘ってくれた大切なイベントだ。


真っ暗な部屋の中、俺は眠りに落ちてくれない身体をベッドから起こし、窓を開け空を見る。


綺麗に輝く星達のように、俺の過去も綺麗だったなら今のこの苦しみはきっとないんだろうな……。


楽しかった思い出が、今の俺にはとても辛い思い出で、それでも雪菜がずっと傍に居てくれたから俺は大丈夫だった。でも、俺らから離れてしまったレイは独りぼっちだ……。


俺は、レイから何もかもを奪ってしまったんだ……。レイの居場所も、レイの夢も、レイの笑顔も……。


ダメだ……、ネガティブな思考しか出てこない。俺は怖がってるんだろうな……。明日の祭りを怖がって、また逃げ出そうとしてる。


どこまで俺はダメ人間なんだ。レイを傷つけて、雪菜に甘えて、アン子に心配かけて、学校の皆を騙して、一之瀬に何も言えなくて……。


そうだ、俺は独りぼっちじゃないか……。どんなに上辺だけを繕って、独りじゃないと互いの傷を舐めあっても、本当の俺を知ってもらわなきゃずっと独りだ……。


『あたしに甘えてよ。こんなあたしで良いなら、小枝樹の苦しみ全部わかるように頑張るから……』


アイツの言葉が頭をよぎった。


俺は携帯を取り電話を掛ける。何でこんな行動をしたのか全然分からないけど、でも今の俺に縋る事が出来る相手はこいつしかいない……。俺の全部を知ってるコイツしか……。


「もしもし、小枝樹? どうしたの?」


「遅くにごめんな佐々路……。寝てたか……?」


佐々ささみちかえで。今の俺の事を知っていて、昔の俺の事も知っている唯一の友達。雪菜やアン子は例外で、俺の苦しみを理解してくれるのは佐々路だけだ。


「まだ寝てなかったよ。つか小枝樹から電話してくるなんて珍しいね。なんかあったの?」


佐々路の優しく陽気な声が俺の心を落ち着かせた。


「いや、別に用はないんだけど……。迷惑だったか……?」


「え!? い、いや全然迷惑なんかじゃないよっ!! 寧ろ小枝樹から電話きて動揺して一回携帯床に落としたからねっ!!」


………………。


「ちょ、小枝樹っ!! 黙らないでよ……」


「ふふ……、あはははははははははははっ!!」


大きな声で俺は笑った。だって俺の電話で携帯落とすとか、本当に佐々路はドジな奴だな。


「わ、笑うのも禁止っ!!」


「ごめんごめん、あまりにも佐々路が間抜けだったからついな」


今の今まで、凄いネガティブな感情に押しつぶさせそうになっていたのに、佐々路の声を聞いて、ドジな話を聞いて本当に楽になれてる自分がいた。


「もうっ!! あたしの事で笑うなバカッ!! でも、小枝樹が元気になって良かったよ」


俺の事を気にかけてくれていた……? なんだろう、どうしてだろう、佐々路になら俺は自分で居られるような気がする……。


「俺が落ち込んでるって最初から分かってたのか?」


「なんとなくね。でも、本当に小枝樹が落ち込んでるかとは分からないよ……。だから、分かろうって頑張れるんだ」


佐々路の言葉が、本当に嬉しかった……。こんな俺を理解しようとしてくれる。こんなダメな人間を肯定して、同じ世界を見ようとしてくれている……。


優しさと不安が混ざった声音で話す佐々路は、喋る為の息を吸い、再び話し始めた。


「あたしはね、小枝樹に自分を本性を明かして凄く楽になれた。最初はからかって……、ううん、小枝樹を夏蓮を利用する道具にしようとしてた……」


佐々路の声音が変わり、真剣に話し始めているのだと俺は理解した。


「でもね、今は夏蓮を利用しようなんて思ってないんだよ? 沢山考えて、やっぱり夏蓮はあたしの親友だから……。本当は辛かった……、こんなあたしを誰かに止めて欲しかった……。そしたら小枝樹が止めてくれた」


自分の罪を神に懺悔するかのように、佐々路は淡々と話す。そんな佐々路の話を聞いている俺は、自分の罪をちゃんと受け入れられない弱さを実感していた。


「だから今は、本当の自分でいられる。でもね、あたしは魔女だから誰かの気持ちを理解してあげれないの……」


魔女。佐々路が自分で……、いや本当の佐々路を知らない他人が言い出した悪口。そんな些細な言葉が佐々路を傷つけ、苦しめている。


俺はそんな事実が嫌だ。だって佐々路は魔女なんかじゃないから……。それでも、今の俺には佐々路の心を救う力がない……。


「何で魔女は他人を理解出来ないと思う?」


「……わからないよ」


「魔女はね……」


そう言い始めると、佐々路は一瞬の間を置いて話し出した。


「魔女は誰かを誘惑する事が出来る。魔女は誰かを貶める事が出来る。魔女は誰かを言葉巧みに操る事が出来る。でも、それが出来ても誰の気持ちも分からないの……」


少し震えた声が聞こえた。佐々路の苦しみが電話越しに伝わってきて、俺自身も辛くなった……。


「だから、分かりたいの……。ううん、分かろうって頑張れるんだ。皆を知りたいから、皆を大切だって思ってるから……。それと━━」


一瞬の間を置き佐々路は


「あたしの事を知ってもらいたいから……」


佐々路の言葉を聞いて俺の時間が一瞬止まる。


確かに俺も自分を知ってもらいたい……。自分の全てを理解して欲しい……。でも、俺の真実を知れば誰もいなくなる……。全部知っていたレイが、俺の前から居なくなったように皆居なくなる……。


俺は、佐々路みたいに強くない……。だから、佐々路に頼ってしまったんだ。


「だからね、夏蓮にもちゃんと話そうって思ってるんだ。あたしが夏蓮を利用しようとしてたことも、夏蓮に嫉妬してたことも……。全部話せば何も無かった事に出来るなんて思ってない。夏蓮と親友で居られなくなってもしょうがない……。でも、もう嘘はつきたくない……」


これが佐々路の心の叫びなのだと理解した。そして、佐々路は俺なんかよりも強くて、自分の弱さを垣間見た俺はどうしようもなかった。


「……佐々路はきっと大丈夫だよ。俺みたいな未来を選ばないと思う……」


俺は静かに話し出す。


「佐々路の過去を全部は知らない。それでも傷ついてきたのはわかる。佐々路ってさ、すげー優しくて温かくて、こんな俺の事まで心配してくれる。だから、俺は救われるんだと思う」


自分が何故このような事を口にしたのか理解が出来なかった。こんな事を言っても佐々路を困らせるだけで、俺はただ佐々路に縋ってるだけなんだよ……。


「小枝樹がそんな風に言ってくれるなんて思わなかった……。なんか、凄く嬉しい」


「……佐々路?」


「小枝樹はあたしに救われたって言うけど、本当に救われたのはあたしだよ。だから、今度はあたしが小枝樹を救うね。何でも言っていいよ。あたしが小枝樹の全部を理解するから」


分からなかった。どうしてこんなにもこんな俺に優しくしてくれえるのか。


きっと俺はひねくれている。本当の優しさに触れるのが怖いただの臆病者だ。だけど、佐々路の言葉が俺に勇気をくれた。


「……ありがとな、佐々路」


電話越しに聞こえる佐々路の声が愛おしいと感じて、このままずっと佐々路の声を聞いていたいと思った。


自分の気持ちが曖昧なのも分かってる。でも、今だけは佐々路だけを感じていたかった……。


「そ、そんなお礼なんて言わないで/// あたしは小枝樹が元気になって欲しいって思っただけだし……。それに、慰められたのはあたしの方だし」


佐々路の言葉に疑問が浮かんだ。だって、俺は佐々路を慰めるような事なんか言っていない。なのにどして、佐々路はそんな事を言うんだ……。


「俺は何も、佐々路を慰めるような事なんか言ってないっ!!」


少し強い口調で俺は言う。何もしていない自分の事を肯定して欲しくなかったから……。


「なに言ってんのよ。小枝樹は言ってくれたじゃん。大丈夫だよって。その言葉があたしは凄く嬉しかった。あー、大丈夫なんだなって思えた。だからさ━━」


佐々路の声が一瞬なくなり、俺は佐々路の言葉を待つ。


「小枝樹が何を考えて、何に苦しんでるのか分からないけど……。きっと、大丈夫だよ」


佐々路の言葉はとても無責任なセリフで、俺も佐々路に言った言葉で、そんな日常に有り触れた言葉が俺等の気持ちを楽にさせる。


「うーん、そろそろ眠くなってきたからあたしは寝るね」


「うん、わかった。本当に夜遅くにごめんな。それと、ありがと」


「どういたしまして。次に会うのは多分、夏蓮の別荘に旅行しに行くときだね。ふぁぁ、ごめんもう本当に眠いや、おやすみ小枝樹」


そう言うと佐々路は電話を切った。


暗い部屋に独りぼっちの俺。でも、寂しかった気持ちも苦しかった気持ちも、少しは和らいだ。きっと佐々路のおかげだ。


次に会うのは一之瀬の別荘への旅行か……。その前に、俺は明日の祭りで自分の心と過去を清算しなきゃいけない。


楽しい気持ちで、旅行に行きたいから……。そして、皆にも打ち明けよう。全部が終わったら俺の真実を……。





 祭りの日。


結局昨日は佐々路との電話を切った後、すぐに眠ることができた。あんなに今日の事を考えて眠れなかったのに不思議だった。


そんな俺は自宅前で雪菜とルリとアン子を待ってます。


というか、何故やつらは俺の家で着替えをするかな。雪菜とアン子が来るやいなや俺の家を占拠しましたよ。


そんなこんなで俺は一人外で待っています。


「お待たせ拓真ー」


「やっと終わったか」


俺はそう言うと玄関の方へと振り向いた。


そこには浴衣を着た3人がいた。


雪菜の浴衣は青を中心に赤と黄色の相反する色の柄が入った爽やかな浴衣。ルリの浴衣はオレンジ色の水玉で袖を肩までまくっていた。そして一番驚いたのがアン子の浴衣姿だった。


いつもは恐怖お対象でしかないアン子。だが、そんなアン子は綺麗に化粧をし大人びた白の浴衣を身にまとう。帯の色が黒と赤で大人な雰囲気を醸し出す。


「おいアン子。お前、何で彼氏できないんだ?」


言い終わった瞬間に、俺は後悔した。もう地雷を踏んだとかそんなレベルじゃないよね。完全に核ミサイルの発射ボタン押したよね……。


「……拓真。お前はそんなに祭りの前に、私の血祭りが見たいのか……?」


魔王降臨。なんかどっかのゲームのサブタイトルで使われていたな。


「ま、待てアン子っ!! 悪意はないっ!! 今のお前が綺麗だったから何故なのか疑問に思っただけだっ!!」


そうなのだ。アン子こと如月きさらぎ杏子きょうこは、普通にしていればとても美人な人なのだ。それはもう男性が求めて止まない完璧なスタイル、整った顔。


なのにアン子は魔王だから、誰も言い寄ってこない……。それを知ってて聞いたのは悪かったけど、どうして今の俺は……。


「あだだだだだだだだだだだだっ!!!!」


アイアンクローで持ち上げられているのでしょうか。全くもって意味が分かりません……。というか、教師が生徒に暴力を振るっても良いと思っているんですか!?


俺は断固として暴力を反対する!! 俺は最後の最後まで戦い抜いてやるっ!! だから……、誰か助けて……。


「もうアンちゃん。お祭りの前なんだからそんな事しちゃダメだよっ!!」


いたいけな俺を助けようとしてくれる雪菜が、今だけ天使に見える。


「拓真の処刑なんてお祭りの後でも出来るでしょっ!!」


前言撤回を求めます裁判長っ!! 雪菜は天使なんかじゃありませんっ!! 魔王の手先でしたっ!!


それでも、そんな雪菜の一言で俺は解放される。地面に膝と手を付き、俺は息を「はぁはぁ」と切らしながら冷や汗を流していた。


「雪菜が言うならしょうがないな。おい拓真、今日は奢れよ」


睨みながらそんな事言ったら、ただのカツアゲじゃないですか……。つーか、教師が生徒にたかってんじゃねぇよっ!!


という風にアン子本人に言えたらとても爽快な気分になれるのでしょう。でも、俺はヘタレな凡人です。


そんな事を言えるわけでもなく、俺はアン子の言葉に頷き祭りの会場まで行くのであった。




 俺らが神社に着いたのは6時半ば。結構な人達がもう神社には来ていて、隙間が殆どない状態だった。


それほど大きくない祭りのせいなのか、地元の人間が集まるだけでこの混み様。こんなに混んでいる祭りに、よくガキの俺は毎年きていたな……。


まぁ、それだけ楽しいと思っていたのだろう。久し振りに来た今年の俺は、今日の祭りを楽しめるのかな……。


「やばいよお兄ちゃんっ!! 出店がいっぱいだよっ!!」


自分の妹がこんなにバカな発言をするとは思いませんでしたよ。血が繋がってないとしても俺の妹には変わらない。なので、お外でバカな発言をするのは控えてもらいたい……。


「やばいよ拓真っ!! 人がいっぱいだよっ!!」


自分の幼馴染がこんなにバカな発言……、まぁするか。雪菜なら当然というか自然というか、当たり前すぎてあまり疑問に思わなかった。


「よしユキちゃんっ!! いざ、戦場へと行くぞおおおおおおっ!!!」


「おおおおおおおおおおおっ!!!」


バカ二人が勢い良く人混みの中へ消えていった。そしてこの場に残される俺とアン子。


「なー、どうするよアン子」


「私が知るかっ! まぁあいつらも子供じゃない、私達はゆっくり回るとしよう」


そんなアン子の意見に賛同し、俺とアン子はゆっくり祭りを回ることにした。



 確かに俺はゆっくり回ることにしたよ。それもまた一興だとも思った。なのになんで


「おいアン子、それでビールは何杯目だ」


「んー? まだ三杯目だ。そんなに酔ってないから大丈夫だぞ」


なんで学生の横でアンタは酒を飲んでいらっしゃるのですか!? つーか羽目を外しすぎだろうっ!! それもアン子が飲んでる酒は俺の奢りだし……。本当に奢らされるとは思ってなかった……。


「おいアン子。浴衣が少し肌蹴てるぞ」


俺はアン子の浴衣の襟を直す。本当にどっちが保護者なんだ……。酔ったアン子を介抱するなんて俺はごめんだぞ。


「わかったわかった、少し端の方で休むか」


アン子の提案に俺は従い、人がいない休める場所へと向った。


 今の場所は客観的にこの神社に来ている人たちを見れるくらい、祭りという空気から離れた場所だ。


一歩踏みだけだ祭りに戻る事が出来るが、俺とアン子は静かな今の空間を楽しんでいた。


「つか、本当に酔ってないよな」


「だから酔ってないと言ってるだろう。何年酒を飲んでると思ってる、たった三杯のビールで酔うかっ」


アン子は怒った口調で言うも、本気で怒っていないという事が俺には分かる。だからこそ、アン子が酒を飲んでいる事実が気になった。


「なんで酒なんか飲んだんだよ。俺等の前でずっと酒なんか飲まなかっただろ?」


「……酒を飲まなきゃ、お前に聞きたい事を聞けないと思ったからだ」


頬を酒で赤く染めたアン子は俺から顔を逸らし、眉間に皺を寄せ少し俯いた。そして刹那の時間が過ぎ、アン子は話し出す。


「今日の祭りにルリが来ているが、家族との折り合いはついたのか……?」


やっぱりアン子が聞きたい事はそこか……。


「父さんと母さんとは今も全然話してないよ。ただ、最近は昔のようにルリが俺に懐いてきてるだけだ。それが何でなのか俺は知らないけど、それでも嬉しいとは思ったよ」


空を見上げながら俺は言う。祭りの明りが染める人工的な空を……。


「やっぱり家族との仲を修復するのは難しいか……。私がもっとお前を見てあげられていれば、こんな事にはならなかったかもしれないのにな……」


「それは違うっ!! 全部、俺がレイを裏切ったからだ……。ほら、あっちが立てばこっちが立たないって言うだろ……」


そうだ、俺が全ての元凶なんだ。俺がレイの全てを奪い、小枝樹家を壊したんだ。俺が、ここに存在しているから……。


今の俺はきっと諦めている。あんなにも佐々路に勇気をもらったのに、俺はまた逃げようとしてる……。


「……レイか。私はお前の苦しみの根源を消す方法を知ってる。だが、それを拓真に言っていいのか分からないでいた……」


俺の苦しみの根源を消す方法……? なんだよ、それはいったいなんなんだ。


その方法を知りたいと思う欲望に支配されている俺は


「……それってなんだよ」


「もう、レイの事は忘れろ」


俯いていたアン子は顔を上げ、俺を睨みながら言う。その表情は真剣そのもので、本気でレイを忘れろと言っているのだと理解できた。


そんなアン子の言葉を聞いた俺は、一つ息を吐き、そして


「忘れられる訳ねーだろ。つか、忘れちゃダメなんだ。俺がレイを傷付けた事実を受け止めて、俺がレイを裏切った事を背負って、そしてもうレイが戻って来ない現実を俺は生き続けなきゃいけないんだ」


今度は俺がアン子の顔から目を逸らして言った。


これが一番なんだと俺は思っている。こうしなきゃ誰も救われない……。俺が苦しんでレイが救われるなら俺はそれでいい……。


「……何が。何が受け止めるだっ!! 何が背負ってるだ、何が生き続けるだっ!!! お前はいい言葉を並べて逃げているだけだろうっ!!」


怒鳴り散らすアン子。そんな感情を剥き出しにしたアン子に当てられたのか、俺も感情的になってしまう。


「だったらレイを忘れてもいいのかよっ!! 俺がレイを忘れれば俺は救われるのか!? 何もかも無かった事にして普通に生きていけば俺は救われるのかよっ!!」


「逃げてるままじゃ誰も救われないだろっ!! レイの問題は拓真だけの問題じゃないんだぞ。お前が一歩踏み出さない限り、私も雪菜も前に進めないんだぞ……」


涙を流しながら訴えるアン子。流した涙のせいで綺麗に塗られていた化粧が滲んでしまっていた。涙で汚れてしまった顔でアン子は言い続けた。


「こんな未来想像してなかった……。ずっとお前達は仲良くしているのだと思ってた……。拓真とレイが最後の喧嘩をした時も、いつもの様にすぐ仲直りすると思ってた……」


更に涙を流すアン子。今まで溜めてきた自分の気持ちを、思いを全てぶちまけているように俺は見えた。


「そんな風にお前らを客観的に見て、大人を演じていた私がいなければ、こんな未来なかったのかもしれないのに……。私がお前達と歳が近かったら、あの時私は、どんな事をしてもお前達の仲裁をしただろう」


泣き崩れるアン子。白の浴衣が土で汚れてしまっている。せっかくの綺麗な浴衣が台無しだ。


そんな泣いているアン子に俺は何も言えなかった。だって、泣きながら「すまない、すまない……」と俺だけに聞こえるような声で言われれば、何も言えないであろう。


こんなにも感情的になったアン子を俺は始めて見た。歳が離れているせいか、昔からお姉さんという認識を俺はしていた。だからこそ、泣き崩れているアン子に同様していた。


今、俺の目の前にいる如月杏子は、お姉さんとか大人とかじゃなくて……。


俺等と変わらない悩みを持った人間だった。


でも、アン子をこんな風にしてしまった原因は俺だ。俺がレイを裏切らなければこんな未来はなかったんだ……。


「ごめんなアン子……。お前が言った事は正しいのかもしれない……。でも、俺はレイが戻らない現実を受け止める。これが、俺なりの償いなんだ……」


もうアン子を見ることが出来ない。俺は今、アン子の気持ちを裏切ったんだ……。アン子はずっと俺の事を考えて、俺がどうすれば救われるのか考えてくれてた。


でも、そんなアン子を俺は受け入れられなかった……。苦しんで苦しんで、俺の未来を考えてくれたアン子は泣き崩れて自分の感情を露わにしている。


本当だったらアン子の苦しみだってなくしてあげたい……。誰も苦しまない現実を俺は創り上げたい。でも、俺にはそんな才能がない……。


凡人である俺は、誰も救えない……。ならどうして俺は凡人を求めたんだっ……!! どうして、俺は……。


「はぁ、はぁ、や、やっと見つけたよお兄ちゃん……!!」


汗まみれになっているルリが俺等の前に現れた。


そんなルリは焦っているようにな表情を見せた。そんなルリの表情で、俺は嫌な予感が脳裏を巡った。


昔の感じた、同じような感覚。


この祭りで俺に息を切らしながら、切羽詰った雰囲気を纏い、この俺を求めてくる。きっとそれは……。


「はぁ、はぁ……。どうしようお兄ちゃん、ユキちゃんがどこにもいないのっ!!





















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