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天才少女と凡人な俺。  作者: さかな
第三部 夏休み 求メラレル選択
33/134

12 前編 (拓真)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その事は考えないようにしていた。正直言えば思い出したくない事柄だから……。幼い日々の楽しい思い出。それが今の俺を苦しめる……。


そんな俺は、ふと思い出したかのように自室の押入れを開けた。


色々なものが散乱していてまさにカオス……。それでも、そのガラクタ達を掻き分け、奥の方で眠っているダンボールを見つけた。


少し埃がかかっていたが、横着な俺はそんな埃を気にもしないでダンボールを開けた。


開けた瞬間に見えてくる過去の情景。ダンボール内の一番上に置いてあった当時流行っていたヒーローのお面。


そのお面は昔、夏祭りで買ったもので、確かこのくらいの時期だったはずだ。


そんなお面を手に取り、俺は瞳を閉じた。











 「おい雪菜っ!! 今度の祭りお前も行くだろ?」


幼い頃の俺は、今の俺とは違って明るくて活発な普通の小学生をしていた。


「うん行くよっ!! あのね、新しい浴衣買ってもらったからそれ着てくのっ!!」


嬉しそうに話している雪菜の表情を今でも覚えてる。新しい浴衣を買ってもらってはしゃいで、顔の筋肉がおかしくなるんじゃないかと思えるくらいの満面の笑みで。


「ねぇねぇ、たっくんはどうでもいいけど、レイちゃんも浴衣着るの?」


そしてもう一人、俺の幼馴染がこの頃にはまだいた。城鐘しろがね レイ。俺が全てを奪ってしまった親友……。


「何言ってんだよユキ。俺が浴衣なんか着るわけねぇだろっ!」


ガサツで乱暴者で、喧嘩っ早くて、それでもすげー優しい奴で、俺の親友で……。


この頃の俺はいつも雪菜とレイの3人で遊んでいた。たいがいレイが悪さをして雪菜が逃げ遅れて、そんな雪菜を俺が助けに行って、本当に楽しかった。


「まぁでも、レイが浴衣を着れば確かに似合うかもな」


俺はからかうようにレイに言った。この後、レイが怒り出すのが分かりながら。


「て、てめぇ拓真っ!! 俺があんな恥ずかしいもん着るわけねぇだろっ!!」


怒りながら俺を追いかけてくるレイ。予想していたどうりの反応をしてくれたおかげで、俺はレイが走り出すよりも先に逃げ出すことが出来ていた。


「レイに俺が捕まえられるかなぁ~」


「ふざけんなっ!! 待て、拓真ぁぁぁ!!」


「二人とも喧嘩しないでよぉ」


こんな風に、レイとはいつも喧嘩ばっかしてた。それでも、俺もレイも楽しいと思う気持ちは一緒で、ずっとこのままの時間が続くのだと信じていた。


そんな、馬鹿で無知な俺の楽しかった最後の夏祭りが始まる。




 夕方になり俺とレイは、浴衣に着替えてくると言って帰っていった雪菜を一足先に神社の前で待っていた。


そんなに大きな神社ではないが、この辺では結構有名なお祭りだ。出店だって普通にあるし、人だかりだってできる。


小さな俺らにはそんな祭りがとても大きく見えていて、冒険でもするかのような気持ちに、この時の俺はなっていた。


「本当にユキの奴はいつもおせぇな」


苛立ちを隠せないでいるレイ。腕を胸の前で組みながら貧乏揺すりをしていた。レイが言っているように確かに雪菜の来る時間が遅い。


もう少しで完全に陽が沈んでしまう。それでも、雪菜に待たされるのに慣れている俺は少しレイをからかうことにした。


「確かに遅いな。雪菜がこんなに来るの遅いって知ってたら、レイも浴衣着てきたのか?」


ニヤニヤしながら俺はレイに言う。すると、


「ば、拓真おまえっ!!」


「嘘だよ、冗談だ。これから祭りで楽しもうってのに、喧嘩なんて無粋だろ?」


俺は微笑みレイを見る。そんな俺に呆れたのか、レイは嘆息し


「本当に、拓真は馬鹿だな」


少しの笑みを浮かべ言うレイは、この瞬間を噛み締めているような表情をしていた。


凄く楽しかった時間、忘れられない思い出、俺が壊してしまったものは宝物で、もう二度と手にする事の出来ない秘宝だ。


それはとてもフワフワしていて、触れれば消えてしまいそうになる。だけど、それに触れればとても温かくて、いつもでもそれに寄り添っていたいと思ってしまう。


そして、更に昔の記憶へと俺は誘われる




 出会いは突然だったんだ。俺とレイが出会ったのは小三の時だ。


いつもの様に雪菜と遊んでいた俺は、公園で雪菜と二人、談笑をしていた。


何気ない日常な風景。俺と雪菜にとっては当たり前な事で、体を動かして遊ぶのも好きだったが、雪菜と出会ってこうして話すのも好きになった。そんな時、


「お前が小枝樹 拓真か?」


雪菜と話をしていると、一人の子供が俺に話しかけてきた。そいつは俺を知っているよな口ぶりで、俺はそいつを睨みはしたが、返事を返すことは無かった。


「あくまでシカトするのかよ……。なら、悪く思うなよっ!!!」


ガンッ


いきなりの事で一瞬何があったのかわからなかった。俺の目の前には一人の同い年くらいの子供がいて、俺はそいつに話しかけられて、今の俺は頬がとても痛い……。


そうか……。俺はコイツに殴られたんだっ!!


それからの俺等は殴り合いの喧嘩。結局互いにノックダウン。


どうしてレイがいきなり俺を殴ってきたのか、それとても幼稚な内容で、ガキ大将のレイは最近目立っていた俺が気に入らなかったらしい。


本当に今思えばくだらな過ぎる。でも、それが切っ掛けになって俺と雪菜とレイは三人で遊ぶようになっていった。



 そして、祭りの日。


「たっくんにレイちゃん、遅れてごめんね」


「ごめんで済んだら警察はいらねぇんだよ」


遅れてきた雪菜の頭と拳でグリグリとするレイ。


「い、痛いよレイちゃんっ!! た、助けてたっくんっ!!」


この時の俺は今がとても楽しくて、こんな風に雪菜とレイの3人でずっと笑っていられると思ってた。


「もうレイもその辺にしとけよ。これ以上やると雪菜が本気で泣き出す」


俺の言葉を聞いたレイが渋々グリグリをやめる。そんなレイから開放された雪菜は、あっかんベーをレイにして、そのまま神社の中へと逃げていった。


雪菜の行動に怒ったレイも走り出す。俺はそんな二人の後を、微笑を浮かべながら追いかけた。


 神社の中には沢山人がいて、自分勝手に動き回ったらすぐにでも迷子になってしまいそうだった。だが、幼い雪菜もレイも俺もそんな事なんて何も考えてなく、自分勝手に動き回っていた。


俺が二人とはぐれたのに気がついたのはたこ焼きを買った時だった。でもまぁいつもの事だったせいか、俺はいたって冷静でいられた。


きっとレイが雪菜と一緒にいる。それを考えるだけで安心できた。レイが一緒に遊ぶようになってから、雪菜はもっと笑うようになった。


そんな事を考えながらたこ焼きを頬張り、俺はふとお面やに目がいった。幼い俺は自分の財布の中身を確認する。三百円……。


お金を確認すると、俺はお面の値段を見た。三百円……。


「ねぇお兄さん。俺さ、お面が三つ欲しいんだけど、三百円しか持ってないんだよね。だから、まけてくださいっ!!」


本当に幼い頃の俺は馬鹿だな。こんなお願いを本気で大人に言ってしまうなんて……。でも、この時の俺は本気で、雪菜とレイのお面も欲しかったのだ。


「どうして坊主は三つも欲しいんだ? 一個で十分だろ」


「友達にも買ってあげたいんだ。皆で一緒に、俺達の思い出を作りたいんだよ……。でも、やっぱりダメだよね……」


皆一緒がよかった。俺一人じゃ意味なんか無いから……。孤児院から小枝樹家に引き取られて、俺には家族が出来た。もうそれ以上なにもいらないって思えるくらい嬉しかった。


でも、そんな俺に友達が出来た。そいつ等は俺の宝物で、俺の大切な親友達だ。


「もう、しょうがねーなぁ。お兄さん負けたわっ!! 好きなの三つ選びな」


そう言うとお面屋のお兄さんは笑ってくれた。素直に嬉しいと思えた。これで三人で笑い合える。この時の俺は、いつも雪菜とレイのことばかり考えていて、自分の事なんてそっちのけだった。


俺はお面を三つ選んだ。この頃に流行っていた特撮ヒーローの赤と青とピンクを。


「ありがとう、お兄さんっ!!」


嬉しくなってしまった俺は、お面屋のお兄さんに手を振り、雪菜とレイを探し始めた。



 一人、友人達を探している俺。片手にお面を三つ持って、賑わう神社の中を探していた。


お面を買い、それから皆を探し始めて結構な時間が経った。そんなに広くは無い神社と言っても、小学生にとっては結構な広さだ。だが、俺は色々な所を探し回った結果、元のお面屋の前まで戻ってきてしまっていた。


「おかしいなぁ、あいつ等いったいどこに行ったんだ」


一人ぼやく俺。早くお面を上げたいと思う気持ちと、雪菜とレイを見つけることの出来ない焦りが、俺の平常心を乱していく。


周りを見れば沢山の人が溢れかえっていて、眩いばかりの明りと人々の笑い声が、今の俺を孤独にさせる。


そんな幼い俺の心は、少しずつ恐怖へと変わっていき、誰もいないこの瞬間が堪らなく怖かった。その時、


「やっと見つけたぞ拓真っ!!」


俺の名前を呼ぶ奴がいた。その人物がレイだと認識するまでには然程の時間はかからなかった。そして、レイの声を聞いた瞬間に安心感を抱いた事を今でも覚えている。


だが、どこか様子のおかしいレイ。でも俺は、そんなレイの状況を把握できなかった。


「どこ行ってたんだよ。まぁいいや、それよりさお前らの分のお面買ったんだぞ。というか、雪菜はどうした?」


今の今まで全力で走っていたのが分かってしまうくらい、レイは息を切らしていた。その姿を見て、俺の脳裏に嫌な予感がよぎった。


「はぁ、はぁ、ユキがどこにもいないんだ……」


一瞬、レイの言葉を信じることが出来なかった。だが、確かに今ここには雪菜の姿は無く、レイの言葉が真実なのだと否が応でも信じるしかなかった。


「取りあえず、手分けして探そう」


後々冷静になった時思ったのだが、レイがどこを探してどこをまだ見ていないのかを聞けば、すぐにでも雪菜を見つけることが出来た。


でも、雪菜がいなくなったという事を聞いた俺は冷静ではいられず、ただ闇雲に探し回るだけしか出来なかった。


俺とレイは二手に分かれた。人込みの中を必至で走り回って、俺は雪菜を探す。


「雪菜っ!! どこにいんだよ雪菜っ!!」


俺の叫び声は虚しく雑踏に消える。それでも、声が枯れるくらいの大声で雪菜の名前を呼び続けた。


今頃、雪菜は独りで泣いている、怖い思いをしている。俺は雪菜のヒーローだ、そんな思いを雪菜にして欲しくないし、させたくない。


大切な人だから……。雪菜は俺の大切な人だから……。


「どこに……、どこにいんだよ雪菜ああああああああああああっ!!!!」




 結局、俺は雪菜を見つけられなかった……。どこにもいない、雪菜がどこにもいない……。


俺はアイツにヒーローになってやるって言ったんだ……。どんな時でも助けてやるって言ったんだ……。なのに……。


「はぁ、はぁ、はぁ、拓真もダメだったか……。こっちも見つからなかった……」


冷静に言うレイに、この時の俺は怒りを感じた。


「てめぇが……。てめぇが雪菜をちゃんと見てなかったからこうなったんだろっ!!!」


俺は疲れきっているレイの胸倉を掴み怒号をあげた。だが、俺が怒りを露わにしている時のレイといつも冷静だ。


「確かに俺がユキを見てなかったのが悪い。拓真が怒りたいのも分かる……。でも、今は怒るよりもユキを見つけてあげるのが先だろっ!! どうした拓真、いつものお前ならユキの居場所くらい直ぐに分かるだろっ!? 悔しいけど、拓真じゃなきゃユキの居場所はわかんねぇんだよっ!!」


いつもこうだった。俺が怒りで目の前が見えなくなっている時、レイが冷静に俺の心を鎮めてくれた。たったそれだけの事で、俺はいつもの自分を取り戻す事が出来ていたんだ……。


レイは言う。俺じゃなきゃ雪菜の居場所は分からない。でも、俺とレイは祭りの会場を隅から隅まで探しまわった。それでも雪菜は見つからない……。


考えろ、考えるんだ俺……!! 雪菜が行きそうな場所で、俺らがまだ探していない場所……。


「……境内だ」


雪菜の行動を俺は思い出した。雪菜は独りになると誰もいないような場所を目指す。今日の祭りは境内の方までは規模を大きくしてはいなく、あの場所には誰もいない。


「け、境内ってなんだよ」


阿呆なレイは俺の言った言葉の意味を理解できていなかった。


「境内って言うのは、その、お賽銭する所だ。この広場の奥に階段があるだろ? あの上だよ」


境内という言葉の意味を俺もあまり理解していなかったらしく、曖昧な事をレイに言ってしまった。でも


「確かに、ユキはいつもはぐれると誰もいないような場所にいるな……。それに、拓真がそこかもしれないって言うんだったら、俺は信じるぜ」


本当にレイは俺の親友だ。こんな曖昧な事を言っているだけのクソ餓鬼を信じてくれる。だからこそ、俺もレイの期待に応えたい。


俺とレイは一瞬目が合い微笑む。そして、雪菜がいるであろう境内へと走り出した。




「ちくしょー。ここの階段ってこんなに長かったか!?」


「文句言わずに走れよレイっ!!」


雪菜がいるとおもわれる場所を特定した俺等は、全力疾走でその場所へと向っていた。


少しずつ賑やかな音が遠ざかっていき、明りもない暗黒な世界へと俺等は向う。夏の蒸し暑さが生暖かい風を吹かせ、今の俺等を包み込む森林がオカルト的な雰囲気を醸し出していた。


きっと雪菜は独りぼっちで泣いてる。俺がもっと雪菜を見ていればこんな事にはならなかった。


自分の無力さを噛み締めながら走る俺の体力は限界に近かった。俺だけじゃない、レイだってもう限界のはずだ。


もう少し、あともう少しで上り終わる。そして、


「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……。ゆ、雪菜……、いるか……?」


息がきれ、声なんか殆ど出なかった。雪菜を心配している気持ちはある、だけど思っていた以上に体力が無くて……。


「た、たっくん……、レイちゃん……」


聞き覚えのある女の子の声。あー、やっぱりここにいたんだな。


「雪菜……」


バタンッ


俺は雪菜の声を聞いた途端、その場に倒れこんだ。大の字を体で描き、空を見上げながら俺は言う。


「おい、レイも倒れていいぞー。俺よりもレイの方が疲れてんだろ」


きっと安心していた。雪菜が見つかって、いつもの3人に戻れて、凄く居心地が良くなったんだ。今の今まで、雪菜を見つけたら説教してやるって思ってたのに、そんな気持ちどっかに吹っ飛んだ。


「ばーか。俺は拓真みたいにザコじゃねーんだよ。まぁでも、今日の所は拓真に合わせてやるか」


そう言うと、レイ俺の隣で倒れこんだ。そんな俺等の所まで走ってきた雪菜嬢は、


「たっくん、レイちゃん……。ご、ごめんなさい……。う、う、うわぁぁぁん」


結局泣き出してしまう雪菜。そんな雪菜を見た俺とレイは


「雪菜はいつまでたっても泣き虫だな」


「本当に、ユキには俺らが居なきゃダメだな」


そう言って、俺とレイは一緒に笑った。





 雪菜を見つけてから少しの時間が経った。俺とレイは体力が回復するまで地面で横になっていて、雪菜はそんな俺等を涙を流し終わった少し赤くなった目で見ていた。


そんな俺らの体力も、もうだいぶ回復してきて


「ふぅ。んじゃそろそろ行くか」


レイが立ち上がり言う。だが、俺は何かを忘れていた。


「うん、そろそろ帰ろう。早く、拓真も起きてよ」


雪菜がレイに同意し俺に言う。でも、俺は何かを忘れてるんだ。いったい何を忘れてるのか、全然思い出せない。


「ねぇねぇ、拓真が持ってるのってなに?」


俺が持っている物? 俺はそんな雪菜の言葉を聞いて、自分の右手を見た。そこにあった物は、


人と人の間を掻い潜りながら走り回り伸びてしまったゴム、俺の手から流れ落ちた汗や倒れこんだ時についてしまった土、それでも俺はコイツ等に渡したくて必至に放さず持っていた。


「……お面だよ」


汚れてしまったお面を持ち上げた。でも、もうぐしゃぐしゃになってしまったお面を渡すなんて出来ない……。


「はぁ……。本当に拓真はセンスが無い。どうせ俺のお面はこの青色のやつだろ」


……レイ?


「それであたしのがピンクだね。あ、もう一個は赤かー、確かにレイちゃんが赤取るといつも拓真怒るから、今日は気を使ったんですね」


……雪菜?


「ば、俺は別に拓真に気なんか使ってねーよっ!! さっきまでビービー泣いてたユキに言われたくないねっ!!」


「な、泣いてたのは関係ないじゃんっ!! 確かに独りぼっちで怖かったけど……」


俺の手元に残った赤いヒーローのお面。そんなぐしゃぐしゃなお面を見て俺は思った。


「なんか、こんの三つのお面。今の俺等みたいだな」


泥だらけになってぐしゃぐしゃになって、それでも笑ってる。これが今の俺達なんだ。どんなに離れても、きっとこのお面が俺らを繋いでくれる。


「なぁ、レイと雪菜はここの神社が何の神社か知ってるか?」


思い出したかのように俺は話し出す。


「ここの神社の神様は縁結びの神様なんだって」


「縁結びってなんだよ」


本当にレイは阿呆だな。まぁ小学生が知っているほうが珍しいかもしれない。


「縁結びって言うのは、人と人を繋ぎ合わせてくれる事らしい」


「出会いってやつか?」


「そうそう、そんな感じ。俺等は点と点なんだ。それを神様が線で繋げてくれるんだって」


俺は立ち上がり境内の方へと体を向ける。そして合掌した。


「なにお願いしてるの拓真?」


「お願いじゃないよ。神様ありがとうって言ったんだ」


俺の言う、ありがとうの意味が分かっていない様子の二人。そんな二人に俺は


「だから……、こんなにも最高の奴等に出会わせてくれてありがとうって事だよ……///」


「おいおい拓真。顔が赤くなってるぞ~」


「う、うっせーよレイっ!! これからお願いもするんだから邪魔すんなっ!!」


「お願いって、俺等はもう出会ってんだぜ? 他に何をお願いすんだよ」


レイが言っている事は尤もだ。でも、幼かった俺は本当に欲張りで、実際問題どんな神様だろうと関係は無かったのだろう。


「だから、その……。俺らがずっと一緒にいられますようにって……」


俺は素直に思っていた。雪菜とレイが一緒にいなきゃ嫌だった。それは俺のわがままで、こんな無力な俺なんかじゃ叶えられないって思ったから……。


今日の一件で思い知らされた。雪菜がいなくなって凄く怖かった。もう二度と雪菜に会えないんじゃないかって思ってしまった。


でも、俺の隣にはレイが居てくれて、俺を慰めてくれた。だから雪菜を見つける事が出来たんだ。きっとこの先も、こんな風に俺は二人を見失ってしまうかもしれない。


だからその時は、こんな俺を二人の所まで連れて行って欲しい。それが、俺の願いだ……。


「あーはいはい、本当に拓真はヒーローみたいな事ばかり言ってダサいダサい。でも、そのお願い事なら俺も乗るぜ」


「あー、レイちゃんだけずるいっ!! あたしも」


俺を真ん中にする形で両サイドに雪菜とレイが立つ。そして二人は合掌し目を瞑った。


そんな二人を見る俺は思った。


ずっと俺だけだと思ってた。俺だけが二人の事を大切だと思っていて、いつの日にか俺達は離れ離れになってしまうと感じていた。


でも、ここでお願いをしている二人の気持ちは俺と同じで、少し目頭が熱くなった。


こんなにも俺の事を思ってくれる二人が、俺は大好きだ。だから神様、お願いします。ずっとずっと3人で笑っていられますように……。







 手に持っていたお面をダンボールの中へと俺はしまう。


過去の情景が浮かび感傷に浸る俺を、きっとレイは許してくれないだろう……。本当に俺は自分勝手すぎる。俺がレイを裏切ったのに……、俺がレイを傷付けたのにっ……!!


力が込められる拳とは裏腹に、俺の表情は無であった。何も感じないようにと、昔の事を表に出さないようにと必至だったから……。


いや違う。俺はレイから逃げたんだ……。これ以上レイを苦しめたくないなんて嘘だ……、俺が傷つきたくないだけだ……。


どんなに後悔しても時間は戻らない。だからこそ前を向かなきゃいけない。でも、それが簡単に出来るのなら、人の概念に後悔なんて物はきっとない。


 あの時と同じ神社での祭りは明日。確か、ルリと雪菜が行くとか言ってたな。


まぁ、俺には関係の無い話しだ。勝手に楽しんできて欲しい。あいつ等に付き合わされると碌な事がない。この間のプールのように……。


レイを裏切って疎遠になってから俺はその祭りに行かなくなった。きっと行っても楽しく無いから……。


俺は出したダンボールを押入れの中へとしまい戸を閉める。そしてベッド横にある窓を開けて風にあたる。


夏とは思えないほどの優しい風が俺の髪を靡かせた。ミンミンとうるさい蝉の鳴き声が聞こえなければ最高なのだが……。まぁ、それはわがまま過ぎる。


過去の事を思い出すのもいいが、今を楽しまなきゃダメだよな。だが、そんな前向きな俺の心を一瞬にして折ることの出来る人物が現れた。


「おーい、拓真ぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


俺の家の前で、大きく両腕をブンブンと振り回し俺の名前を呼ぶ幼馴染がいた。


何だか嫌な予感がする。俺の名前を呼び、そそくさと俺の家の中へと入ってくる幼馴染。


ドタドタドタドタッ


物凄い勢いで階段を上ってくる音がする。なんだか、前にもこんな事があったような……。


バタンッ


勢い良く開けられる俺の部屋の扉、そして、


「よし拓真っ!! お祭りに行こうっ!!」


………………。


もう、勘弁してください……。









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