10 前編 (雪菜)
どうも、さかなです。
今回の章で、第二部が完結します。
上手く書けているか全然分かりませんけど、それでも楽しく読んでもらう為に頑張りました。
では、第十章お楽しみ下さい。
あたしの名前は白林雪菜。
普通の高校生活を送っているどこにでも居る普通の女子高生。そんなあたしが自分で自分を自己分析すると簡単にその答えが出てくる。あたしは……
最低な女だ。
大好きな人があたしには居る。その人は暗い世界からあたしを助け出してくれた。キラキラとした笑顔で端っこに独りで居たあたしに手を差し伸べてくれた。
あたしの世界にはあの人だけがいれば良い。あの人の笑顔も、あの人の苦しみも、あの人の悲しみも、全部あたしだけの物になれば良いって思ってる。
「……拓真」
拓真の事は全部分かる。苦しんで、それでも誰かの為に頑張る拓真は、やっぱりあたしにとって眩し過ぎる存在で、それでもあたしの傍に居て欲しくて、あたしだけを見て欲しくて……。
あたしは夏蓮ちゃんに真実を話したんだ。
「本当だよ。拓真は孤児なの」
ファストフード店の中、あたしは夏蓮ちゃんに言った。テーブルを叩き嘘だと信じたいと思っている表情を浮かべている夏蓮ちゃんは滑稽だった。
他のお客に見られているのに、恥ずかしげもなく動揺する夏蓮ちゃん。そんな夏蓮ちゃんを見てあたしは思った。
本当に天才少女なんだな。
何でも出来てしまう自分を呪う訳でもなく、そんな自分を肯定して、何もかもを手に入れたい為に拓真を利用する女。
本当だったらもう一つの拓真の真実を話して絶望させたいと思った。だけど、それはきっと拓真は喜ばない。だからあたしはこれで我慢する。
きっと夏蓮ちゃんは後悔する。自分が拓真にしてきた過ちで苦しんで、何も出来なくなって、自分の存在を再認識すればいい。
天才なんて、誰かを傷付ける事しか出来ないんだと。拓真がそう思うからあたしもそう思う。
この思想がどんなに拓真の本心を傷付けても、あたしは拓真の気持ちを最優先する。最後にどんな結末が待っていても、拓真と傷付けるなら本望だ。
「ど、どうして私に話してくれたの……?」
立ったままテーブルに手をつけている夏蓮ちゃんは言った。その手は震えていて、声も少し震えていた。
夏蓮ちゃんは何も悪くないかもしれないけど、拓真を少しでも傷付けたからしょうがない事だ。
無知は罪。
知らないで済ませて良いものじゃない。分かりませんでしたで平気な顔をしていいものじゃない。夏蓮ちゃんは、一之瀬夏蓮は、拓真を傷付けたんだから……。
でも、何で、あたし後悔してるの……?どうして、夏蓮ちゃんが苦しんでいる姿を見て辛いって思ってるの……?
「拓真にとって繊細な部分だから、知らないじゃ済まされないから、だから夏蓮ちゃんには知ってて欲しかったの」
平然と言うあたし。いつからあたし、こんな嫌な子になっちゃったんだろう……。ただ、拓真の笑顔が見ていたいだけなのに……。
「……謝らなくちゃ」
眉間に皺を寄せ、夏蓮ちゃんは動揺していた。自分がしてしまった事実を後悔していて、それをどう拓真に伝えるのか思考しているようだった。
それでいい。
苦しめ、苦しめ、苦しめ、苦しめ、苦しめ、苦しめ、苦しめ、苦しめ、苦しめ、苦しめ、苦しめ、苦しめ。
「ごめんなさい雪菜さん。私はもう帰るわ。今日は楽しかった本当にありがとう」
夏蓮ちゃんの言葉を聞いて、夏蓮ちゃんの笑顔を見て、あたしは自分が嫌いになりそうだった。
どうして、笑えるの……。どうして、こんなあたしにお礼なんか言うの……。
あたしは拓真が夏蓮ちゃんに取られて嫌だった、あの女さえ居なければ普通の高校生活を拓真は送れていた。何もかもを忘れて、拓真がレイちゃんを裏切った真実なんか全部消えて、それで、それで……。
店内に一人残されるあたし。夕方の時間、周りは学生が多くて、そんな中であたしは独り。昔を思い出す。拓真とあの公園で出会うほんの少し前の事を……。
あたしは苛められっ子だった。
特にあたしが何をしている訳でもないのに、あたしは苛められていた。周りの奴がよく言う事はあたしの親の事。
あたしにはお父さんがいない。だけど、家には男の人がいる。お母さんはその人の事をお父さんって呼ばせようとしてるけど、あたしは嫌だった。
そんな環境にずっと居たからか、あたしは家でも外でも喋らない暗い子になっていった。
小学一年生の夏。
家の近くの公園であたしは独り読書をしていた。昼過ぎの暑い時間、誰もいない公園。そんな空間があたしは好きだった。
セミの声と生暖かい風、ギラギラと照り付ける太陽。でも、今日の楽しい時間は直ぐに終わりを迎えた。
「みんなー、この公園であそぼーぜっ!!」
一人の男の子が公園の前で後から来る数人の友達へ声を掛ける姿が見えた。その光景はあたしの楽しい時間を奪うもので、すごく嫌な気持ちになっていた。
ゾロゾロと公園内に入ってくる男の子達。あたしは諦めて帰る事にした。だけど、あまり家にも帰りたくないから散歩でもしてから帰ろう。
あたしは公園から出るとき、一際笑顔が綺麗な男の子を見た。純粋そうで、何も苦しみなんかなさそうで、全ての人に愛される存在にこの時のあたしは見えていた。
その日から毎日のように男の子達はあの公園で遊ぶようになった。あたしの唯一の居場所だったのに……。
暗い考えだけが頭の中を巡って、いつしかその子達が楽しんでいる姿を見るのが嫌になっていった。きっと自分の楽しいなくなってしまったから、自分が苦しい時に他人の楽しいなんか見たくない。
あたしの心はどんどん荒んでいった。
でも更に時間が経ったら、何も気にしなくなった。公園内で楽しく遊んでいる男の子達を遠目に見ながら、あたしは公園の端っこで独り読書を楽しめるようになった。
誰かがいるけど誰もいない。そんな新しい感覚の空間を作り上げたあたしを自分で褒めていた。だけど、小説の章を読み終わる度にあたしは男の子達を見てしまう。
楽しそうだな。あたしもまぜてくれないかな。あたしも、みんなと遊びたいな。
心の奥で叫び続ける本当のあたし。いや違う、あの男の子の笑顔を見てからだ。最初はどうでもよかった、本当に独りで大丈夫だった。なのに、あんなに楽しそうに、嬉しそうに笑うから、もしかしたら自分も出来るんじゃないかって思ってしまう。
それでも、あたしには声を掛ける勇気なんか無くて……。このまま夏休みが終われば、あたしはまた独りになって……。
嫌な未来しか想像できなくて怖くなった。でも、それがあたしだから……。またいつもの生活が始まるだけだから……。だから━━
「なぁ、お前いつもここで本読んでるけど遊ばないの?」
あたしに話しかけてくる男の子。
「つか、ここすげー涼しいなっ!!毎日本読んでて暑くないのかなって思ってたけど、ここなら全然読めるな」
毎日本を読んでて……?もしかして、ずっとあたしに気がついていた……?
「でもさ、本を読むのも悪くないけど、たまには皆であそぼーぜ」
皆で遊ぼう……。男の子が言っている事が全然理解できなかった。だけど
ポタッ
あたしの心はその言葉をちゃんと理解していて、次々と涙が溢れてきた。
「お、おいっ!!何で泣くんだよ、俺なんかやっちゃったか……?」
心配そうにあたしを見る男の子。そんな男の子の言葉に返事が出来なくて、あたしは自分の感情だけを吐き出した。
「あ、あたしも、皆と、遊んでもいいの……?」
「当たり前だろ。誰が遊んじゃいけないって決めたんだ」
「で、でも……。あ、あたし苛められっ子だよ……。そ、それでもいいの……?」
涙が止まらない。嗚咽を奔られながらあたしは必至に伝えた。
「……お前、苛められてるのか」
男の子から笑顔が消えた。言わなきゃ良かったって後悔してる。せっかく、せっかく話しかけてくれたのに……、また独りになっちゃう……。
「だったら、俺がお前のヒーローになってやる。お前が苦しい時や悲しい時、絶対に俺が助けてやる。だからさ今は俺らとあそぼーぜっ」
とても綺麗でキラキラとした笑顔で、優しく伸ばしてくれる手。あたしは何も答えられないまま、その手を掴んだ。
「俺の名前は小枝樹拓真。お前は?」
「……白林雪菜」
あの日、あたしは拓真に救われた。
最初は同情か何かと思っていたけど、そんな気持ちは直ぐに消えてしまう程、拓真はあたしに優しく微笑みかけてくれた。
だからこそ、あたしのヒーローで、あたしの大好きな人。
きっと拓真はあたしを見てくれない。そんなのは昔から分かってる。でも、それでも誰かに拓真を取られるのが嫌だった……。
自分の中に芽生える小さな嫉妬心が、いつの間にか大きくなっていって、それが独占欲に変わっていく。
拓真はあたしだけのもの。誰とも話して欲しくない、誰とも笑って欲しくない。綺麗な女の子と一緒にいてほしくない、可愛い女の子に優しくして欲しくない……。
汚い感情。悍ましい程に自分が拓真以外の他人を拒絶している。
騒がしいファストフード店。周りには沢山の学生が居て、その中には二人で来ている男女もいた。
あたしは、そんな仲睦ましい男女の女を見て、笑っている女を見て、それが嘘だとハッキリと分かってしまっていた。
媚びる女。その嘘に気がつけない愚か過ぎる男。
自分の心が落ち着くのが分かった。
それは、客観的に自分を見るのも、主観的に自己の考えをまとめるのも面倒になってしまったあたしが、思考を停止させる時の合図。
そんなあたしは、テーブルに残された夏蓮ちゃんとあたしのトレイを手に取り、何の感情も湧かないままこの場から立ち去った。
家、電気も付けないで独り暗い部屋に居る。
外を見ても雨で、その雨音が今のあたしの心を強く打ちつける感覚になった。
うるさいと思っていても、その音はあたしを傷付けてきて……。だけど、どこか優しい音色を奏で続けている。
お母さんは仕事だし、あたしに父親は居ない。誰もいない静かな家に独りでいる。
いつもなら音楽をかけたり、テレビをみたり、友達と電話をしたり……。だけど、今のあたしは何もする気になれなかった。
少し前の夏蓮ちゃんとの事を思い出し、憂鬱になる。自分の気持ちと行動が本当に正しいのか、今のあたしはそれだけを考えている。
それでも、どんなに考えても答えなんか出なくて、拓真を自分だけのものにしたいっていう気持ちと、夏蓮ちゃんを傷付けてしまったという後悔が今のあたしを苦しめる。
自分でやってしまったのに、後悔なんか出来ないよね……。何で、夏蓮ちゃんを傷付けてこんなに後悔してるんだろう……。
自分の本心が分からなくなる。苦しめたいと思った人の苦しい顔を見て、自分が苦しくなるなんて、本当に馬鹿げてる……。
それでも、あたしは拓真が大好きで、なのに夏蓮ちゃんも傷付けたくない。
心の中にある気持ちの矛盾。
いったい、今のあたしは何をしたいの……。拓真が夏蓮ちゃんと仲良く笑ってるのを見るのは辛いよ……、でも夏蓮ちゃんがあんな風に苦しい顔するなんて思わなかった……。ましてや、こんなあたしに『ありがとう』なんて……。
ずるいよ……。
どんなに自分を取り繕っても、どんなに可愛くなろうって努力しても、天才少女に勝てるわけないじゃん……。
ピーンポーンッ
膝を抱え蹲っているあたし。自分の家のインターホンがの音がなり顔を上げる。そして、顔を上げて気がついたことは
「……あたし泣いてる」
そう、自分が涙を流している事すら、全く気がつけなかった。そんな涙を腕で拭い、あたしは玄関の扉開けた。
「うーす雪菜。お前腹へってないか?」
コンビニの袋を片手に持ち、いつもならあたしが食べている筈の肉を咥えている男の子。
あたしを救ってくれた男の子。
「こんな時間にどうしたの拓真」
「いや、今日の朝おばさんに「今夜は遅くなっちゃうのよね」って言われたから様子を見に来た」
そんな拓真はあたしに笑ってみせた。
「取り敢えず上がるぞ」
あたしの部屋。拓真には来慣れている部屋だけど、あたしは凄く緊張する訳で……。いつもちゃんと片付けてはいるけど、どこか汚くないか、見られてまずい物はないかと考えてしまう。
どうして幼馴染に緊張しているんだろう。そんな疑問は簡単に出てくるもので、あたしが拓真を好きだから。
ずっとヒーローなんだって思ってた、ずっと手の届かない存在だって思ってた。だけど、拓真が本当に苦しいと思っている時、あたしは思ったんだ。
拓真も、普通の人なんだって……。
そう思うようになってから、あたしは拓真に惹かれていった。自分の手が届かない憧れなんかじゃない、あたしの隣に居る、とても弱い人なんだって思ってから……。
そんな拓真があたしの隣で肉まんを食べてる。その姿を見ているだけであたしは幸せになれた。
「ん?雪菜の肉まんもあるぞ?」
そう言うと、拓真は袋から紙に包まれた肉まんを取り出し、あたしに手渡してきた。
「……ありがと」
肉まんを取り、あたしはお礼を言う。素っ気無い態度になってしまった事を少し後悔しながら、あたしは肉まんを頬張った。
「つかさ雪菜」
白い生地に包まれた肉の塊を食しているあたしに拓真は話しだす。
「お前、何かあったか?」
不意にあたしの心に触れる拓真。だけど、その言葉は今のあたしの芯を捉えていて、あたしは何も言い返せなかった。
「まぁ、何かあったら言えよ。俺はずっとお前の味方だからさ」
あたしの求めていた言葉。拓真の口から発される優しい言葉。あたしの為に買ってきた食べ物を頬張る拓真はいつもと変わらなくて、そんな拓真の優しさが嬉しくて、そして苦しかった……。
自分の愚か過ぎる行いが招いた苦しみ。
あたしはそれを受け止めなきゃいけないんだ。これから先、ずっと。だから、あたしは決めるの━━
「ねぇ拓真、もう一個肉まん」
「ちゃんと買ってきてるっつーの」
コンビニの袋から取り出される肉まん。拓真の手にあるそれを、あたしは受け取り頬張る。その味はいつもよりも美味しかった。
何の変哲も無いただの肉まん。あたしの大好きな食べ物、そしてあたしの大好きな人が隣に居る。ずっとこうしていた、ずっとこのままでいたい。
「美味しいね拓真」
あたしは笑った。拓真の隣ではずっと笑っていたいから、あたしはそう決めたの。
どんなに苦しくたって、どんなに後悔したって、どんなに拓真に泣きつきたくったって、あたしは我慢して笑うの。
だから、今日で拓真に甘えるの最後にしよう。
「ねぇ拓真、もう「たっくん」って呼んでも平気……?」
不意に言うあたしの言葉に拓真は少し動揺していた。でも、
「……ごめん雪菜。それはもう少し待ってくれないか」
怒られると思った。また公園で怒られた時の様に、怒鳴られるって思ってた。でも、拓真は「待ってくれ」って言う。
なんだか、その言葉が凄く嬉しかった。
拓真が来てから数時間経った。数時間と言ってもほんの二時間くらいだ。
他愛のない会話をし、いつもの様に笑い合った。あたしにとってはとても有意義な時間で、拓真が隣で笑っている事が本当に嬉しかった。
「もう、こんな時間か」
携帯の時計を見て言う拓真。今の時間はもう23時近くだった。
「俺はそろそろ帰るけど、本当におばさん帰ってくるの遅いな。お前一人で大丈夫か?」
「もー、いくらなんでも高校二年生だよっ!!あたしだって一人でお留守番くらい出来ますっ!!」
子供のようにあたしを扱う拓真に怒った。でも、そんな風にからかわれるのは嫌いじゃない。
「じゃ、また明日な雪菜。お前明日は寝坊すんなよ」
「善処します」
「お前は政治家かっ!!」
玄関で靴を履く拓真とくだらない会話をする。
靴を履き終わった拓真は玄関のドアノブに手をかけた
「ねぇ拓真っ!!」
「ん?」
家から出ようとしている拓真を見て寂しくなった。このまま、拓真が居なくなっちゃうんじゃないかって不安になった。だから、
「拓真は、ずっとあたしの傍に居てくれる……?」
「……雪菜」
これが最後だから、拓真に甘えるのも心配かけるのもこれが最後だから……。だから、だから━━
「当たり前だろ」
あたしの頭もポフポフと優しく叩きながら拓真が言う。
「俺はずっとお前の傍にいるよ。だから、そんな不安そうな顔すんなよ」
笑って答える拓真。その笑顔が今の汚れきったあたしの心を救ってくれて、
「ま、また拓真に助けられちゃったね……」
あたしは俯きながら言った。拓真にないてる所見られたくなかったから……。これ以上は心配かけたくなかったから……。
「何言ってんだよ。ダメになった俺の横にずっとお前は居てくれただろ。俺はそれで本当に救われたんだ。まぁ、その優しさに気がついたのは最近なんだけどな」
照れ隠しに苦笑する拓真。そしてあたしは思う。今の拓真の言葉は本心から言ってくれたものだって。
「雪菜には本当に感謝してる。だけど、こんな俺の傍に居たいなんてお前も本当に物好きだよ」
「物好きでもいいよ。あたしは拓真の傍に居たい。ずっとずっと、一緒にいたい……」
「おいおい雪菜、抱きつかれると帰れないんだが……」
あたしは無意識のうちに拓真に抱きついていた。離れたくないと思う気持ちがその行動をさせたのか、全然分からないけど、拓真の体温を少し感じて離れた。
「ご、ごめんね。じゃまた明日っ!!ちゃんと起こしに来てよっ!!」
「お前……、自力で起きる気ないだろ」
またも他愛のない会話を交わし、今度は本当にバイバイした。互いに「おやすみ」を言ってあたしは拓真を見送った。
拓真が帰った独りぼっちの静かな空間。それでも、今のあたしは寂しくなんかなくって、本心を言えば少し寂しいけど、でも拓真に沢山元気をもらった。
自分が夏蓮ちゃんにしてしまった事を後悔して、それでも拓真とずっと一緒に居たいって思う。だから、あたしは夏蓮ちゃんに謝らなきゃいけない。
全部あたしの事を話して、そして正々堂々夏蓮ちゃんから拓真を奪い返す。
拓真は大好きな人。だけど、夏蓮ちゃんも大好きな友達だから……。
もっと夏蓮ちゃんを知りたくなった。もっともっと仲良くなりたいって思った。
「よし」
あたしは自分で自分を奮い立たせる為に呟いた。
もう少しで本格的に夏が始まる。夏休みの目標は、夏蓮ちゃんと仲良くなって、そして拓真を取り戻す。
子供みたいな目標を立てるあたしは、これから待つ夏休みの出来事を何も知らないでいる。きっと未来なんか誰にも予想できなくて、だからこそ皆頑張って今を謳歌しようとしているんだ。
本当の想いがいつ拓真に言えるかは分からないけど、あたしだって頑張らなきゃいけない。
そんな不安だらけの夏休みまで、あと一週間。
今のあたしは知らない未来が光に満ち溢れているものだと信じていた。