9 後編 (拓真)
テストは無事に終わった。
手ごたえあった者、ギリギリだったんじゃないかと不安に思う者。テストが終わった後の雰囲気はどこも一緒だと思う。
まぁ俺は普段から普通に勉強はしているので、赤点を取る事はない。それでも、勉強会を開いたのにそれにちゃんと混ざって勉強をしなかったせいか、本当に普段と変わらない感覚だった。
もっと上を目指せば良いと、誰かが言ったとしても、俺は凡人で居続ける。だってそれが、俺が求めた事だから。
とまぁ、そんなこんなでテストは終わり本格的に体育祭の準備で大忙しです。
テストが終わった事で、皆が体育祭を盛り上げようと頑張っている。
そんな皆を見ながら、俺は窓の外を見た。
「今日も雨か」
雨。このまま本番まで雨が続けば体育祭は中止になる。こんなにも頑張って体育祭を盛り上げようとしている生徒達の気持ちが無にかえる。
そんな事を考えていても、俺は勉強会の後に起こった出来事が忘れられなくて、あの時も雨が降っていて……。
そう、あの時も……。
「話したい事ってなんだよ」
家の玄関前で俺は一之瀬に問う。
玄関は閉め、中にいるルリには話が聞こえないようにした。俺なりの配慮のつもりだった。なんだが、とても大切な話をすると直感的に思っていたんだ。
「場所を変えられるかしら」
「わかった」
一之瀬の要望を答える為に、俺は近くの公園まで行くことにした。
公園に着き、ベンチに座る。辺りはもう暗くなっていて、太陽の光を拝むことは出来なかった。その代わり、薄い雲に覆われながらも少しの光を漏らす月の輝きだけは見えていた。
とても静かな場所。住宅街で夕飯時なのに、近くの家からも声は聞こえてこない。
俺は一つ息を吐き一之瀬にもう一度問う。
「それで、話したい事ってなんだよ」
立っている一之瀬を見上げながら俺は言った。
「えっと、それは……」
口篭る一之瀬。自分から話をしに来たのに口篭るって……。余程言いづらい事なんだな。
俺は何となくだが一之瀬が言いたい事がわかった。
「菊冬の事か?」
一之瀬 菊冬。今俺の目の前にいる天才少女の妹で、俺が傷付けてしまった女の子の名前だ。
菊冬は一之瀬と仲良くしたかった。そんな気持ちを聞いて俺が余計な事をした。その時の俺は信じていたんだ、きっと家族は最後に笑い合えるって……。
そんなお節介が菊冬を、一之瀬を傷付ける結果になった。踏み込んではいけない部分に俺は踏み込んだんだ。
「菊冬の事じゃないわ。あの件は私が悪いから……、小枝樹くんは気にしなくて良いのよ」
「何言ってんだよ……。俺があんな事しなかったら、一之瀬と菊冬は傷つかなかった……!!言い合わなくたって良かったんだっ!!なのに、俺のせいで……」
後悔していた。何度も何度も考えた。自分が余計な事をしたんだと、俺が関わらなきゃ最悪な結果にはならなかったと……。
「違うの……。貴方は何も悪くない……。だって、貴方があの時無理にでも菊冬と私を会わせなかったら、私は今でも菊冬の気持ちが分からないままだったわ……」
手を強く握り締め、自分の胸に当てる一之瀬。苦しい思いが伝わってきた、悲しい気持ちが伝わってきた。
「本心を言えば、小枝樹くんは余計な事をしたと思ってる。だけど、それは私が何も知らなかったから……」
胸の鼓動が少し早くなった。
「どうして、こんなにも貴方が家族というものに執着しているのか分からなかった……。どうして関係のない私達に関わってくるのか分からなかった……。でも、その真実を聞いてしまったから……」
ポツッ
俺の身体に当たる冷たい雫。空を見上げれば月はいなくなっていて、雲が空を覆っている。
自分の身体に当たる雫が雨だと気がつくのに然程時間は掛からなかった。
ゆっくりと、それでも確実に降り出す雨。シトシトと低速な雨達が、俺の身体を少しずつ濡らしていった。
「本当は言わないでって止められていたけれど、どうしても小枝樹くんから真実を聞きたいの……」
俺の心臓が強く脈打った。その現実から目を背けたくて、一之瀬が知ってしまった真実なんか本当はなければいいんだって……。俺は一之瀬の言う言葉が怖くて堪らなかった……。
「貴方は、本当に孤児なの……?」
俺が家族に対して執着している理由のうち一つは、俺には本当の親がいないからだ。
生まれて直ぐに捨てられた俺は物心ついた時、孤児院にいた。
親の顔なんか全然覚えてなんかいない。恨む事すら俺には許させない。誰もが当たり前のように感じる家族の愛を、俺は何も持っていない。
今の家族に引き取られたのは小学校一年の時だ。「これからはこの人達が家族よ」孤児院の人に俺はそう言われて、その日から家族になった。
はじめて見る大きな家。初めて感じる家族の暖かさ。幼い俺は、それが本当に嬉しかった。お父さんって呼べる人がいる、お母さんって呼べる人がいる。幸運な事に、妹までいる。
俺を産んでくれた奴なんかどうでもよくなれた。その人達は俺を見捨てたから。何が理由なのかは分からないけど、それでも俺を捨てた人間なんかどうでもよくなった。
俺にも家族が出来た。やっと、温かい愛を受ける事が出来る。これで、もう寂しい思いをしなくてすむ。
嬉しい気持ちと、孤児院から出て行く寂しい気持ちが入り交ざっていたが、それでも嬉しい気持ちの方が勝っていた。
だけど結局、俺が小枝樹家を壊してしまった。
必要じゃないと言われて思った。俺は生まれてこなければ良かったんだって。たった数年だけど、家族と入れて本当に良かったって……。
激しくなる雨の中、俺は一之瀬の言葉へ返答をする。
「……あぁ。俺は孤児だよ」
強くなる雨が、今の俺の心を打ちつけるようで、その感覚がとても痛くて苦しくて、俺はベンチに座ったまま俯いた。
何も考えられなくなった。一之瀬に黙っていた事は本当に申し訳ないと思っている。だけど、今の俺にはそれをどうこう考える余裕なんかなかった。
ガバッ
思考を停止させようとしている俺は、冷たい雨に打たれているのに少しの温かさを感じた。
「ごめんなさい……、ごめんなさい……。小枝樹くんは本当にただの凡人だと思ってた……。他の人より優しい凡人だと思ってた……。でも、本当は沢山傷ついていた……。気がつけなかった、小枝樹くんの優しさに甘えて私は小枝樹くんを見ようとしなかったっ!!ごめんなさい……、ごめんなさい……」
あぁ、一之瀬が抱きしめてくれてるのか。なんかすげぇあったかい。
「ありがとな一之瀬」
「……小枝樹くん?」
「俺は大丈夫、だからそんな顔すんなよ」
自分の身体から一之瀬を引き離し、近くにある一之瀬の顔を見ながら俺は言った。
「大丈夫なんて嘘をつかないで。今の貴方、泣いているわよ」
俺は今、泣いている……?そっか、だからさっきから、頬を伝わる雨が温かいと思った。その現実を知った俺は感情が止められなくなった。
「一之瀬……。俺は羨ましかったんだ……、一之瀬が家族に愛されてるって思ったから嫉妬したんだ……。菊冬の気持ちを聞いて、俺は自分が出来ないことを他人に押し付けたんだっ!!家族は笑い合えるものだって信じていたかったんだっ!!」
溜め込んできた気持ちを俺は吐き出す。
「自分のせいだって分かってる……!!だけど、怖いんだよ……。誰かが俺と同じ風に苦しむのが怖いんだっ!!いや違う……、俺はもう独りぼっちになりたくない……」
雨が強く打ちつける中、涙なのか雨なのか分からない雫を流しながら、俺は一之瀬に言った。
自分が嫌いになってしまう。いや、俺はもう自分が大嫌いなんだ。天才を忌み嫌うより、俺は自分が嫌いで嫌いでたまらない……。
「貴方は小枝樹拓真よ」
当たり前の事を口にする一之瀬。だけど、俺が欲していた言葉は難しい言葉じゃなくて、単純で明解な言葉だったんだって思った。
「どんなに貴方が自分を否定しても、どんなに貴方が自分を嫌いになっても、私は貴方が必要よ。そして、貴方が私に言ってくれたんじゃない。もう、独りぼっちじゃないって」
激しい雨に打たれずぶ濡れになっている一之瀬は笑った。笑顔で、俺を見ていてくれた。
「貴方は独りぼっちじゃないわ」
冷たい感覚が身体を奔る。夏が近いせいか夜でも少し気温が高い。それでも冷たいと、凍えてしまいそうだと感じる雨の上から温かい体温が伝わる。
一之瀬が抱きしめてくれていて、俺の身体は凍えずに済んだ。その温もりは俺の気持ちまでも穏やかにしてくれて、涙が止まらなかった……。
時間というものはとても簡単に過ぎていく。
明日は体育祭。だけど外は雨だった。
天気予報では明日も雨。このまま奇跡が起こらない限り、明日の体育祭は中止になる。これまで頑張って準備をしてきたのが全て無駄になるのだ。
俺はそこまで張り切って準備をしてきた訳ではないので、中止になっても何も問題はない。寧ろ、余計な運動をしなくていいという考えがあり、雨が降ってくれた方が有り難いとまで思っている。
「ねぇ小枝樹。雨、やましてくんない?」
「俺にはそんな特殊能力はないぞ、佐々路」
佐々路が俺に絡んできた。外の景色を窓越しで見ながら言った佐々路は、少し残念そうな表情を浮かべていた。
「もしかしたらこのまま体育祭は流れるかもな」
俺が言う安易な発言。それでも、なにも頑張っていない俺ですら体育祭が流れるのは嫌だと思ってる。みんなが頑張ってきたんだ、期末テストを越え、ようやく訪れる祭りだ。
その熱を冷まさないまま夏休みを向えるのは健全な高校生にとって苦行でしかない。
「やっぱり小枝樹もそう思う?」
俺と一緒に窓の外を眺めながら佐々路が言った。少し距離が近いのが気になったが、俺も再び窓の外を眺めた。
「せっかく皆頑張ったのにね」
「まぁ、雨ならしょうがないだろ。来年頑張ればいいんだよ」
当たり前のように来年が来ると信じている俺。だけど、佐々路はそうじゃなかった。
「……来年ね。来年まで皆が仲良しで居られればいいね」
俺の顔を見て佐々路は微笑んだ。だけど、その微笑みはどこか苦しそうで、この先の未来が分かっているような表情だった。
「何言ってんだよ。俺等はずっと仲良く居られるよ」
何の根拠もない言葉を言う俺は、自分達の明るい未来しか想像していなかった。何も変わらない、俺等はずっとこのままでいれる。
それがどれだけ難しい事なのか、今の俺は認識していなかった。
結局、体育祭は雨で流れた。
自分達が頑張ってきた事が自然の摂理に勝てなくて、最初は落ち込んでいる者もいた。だけど、そんなのは数日だけで、時間が経てば誰も何も感じなくなっていた。
普通に流れる時間。いつもの様な授業。夏休み前の堕落しきった感覚は、誰もが抱いている感覚だろう。
早く休みにならないかな、もう少しで夏休みだ。
そんな考えを思考している連中が大勢居る中、俺は始めての感覚になっていた。
昔のような自分に戻っている時の夏休みが初めてだった。
何もかもが信じられなくなって、自分なのかに篭って、全てを否定していた時期。そんな俺を変えてくれた一之瀬。
一之瀬と出会って、いや関わりを持ってから数ヶ月、自分で思えるくらい俺は変わったと思う。違うな、昔の俺に戻ってきたんだと思う。
初めての感覚ではない、懐かしいと思ってしまうくらいの感覚だ。昔のように無邪気に楽しめる。きっと俺はそんな日常を求めていたんだ。
それが、俺の大嫌いな天才少女のおかげというのが癪だが、それでも俺は一之瀬に感謝してる。
後悔もあるけど、もっと一之瀬に伝えなきゃいけない事もあるけど、それでも俺は今の自分を嫌いではなかった。
そんな風に考えていても、体育祭が中止になってしまったという現実が生徒をネガティブにさせている。
雨という自然が関わってきている問題だから、俺には何も出来ないとわかっている。それでも、こんな雰囲気は少し辛いと思ってしまう俺が居た。
それでも、授業は普通におこなわれ、何も無い普段の日常へと戻っていく。
「あー終わった終わった」
今日の授業が終わり崎本が腕を伸ばしながら言った。
俺はそんな崎本を見て、本当にコイツには何も悩みが無いんじゃないかと疑ってしまっている。すると
「ねぇねぇ、小枝樹くん。放課後はどうする?」
イケメン王子、神沢司が話しかけてくる。もう神沢に話しかけられるという事実は雑魚モンスターとエンカウントしてしまった勇者と同義ある。
戦闘コマンドが出る。『たたかう』『どうぐ』『にげる』
俺は迷わず『たたかう』を選択した。そして次に出てきた選択は、『こうげき』『とくぎ』『まほう』
数秒悩んだのち、俺は『とくぎ』を選択した。そして
「牧下、神沢が何か用があるらしいぞ」
俺は『しょうかん』を使った。寧ろ、召喚獣を使わなかったぶん有り難いと思って欲しい。壮大な威力は見込めないが、安易に即死系魔法を唱えるよりかは十分な攻撃にはなる。
「ど、どうしたの、か、神沢くん?」
天使召喚。その攻撃で戸惑っているイケメンの横を通り過ぎながら
「じゃ、俺は行く場所があるから」
俺は教室という戦場から抜け出た。
きっと今、あの場所には誰もいないと分かっている。何度か経験していてその予想が脳裏をよぎらない方がおかしい
俺の憩いの場所。アイツと出会った場所。皆と居れる場所。
最近は体育祭の準備で忙しかったせいか、全然いっていなかった。きっと誰もあの場所には行っていなかっただろう。
つか、アイツが来なきゃ誰もあの教室に入る事は出来ないんだけどな。
いつもの様にゆっくりと、俺はB棟三階右端の教室を目指していた。何度も何度も向った場所、見慣れた光景、聞きなれた自分の足音、遠くの方から聞こえる生徒の声。
何もかもを新鮮に感じるのはもう難しい。当たり前になってしまった今の感覚を、リセットすることは本当に難しい事なんだ。
だけど、当たり前になっても俺は良いと思えるんだ。だって、その当たり前があるからまた新しい物を感じる事が出来る。
何も感じないまま当たり前にするのは良くないと思うけど、ちゃんと考えていつも感じられれば、それは素晴らしい当たり前なのだと思う。
きっと、それをするのも難しい事で、ずっと独りで居たらそれを感じる事は出来なかっただろう。
俺はいつもの教室の扉に手を掛けた。
ガタッ
やっぱり、開かないか。
淡い期待は泡の様に簡単に消えていって、それでも誰も居ないのだと思っていただけ心は楽だった。
自分の中で何かを諭すように言い聞かせ、それでもここから離れたくないと思っている俺が居て。
少しこの場所に居ようと思った。
「もう、夏になるのか」
俺は独り呟いた。
誰かの声が返ってくるわけでもない、誰かの意見を聞きたいわけでもない。肯定も否定も、今の俺には必要なかった。
ただ、少しつまらない事を口にすれば、アイツがいつもの様に言い返してくれると思ったから。
自分の身体に触れ、あの時の温もりも思い出す。雨の中、俺を抱きしめてくれたアイツの温もりを……。
どんなに強がって笑っていたとしても、きっとそれじゃ何も進まなくて、何も変える事が出来ないまま無駄な時間を過ごす事になる。
俺は少し前までの出来事を思い出していた。
「本当に、この数ヶ月で色々あったな」
翔悟に出会った、神沢に出会った、牧下に出会った、崎本に出会った、佐々路に出会った。
牧下の件で倒れたのも良い思い出で、神沢を助ける為に探偵ごっごをして、翔悟を救う為にバスケをして、崎本の才能を見つける為に走り回って、佐々路の真実を知って……。
本当に濃い一学期だったと思う。こんなに苦しんで、すげぇ楽しんだ時間なんか昔の俺にはあったのか。
疑問に思ってしま。それでも、あの時はあの時で苦しくて、楽しかった。そんな当たり前のような時間を否定して俺は何もしてこなかったんだ。
本当にもったいない時間を過ごしてきてしまった。だけど、それですら今の俺には少し笑える昔話で、だからこそ今が大切に思える。
そんな事を考えていると思春期野朗崎本の言葉が思い出される。本当に、崎本は異性の話しをするのが好きな奴だ。
つまらないとは思わないが、色恋沙汰にあまり俺は興味がない。だけど
「……恋か」
俺は誰かを好きになっても良いのか。自分の大切を決め付けても良いのか。全然分からない。
特別な誰かを求めていないわけじゃない。だけど、今の俺が必要なのは皆の笑顔なんだ。
誰か一人じゃない、皆が笑っていなきゃ嫌だっていう俺の我侭。そりゃ俺だって特別な一人の女の子と関係を作りたいよ。
だけどそれはもっと後でも良いと思う。寧ろ、高校生活を送っている最中じゃなくても良いとさえ思える。本当に恋愛というものに興味が俺には無いんだな。
大切だと思える友達と笑っていられる。それが今の俺にとって一番なもので、それ以外の楽しいや嬉しいが俺には無くて。
きっと思春期さん達に言えばからかわれるのがオチだな。
普通の高校生活を送りたい。俺はそう思い二年の新学期を向えた。凡人で良い、いや凡人が良い。特別なものなんか何もいらない。ただ、普通の高校生で居られればそれで良いんだ。
なのにも関わらず、この一学期で色々な事件に巻き込まれて、その度その度俺は自分の力で解決していかなければならなかった。
結果的にはそれが良い方向に転んでいるので良いとしている。何よりもアイツと出会えて本当に良かったって思えているから。
俺は立ち上がり廊下の窓から外を眺めた。
まだオレンジ色に染まっていない水色の空を眺めながら俺は思う。
「始まりは、この教室だったんだな」
呟き、俺は振り返って開かない教室の扉を見た。
手入れが殆どされてなく、所々塗装が剥げている扉。もとの材料である木が見えてしまっている。それじゃなくても教室内は埃っぽく、雑に扱われている雰囲気が見るだけで分かってしまうほど古いものだ。
そんな扉を見て、空を見て、俺は思い出すのをやめた。
今を大切にしたい。だから、今日はもう帰ろう。
俺は床に置かれた鞄を手に取り帰るために一歩踏み出した。
「……小枝樹くん」
階段を上り終わった天才美少女が目の前に居た。
綺麗で長い黒髪を揺らしながら、誰もが羨む綺麗で整った表情で、天才は俺を見ていた。
「……一之瀬」
俺は反射的に名前を呼んでしまった。だけど、驚いたのは一瞬で、直ぐに笑みが零れた。そして
「おかえり、一之瀬」
夕日に照らされてかっこよく言いたかったけど、空はまだ青いままで、それでも俺は一之瀬に言いたかった。
すると、一之瀬は驚き瞳を大きく見開く。だけど、それは一瞬の出来事で一之瀬は
「ただいま、小枝樹くん」
微笑みながら、そう言った。
どうも、さかなです。
やっと九章が終わりました。
お正月をはさみ、少しダレ気味だったので気合を入れなおし書き上げました。
今年も『天才少女と凡人な俺。』をよろしくお願いします。