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天才少女と凡人な俺。  作者: さかな
第二部 一学期 晴レノチ雨
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8 後編 (拓真)

 突然の出来事は俺の心を動揺させた。


自分という存在を肯定してくれて、何も出来ない俺をそれでも求める声。一之瀬いちのせ夏蓮かれんに言われた時、俺は怒りをおぼえた。全てを持ってる天才少女が、こんな凡人をつかまえて冗談を言っているように聞こえた。


だけど、一之瀬の願いはとても悲しいもので、いつの間にか俺はそんな一之瀬の願いを叶えてやりたいと思っていた。それでもどこかで『天才』なら一人でも出来るだろうと、卑しい気持ちを抱く俺もいた。


そんな俺に一之瀬同様『契約』を持ちかけてくる女の子。彼女は天才なんかじゃなくて、誰かの力を借りないと本当に何も出来ないのかもしれない。


俺と同じで『凡人』と言ってしまってもいいのかもしれない。そんな普通の女の子は自分を『魔女』と言い、その言葉を体現するように、物語に出てくる妖艶で周りの男を魅了してしまう女だった。


それでも彼女は俺を求めてきてくれて、今の俺は誰かの幸せの為になれるなら何でもしたい。どんなに自分が騙されたとしても、彼女の重荷を少しでも下ろす事が出来るのなら、俺は騙されてもいい。


だが俺は、その場では答えを言わず。少し考えたいと言い、彼女と教室で別れ帰路を歩く。


 自分の事を魔女だと比喩した佐々ささみちかえで。自分は嘘つきだと卑下した佐々路楓。だけど、俺には何だか佐々路の魔女自体も嘘に思えた。


佐々路の本心ではない。でもそれが分かるほど、俺は佐々路と関わりを持っていない。それでも変な違和感を取り除く事が出来なかった。


どうして良いか分からなくなってしまった俺は、ある人物に相談する事にした。俺はその人物に連絡をし、近くの公園で待ってると言い、コンビニへ向った。


何故コンビニへ行かなきゃ行けないのか、そんなの決まってます。お供え物を買う為ですよ。


お目当ての品を買い、俺はいつもの公園へと走っていった。




 公園に着き俺は辺りを見渡す。だけど、そのこは誰もいなくて、俺が呼び出した相手もいない。


雲がかかっていて晴れている時よりも暗い夜。電灯の明りが俺の心を少し温めた。


誰もいないのに、その明りが今の俺を照らしていて、俺がこの場所に存在していてもいいと言っているような気がしたからだ。優しい光じゃなくてもいい。


ただ、俺を照らして、自分の存在が認識できればそれだけでいいんだ。そんな事を考えていると、俺が呼び出した奴が来た。


「遅いぞ雪菜」


「ごめんごめん、連絡来た時お風呂入っててさ、準備で遅くなっちゃった」


白林しらばやし雪菜ゆきな。俺の幼馴染の女の子。


身長は俺より低く女子の平均くらい、髪の毛は明るく染められてはいるが下品ではなく、寧ろ元気な雪菜を更に醸し出している。


風呂上りにしてはちゃんとした服装をしてて、本当に風呂に入っていたのかと疑問に思う。だが俺は雪菜が風呂に入っていたという決定的証拠を見つけた。


「お前、スッピンだろ」


「だからお風呂入ってたって言ってんじゃんっ!せっかくお風呂入ったのに、もう一回化粧とかありえない。まぁ拓真だからするつもりもなかったけどね」


可愛い笑顔を見せる雪菜。その笑顔を見た瞬間、俺は本当にコイツが幼馴染で良かったと思えた。無邪気な雪菜、言い方を悪くすればたんなるバカなのだが、そんな雪菜が俺は大切で、出来る事ならずっとこのまま……


「お前は化粧なんかしなくても可愛いんだから、そのままでもいいだろ。つか、これ肉まん」


俺は持っていたコンビニの袋を前に出す。雪菜様へのお供え物、肉まんだ。


「わーい肉まんだー」


コイツは何こんなにも肉まんが好きなのだろう。長年一緒にいるが、こればっかりは俺すらも分からない事だ。


「つーか、何でお前はこんなに暖かくなってきても肉まんなんだ?」


「んー?今、肉まん食べてるから話しかけないで」


雪菜嬢、俺より肉まんですか……。人よりも食物をとりますか……。その選択は間違っていません。俺は所詮、凡人ですから。


「ハムハムッ、それよりさ、あたしを呼んだって事は何かあったの?ハムハムッ」


肉まんを頬張りながら雪菜は俺へ質問した。


「いや、その……。雪菜に聞きたい事があってな…」


俺が聞きたい事、今一番情報が欲しい事。何でこんなに焦ってるのか分からない、だけど俺は苦しんでるアイツを気にしている。


自分は嘘つきだと言って、他人との間に壁を作って、何もかも自分の思い通りにならなきゃ気がすまない。正真正銘のバカを俺は救いたいとまで思ってる。


俺がされた事、そいつが言った真実。その真実で俺は苦しくなった悲しくなった、だけどあの時、一番苦しくて悲しかったのは俺なんかじゃない……。アイツはきっと、誰かの救いの手を待っているだけなんだ……。


「……それで、聞きたい事って何?」


俺と雪菜はいつもの公園のベンチに座り、そして俺は話し始めた。


「……その。雪菜から見て佐々路ってどう見える」


俺が聞きたかった事、それは佐々路楓の事だ。どうにかしたいと思っていても、俺には佐々路楓の情報が少なすぎる……。だから雪菜を頼った。雪菜は佐々路とも関わりを持っている。きっと雪菜なら有益な情報が得られると俺は思ったんだ。


「拓真……。夏蓮ちゃんの次は楓ちゃんを我が物にしようとしてるの……?」


おいおいおいおい、待て待て待て待て。いつから俺は女たらしの変態野朗に格下げされたんですかねっ!?世の中って本当に理不尽ですね。一之瀬さんと仲良くなっただけで睨まれるのに、佐々路さんの事を聞いたら雪菜嬢は盛ってる男性を見る目で俺の事を見始めましたよ。


おかしいよね、おかしいよねっ!!!!


「おい待て雪菜。別に俺は佐々路をどうこうしようとか何にも考えてないぞ。つか一之瀬の事も俺はそんな風に見てないからな」


「ふぅん」


この野朗、信じてないな。俺の身は潔白だ、何も邪な事は考えていない。最近はどうも勘違いされる事が多くなった……。これも全部あの天才のせいだ。


「それで、何であたしにそんな事聞くの」


雪菜は俺を蔑むような瞳を止め、いつもの雪菜の表情で俺に聞いてきた。


「雪菜はさ、本当にバカだ」


「ちょ、拓真っ!いきなり何で悪口言うの」


「最後まで聞けよ。雪菜は本当にバカだけど、他人を見る目だけは凄いと思ってる。お前は誰かの苦しみを分かれる奴だって俺は思ってるんだ。だから聞いた」


そう、雪菜は昔から自分の事は俺に任せっぱなしで他人の事ばかり考える奴だった。そんな雪菜はいつの頃か、他人の真意を何となくだが分かるようになったらしい。


俺はそんな雪菜を信じて佐々路の事を聞いた。


「あたしが見たままを答えていいの?拓真が望んだ事じゃないかもしれないよ?」


「あぁ」


雪菜が言う事なら俺は信じれる。もし、俺が想像してた結果とは違くても、その真実を俺は知りたいんだ……。


「楓ちゃん……。佐々路楓は、嘘つきだよ」


俺の予想と一致した。だが、雪菜の話はそれで終わらなかった。


「でもね、楓ちゃんの嘘は他人を貶める嘘じゃない。なんて言えば良いかな、その、自分を守るような感じの嘘なんだよね……」


佐々路がついてる嘘は自分を守る為の嘘。これが俺が抱いた違和感の正体だ。きっと佐々路は今も苦しんでる。アイツは、一之瀬を利用しようとなんか思ってない。


「何があってそんな風に嘘をつくようになったから分からないけど、だけど自分を守る為の嘘なんか誰でもつくよね……」


雪菜は佐々路を庇うように俺に言った。雪菜は友達になった奴の事を精一杯守ろうとする奴だ。その相手が俺だったとしても。


「自分を守る為の嘘か……。それでも嘘はいけない事だ」


「待って拓真っ!!確かに嘘はいけない事だけど、拓真だって自分を守る為の嘘なら簡単につくでしょ!?」


「あぁ。確かに簡単につく」


「だったら━━」


「だから俺は、佐々路にとって自分の心の中を吐露できる奴になる。佐々路の苦しい気持ちを全部受け止められる奴になる」


俺はベンチから立ち上がり雪菜に言った。自分の気持ちに嘘をつきたくないから、雪菜には俺の全部を知ってて欲しいから。


「わりぃ……、少しカッコつけたわ……。きっと本当は、昔のようにヒーローになりたいんだと思う……」


幼い頃の自分、それはとても無邪気な存在で、自分の力を素直に信じていた。何でも出来ると思っていて、誰でも救えると思っていた。そんな奴だったからこそ幼い俺は雪菜を助ける事が出来たんだ。


だけど、今の俺には誰かを助ける事も、救う事も出来ない弱い人間で、それが分かってるのに俺は佐々路を助けたいと思ってる。


矛盾。自分の中で決定付けられた答えとは真逆の思考。行動、言動その全てが、苦しみ悩み答えを出した自分を否定している。そんな曖昧な思考が今の俺を不安にさせていた。


「……なぁ雪菜。俺はもう一度、誰かを救えるヒーローになれるのかな」


いつの間にか、俺は雪菜に自分の不安を吐露していた。


「そんなの知らないよ」


冷たく言い放たれる雪菜の言葉。いったい俺は雪菜に何を求めたのだろう……。雪菜なら優しい言葉を言ってくれると思ったから、こんなダメになった俺の傍に居てくれたから、雪菜ずっと俺の味方なんだと勝手に思ったから。


全部、俺の弱さだ……。


雪菜はベンチから立ち上がり、目の前で立っていた俺を無理矢理ベンチに座らせた。そして


「だけどさ、昔の拓真は何も考えずに自分が正しいと思った事を全部やってた。でも今、拓真はもう『たっくん』じゃないんでしょ?だったらどんなに頑張ったって昔の自分に戻れるなんて無理なんじゃない?」


雪菜が言っている事は尤もで、俺が抱いた気持ちが無意味だと諭された。今の俺にはもう、何も出来ない……。


「だからさ、『たっくん』じゃなくて『拓真』でいれば良いんだよ。今の『拓真』が正しいと思うことを、悩んで苦しんで頑張って答え見つけて、それで誰かを救えばいいんだよ。どんな拓真もあたしの大好きな拓真だから」


……雪菜。


俺は自分の事が本当に何も見えていなかった。何で俺は『たっくん』に戻りたいと思ったんだ。何度も何度も雪菜やアン子を苦しめて、自分の中で消し去ってしまった自分に戻りたいなんて、本当にただの我侭だ……。


今の俺は凡人で、何も出来ない凡人で、だからこそ悩んで苦しんで答えを見つけるんじゃないか。全部をこなさなくていい、ただ目の前の自分の正しいを遣り遂げればそれでいいんだ。


「ねぇねぇ、あたしもたまには良い事言うでしょ」


笑いながら自分を褒め称える雪菜。そんな雪菜に俺は


「あんま調子にのんなよ」


まだ上手く笑顔が作れないけど、精一杯笑って俺は雪菜に言った。すると雪菜は少し表情を曇らせて


「……でも、なんだか少し寂しい気もする。もう拓真があたしだけのヒーローじゃなくなっちゃうから……」


星も月も何も見えない空を見上げながら言う雪菜。俺はそんな雪菜に近づき


「何言ってんだよ。昔も今も、これからも、俺は雪菜だけのヒーローだよ。まぁあの頃みたいにカッコよくはいかないけどな」


雪菜は俺の言葉を聞き、俺を見上げながら不安げな表情を見せた。だから俺は


「俺の大切な人は雪菜だけだ。この先、どんな事があっても雪菜は俺の大切な人なんだ」


「……拓真」


一瞬見せた悲しげな表情、だけどそれは俺の勘違いだったのかもしれない。雪菜は微笑み、俺の胸に顔を埋め


「ありがとね……。拓真」


小さく呟いた。








 翌日の放課後。


俺は佐々路楓を呼び出していた。メールで内容を送り俺は今、誰もいない教室で待つ。


同じシチュエーションの方が、何かと良いだろうと思い、俺は同じ時間と場所を指定した。まぁ、佐々路が来なかったら何の意味も無いのだけれど。


それでも俺は雪菜に勇気をもらった。自分のした事、自分が正しいと思っている事を俺はする。だけど、今の俺は昔みたいに幼くは無い。誰かを救う為には自分を犠牲にしなきゃいけない事を知っている。


俺が佐々路を助ける為に出来る事、それは、佐々路と同じように自分の真実を言う事だ。今から佐々路に話そうとしている内用は、一之瀬も知らない。


俺が一之瀬に言えなかった真実だ。まぁ、それを言えば佐々路と俺は誰にも言えない事を共有する事になる。それでいい、佐々路楓がまた笑えるのなら。


だけど、俺の身体は震えていた。自分の尤も他人に知られたくない真実を今から言うという現実が俺の身体を震えさせた。


本当なら誰にも言いたくはない、言えばきっとまた『期待』される。俺が一番嫌いな自分の部分を曝け出す。佐々路はよく言えたもんだ。


こんなにも怖いものだったんだな……。きっとあの時の佐々路も怖かったはずだ。だからこそ俺も、自分を捧げよう。佐々路楓の笑顔の為に。


「あたしと『契約』を結ぶ気になったぁ?小枝樹」


誰もいない教室に入ってくる一人の女子生徒。


身長は俺よりも低くて女子の平均だ。髪の毛は肩まで伸びているが、毛先が外側に跳ねている。本人が気にしないところを見れば分かるように、癖毛と言う訳じゃないらしい。


前々からしっている彼女の表情ではなく、妖艶な面持ちで俺を誘うように見つめる女子生徒。


「契約なんか結ばねーよ、佐々路」


俺は微笑み、彼女を迎えた。ここから俺の正しいを佐々路に伝えるんだ。もう苦しまなくたっていいんだ。


「契約を結ばないのに、何であたしは呼ばれたの?」


「契約の話はちゃんと答えを言ってなかった。後日と言う事で先延ばしにしただろ。だけど、そんなくだらない事を俺は言いに来たんじゃない」


「だったら、何を言いにあたしを呼んだの」


佐々路は俺を睨みながら言った。きっとほくそ笑んでる俺に対してムカついた気持ちも混ざっているだろう。なんせ、俺と二人でいる時の佐々路楓は魔女なのだから。


俺は一瞬間を置いて、佐々路が更にムカつくように微笑みながら言う。


「お前の心を、救う為だよ」


「……あたしの心?アンタとうとう頭のネジが吹っ飛んじゃったの?意味わかんない事言わないでくれる」


イラつきを隠せない佐々路。そりゃ、自分の目的とは全く関係ない事を言われているんだ、ムカつきもする。だけど、俺はそれでも話を続けた。


「佐々路と話してて、本当にコイツは魔女なんだって思ったよ。俺と協定を結んでまで一之瀬を利用したいクズとも思えた」


淡々と自分の言い分を話す。俺が佐々路に伝えたい事をゆっくりと。


「そんな佐々路は俺に『契約』なんていう堅苦しいものを提示してきた。まぁ俺はそんな要求呑まないけどね。つか、佐々路の色仕掛けには本当にビックリしたよ、普通に俺もドキドキした」


俺を睨む視線は変えずに、佐々路は俺の話を静かに聞く。


「だけど、俺を誘ってる時、佐々路の身体は震えてた。確固たる証拠もないし論理的に話す事も今の俺に出来ないけど、それでもあの時の佐々路の行動全てが、俺には嘘に感じた」


表情一つ変えずに、睨む瞳のまま佐々路は俺を見ている。話を聞いていない訳ではないだろう。きっとここから反論が始まる。俺の奥の手、自分の真実は最後まで取っておこう。


「確かに、何の根拠も無い推論だね。あたしは嘘つき、でも小枝樹はあたしがいつ、どのタイミングで嘘をついているか分からない。その身体の震えも演技だったらアンタはどうする」


「別にどうもしないよ。俺はあくまで、自分の中の憶測を言っているだけだ。だからこうして佐々路の真意を暴け出そうとしてるんだ」


佐々路の俺を睨む表情も全くと言っていいほど変わらないが、そんな視線を受けている俺も、微笑みを崩すことは無い。


「……あたしの真意?あははは、アンタあたしをバカにしてるの」


一瞬笑った佐々路は刹那でさっきよりも鋭い表情になる。今にも、俺を手にかけてしまうくらいのその表情は俺の術中に嵌っている証拠だった。


「バカになんかしてない、ただ佐々路は嘘を嘘で固め、どれが嘘でどれが嘘じゃないか分からなくなってる」


「そんな事はな━━」


「そう、ここまでは今まで佐々路が出会ってきた奴の中にもいただろうな。お前を心配しているフリをして、自分はいい奴なんだと他者に見せ付けたいクズな人間がな。だけど俺は違う、お前は自分を見失ってなんかいない、嘘をつく事で罪悪感も湧くし、自分の心を苦しめている実感だってある」


佐々路の言葉を途中で遮りながら言った俺は、更に佐々路の心を冒していく。


「俺は佐々路の過去をちゃんと知っている訳じゃない。だけど佐々路は幼少の頃から嘘をついてきたと言っていた。その言葉から推理すれば……」


俺は自分が考え付いた佐々路の真意語りだす。


「幼少期の頃の佐々路は確かに嘘をついていた。簡単に嘘をつき、他人を困らせていた。だけど、佐々路本人には何が悪いか分からなかった。それは何故か、佐々路のつく嘘はいつでも、誰かを喜ばせようを思ってしていた善意だったからだ」


俺は微笑むのを止め、佐々路楓に真意を問う為、真剣な表情を作った。佐々路から見たら俺は睨んでいるような顔をしているかもしれない。


それでも、今の俺は佐々路の心を救いたいだけなんだ。


「……ははは。あはははははははははっ!!」


大声で笑い出す佐々路。お腹を押さえ、これでもかと言わんばかりに笑っている。だが、その笑い声は直ぐに止み


「あたしの嘘が善意だった?なに言ってんのよ……。あたしは他人を困らせるのが大好きだったっ!!自分の嘘で苦しんでる人を見るのが大好きだったっ!!」


「それは嘘だ」


「アンタに何が分かるのよっ!?あたしは嘘つき、あたしは魔女、それでいいじゃないっ!!」


「その気持ちも嘘だ」


「嘘なんかじゃないっ!!あたしはアンタを困らせたかった、少しずつ他人と仲良くなっていくアンタを困らせたかったのっ!!」


「それも嘘だな」


俺は佐々路がい言う事を全て否定した。俺が思っているコイツは、誰かを傷付ける嘘を簡単には言える奴じゃない。


「……佐々路。もういいんだよ……!!お前はずっと一人で苦しんできた、お前はずっとつきたくも無い嘘を他人の為につき続けてきたんだっ!!だから、もう━━」


「うるさい、うるさい、うるさい、うるさい、うるさい、うるさい、うるさい、うるさい、うるさい、うるさいっ!!!!!!」


怒号を上げ、俺の言葉を否定し続ける佐々路。いや、否定なんかじゃない、認めたくないんだ……。今の俺はきっと佐々路を苦しめている、だけど、最後に俺が悪者になっても良いんだ。


佐々路がもう一度、心から笑えるのなら……。


「アンタに何が分かるのよっ!!あたしの事なんか何も知らないくせにっ!!あたしは嘘つきなの、それでいいの……。だから、もう、やめてよ……」


眉間に皺を寄せながら苦しみ続ける佐々路楓。だから俺は


「俺はやめない。何度だって言ってやる。お前に恨まれても、俺は絶対にやめない」


「……なんでよ。何でそんな事すんのよ……。あたしはこのままで良いのに、余計なお世話だよ……」


そんな佐々路に俺は近づいて言う。


「俺はさ、きっと本当にバカなんだ。誰かを助けたい、救いたいなんて出来る分けないのに……。それでも誰かが苦しんでるなら、俺はそいつを救いたい。その結果、自分が傷ついても良いんだ、自分が悪者になってもいいんだ。俺が救いたいと、助けたいと思った奴が笑ってくれるなら」


「……小枝樹」


「それとさ━━」


俺は恥ずかしがりながら、窓の外を向き


「泣いてる佐々路を、俺は放っておけなかったんだよ」


俺は言い終り佐々路の方へと振り向いた。そして俺が見た佐々路楓は、自分の顔をその手で触れて、その触れた手の平に何かをが付着しているのを見て不思議そうな顔で言う。


「……なんで。何で、あたし泣いてるの……?ねぇ小枝樹、何でよ……。何であたしは泣いてるのよっ!!」


「そんなの決まってんだろ……。佐々路が、本当に辛いって思ったからだろ」


ポタポタと頬から垂れる佐々路の涙。俺は、それが本当の佐々路楓の姿なのだと思えた。眉間に皺を寄せながら、自分の感情を止められず、涙を流す佐々路はもう魔女なんかじゃなかった。


涙を流しながら今の自分を理解出来ていない佐々路。そんな佐々路を見て、俺は決意した。


「お前がそんなに悲しんでるのは、自分を他者に知ってもらえたからだ。だからさ、佐々路が本当の一つを俺に言ってくれたように、俺も、佐々路に本当の俺の一つを教えてやるよ」


本当だったら、佐々路が俺の声を受け入れなかった時に言うつもりだった。だけど、今の泣いている佐々路を見てたら、俺も自分を曝け出さなきゃいけないと思ったんだ。


俺が他者に知られるのが怖いこと。自分の本質を今、俺は言おうとしている。


身体が硬直していくのが分かった。自分の腕が足が胴が、震えているのが分かった。それでも俺は佐々路に言う、同じ苦しみを共有する為に。


「今から俺が言う事を、信じるか信じないかは佐々路しだいだからな」


俺は前フリをし、俺の知られたくない真実だけを言う。


「俺はさ、佐々路が思っているような人間じゃない。いや、この学校で俺をそんな風に見る奴はいないだろうな……」


「……小枝樹?」


「誰にも言えてない。一之瀬にも、親友だと思ってる翔悟にも……。佐々路、俺は━━」


校舎に残っている生徒の声が響いた。窓を開けてなかったからか、部活をしている青春高校生の声は聞こえない。それでも、俺の声は今目の前にいる佐々路にしか聞こえていないだろう。


俺の真実を知るのは佐々路だけだ。


「……アンタ、何言ってんの。そんなの、嘘だよね……」


「本当だよ。だからこそ、俺は今の自分をちゃんと肯定できない。佐々路の苦しみだって本質は分からないと思う。それでも、俺はそんな自分が嫌いだったんだ……」


俺の真実を聞き、慌てふためく佐々路。嘘だと思いたいと願っている佐々路の表情は、俺を疑い不安げな表情をしていた。


「……何で、何でそれをあたしに言ったの……?」


俺は一つ息を吐き


「佐々路だって俺に言ってくれただろ?自分は魔女なんだって、自分は嘘つきなんだって。だから俺も言おうと思ってた。本当の自分を曝け出した奴の苦しみは、俺も曝け出さなきゃ分からないって思ったんだよね」


言い終り、俺は微笑んだ。自分がしてる事を後悔しながら、その恐怖を受け止めながら。


「お前よく言えたな。俺は今でも身体が震えてる……。自分を知られた恐怖を拭えない……、だからお前は本当にすげーよ佐々路」


逃げ出したい、誰にも見られたくない、自分を知っている人間なんかいなくて良い。佐々路が目の前にいる現実が俺の心を苦しめていく。


だけど、佐々路の心を俺は苦しめた。だから俺が苦しむのは当たり前で、恐怖で身体を震えさせている事実さえ、本当はやってはいけない事なんだ……。


「……さ、小枝樹」


先ほどよりも涙を流す佐々路。その表情は自分の事なんか考えてなくて、誰かの事を考えていた。


「ごめんね……。あたしのせいで、辛い思いさせちゃったね……。ずっと、苦しんでるのはあたしだけだと思ってた……。だけど小枝樹は、自分が傷つく事なんかどうでも良いって思ってて、こんなあたしを助けたいって言ってくれて……、それで小枝樹は今、苦しんでる……。ごめんね、ごめんね……」


泣きながら崩れる佐々路。やっぱり佐々路楓は、俺が思っていた通り良い奴だった。こんな俺の事を心配して泣いてくれる良い奴だ。だから


「ありがとな。俺の事で泣いてくれて」


「……小枝樹」


その後、佐々路は大声を上げて泣いた。他の誰かに聞かれてしまうんじゃないかと思えるくらい大声で。だけど、そんな佐々路の姿が、俺の心を救ったような気がした。









 そして俺のノーマル凡人高校生ライフに戻る。


眠気を無理矢理はらいながら、今日も俺は登校する。え?雪菜?アイツは寝坊してるから置いてきましたよ。


だから俺は今一人。朝の涼しい風を感じながら校門を潜りに抜けています。


なんだから最近は涼しいよるも暑い。夏の景色が少しずつ見えてきているような感じですよ。夏服になって楽になったわ良いけど、男子が女子を見る目が露骨過ぎて嫌になる日々を俺は送っています。


「おっはよー小枝樹っ!!」


そんな凡人な俺の背中を叩きながら元気よく挨拶をしてくる一人の女子生徒がいます。俺はそんな元気な女子生徒をみながら


「朝から元気だな佐々路」


「当たり前でしょっ!!朝は元気よくだよっ!!」


そう言い微笑む佐々路を見て、俺は少し嬉しくなった。自分の本当が分かったのか、それともただただ吹っ切れただけなのか、俺にはわからないけど、佐々路こうして笑ってる。俺はその現実だけでいい。


そして、俺より先に校舎に入ろうとしていた佐々路は俺の所まで戻ってきた。そんな佐々路は俺の耳元で


「この間はありがとね。これから先、あんなに優しくされたら、あたし小枝樹の事好きになっちゃうかもしれないよ」


そう言い、佐々路は俺の顔を微笑みながら見た。


「はぁ!?」


「ばーか。嘘だよ、なんたってあたしは魔女だから。じゃ、先に教室行ってるよ」


魔女。俺の知っている佐々路楓は決して魔女なんかじゃなかった。だが、俺は佐々路の真実を知った。そして俺も、佐々路に自分の真実の一つを話した。


明るく優しい佐々路楓。だけどそれは、アイツが嘘をの中で作り上げたものなのかもしれない。それでも俺は、佐々路が魔女だなんて思わない。


って言いたいけど。


さっきの発言は、魔女の発言だと思うしかないだろう。俺を好きって……。ははは、冗談でもキツイよ……。


そんな魔女の佐々路と親交を深めながら、それでも俺は一之瀬の事を考えていた……。

お疲れ様です。どうも、さかなです。


今回は夏蓮の登場が無い状態で話しを進めさせてもらいました。

楓というキャラが、この先どういう展開を繰り広げてくれるか私にもわかりません。


でも楓は本当に純粋な奴なんです。ですからどうか楓を嫌いにならないで下さい。


では、今回の『天才少女と凡人な俺。』の第八章を読んで頂き誠に有難う御座いました。


では次章で。


さかなでした。

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