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天才少女と凡人な俺。  作者: さかな
第二部 一学期 晴レノチ雨
15/134

6 前編 (拓真)

どうも、さかなです。


今回から第二部を投稿していきたいとおもいます。


本心を言えば、あまり前書きと後書きを書くのが苦手です。

なので、さっさと本編にいきたいと思います。


では「天才少女と凡人な俺。」第二部をお楽しみ下さい。

 のどかな休日。温かくなった春の陽気は最高のお出かけ日和です。周りを見渡せば、この陽気に誘われた人達が笑いながら歩いている。


あ、はいはい。自己紹介がまだでしたね。


俺の名前は小枝樹さえき拓真たくま。その辺にいる普通の凡人高校生です。身長は平均、体重も平均くらい、見た目も平均で、悪くないけどモテない。


生年月日は四月五日生まれのおひつじ座で歳は十七歳。血液型はO型。ただただ凡人をこよなく愛し、天才を嫌う少年です。


そんな俺は休日を楽しむ為に、賑やかな駅前まで遊びに来ています。そして今の俺の隣で歩いている女の子。


身長は俺よりも低く、後輩の細川さんくらいですかね。ブランド物の服で身を纏い、輝く金髪。その髪を二つに結んでいるツインテール。


その華奢な体躯は男性が守りたいと思ってしまうほどのもで、俺は強制的に彼女と買い物をしています。


「ちょっと、あんた。さっさと歩きなさいよ。つかさっきから何ニヤニヤしてんの?きもっ」


金髪ツインテールの女の子はどんな子でもツンデレなのでしょうか。俺はこの子がデレるのを期待して待ってればいいのでしょうか。


「あんた早くその気持ち悪いニヤケ顔をどうにかしないと、一之瀬財閥の力で消すわよ」


おかしいな、君のお姉さんも俺に同じ事を言っていたよ。つか……


何で一之瀬の妹と俺は買い物をしてるんだあああああああああああっ!!!








 放課後の優雅なひと時、静かないつもの場所。俺は本を片手に、椅子に座ってその物語の世界に浸っていた。


読書をするの本当に素晴らしい。これが一人の空間だったらの話だが……。


「ねぇねぇ小枝樹くん。本ばっかり読んでないで僕に構ってよ」


優雅に読書を楽しんでいる俺にこの学年一のイケメン様が絡んでくる。


そんなイケメン様の名前は神沢かんざわつかさ。俺から見ても容姿は良い本物のイケメンと言っても過言ではない。身長も俺より少し高く、美しく細い髪質の金髪を武器にしてやがる。


だが身長は俺よりも少し高いのにも関わらず、線の細い体躯。華奢な男子で王子様と言われれば誰もが納得してしまう。こいつはまさに


美少年なんだ。


それでも俺は男子に猫なで声で話されても何も感じない。だって俺は凡人だから。つかノーマルだからね。


「もう小枝樹くんが無視するなら僕は牧下さんで遊ぶよ」


そう言うと隣の椅子に座っていた牧下まきした優姫ゆうきの頭を神沢はこねくり始めた。


「や、やめてよ、か、神沢くん。か、髪が、く、崩れちゃうよ」


牧下優姫。小柄な体躯で細い身体つき、本当に高校生かと疑いたくなってしまうくらいの少女。髪の毛は透き通るような黒で、青色なのかと目を疑ってしまうような透き通る黒だ。


そんな長い髪の毛を結び、ポニーテールにしている。だが全ての髪を束ねている訳ではないく、前髪を残し可愛らしい揉み上げを作っている。そして目が悪いのか美しい顔にかかる黒縁の眼鏡。


本当に、本当に、本当に、牧下は天使だ。この不条理な現実世界を癒す為に天から舞い降りた女神なんだ。


「牧下さんは本当に可愛いよね」


このイケメンは何天使様に言ってるんだ。これだからチャラいイケメンは嫌いなんだよ。


「な、な、何言ってるの神沢くん……。わ、私なんか、か、可愛くないよ……///」


なんだろうな。頬を赤く染めて恥ずかしがっている牧下が見れたから、今回の件は大目に見るぞ神沢。いや、そんな事を考えている場合じゃない。


「おいおい、イケメン王子。そのくらいにしといてやれよ。牧下が困ってるだろ」


「じゃあ小枝樹くんが、僕の相手をしてくれるの?」


その上目使いをやめろ。お前のせいでクラスの女子に変な目で見られているこっちの身にもなってくれ。つか何度も言うが、俺はノーマル凡人だ。


神沢は俺に近づいてくる、だがそのおかげで牧下は神沢から開放され安堵の表情を見せていた。だがそんな楽しんでいる俺達の空間をぶっ壊せる悪魔大元帥さんがこの部屋にいるわけで。


「さっきから貴方達は本当にうるさいわね」


怖い怖い怖い怖い。何が見えるわけでもないB棟三階右端のこの教室の窓から景色を見ていた一之瀬さんが何で怒るんですか。


一之瀬いちのせ夏蓮かれん。この学校の天才少女。つかもう世界的に天才のかのも。何でもこなしてしまう一之瀬は天才と呼ばれるに相応しい存在だ。


その綺麗で長い黒髪、モデルのような体系、天才に加えて美少ときたもんだ。まさに才色兼備、そして運動神経抜群。


どんな方向性から見ても天才な彼女は何故だかご立腹です。


「何で、一之瀬さんは怒っていらっしゃるのですか……?」


俺はその真意恐る恐る聞いてみた。だが悪魔大元帥さんは、俺が考えていたような事とは全く違う、斜め上の回答をした。


「牧下さんの件があって以来、私達に何か依頼をしてくる人がめっきり減ったわ」


確かに一之瀬が言っている事は本当だ。牧下の件があって以来、俺等に依頼は来ていない。最近は、こうして毎日俺と一之瀬と神沢と牧下、あとたまに翔悟と細川がこの教室に来てはくだらない世間話をしているだけだ。


だがそれの何が不満なんだ。俺は全然不満じゃありません。寧ろ平和に友人と過ごすこの空間が、なりよりも大切で有意義な時間な訳ですよ。


俺は読んでいた本を机に置いた。


「つか、そんなに簡単に依頼なんて来ないだろ。たまたま翔悟達と神沢の時期が重なっただけで、滅多に来るものじゃないと思うぞ」


怒りを露にしている一之瀬に、俺は止めの一言をくらわせた。


「依頼、依頼って、一之瀬さんは欲求不満なんですか」


「よ、よ、欲求っ……////」


大きく切れ長な瞳を見開き頬を赤く染めながら後ずさりする一之瀬。久し振りの痛恨の一撃をかました俺は少し嬉しくなってしまっていた。


だってあの一之瀬に大ダメージを与えたのだ。それは喜ぶだろう。俺は凡人で、相手は天才悪魔大元帥なんだから。


「さ、さ、小枝樹くんっ!!」


いきなり大声を出して椅子から立ち上がる牧下。そんな牧下は机に両手を付きながら


「お、お、女の子に……、よ、よ、よ、欲求不満とか……、い、言っちゃ駄目だよっ!!」


俺の時間が止まった。


こんな現実世界にも一撃必殺技ってあったんですね。それの存在を知っていたら俺はこんな無謀なセリフを言いませんでしたよ。というか、普通に一之瀬に物理的にキルされると思っていたのに……。


まさかの、メンタルクラッシュ……。


あぁ、このまま時間が動かなければ良いのに。そうすれば俺はこのまま止まった時間の中で後悔だけをしていられるのに……。だけど、そんな現実逃避が通用するわけでもなく


「ぐはっ!!」


俺はその場で倒れこんだ。ダメージが大きい……、俺はこのまま、死ぬのか……?


だが生を諦めきれない俺は、近くにいるイケメン王子に救いの手を伸ばした。


震えながら最後の力を振り絞り、俺はイケメン王子神沢へと手を━━


「僕、倒れる時『ぐはっ』って言う人始めて見たー」


何をニコやかに言っているんだこのイケメンはあああああああっ!!俺は今日何回、このイケメン王子に怒りを覚えなきゃいけないっ!!


つーか助けろおおおおおおおおおおっ!!この凡人を助けろおおおおおおっ!!!


「牧下さんが言ってる事は正しいよね。女の子に欲求不満とか言うのって最低だと思うよ」


俺にはもうこのイケメンさんのキャラが掴めないよ……。もう何でもありなんだもん……、こいつチートイケメンだよ……。


バンッ


突然大きな音が響きわたる。その音は何かを叩いたような俺とで、もっと細かく言ってしまえば机を手で叩いたような音で……。


俺は悪寒を感じた。今の今まで、牧下の言葉で大ダメージを負っていた俺なのにも関わらず、今すぐにもで逃げろと身体が、いや本能が言っている。


そして俺はその音が聞こえた方向へと向きを変えた。


そこには黒く禍々しいオーラを纏っている物体が居て、この世界に悪魔大元帥が本当に降臨してしまったのかと疑った。


そこに居合わせていた、俺、神沢、牧下はその場で立ち上がり恐怖を身体全体で表していた。


震える身体、逃げなきゃいけないと分かっていても動かすことの出来ない足。少しずつ呼吸も荒くなっていく。これが本物の悪魔大元帥……。


一之瀬夏蓮だ。


「……あなた達。私が話していた事をそっちのけにして、よくもいけしゃあしゃあと茶番を繰り広げてくれたわね」


待て待て待て待てっ!!俺と神沢はともかく牧下は一之瀬を庇ったんだぞっ!?ここで力を全解放するのはまずいだろっ!!


「待ってよ一之瀬さんっ!!僕と牧下さんは一之瀬さんのフォローをしたんだっ!!悪いのは全部小枝樹くんなんだっ!!」


このイケメンは完全に俺を犠牲にしやがったな。つか俺を生贄に捧げやがったな。だが俺にも根性がある。雪菜を毎日毎日起こしに行ける忍耐力がある。


そんな俺に出来る今のコマンドは……、説得だ。


「落ち着くんだ一之瀬。俺等は別に一之瀬を蔑ろにしたつもりは無い。たださっきも言ったように依頼が簡単にポンポン来るとは俺には思えないんだ。だから、その、えっと……」


詰んだ……。こんなにも簡単に詰むのか。説得コマンドよ、何故出てきた。俺には悪魔大元帥を相手取って、互いの存在を尊重しあう話し合いなんか出来ませんよ。


というかコレって完全に一方的な虐殺じゃないですかね。


「小枝樹くん。貴方が今回の件の主犯なのね」


あれ、おかしいな。説得コマンドで話した俺の内容が聞いてもらえてないのに、神沢が言った俺が犯人ですの言葉は聞こえてる。本当もう、調子が良いんだからコイツっ。


「わかった一之瀬……、この俺を殺れ。だけど牧下と神沢の命だけは勘弁してやってくれ」


俺は覚悟を決めた。


「さ、さ、小枝樹くん……」


あぁ牧下が俺を見てる。天使を守るのは騎士たる俺の務め。こんな悪魔大元帥如きに天使牧下をやられてたまるかっ!!


「俺は大丈夫だから。牧下はもう逃げてくれ……。また明日会おうな」


「ほら牧下さん、早く逃げるよっ!!」


はははははは。俺の大事な言葉、牧下聞こえてたかな。神沢さん、本当に勘弁してくださいよ……。俺、死亡フラグまで立てたんですよ……?


「良い度胸ね小枝樹くん。ここは如月先生に見習って……」


一之瀬こと悪魔大元帥の拳が強く握られた。


おかしいよ、おかしいよおおおおおおおおおっ!!平手にしてよっ!!拳は駄目だってえええええええええっ!!


「安らかに死になさいっ!!」


あーマジ、神沢恨むわー。明日、どうしてくれようか。つか俺、本当に生きて明日を迎えられるのか……?


ドスッ


その瞬間、俺の腹部に強烈な痛みが奔る。腹部の痛みは刹那の時間で全身へと広がっていった。その時俺は思った。


俺の人生ってこんなに不条理なの……?







 俺は腹部を押さえながら帰宅しています。この痛みの元凶の一之瀬さんと一緒に。


何が悲しくて普通の日常で女子高生にボディーブローをかまされなきゃならない。あーそれはもう俺の高校生活が、俺の日常が普通じゃない証か。


「あーお腹痛いよー」


「だ、だからさっきのは悪かったって言っているじゃない……」


俺は大げさにしかもワザとらしく一之瀬へ腹部の痛みを訴えていた。そんな一之瀬は本当に悪気があったと謝り、反省している様子だった。


「つか何でグーで殴ったっ!!平手にしろ、平手にっ!!」


俺は殴られた事実よりも拳を握って殴った事に言及した。だってグーは本気で痛いもん。もう痛いのは嫌ですよ。


「わかったわ……。今度からは平手でする事にするわ」


……うん。確かに俺は拳と平手の話をしたよ。というか君は天才なんですから気がつきましょうよ。


人の事を殴ってはいけません。


だがそんな事を考えていても一之瀬に俺の願いは届くわけじゃなく、そして俺は何だか一之瀬が怖くて、その事を言い出せないへタレなんですよ。


 夕日が綺麗に煌いて、俺と一之瀬は少しずつ緑が増えてきた春の帰り道を歩いている。


こんな風に一緒に帰るとは思わなかった。つか神沢と牧下がエスケープしたからこんな事になっているわけで……、まぁ一之瀬と帰るのも悪くは無い。


「つか何で一之瀬はそんなに依頼に拘る、何をそんなに焦っているんだよ」


今日の一之瀬は少し変だった。何かに焦っているようなそんな雰囲気を俺は感じていた。


「べ、別に焦ってなんかいないわ」


「いやいや、普通に焦ってるだろ。急に怒り出すし、依頼を催促するような事を言うし、どうしたんだよ」


俺は一之瀬へ俺の今、知りたい事を聞く。それが間違っているか間違っていないかは、きっと俺が決めることじゃない。


「私は……、焦ってなんかいないわ……」


こいつは本当に天才なのか?今の表情で焦っているって言っている様なものだぞ。


その表情は俯き、何かを考えているような表情で、きっと今の自分の存在をどうにかして維持するのに精一杯なんだ。だから俺は


「そんなに焦らなくても良いだろ。時間はそんなに無いけどさ、一之瀬の願いは俺が叶えてやるから。だから、今は思い出をちゃんと作ってこうぜ」


俺は、夕日でオレンジ色に染まった空を見上げながら言う。そんな空に浮かんでいる雲は、白い色から頬を赤く染めたように赤くなっていた。


手を伸ばしてもそんな雲を掴むことは出来なくて、そんな雲のような存在だと俺は一之瀬の事を思っていた。だけど


「今の俺等は独りぼっちじゃないんだぞ」


そう言い俺は一之瀬の頭の上に手を置いた。その長くて綺麗な黒髪を撫でる為に。


「ちょ、わ、私を子供扱いしないでちょうだいっ!!」


「ははは、そんなに怒るなよ。怒ると綺麗な顔が台無しだぞ」


俺はふざけて一之瀬をからかう。無意識にこんな笑顔になれるのは全部一之瀬のおかげだから……。


「き、綺麗って……////」


恥かしいのか、頬を赤く染めながら眉間に皺を寄せる一之瀬。そう今俺が見ている空の雲のように。







 「……後藤。あの、夏蓮姉様の隣にいる男は誰」


物陰から拓真と夏蓮を監視している少女。


綺麗な金髪を二つに結んでいて、まだ少し幼さが残るその少女は、隣にいる紳士的な格好をしている初老の男に強く言った。


「はい。あの男は小枝樹 拓真という普通の男子高校生でございます。今は夏蓮お嬢様のクラスメイトで、最近親しくなった殿方のようでございます」


「……ちっ」


後藤と呼ばれる初老の男の言葉を聞いて舌打ちをする金髪ツインテール少女。そして少女は


「後藤、あの男の事を徹底的に調べなさい。そして全ての情報を私に持ってきなさい」


命令口調で話す金髪ツインテール少女。怒りの感情が表に出てきてしまうくらい、夏蓮の横に立っている拓真を睨んでいた。


「……お言葉ですがお嬢様、夏蓮お嬢様の事を干渉するのは良くない事━━」


「私の執事なら、私の命令をききなさいっ!!」


初老の男が話している途中で、怒号上げる金髪ツインテール少女。そしてそんな少女の言葉を聞いた初老の男は


「分かりました。本日中にあの男、小枝樹 拓真の情報を全て入手してきます。」


そう言い、初老の男は頭を下げる。そしてその言葉を言った刹那、初老の男は姿を消した。まるで歴史の物語に出てくる忍びのように。


「小枝樹 拓真……。夏蓮姉様を誑かした罪、この私が断罪してあげるわ」







 「はっくちょいっ!!」


俺は勢い良く、クシャミをした。元来昔から言われている風邪でもない時のクシャミは、クシャミをした本人の噂を誰かがしていると言う。


だが俺は決して誰かに噂をされるような有名人ではなく、たんなる凡人だ。そんな簡単に都市伝説のような事を信じてたまるか。


「あー風邪でも引いたかな」


これが本来、凡人がする適切な態度であって、何かを期待するのは最終的に自分の心を傷付ける結果へと結びつけるのだ。


そんな俺はベッドの上で横になり、今日B棟三階右端の教室で読んでいた小説の続きを熟読していた。


この話しがまた面白いんだ。主人公は特殊能力で右腕と左腕を交換できて、ヒロインはそんな主人公の異能を忌み嫌っている。そんなヒロインの口癖は『右腕と左腕を交換してしまったら、お箸を持つのはどっちなの!?』という、まぁはっきり言って意味不明な物語だ。


面白いとは、半分以上馬鹿にしている表現で俺は使った。これが今の世の中、売れているという事が俺は悲しい。


だがそれを買って読んでいる俺は本物の道化だ。こんな意味不明な物語よりよっぽど今の俺の人生の方が奇怪な気がする。


事実は小説よりも奇なり


この言葉を後世へ残した人物は本当に偉大だ。俺みたいな凡人ですら敬意をはらってしまう。


俺は読んでいた小説を閉じ、それを机の上へ置いた。そして俺はベッド横の窓を開け、夜風にあたることにした。


「ふぅ、涼しいな」


窓から少し顔を出せば涼しい風が俺の顔を冷やす。温かくなってきたとはいえ、まだ夜は涼しい。寒いと感じなくなっただけマシなのかもしれない。


「依頼か」


俺は雲がかかって星の見えない夜空を見上げながら感慨深く呟いた。


確かに一之瀬が焦っているのは当然の事だ。それでも俺はもっと他の道があるんじゃないかと思っている。


何でもやってのける一之瀬が焦ってるって、今考えれば奇妙な事だよな。すげー苦しかったのかな、ずっと独りで背負ってきたのかな、全てから逃げないで受け入れた一之瀬は本当に天才少女だよ。


そんな『天才』の期待を背負って生きてきて、一之瀬は本当に幸せなのか。


結局俺みたいな凡人がどれだけ考えても、一之瀬夏蓮という天才少女の思考は分からないわけで、威勢よく『願いを叶える』なんて言った事を少し後悔していた。


ブーッブーッ


机に置いてある携帯が震えだした。


「誰からですかね」


俺は窓を閉め、ベッドから降り、机に置いてある携帯を手に取った。画面を見るとメールの受信。


しかも知らないアドレスからだ。知らない番号からの着信なら出るのを躊躇するが、メールなら簡単に見ることが出来る。


俺は何も考えずにメール開いた。そこに書いてあった文章は


『今週の日曜日、駅前で待つ。来なかったらどんな手段を使ってもアンタをこの世界から抹消してあげる』


………………。


俺は机に携帯を一度置き、深呼吸をした。嘘だと信じたかった。何かの間違えと信じたかった。


そして俺は恐る恐る携帯をもう一度見た。そこに書いてあった文章は


『今週の日曜日、駅前で待つ。来なかったらどんな手段を使ってもアンタをこの世界から抹消してあげる』


………………。


何故だ、何故俺宛に脅迫文が届くんだ……。俺は凡人であって害のある人間じゃないぞ。俺は誰からも恨まれるような事はしてないぞ。


俺は携帯を手に持ったまま固まった。頭の中に流れる言葉は『何故』だけだ。それ以上に思考を巡らせる事が出来なくいなっていた。


そんな俺が取った行動は


「もしもし、神沢か」


神沢 司へ電話を掛けていた。


「どうしたの小枝樹くん」


「いや、その。信じてもらえないかもしれないけど……。俺の携帯に脅迫文が届いた」


「脅迫文?」


わかる。わかるよ神沢。君が疑問に思ってしまうのも良く分かるよ。俺だって未だにこの脅迫文が真実だと認めたくない……、認めたくないものだよ……。


だがこれは真実であって紛れもない現実なんだ。頭のおかしな凡人高校生と思われても良い。どうか、どうか神沢くん俺を助けてくれ。


「もう、脅迫文なんて……。僕と電話したい口実には嘘がバレバレだよ」


ブツッ


ツーッツーッツーッ


………………。


俺が神沢を頼ったのが馬鹿だったああああああああああ……。あいつはそういう奴だった、俺は本当に混乱していたんだ。神沢を頼るなんて本気で現実から目を背けたかったんだ……。


そのまま項垂れ、俺は膝をついて後悔していた。その時


ブーッブーッ


俺の携帯が再び震えだした。


だが今の俺はもう携帯を見るのが怖い。怖くて怖くて仕方が無い。だってもう一度、脅迫文の奴からだったら心が壊れてしまう。


それでも俺の選択肢は見る一択なわけで……。そこに書いてある文章は


『脅迫文とか馬鹿じゃないの。これは命令よ、脅迫なんて無粋な真似を私はしない』


………………。


見られてるよおおおおおおおおおおお……。俺は今、このメールの送り主に監視されてるよおおおおおおおおお……。


無粋とか言ってるのに、ちゃっかり監視はしてるよこの人。怖いよ、怖いよ……。


「け、警察に連絡しよう……」


ブーッブーッ


再び俺の携帯が震える。


『警察に連絡するのは構わないけど、しても無駄よ。警察なんか私の言う事を聞くしかない番犬なんだから』


………………。


もう完全に詰みましたよね。警察を手駒にしてるってなんだよっ!!チートじゃねーかっ!!つか俺はどんな人物に恨まれているんだああああああああっ!!


あぁもう良いよっ!!こうなったら開き直りだっ!!今週の日曜日にこのメールを送ってきた奴を会ってやろうじゃないか。


俺だって凡人の意地があるんだ。つか、もしかして一之瀬絡みとかじゃないよね……。俺の気のせいだよね……。


恐怖を抱きながら俺の日常は過ぎていった。








 そして日曜日。


後々届いたメールの内用通り、俺はメール主からの指定された場所に居た。


だが思っていたよりも人通りは多く、俺を消すなんて言っていた怖い感じはしなかった。つかこんな人の多い所で会うとか、来るのが女子ならデートだぞ。


指定された時計台の前で時間よりもかなり早く待っていた。だって遅れたら何されるか分からないから、俺の命がかかっているから。


それでも一時間前に来るのは早かったな。まぁ眠れなかったっていう事実は隠しておこう。


朝の九時。休日の九時。寝ていたかった……。有意義な休日を過ごしたかった……。


最近気がついたのだが、もしかして俺ってかなり弱い人間じゃね?つーか、なんでこんなにも脅される頻度が増えてるんだ。


全部、一之瀬のせいだ。もう天才のせいにしてやる。つか今度あったら一之瀬に今回の事を話してやろう。俺がどれだけ苦しんでいるか、一之瀬には知ってもらわないと困る。


だってこれ以上、一之瀬に虐められたくないから。もうボディーブローは勘弁してもらいたい。


俺だって意思のある、権限のある人間なんだからっ!!人権なめんなよっ!!


 とおり過ぎる人達が不思議そうに俺の事を見ている。


何か俺は変な事したか?確かに頭の中で考えている事を言葉にしない代わりに、身体で表現していたけど。


あーそれって普通に不審者だわ。


寝ていないせいか俺の頭は凄くクリアになっていて、簡単に答えに辿りつく事が出来た。つーか眠い。


変なテンションなのは認めよう。眠くてよく分からなくなっている自分を客観視できるくらい眠いから。


というか俺の事を呼び出した張本人はまだですか。


こんなに短い俺もモノローグでも、もうちょっとで一時間たつんですよ。時間の流れの速さは人それぞれですからね。


「時間通りに来てるなんて、よっぽど自分の命がおしいのね」


だが俺の時間の早さを他人に知ってもらうことは出来ない芸当で、俺がどんなに言っても、それは虚しく空を舞うのではないか?


俺は腕を組み、本気でどうしたら俺の時間の流れの事を説明できるか考えていた。


「ちょっとっ!!なに無視してんのよっ!!」


速さにおける時間の進むスピードが違う所から説明すれば良いのか。


例えば、歩いている人間と車に乗っている人間の時間の流れは違う。速さが上がれば上がるほど、時間の流れは遅くのなるのだ。


仮説としては、宇宙空間を光の速さで一年間動き続けた場合、地球に戻ってきた時は五年後の世界になっているという仮説がある。


「……私を無視してただで済むと思っているのかしら」


その仮説が立証されれば、過去には行けないが未来には行けるという大発見になる。確かに光の速さを使っているのなら、時間のズレというものは確実に生じる現象なのかもしれない。


という事は、光という存在が我々人間のように自我をもち、意識を持っているのなら、私達が生きてきた長い年月は彼等にとってホンの一瞬の出来事なのかもしれない……。


「やりなさい後藤」


「承知いたしました」


ドスッ


数日前に感じた痛みを俺は腹部に感じていた。その痛みの元凶が何なのか、すぐに認識する事が俺には出来なかった。


「アンタ、なに異世界にトリップしてるの。私がアンタの眼前にいる事を光栄に思いなさい」


俺は腹部を押さえながら目の前に立っている少女を見上げた。


その少女は、綺麗な金髪を二つに結んでいて、その髪に目立つピンク色のリボン。服装は俺でも分かるくらいのブランド物で固められていて、そんな服を着こなせるスタイルを兼ね備えていた。


純白のワンピースを身に纏っているのにも関わらず、その白さに負けないほどの肌理細やかな白い肌。年齢は分からないがあどけなさが残っている感じがするのに、大人びた体躯でそれをかき消していた。


「つか、あんた誰」


俺は苦しい状態で、その少女へたずねた。すると


「しょうがないわね、あんたの為に一回だけ名乗ってあげるわ。私の名前は━━」


仁王立ちをするように少女は腰に両手を据えた。そして


「私の名前は一之瀬 菊冬きふゆ。夏蓮姉様の妹よっ!!」


その言葉を聞いて俺は素直にこう思った。


俺はきっと一之瀬一族に呪われているのだと……。

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