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天才少女と凡人な俺。  作者: さかな
第一部 一学期 春ノ始マリ
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4 後編 (拓真)

作戦会議は思ったようには進まなかった。案外『友達になってください』と言われてしまうと友達になりにくいという欠点を見つけてしまったからなのだ。


俺と一之瀬は今回の件、完全に後手に回る形ではじめる事となっていた。それが良いんだか悪いんだか、いや悪いだろ。


俺の小さな脳みそではもう思いつく作戦がありませんよ。完全にお手上げです。


そんな事を考えてても時間というものは勝手に進むわけで……。




翌日。


俺はどうして良いのか分からないまま登校していました。それはもう久し振りにちゃんと起きた雪菜と共に。


「ねぇ拓真。今度はいつ肉まん奢ってくれるの?」


こいつの頭の中は肉まんしかないんですかね。つか俺の事より肉まんなのか……。


だが待て小枝樹拓真。肉まんを雪菜に奢ったあの夜。そう、雪菜の着替えを見てしまった時の夜ですよ。俺は雪菜に励まされた。つか普通に慰められた。


昔の自分を今でも俺は否定しているが、雪菜の言葉で少し大丈夫だと思えたんだ。それでもそのまま行動して駄目になってしまったんだが……。


だけどその事に関して雪菜は全然悪くない。寧ろ俺は救われたと思っている。


そして神沢司。俺の間違いをちゃんと指摘してくれたイケメン野朗だ。あいつのお陰で、俺の朝の挨拶で、何で牧下が俯いたのか分かった。


あの時の俺はきっと牧下に同情していた。それは本当に牧下を傷付ける事で、俺の行動が本当に浅はかだったと思うことが出来た。


自分が嫌われてしまう覚悟で、俺の間違いを指摘した神沢。そんな神沢に俺は本当に感謝している。


何一つ自分の力だけでは出来ない凡人な俺を再認識させてくれた。


そんな俺の背中を押してくれたのは門倉翔悟。俺の親友だ。


こんなに短い時間で親友と言って良いのか分からないけど、俺は翔悟を親友だと思ってる。


だからこそ翔悟の言葉は俺の心に染み渡って、勇気をもらうことが出来た。あの時、走ってく俺の後姿を見ている翔悟が何を言ったのかは分からないままだけど、それでも俺はまた前を向くことが出来た。


こんなにも色々な人に助けてもらっているのに、牧下とどう友達になれば良いか分からない俺は本当に駄目人間だ。


一之瀬が一晩で何を考えてきたかは分からないけど、俺は自分の考えを今日みんなに言うつもりだ。


「ねぇねぇ拓真、肉まんは?」


本当に雪菜嬢の頭の中にはお花が咲いているように思えるよ。なんだよさっきから肉まん肉まんって。どれだけ俺が大切な事を思考しててもこいつはお構いなしだな。


それでもたまに良い事を言う雪菜には感心するよ。それで救われてる俺も居るし、俺はそんなに雪菜に強く言う事が出来ない。


「肉まんはまた今度な」


俺はそう言うと雪菜の頭をポンポンと撫でた。それでも満足できない雪菜嬢は頬をプクッと膨らませて不機嫌になってしまっていた。


上手くいかない事なんて山ほどある。それでも今の俺は諦めたくないと思っていた。それがどんなに辛い結果になったとしても。


「もう拓真。頭撫ですぎだよー」


無意識に雪菜の頭を撫で続けてしまっていた。俺はそんな雪菜の頭から手をどけて、今日の放課後に話す内容を考えていた。






放課後。


俺は一之瀬、神沢、翔悟を呼び出してB棟三階右端の教室にいる。


真剣な話しがあると呼び出している為か、教室内は緊張感ある空間になっていた。こんなにピリピリとしているのは初めてのような気がする。


「それで話っていうのは何かしら小枝樹くん」


一之瀬夏蓮が俺へ問う。それでも一之瀬は俺の話す内容を殆ど知っている。ただ一之瀬が知らないのは俺の今後の方針だ。


「その前に。部活の勧誘が忙しいのに呼び出して悪かったな翔悟」


俺は一之瀬の質問を取り合えず置いといて、まずは翔悟に謝った。


「それは大丈夫だよ。今頃キリカがどうにかしてるさ。まぁキリカもここに来たいって駄々をこねてたけどな」


そう言うと翔悟は少し微笑んで見せた。細川には後々今回の件を話せばいい。それでもきっと分かってくれる。何となく俺はそう確信をもてた。


「それでだ。俺が何でみんなを呼び出したのか。それは牧下と友達になりたいからだっ!!」


俺は腰に手を当て、自信満々に言う。だが俺の言葉が皆にちゃんと伝わってないのか、誰も何も言わない。というか呆気に取られている感じがする。だから俺は


「俺は牧下と友達になりたいんだっ!!!」


「小枝樹くん。貴方はいったい何をいきなり言い出しているの?」


一之瀬の正確かつ鋭いツッコミが俺を襲ってきた。だから俺も冗談っぽく言うのを止め


「だからさ。すげー考えたんだけど、どうやったら牧下と友達になれるかわかんなくて……。だぶん俺は牧下を傷付けたと思うし、自分だけじゃ何も出来なくて……。だから、俺は━━」


「小枝樹くんの気持ちは良くわかったよ」


俺の言葉を聞き終わる前に神沢が言う。そんな神沢は笑顔で、きっと今の俺は笑うことが出来なくて、冗談混じりで言ったのもきっと俺の虚勢で……。


それでもこんな俺の気持ちを汲んでくれる神沢がいた。それが俺は普通に嬉しくて、今の自分は独りじゃないのだと思うことが出来た。


「最近俺は皆に迷惑をかけた。自分の力を勝手に過大評価して、牧下だけじゃない。一之瀬も神沢も俺は傷付けた……。だから俺がこんな事言える義理じゃないんだけど……」


俺は皆の事を見た。この教室にいる皆の事を。神沢は何かを分かってくれているみたいだけど、それじゃ駄目なんだ。俺がちゃんと自分の言葉で


「……だから。俺に力を貸してくれっ!!!」


深く頭を下げた。


どんなに惨めでもいい。今の俺には皆の力が必要だ。俺は独りじゃ何も出来ないんだ。もう……、なにも出来ないから……。


「頭上げろよ拓真」


「そうよ。何を今更かしこまっているの」


「さっきも言ったけど、小枝樹くんの気持ちは良く分かったよ」


「……みんな」


次に俺が頭を上げた時には、笑っている皆が居て。俺の事をなんもメリットがないのに助けようとしてくれてて。


「……ありがとう」


俺は感謝の言葉を言う事しか出来なかった。


「なら、ちゃんと作戦を考えなきゃいけないわね。昨日みたいにグダグダになる事はもう許さないわよ小枝樹くん」


いつものように一之瀬が俺に言う。だけどその言葉には優しさがあって、俺はそんな一之瀬の優しさに感謝することしか出来なかった。


「……ありがとな、一之瀬」


「べ、別に貴方を励まそうとかで言ったわけじゃないわ。私も個人的に牧下さんと友達になりたいと思っただけよっ!」


だったら何で頬を赤く染めているんだこの天才さんは。だけど、今はそれに触れないでおこう。これが一之瀬夏蓮の優しさだから。


そして俺等は牧下と友達になろうよ作戦を思案し始めた。






そして作戦実行の時が来た。


作戦内容はこうだ。今回の件は誰かの依頼ではなく、俺等が個人的に牧下と友達になりたいものなのだと最終的に意見がそろった。


だから俺等が出来る事は何もない。ただただ普通に牧下と接し、友達になる事だ。


条件が何もない事が今回の件では一番難しい事だが、普通に接すれば良い。同情とか、哀れみとか、そんなもんは一切ない。普段の俺等で居れば良いんだ。


もしかしたら少し時間はかかるのかもしれない。それでも俺は牧下と友達になりたい。だから頑張れる。


そんなこんなで数日経ち、俺等は個人的に牧下へとアプローチをかけた。


朝に挨拶をしたり、帰るときに挨拶をする。昼休みに昼食へ誘ったり、話をかけたり。


色々な事を俺等はやった。それでも牧下はいつも苦笑いを浮かべるだけで、俺等との距離を縮めようとはしなかった。


そんな事を考えていた放課後、俺はある事を思い出しB棟裏の誰も来ないような場所に足を運んだ。


あの時みたいに影だけを踏みながら歩いた。そして校舎の曲がり角。きっとここを曲がった場所に牧下はいる。そんな感じがしたんだ。


「やっぱりここにいたんだな牧下」


案の定、曲がった先に花壇の花を見つめる牧下がいた。あの時と同じようにしゃがみ込み、一人で花を見ていた。


「ど、ど、どうしたの、さ、小枝樹くん」


「何かさ。最近よく牧下と話すようになった。きっと牧下は嫌な感じになってるかもしれない。だけど俺は本当に、牧下の友達になりたいんだ」


ここまできたらストレートに言おう。俺はそう思った。


「な、な、なんで私なんかと、と、友達になりたいの……?」


「なんだろうな。何かわかんねーけど、お前もいたら楽しくなるような気がしたんだよ」


意味なんかない。ただ普通に友達になりたい。俺の気持ちはそれだけだ。


「つかさ、ここの花って牧下が育てたんだろ?それって何かすげーじゃん。誰も来ない場所なのに、牧下が来たからこの花はこんなにも元気に咲いてる」


牧下に近づき、しゃがみ込みながら俺は話す。牧下が育てた花を見ながら。だけど


「わ、私もね、こ、この花と一緒なんだよ……」


俺は立ち上がって言う牧下を見上げた。そして俺が見た牧下は、今にも泣き出してしまいそうで、俯き唇を噛み締めていた。


「……牧下?」


「わ、私も、こ、ここの花のように、だ、誰からも必要とされていないのっ!!!!」


ドクンッ


牧下の言葉を聞いて、俺の心臓は強く脈を打った。そう、軽い発作が起こったんだ。


牧下は俺に自分の気持ちを吐露すると走って逃げてしまった。そんな牧下を俺は追う事が出来なくて、頭の中に昔聞いた言葉が流れていた。


息は上がって、上手く立つ事もできない。俺は深く息を吸い、呼吸を整えた。


そしてクリアになった俺の頭は、牧下の抱いていた苦しみを理解し始めていた。


「ここの花のように……か」


俺は牧下が大事に育てていた花を悲しい瞳で見つめていた。





その日の夜。


俺は一人自分の部屋で考えていた。牧下の件は依頼じゃない事、だからこそ今の現状を打破できないもどかしさ、そして今日の出来事。


牧下本人に直接言っても俺は拒絶されてしまった。もう為す術が無い。


というか完全に詰んだ……。


ベッドで横になり天井を見上げ、俺は腕を伸ばし何も無い空間をその手で握った。何も掴めない現実と重ねあわすように。


トントンッ


その時俺の部屋のドアを叩く音がした。そしてその音が鳴り終わり俺の部屋のドアが開く。


「お兄ちゃん起きてる?」


「どうしたルリ?」


部屋のドアを開け、俺の部屋に入って来たのは俺の妹だった。


風呂上りなのかバスタオルを首から下げ、乾いてない濡れた明るい茶髪。大きめなTシャツと短パン姿。俺の二つ下の中三とは思えないほど成長した身体つき。頼むからもっと露出の少ない格好をしてもらいたい。


「お風呂空いたから良いに来ただけだよ。てか何難しい顔してんの?」


「別に。ただ考え事してただけだよ」


「あっそ。まぁお風呂は空いたから。じゃね」


ルリは用件だけ言うとそそくさと俺の部屋のドアを閉め、自分の時間を過ごすため俺の前から去って行った。


ぶっちゃけると、俺はあまり家族と仲良くない。ある事件から、俺は家族の人間と深く関わるのをやめたからだ。そんな事があり、今じゃ俺はこの家で浮いている存在だ。


ブーッブーッ


そんな妹との和気藹々とした会話が終わった途端に次は俺の電話が鳴り響く。いったいこんな時間に、つってもまだ夜の十時か。でも本当にこんな時間に誰だ?雪菜か?


俺は自分の机に置いてあった携帯を取る、そして画面を見るとそこには『一之瀬夏蓮』と書いてあった。


やべぇ……。何か出るのやだな……。でもきっと出なきゃ消される。そう一之瀬財閥という力によって。


「はい。もしもし」


「あ、え、も、もしもし小枝樹くん?」


何でこいつは若干テンパッた?つか何で一之瀬が俺に電話してきた。何か裏があるとしか思えない。


「おう。どうした一之瀬」


「い、いや。こ、こんな時間に電話なんかしてごめんなさいね。今大丈夫かしら」


「あぁ別に大丈夫だよ」


「そう」


こいつは本当に何で電話してきた。何か話せよ。つか用事があったから電話してきたんじゃないのか?


「それで何か用事でもあるのか?」


「えっと、貴方の精神状態を心配して電話したのよっ!!」


「俺の精神状態?なんだそれ」


「だから……。牧下さんの件で上手くいかなくて、貴方が落ち込んでいるのではないかと……。だから、その……」


こいつ俺の心配して電話してきたのか。何か本当に最近の一之瀬は俺に優しいな。だから俺も


「今日さ、牧下に言ったんだ。俺はお前の友達になりたいって……。前とは違って同情も哀れみも、俺の中には無かった。それでも牧下に拒絶されたよ……。もう完全に詰んだって感じ」


少しでも一之瀬に心配させない為に俺は出来るだけ明るく話した。それでも一之瀬は


「いいのよ。辛いなら辛いで。もう無理なんかしなくていいわ」


「なんか最近やけに俺に優しくなったな」


俺はベッドに座り、明るく一之瀬をからかっているのとは正反対に、俯いていた。


「べ、別に優しくなんかなっていないわっ。ただ、今の小枝樹くんはきっと辛いと思ったから、私はこうしているだけ。もし貴方が辛いって本当に思っていなかったのなら、この行動は私の勘違いからきた愚行よ。それでも私はこれが愚行であってほしいと思っているわ」


最近色々な事があり過ぎて、俺はその全部の事で雁字搦めになっていて、一之瀬の優しさが本当に嬉しかった。こいつになら甘えても良いのかと思えてしまうくらいに。


「わりぃ一之瀬。その行動が愚行になる事はないよ……」


「……小枝樹くん」


「普通に辛かった……。俺は牧下に言われたんだ。『私なんか誰からも必要とされてない』って。色々あって、俺は何も言えなかった……。牧下は本当に苦しんでるのに、俺は何も言えなかったんだ……」


持っている電話を俺は強く握った。そこにしか今の俺の感情をぶつける物が無かったから。唇を噛み、俺は今日の放課後の情景を思い出していた。


「……泣いても大丈夫よ、小枝樹くん」


優しい声音だった。俺に同情したり、俺は慰める為とかじゃなくって、一之瀬のその声は俺は優しく包んでくれるような声で……。それでも俺は強がってしまう馬鹿な凡人で。


「な、泣いたりなんかしねーよ。つかこれ以上俺に優しくすんな。本当に甘えちゃうから……」


「私に何度も同じ事を言わせないで。泣いても大丈夫よ」


一之瀬の追い討ちで、俺の涙腺は解けてしまった。


「……一之瀬。この間さ、この件が解決したら一之瀬の事話してくれるって言ったじゃん?俺も一之瀬に言ってない事あるんだよ……」


俺は自分の感情を吐き出し始めた。


「俺さ、病気っていうかトラウマがあって、昔の事思い出したり昔の自分に戻ろうとすると発作が起こるんだ……。それがすげぇ苦しくてたまに気とか失っちゃうんだよね……」


俺の話を静かに聞いてる一之瀬。間に相槌を打ってくれて俺の話は止まらなかった。


「昔にさ『あんたなんかもう必要じゃない』って言われて……。それで自分がなんなのか分からなくなって、俺を必要としてる奴なんか本当に居ないんじゃないかって……。だから牧下の言葉を聞いた時、発作が起こった。何も出来なかった……。アイツも、牧下も本当に苦しんでんだっ!!俺なんかよりもすげぇ苦しんでんだっ!!だから、だから……」


涙が止まらなかった。自分の気持ちを、自分の中に押し込んでいた想いを吐露すると、こんなにも涙が流れてくるなんて思っていなかった。


「そんなに自分を責めないで。そして、貴方とあの場所で出会った時に言ったけど、私には小枝樹 拓真が必要なのよ」


俺を……必要。確かに一之瀬はあの時そう言った。俺が一之瀬に必要とされてる。俺を……、こんな俺を……。


「なぁ一之瀬……。悪いけど少しの間、泣いてもいいか……」


「えぇ、大丈夫よ。小枝樹くんのその涙を、私がちゃんと受け止めるから」


優しい一之瀬の声。俺はこの時だけ羞恥を捨て去り、声を殺しながら泣いた。自分の過去を後悔しながら、一之瀬の優しさに甘えながら、俺は涙が枯れてしまうくらいに泣いた。





「それで、電話してきたのは俺の事を心配してただけじゃないんだろ」


数分後、俺は泣き止み鼻声でかっこ悪いまま一之瀬に言った。


「あら、もう泣かなくて良いのかしら。今度いつ泣けるか分からないのよ?」


「うるせー。もう一之瀬の前では絶対に泣かないからな」


俺の弱さを見た一之瀬は、きっと少しでも俺の気持ちをやわらげる為にわざと冗談交じりに言った。


「だから、俺はもう大丈夫だから早く言えよ」


「そう。なら言わせてもらうけど、牧下さんの件で私達はまだやっていない事があるわ。とても簡単な事だった、友人同士なら普通にしている事。私はそれを明日皆でやろうと思っているの」


ずいぶん遠まわしな言い方だな。俺等がまだやってなくて、友人同士なら普通にしてる事……。


はいはい。分かりました。確かにまだやってない。だとしたらこれが最後のチャンスだ。これを逃したらきっともう牧下の心は俺等に開くことは無い。


それでも絶対にやってみせる。そう絶対にだ。






そして作戦実行の時間が来た。


放課後、俺、一之瀬、神沢、翔悟。このメンバーで校門前で目標の牧下を待ち伏せしていた。


きっと牧下はB棟裏に咲いている花に水を上げてから来るはずだ。他の生徒とは帰る時間を意図的にずらしている。


だから俺等は校門前で待ち伏せしているんだ。


昨日言った一之瀬の作戦。それは単純明快だった。本当に簡単な事だったんだ。友達同士が普通にすること、それは一緒に帰ることだっ!!


これで牧下に拒絶されたらもう為す術が無い。その時は自分の無力さを嘆くだけだ。俺は強く自分の拳を握り締めていた。


そして目標の牧下が現れた。


「よっ!!牧下」


「さ、小枝樹くん……。そ、それに、み、みんなも……」


「俺等と一緒に帰ろうぜ、牧下」


「き、昨日も、い、言ったけど……。わ、私は━━」


「これが最後だから。これ以上やって牧下には嫌われたくないし、これで最後にするから」


牧下が言い終わる前に俺は真剣な表情で言った。俺だけじゃない、みんなもこれで最後だから……。ふざけた気持ちなんか微塵もない。


「わ、分かりました……」


渋々了承する牧下。それでも俺は嬉しかった。そして


「やっぱり皆で帰るほうが楽しいよね牧下さん」


笑顔で言い寄る神沢。


「そうそう。友達と帰るのは結構楽しいぞ」


神沢に援護射撃をするように翔悟も言い出した。この二人は誰とでも仲良くなれるような感じがするからきっと牧下も大丈夫だろう。


「おいおい翔悟。お前はデカイから牧下が怖がるだろ」


「あら小枝樹くん。大好きな親友の門倉くんにそんな風に口を利くなんて、本当に小枝樹くんはツンデレなのね」


一之瀬の一言で皆が笑う。特に翔悟は大笑いしている。


「べ、別に俺はツンデレじゃねぇっ!!つか牧下本当に翔悟怖くないか?」


「だ、大丈夫だよ……」


こんな俺等の状況について来れない牧下。それでもまだ少しでも時間はある。そう思いながら俺等は遠回りをしながら帰ることにした。






俺等は学校から結構離れた川沿いを歩いている。時よりランニングをしている人や犬の散歩をしている人を見かけながら。


「ねぇ牧下さんは何でいつも一人でいるの?」


神沢の何気ない質問。


「わ、私は、ひ、人と喋るのが、に、苦手だから……」


笑顔で聞く神沢へ、俯きながら答える牧下。


「僕はね。牧下さんと一緒で友達が居なかったんだ」


少し冷たい風が吹き、神沢の綺麗な金髪が靡いた。その時の神沢の表情はとても悲しそうな顔で、それでも牧下に何かを伝えようと笑った。


「僕はね。ずっとこの見た目で勝手に評価されてきたんだ。誰も僕を理解なんかしようとしなかった。見た目だけで判断して、この見た目にそぐわない事をすれば真っ先に否定された」


笑顔のまま自分の過去を言う神沢。そんな神沢を真剣な表情で見ている牧下。いつの間にか、俺や翔悟、一之瀬まで何も言わずに神沢の話を聞いてしまっていた。


「だけどね、そんな僕にも友達が出来たんだ。切っ掛けは僕の自分勝手なお願いからだった。本当に自分勝手なお願いなのに、その人達は何の利益もない僕のお願いを聞いてくれたんだ」


語るように話す神沢。その人物が誰なのか俺等はもう分かっている。


「その人達は僕を特別扱いしなかった。だから僕は、ここにいる小枝樹くんに一之瀬さんに門倉くん、そしてここには今居ないけど一年生の細川さん。みんな僕の大好きな友達だ」


言い終わると神沢は微笑んだ。その綺麗な金髪を風で揺らしながら。


「俺だってそうだ。ここに居るイケメンくんと同じで、何のメリットもない俺のお願いを聞いてくれた拓真と一之瀬がいた。だから俺もここで皆と笑ってるんだ」


神沢の頭に手を置きながら、翔悟も神沢と同様に笑って牧下に言う。そして


「私はね牧下さん。あの時、貴方が友達になってと言いに来た時、とても酷い事を言ってしまったと思っているわ。だけどね、もう今の牧下さんなら分かるかもしれないけど……。友達ってお願いしてなるものじゃないんじゃないのかしら。私はそう、親友に教えてもらったわ」


一之瀬の想い。誰よりも贔屓ひいきされて生きてきた一之瀬の言葉。俺はそこから逃げたから分からないかもしれない。それでもその言葉は俺の心にも届いた。だが


「で、でも……。わ、私は、そ、それでも独りぼっちだった……。み、みんなみたいに、わ、私は友達が出来なかった……。そ、それでも、お、お願いしに行った次の日、さ、小枝樹くんが、は、話しかけてくれた」


牧下は自分の想いを吐露し始めた。


「で、でも。そ、それはきっと、わ、私に同情してるって、お、思って……。そ、それに、わ、私━━」


「もう同情なんかしねぇよ。本当に俺等は牧下と友達になりたいんだ」


俺は牧下の言葉を遮るように言った。みんなも俺の言葉に頷きながら肯定する。だけど


「わ、私は、み、みんなと友達になれない……。だって……」


牧下は一瞬間をあけた、そして


「だって、わ、私のせいで小枝樹くんと神沢くんが喧嘩してるとこ見たからっ……!!」


あの時の神沢との事を見られてた……?俺と神沢が言い合っている所を牧下に……。


「だ、だから……。わ、私が居たらまたみんな喧嘩しちゃう……」


牧下はその瞳から涙を流しながら俺達に言う。自分の事を責めながら、俺等の心配をしながら。


「あ、あれは違うんだよ牧下」


「違くなんかないっ!!!わ、わ、私だって皆が大好きだよ……。こ、こ、こんな、わ、私に優しくしてくれた……。こ、こんな私と一緒に居たいって思ってくれたっ!!ほ、本当は、さ、小枝樹くんが話しかけてくれた時、す、凄く嬉しかった……」


何でそんな辛そうな顔で言うんだよ……。牧下だって本当は……。


「だ、だから、私がいると、ま、またみんな喧嘩しちゃう……」


牧下は俯いた。涙を沢山流しながら。やっと自分の本当の気持ちを言えた牧下の言葉は、とても悲しいものだった。


「何言ってんだよ……。俺らは本当に━━」


「私なんか必要じゃないのっ!!!!だ、誰からも必要とされない。わ、私が居れば、み、皆がまた傷ついちゃう……」


ドクンッ


牧下の叫びが俺の心に刺さる。過去の情景が頭の中で流れ出して、あの時の言葉が聞こえてきた。


『こんな子、もう必要ない』


必要じゃない……、必要じゃない……、必要じゃない……。


ドクンッドクンッドクンッ


俺の心臓は更に速度を増していた。いつも以上に辛い発作だった。


「小枝樹くん……?」


俺の異変に気がついたのか一之瀬が俺に近づいてきた。だけど俺は一之瀬に心配させないために


「大丈夫だ」


気丈に振舞う。本当はすげぇ苦しい。だけど、今一番苦しんでるのは牧下なんだ。俺の事なんかどうだっていい。それでも俺は苦しみのあまり言葉が出せなかった。だけど


「そんな事ないよ。牧下さん」


「か、神沢くんにはわからないよ……。い、い、今だって、わ、私、す、凄い酷い事言ってるのに……」


「そんなの関係ない。だって僕達はもう友達だから。僕達は牧下さんの事を必要としてるから」


神沢の言葉で何も言わなくなってしまう牧下。きっと牧下が本当に欲していた言葉を神沢が言ったからだ。でもそれだけじゃない。今の俺も神沢のその言葉で救われた。少し胸が楽になった……。


「確かにイケメンくんの言うとおりだな。こんなに言い合って、泣いて、怒って、自分の気持ち叫んで、それに大好きまで言って、友達じゃない方がおかしい。もう俺等は互いに必要としてる仲なんだよ」


翔悟が神沢に続いて言った。二人の言い分を聞いた牧下は


「わ、わ、私……。み、み、皆を傷付けるかもしれないよ……?な、なんにも出来ないかもしれないよ……?そ、それでも友達で居てくれるの……?」


涙を沢山流しながら俺等に同意を求めてくる牧下。そんな頑張ってる牧下を見たら、俺も頑張らなきゃいけないでしょ。辛い体を動かして、俺は牧下に近づき


「今更何言ってんだよ。俺は昨日牧下に拒絶されてすげー傷ついたんだぜ?だからもう自分だけで抱えるなよ。お前の事を思ってるやつ等がこんなにもいんだからさ」


「さ、さ、小枝樹くん……。ごめんなさい……、本当にごめんなさい……」


牧下は泣きながら謝った。だから俺も牧下の友達として許すことにした。それが俺の思う友達だから。






これで今回の件が全部終わった。俺は優れない体調のまま、みんなと笑いあっていた。


泣いている牧下を翔悟があやして、それに対して突っ込む神沢。そんな二人の姿を見て笑顔をみせる牧下。これが今回の終わりだ。みんな笑ってる、それが俺の求めてたもの。


「今回は全部、神沢と翔悟に持ってかれたな」


「あら、小枝樹くんが言った事も私的には良い事を言っていたと思うけど」


俺と一之瀬は三人を少し離れた所で見ながらそんな会話をしていた。


「それにしても小枝樹くん、顔色が優れないわね」


やっぱりこの天才には分かってしまう訳で、凡人な俺はもう隠すことをやめた。


「ははは……。やっぱり分かる?本当に、もう、限界だ……」


世界が真っ白になった。何も見えなくなって自分の身体から力が抜けていくのが分かった。意識を失うのは何年ぶりなのか、こんな状況の俺はそんなくだらない事を考えた。だけどそれを許してくれない過去の情景が俺を蝕んだ。


『もう、お前か居なくなれよ』『こんな子、もう必要ないわ』


俺の中で言われ続けるその言葉は俺の心を殺す。本当は俺が独りになるべきなんだ。俺は誰かを傷付ける事しか出来ない。だから俺はあの時独りになる事を選んだのに。結局また俺は色々な人の輪の中に居る。


それがとても安らぐ反面、また独りになるんじゃないかと、誰かを傷付けてしまうんじゃないかという恐怖を生んでいた。


ドサッ


「小枝樹くんっ!!」


その場で意識を失い倒れた俺は、このまま目を覚まさない方が楽なんじゃないかと思った。だけど、そんな俺の事を心配する一之瀬の声が


最後に聞こえたんだ。







まず初めに『天才少女と凡人な俺。』第四章を読んで頂き誠に有難う御座います。


話的には上手くまとまったか分からないですけど、頑張って書きました。

やっぱり話を考えるという事はとても難しい事です。


では次の第五章も楽しみにしててください。さかなでした。

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