表裏一体
毎日毎日、同じことの繰り返し。朝起きて、各々の職場や学校へ行き、そして夜眠る。それは、人間として生まれた者の定めだろうと彼は思う。一体、どうしてこの世の中は、こんなにも薄いのだろう。流行などというものに人間たちは踊らされ、政治などというもので生活が変わっていく。人間たちは、自分たちの作り上げていったもので、結局は自分たちの首を絞めているだけではないだろうか。
彼は、窓ガラスに映った自分の姿を見つめる。
―――ああ、僕は体が大きくなりこそすれ、何も変わらない。
彼がこの場所に存在してから、もうどの位の月日が流れたであろう。ここにいるだけで、人間たちや場所の変化が目に入ってきた。
―――汚い話や悪口もたくさん聞いた。本人の前ではヘラヘラしているくせに、他の人にはその人の悪口を言っていたりする。それに邪魔だという理不尽な理由で、どれだけ仲間たちが殺されてしまっただろうか。だから……僕は、そんな人間たちが嫌いだ。大嫌いだ。
とある市立中学校の校庭の隅で、学校のシンボルである大木が冷たい雫を溢した。
「……何でだろう。私、本当に友だちだと思っていたんだよ?」
そんな彼の下へ、顔をグシャグシャに濡らした一人の少女がやって来た。大人しく二つに結われたその髪は、元気を無くしてしまっている。
彼は、この少女に見覚えがあった。
―――人間は、やはり愚かだ。「トモダチ」と呼んでいる相手を、こんなに簡単に泣かせるのだから。
大木の葉がサワサワと揺れる。少女は、目の前のその木にそっと寄りかかる。
「……私、あの子にとって、居ても居なくても同じ存在だったのかなあ? だったら、とっても悲しい」
彼女はそう言って、そっと微笑んだ。しかし、その眉は下げられており、心から笑っているようには到底見えない。
―――僕は知っている。君の「トモダチ」が、君の悪口を言った事をとても後悔していた事。君の「トモダチ」も、僕の下で涙を流していた。
しかし、彼の言葉は少女には届かない。彼は、大嫌いなはずの人間をこんなに気に掛けている自分自身が不思議で仕方が無かった。
―――人間は愚かだ。自分たちの作り上げていったもので、結局は自分たちの首を絞めている。仲間も、理不尽な理由で沢山殺された。だけど……。
彼は、目の前にいる儚げな少女に心を奪われてしまっていた。どうしようもなく、抱きしめたい衝動に襲われるが、彼にはその腕が無い。
―――僕は、そのどうしようもなく愚かな人間である君を、救いたいと願ってしまった。大嫌いなはずなのに。
彼は願った。少女が幸せになるように。
少女は願った。この木が、永遠にこの場にあるように。
どういう捉え方をされるかは、お任せいたします(笑)
わたし的には、題名である「表裏一体」をテーマに書いてみました。
結末は中途半端ですが、「大木」は、大嫌いで愚かだと思っている人間に恋をしてしまった……という設定です。「大木」自身は気付いていないのですが。
「少女」にとっては、ただの木であるはずの「大木」は、不安や心配事などのはけ口となっていたんです。
皆さんにも、同じような存在の人はいませんか?
最後まで読んで下さり、ありがとうございました。