006.敏腕ハッカーと○○トレーダー
「……よし、こんなもんだな。調査報告書を書くか」
入手したブツをプロテクト付のMOに入れて、一枚の紙切れに目を落とす。
面倒なことこの上ないが、クライアントへの報告は手書きが定石だ。
俺はハッカーとして生計を立てている。といってもテロに加担するような連中ではなく、クライアントからの依頼を受けて悪徳企業や組織限定で機密情報を入手する、月並に言えば『義賊ハッカー』というヤツだ。
もちろん犯罪行為には違いないが、親父から叩き込まれた技術と専用PCの性能は伊達じゃなく、今までアシがついたことは一度もない。
「ふぅ……」
これで今回の仕事は終了、あとはクライアントに渡すだけだ。コーヒーでも淹れて一息つこう。
途中、優香の部屋のドアをノックしてみる、反応はない。こっそりと開けて見ると、優香のヤツはPCの前で忙しそうにマウスを操作していた。
「んー、これはもう手放してもいいかな〜。あっ、これは今が買いだねっ! これは――」
相変わらず気が抜けるような口調だが、どうやら今は仕事中のようだ。
いつも思うんだが、あんなんでどうして大儲けできるんだろうな。いわゆる『天賦の才』ってヤツか?
おお、こわいこわい。