大猫かぶりの姉。冷めた弟
小説や漫画に出てくる才色兼備なキャラクターになりたかった。
優しくて、頭も良くてそれでいて人望もある誰からも頼られるそんな人に私は憧れた。
うじうじと碌に言いたいことも言えず、誰からも省みられることのない、虐められても無視されても何も出来ない足掻くこともできずただ教室の片隅で自分の机の上に書かれたいたずら書きを黙って消すしかできない自分が大嫌いだった。
変わりたいと、思った。
誰からも好かれる、誰からも頼られる、そんな私とは正反対の「私」になりたい!!
中学にあがる年、私は引越しをして中学は遠い場所の私を全然知らない学校に入学することになった。
エスカレートして日常と化していた虐めから解放された私は思った。
これはチャンスだ。
変わる。私は理想の「私」になる!
春休みの間私は死ぬ気で勉強をし、話し方や人との接し方を研究しまくり、シミュレーションにつぐシミュレーションを重ね、弟に「ねぇちゃん。必死すぎてまじ気持ち悪い」とドン引きされようとも気にせずに理想の「私」を作り上げた。
その結果………。
「こんな重たい荷物一人では無理だよ?」
「え?あっ…………」
廊下ですれ違った後輩が持っていた先生に頼まれたのであろう大量のノートをヒョイと受け取ると私はそう言って笑った。
「大丈夫?女の子なんだから無理をしてはいけないよ?」
恐縮する後輩を宥めつつ私は颯爽と歩き出す。
「高坂先輩!ありがとうございます!」
高校二年生になった私はあの日願ったような誰からも頼られる人という「大猫」を被っていた。
「にゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!はずかしぃ~~~~~~~!!」
人気のないお昼休みの裏庭で羞恥心にのたうち回る私に弟である高坂 望はお弁当を食べながら冷めた目を姉に送っていた。
その目に姉に対する労わりも尊敬の念も何一つなく実の姉に送る視線ではない。
弟よ。その残念な人を見るような目、やめて。
「はぁ~~~。そんなにのたうち回るぐらい恥ずかしいならその「大猫」やめればいいじゃん」
「無理!」
「じゃぁ、そんまま恥ずかしさにのた打ち回れ」
「それも嫌なの!!」
「俺にどうしろと………」
典型的な内弁慶な私が唯一強気に出られる弟は年に似合わない重いため息をつく。
「大猫を取る気はないけど大猫のときの言動は恥ずかしくて嫌ってわがままだよ」
「うっさいなぁ!」
がばぁ!と起き上がり怒鳴る私に望ははぁ~とこれ見よがしにため息をついて見せた。
相変わらずいやみな弟だわね。
「望!」
「あ、人だ」
「ふふっ。望、慌ててご飯を食べて喉に詰まらせてはいけないよ?」
即座に大猫を被ってしゃきりと背筋を伸ばし慈愛の笑みを浮かべる私。もはや脊髄にまで刻み込まれた反応の速さです。
そんな私に望は冷静に一言。
「うそ」
「のぞむ~~~~~~~~~~!!」
あんた何姉で遊んでんのよ~~~~~~~~~~~~~~!!
ぎゃあぎゃあ騒ぐ私を「恐竜」と言ってさらに煽りつつ軽く流す望。
高坂さん家の大猫被りの姉は今日もたまりにたまった恥ずかしさや愚痴を弟の前で発散し、それを高坂さん家の冷めた弟は突っ込み、華麗に流しつつも(仕方なく)聞いてあげるのでした。