9/9
蠢く
短いです…。
朧げな意識の中で王子は、一筋の光を見た。それは優しく暖かい、まるで春の日差しのような―――。
「………お母さま?」
眩しさに王子が目を開く。やけに胸が熱く、見るとあの黒い石が、母の形見のペンダントが、光り輝いている。
王子は言葉も出ず、どこか懐かしさを覚えるその光に、ただただ魅了されていた。
「王子……」
絞り出したような女の声に、王子はふと我に帰った。そして彼は、ここがどこなのか、今までどんな状況にあったのか、全てを思いだし、彼の足下に這いつくばっている「それ」を見た。
――照らし出された「それ」は、既に人の形をしていなかった。
ドレスであったはずのライトブルーの布を被ったその物体からは、明らかに人のそれではない、節のある黄と黒の縞模様の脚が何本も突き出している。布切れの下に覗く、微かに上下する丸い腹。鈍く光る赤い八つの眼は、眩しさで王子を捉えられずに、ゆらゆらと彷徨っている。あの妖しくも美しい姫は、人の子ほどの大きさもあろうか、おぞましい大蜘蛛に変わり果てていた。