黒く光る
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「ほら、綺麗でしょう?」
亜麻色の髪を緩く編み、左胸に垂らしているその女は、そう言って息子に微笑みかけた。
「きれーだねぇ」
彼は小さな手で、母が右手に持つペンダントのそれに触れた。黒く丸いその石は、西の窓から差す黄昏の光を受けて、金色に輝いている。
「ヘマタイトっていうのよ」
「へたまいと?」
「ヘマタイトよ。お守りの石なの。怪我をしても、死なないように守ってくれるの」
「へえ」
「あと、魔物からも守ってくれるのよ。ほらこの石、表面が鏡みたいにぴかぴかでしょう。悪魔がこの石に映った自分の顔を見て、逃げていくのですって」
「じゃあ、おかーさまのとこには、あくま来ないの」
「そうねぇ……しばらく磨くのを怠っていたから、悪魔が来てしまったかもしれないわ」
「あくま、きたの?」
「来た……かもしれないわね」
――ゴホゴホゴホゴホッ
不意に女が咳き込み、左手で口を押さえた。持っていたペンダントが揺れ、金色の光が散った。
「おかーさま、だいじょぶ?」
――ゴホッ……ゴホゴホゴホゴホッ
「はあ……はあ……ええ、大丈夫よ……。これを、お前にあげます。大事に持っているのよ。」
女は息子に、半ば押し付けるようにペンダントを託した。彼はいとけない瞳で、手の中のそれを不思議そうに見つめている。
「くれるの?」
「ええ。私にはもう必要ないの」
――ゴホゴホッ
痛々しいほどに青白い彼女の顔の、紫がかっていたその唇が、赤く濡れていた。口元から離した左の手のひらも、唇と同じように赤く染まっている。
「……おかーさ」
「大丈夫。ね、いい子だから、もうこの部屋から出て行ってちょうだい……ほら早く」
おかーさま、どうしたの?なんで、お口とおててが、赤いの?ねえ、なんで―――――
何か言おうとする息子の背中を押し、彼女は早く部屋から出るよう促した。彼は、ゆっくりと歩き出したが、扉の前でもの惜しそうに振り向いた。
「ちゃんと、磨くのよ……」
彼は戸惑いながらも、こくっと大きく首を振り、黒い石のペンダントを握りしめて、おもむろに扉に手をかけた。
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かなり久しぶりの更新・・・!!