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剣と、魔法と、そして明日と  作者:
第1章「幼少編」
8/11

第7話

 【カーナ村 外れの森 ノリムネの家】


 ブンッ!


 リク達から30m程離れた森の終わりから現れたそいつは言葉を発する事も無く投擲を試みた。


「避けろ!」

「っ!」

 近づいて来た者の意外さにリクは反応が遅れたが、自分に向かって飛んでくる鶴嘴(つるはし)を難なく避けた。


 ドシャッ!


 鶴嘴は地面を(えぐ)りながら突き刺さる。

 30m程の距離を放物線を描く事もなく、ただ一直線に向かってきたこの鶴嘴。

 人が持つ筋力を遥かに上回る力で投げられたのだろう。


 ―――だが投擲したのはヒト。男性の人族だった。


 さらに男は一瞬にしてリクとの距離を詰めていた。明らかに人として能力を逸脱(いつだつ)している。

 リクにはその男の顔がはっきりと見えた。

「(え!?こ、この人!)」

 驚きながらも突きを放つが、男は身体を斜めにしてそれを(かわ)す。

 躱したと同時に右手が風を切りながらリクの喉元(のどもと)に伸びる。その行動に一切の躊躇(ためら)いは無い。


 バギッ!


 瞬間、男が真横に吹っ飛ぶ。


 男の脇腹が在った場所にはノリムネの蹴りが止まっていた。

「何を呆けておる。しっかりせんか!」

 ノリムネに活を入れられたリクは我に返って木刀を握り直す。

「じいちゃんこの人っ!」


 男は立ち上がる。


 まるで空から糸で男を吊り下げられたかの様な挙動。

 何事も無かったかの様なその表情。

 

 何処(どこ)を見ているんだろうか。


 何が見えるのだろうか。


 その白濁した目は。


 ノリムネは心の中で舌打ちをする。

「(しっかり肋骨を砕いてやったのに平気そうじゃな此奴(こやつ)。)」

「じいちゃん!」

 リクは冷や汗をかきながらノリムネに応えを求める。


「わかっている。この男は死んでいる。」


 生唾を飲み込む。

 よくよく見ればその男の身体はボロボロだった。


 ベストは切り裂かれ、それを追う様に肉も裂かれている。

 作業用のズボンにまで(にじ)んでいる血は黒くなり、不気味に(いろど)る。


 男は後ろに跳び、先ほど自らが放った鶴嘴を手に取る。


「アンデッドにしては速さも強さも桁違いじゃ!多分何処かにっ!ぐッ!」

 リクに向かって上から(せま)る鶴嘴を抜刀して受ける。あまりの力にノリムネの顔が歪んだ。

「(リクを狙っているのか!?)」

 そのまま(つば)迫り合いとなる。


 リクは瞬発力を活かして男の右サイドに回り込み、気合いと共に踏み込んだ。

「はっ!!」 


 鈍い音を立てて男の右肘が砕かれた。


 バランスを崩し鶴嘴の力が緩む。ノリムネはその隙を見逃さなかった。


 鍔迫り合いから身体を(さば)いて鶴嘴を地面へ埋め、そのまま刀を返して男の首を()ねた。


 ゴロンと首は転がり、身体はそのまま硬直した。


「リク!魔法でこの男を灰にするんじゃ!」

 ノリムネは刀を構えたままリクに怒鳴った。

「え?これでもう終わりでしょ??」


 リクは緊張を解き、既に座り込んでいた。目の色も紅から黒へ戻っている。


「ば、馬鹿者っ!」


 前触れも無く首無しの男の身体が動き出した。

 左手でリクの首を掴み上げる。


「ぐあっ!」

「リク!貴様ァ!!」

 ノリムネは首無し男に向かって駆け出す。


 ボッ!!


 転がっていた筈の首がノリムネの首を狙って高速で迫る。


 ガキッ!!


 首へ噛み付く瞬間に刀で受ける。

「邪魔をするな!」

 しかし首は周囲で跳ねながらノリムネをリクの元へ行かせまいと威嚇を繰り返す。


「ぐうぅぅっ!」

 首無し男の指がリクの首に食い込み、次第にリクの顔色が悪くなる。

「(や、やばい……。意識が……。)」

 男の左手を(ほど)こうとしていたリクの両手は遂に重力にまで勝てなくなった。


「リクっっ!!」

 

 ザシュッ!


 胴体と離れる男の左腕。リクは地面に投げ出された。

「がはっ!はぁっ、はぁっ!!」

「しっかするんじゃリク!」

 ノリムネは男に体当たりして吹っ飛ばした。そのまま向かって来ていた頭部とぶつかる男。


「だ、大丈夫だよ。それよりアイツを!」

 痛々しく(のど)(あざ)を作ったリクは気力で立ち上がる。


 ズズズズ。


 離れた筈の頭部と左腕は男の身体に近づいていき、遂には元通りになってしまった。

 慣らす様に腕と首を回す男。何時(いつ)の間にか右肘も修復している。


「化け物が。リク、儂が時間を稼ぐから魔法を放て。」

 カチャリと刀を構え直す。


「時間?そんなんいらないよ。」

 ふーっと深く息を吐いて意識を集中する。


「ふっ。だがくれぐれも周囲に被害を出すなよ。制御も(まま)ならぬ癖に強大な魔力だ。前の様に家の周囲を吹っ飛ばすんじゃないぞ。」


 数年前までは家の周囲は家を隠す程に木々が(しげ)っていた。しかし現在家の周囲は拓けている。

 リクの魔法が暴発したのだ。


「むかしのことをネチネチネチネチ……。」

 リクは口を尖らせながら隣で傷一つ負っていない父を横目で見る。

「なんじゃと!」

「あ、じいちゃん来るよ!」


 親子の会話を最後まで聞く事も無く、男は再び鶴嘴を手に襲って来た。


稚拙(ちせつ)だな。馬鹿の一つ覚えか。」


 チンッ


 ノリムネは鞘に刀を納め、居合の構えを取る。

 リクはノリムネの構えを見ると後ろへ下がった。


 男は一気に距離を縮める。


 鞘の左右に()め込まれた雷耀石が光る。



電迅(デンジン)。」



 ドッ!!!


 眼にも止まらぬ速さで放たれた刀は一直線に男の胸に突き刺さった。


「安心せい。手加減してやったぞ。」

 

 あまりの威力に刀が胸に刺さったまま吹っ飛ぶ男。

 仰向けになりながら倒れ、刃は背中へ貫通したまま地面に刺さる。


「リク、行けい!……ぬ゛!」

 

 リクはスピードと瞬発力を活かして宙へと舞った。


「コラ!親を踏み台にするんじゃない!」

 ノリムネは怒りながら後ろへ退く。



 空中で倒れた標的を捉える。


 黒い瞳は(あか)侵蝕(しんしょく)する。


 (あや)しく輝くその瞳。


 天へと掲げ広げた右手。


 身体から。


 そして大気中から魔力を集め収縮させる。


 (かす)かに帯電する右手。


 握り締めろ。


 (こぶし)


 感じろ。


 自分を。


 そして世界を。


 

雷光刀(ライトニングソード)ォォォ!!!」


 

 突如現れた巨大な光の刀。


 振り下ろされたリクの拳と共に。




 光となった。

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