第4話
耀鉱山ノーヴェでは採鉱と選鉱が行われる。
簡単に言うと採鉱は耀石を採掘する事で、選鉱は良い耀石と悪い耀石を選別する事である。
現場で採掘し選別された耀石(と微量な通常の鉱石)は耀鉱山ノーヴェの直ぐ傍に在るカーナ村まで運搬される。運び込まれた耀石や鉱石は村にある工場で製錬され、魔耀石や金属を抽出する。
その後さらに選別され、最終的には魔耀都市バルゴへと運ばれる事となる。
火耀石や雷耀石などの一般的な魔耀石は商人達の手により一般家庭へと渡り、採掘数の極端に少ない特殊な魔耀石はバルゴ研究所預かりとなる。
ショウが草原へ転移する13日前。
カーナ村では今日もいつもと変わらぬ風景で満たされていた。
朝早くに採掘チームとその護衛らが村での最終準備を終えて耀鉱山へと出発する。
村には最低限の店と宿しか無く、他には民家がポツポツと並ぶような街並みだ。
村の耀鉱山側には大きな製錬工場が佇み、村の住人と製錬士達がせっせと働く。
そんな彼らは知らなかった。
いや、知る由もなかった。
其処は現在、壊滅の危機に晒されているという事に。
【カーナ村 外れの森 ノリムネの家】
「はぁ……。こりゃ参ったのう。」
ノリムネは使者が持ってきた親書の書面にもう一度目を通しながら溜息を吐いた。
背凭れに体を深く預け、腕を組む。
60歳を過ぎて顔の皴は深くなったものの、肉体は現役の頃と然程変わらない。
ディタイム王国王直属騎士隊の元隊長であった彼だが現在は退役し、カーナ村の外れにある森の中で悠々自適に余生を送っている。
長年連れ添った妻のクラサは2年前に他界した。
なあクラサ。儂は如何したら良いのかねぇ?
思いを巡らしていると、そこへ黒髪の子供が小走りに近寄ってくる。
「じいちゃん、筋トレおわったよ。」
「じゃあもうワンセットじゃな。」
「え、やだ。お腹すいたから今日はもうやめようよ~。」
フォッ!
ノリムネの木刀が風を斬る。
「避けるな馬鹿者。」
バックステップで避けた少年に向かって冷やかな目を向ける。
「そりゃ避けるよ!いまの頭に当たってたら死んでるよ!?」
「全くお前という奴は……やはり精神修行じゃな。其処に座って瞑想せい。……でないと今度は本気で撃ち込むぞ。」
背筋が凍る。
また拒否しようとしていた少年は育ての親が放つプレッシャーから其れが本気である事を察した。
ペタンとその場に座り、目を閉じる。
こ、こわすぎる……。『雷鬼』か。ほんとに鬼だな~。
そこで額に衝撃。
無心に成って無いと気付かれたらしく、コンッと木刀の剣先で軽く額を小突かれた。
だ、だめだ、だめだ。集中するんだ。……心で世界を感じるんだ。集中。集中。集中。……。……。
「(やれば出来るんじゃよなこの子は。まぁ儂ら夫婦で鍛えてきたんじゃから当然と言ったら当然じゃが、やはり天性の才能じゃろうな。……そして血、か。)」
瞑想に入ったリクを見ながらノリムネは思う。
リク。この子は捨て子だった。
少し長めで真っ黒な髪は癖っ毛で、優しげな雰囲気が漂う。
垂れ目で、その瞳の色も真っ黒だ。
しかしその色はいつも黒では無い。
8年前。
耀鉱山ノーヴェで赤ん坊のリクを拾った時。
泣き叫ぶその子の瞳は、血の様な紅だった。