第2話
【バルゴ魔耀研究所 アウスト私室】
「身体は大丈夫ですか?」
車椅子に乗った30代中盤位に見える白髪の男性は優しい笑顔でショウに問いかけた。
「おれはだいじょうぶだよ。アウストはどう?からだいたくない?」
「ありがとう。私も大丈夫ですよ。約束通りこの後に稽古をつけてあげれそうです。」
「やったぁー!……あ、でもむりはしないでね。」
アウストと呼ばれた男性は見たところ病弱な優男といった感じだが、ひとつだけ目の惹く特徴がある。
それは眉間の少し上。
純白に輝く菱形の魔耀石がその部分に埋め込まれている。
そう、言葉の通りに埋め込まれているのだ。
人族が、というかこの世界で生きる者が魔耀石をその身に宿している事は自然界ではありえない。
即ちそれは人工的に造られらたモノか、改造されたモノかのどちらかになる。
アウストは車椅子をショウが座る椅子の前へ進めると、頭をくしゃっと撫でた。
「優しいですね。でもいつも言ってますが、優しいだけでは生きてはいけませんよ。時には厳しさも必要となってきます。自分が生きる為には手段を選んではいられない事もあるのです。」
「なんどもいわれればわかるよ。それにおれはアウストとおばちゃんくらいにしかやさしくしてないし。」
ショウは拗ねた様に口を膨らませた。
そんな様子を苦笑いしながらも目は真剣なアウストは若干声を潜めながら続ける。
「それなら良いですが、余りこの研究所の人々に深入りは禁物です。彼らは私達を物としか見てませんから。」
頭に置いてあった手をショウの両腕へとまわす。
「そしていつかこの研究所の外の世界へ足を踏み出した時にも他人を簡単には信じてはいけません。私との『家族』という絆だけを信じなさい。」
少し強い力で腕を掴まれたが、それもショウにとっては嬉しかった。
「うん!アウストとの『家族』のきずなをしんじるよ!」
今までこの研究所の人々にされた事を思い出して胸の奥が重くなるのを感じながら、ショウはその小さい拳を握り締めた。
その拳。
左右の甲から黄金に光り輝く魔力が溢れ出す。
宿主の怒りや悲しみという感情は糧となりて魔耀石は呼応し胎動。
この稀有な魔耀石は喰っている。
少年の穢れ無き幼い精神を。
―――アウストはこの『家族』の可能性に未来を視る。
「落ち着きなさい。」
アウストは静かに、そして力強く言葉を放つ。
あっ!とショウは我に返った。
魔力の輝きは治まる。
「ご、ごめんなさい。」
「良いのですよ。その力を制御する為に成長していきましょう。」
「は、はい!」
「ふふっ。」
微笑むとアウストは再度頭を撫でる。
恥ずかしいやら嬉しいやらの複雑な感情をしながら俯く。
そこで廊下から聞き慣れてしまった嫌な足音にショウは気が付いた。