第1話
おれが目をさますと、このへやに入るまえはまっ白だったかべとかゆかは、自分の口とか、からだから出たものでよごれていた。
きおくにはないけど、あばれたあともある。
まぁこれはいつものこと。でも今日は良いほうだと思う。えらいなおれはー。
ショウは勢いよく飛び起きた。
自由な時間になった嬉しさからか足取りは軽く、ステップ混じりに部屋の扉へと向かった。
金色に輝くツンツンのショートヘアーが小気味好く揺れる。
眉が薄く、目は少し吊り目気味で8歳ながら若干の威圧感はあるが、左の八重歯と大きな茶色の瞳が雰囲気を柔らかくさせている。
天真爛漫な悪戯っ子。彼はそのイメージそのままだ。
扉に手を掛けるショウ。いつもの事ながらロックされていて開かない。
正直言うと、こんな扉は力尽くでも開けれられる。
ダメージを抑える為の魔法陣も展開されているが、そんなもんは自分には関係無い。
しかし研究所を破壊してはアウストに叱られるのは目に見えている。
アウストにおこられるとかこわすぎるもんね。
仕方なく部屋の天井近くある横幅に広い鏡を見上げた。
こちらからは向こう側は見えない。
鏡の後ろにいると思われる研究者に向かって無言のお願いをしてみた。
見張りを続けていた研究者から、やっと起きたかぁ~と溜息交じりの不満が漏れた。
勿論、所長や主任が居る所でそんな事は言えないが、この場に居ない人間に気を使う必要は無い。
寝ている時に何かしらの反応や異変が起こるかもしれないから見張っとけとの指示。
正直、寝ていて(気絶していて)全く変化の無い子供を見続ける時間は苦痛で仕方が無い。
そんな事は露知らない当事者は外に出たがっているようだ。
しかし悪いが簡単にはこの防護研究室からは出せない。
自制の利かない破壊兵器が研究所内部を自由に彷徨いていたら安心して研究なんて出来やしない。
己に制御の出来ない力は己に害を及ぼす。
指示を仰ぐ為、この無邪気な破壊兵器を手懐けている彼に電話を掛けた。
そう、もう一人の破壊兵器に。
「壱号ですか?陸号が起きました。……ええ、はい。……いや、しかし。……はい。わかりました。」
眉を顰めながら電話を切る。
何かあったら責任は私が取るだと?そんな権利は兵器になんてあるものか。
前大戦で戦果を挙げたからといって何を偉そうに。
だからと言って職務を放棄する事は赦されない。
拡声器のスイッチを入る。
「ロックを解除します。壱号が私室で待っているので向かいなさい。寄り道は認めません。」
研究者の声を聞いたショウは露骨に顔を顰めた。
いち号じゃなくてアウストだよ。それにおれはろく号じゃなくてショウだから!
しかし相手にされないと判っている、というか経験から学んだので口には出さないが腹は立つ。
ガチャッ。と遠隔で解除された扉を壊さない程度に乱暴に開け閉めしてやった。
ちなみにマイクを使った拡声器や遠隔ロック解除などは共振耀石を応用したものである。
この技術は最近確立されたもので、実装されているのはバルゴ研究所のみ。
バルゴ研究所の最高責任者であるシアン所長が開発したとされている。