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第9話「“継承”という名の蹂躙」

ここからはシリアス全開です。コミカルよりこっちのほうが好きかな。


「えっ、全員招集……?」


地下リングの控室。日頃は時間差で使われる女子選手専用のトレーニングルームに、専属・バイトを問わず全員が呼び出された。天井の低い空間に戦闘経験豊富な女子選手たちがずらりと揃うと、どこか異様な圧迫感があった。


私――マヤの隣には、普段“女王様キャラ”を演じているルミが立っていた。だが今は、その仮面を脱ぎ捨てたかのように、唇を噛み、肩をすくめている。


「……あの、マヤさん。ちょっとだけ、真面目な話してもいい?」


いつになく控えめなルミの声に、自然と背筋が伸びた。


「アングラ卿のことなんだけど……正体、分かったの。あの人、クロウ会長。クロウ・ホールディングスの、あの……」


その名を聞いて、あたしも息をのんだ。


クロウ・ホールディングス。国内最大級の重工業企業。防衛、医療、AI、あらゆる先端技術に手を出してる巨大財閥だ。その会長が、地下リングの後ろ盾……?


「で、ミクさん……あの人、クロウの息子さんの奥さんなの。つまり……義理の娘。」


「ミクが……」


ルミは真顔でうなずく。


「だからお願い。ミクさんには、このこと黙ってて。彼女、悪気なくてもクロウにこっちを売っちゃうかもしれない。あの人は裏切りとかじゃなくて、“善意”で動くから……逆に危ない」


私は小さくうなずいた。この場にいる誰よりも真っすぐで、どこまでもズレてる女性――ミクなら、ありえる。


そのとき、トレーニングルームの奥の扉が重々しく開いた。


厚手のカーテンを割って入ってきたのは、いつもこういう場を取り仕切っている黒衣の女……だけではなかった。


「ようこそ、僕の花園へ。今宵はお集まりいただき、感謝の至りだよぉ……!」


響いたのは、あの無邪気で子供のような声。仮面の下の素顔を知ってしまった今では、ただの狂気にしか聞こえない。


アングラ卿――クロウ会長。


「さて、さてさて。今日はちょっとした、お祝いがあってねぇ……我らが支配人嬢、昇進です!」


黒衣の女が一礼する。観客席のどこかから、機械的な拍手音が響いた。


「というわけで、新しい支配人を選ばなくっちゃ! それも、公明正大にね! さあ、君たちの中から……次の“ルール”を創る者を、全選手強制参加のトーナメントで決めようじゃないか!」


場がざわめいた。


仮面をつけたアングラ卿が、朗々と、まるで絵本を読み聞かせるかのような調子で告げ始める。


「それでは諸君、お待たせいたしました。新・支配人選抜トーナメントの、ぉ〜ルール発表ぉ〜!」


わざとらしい抑揚が、会場に妙な寒気を走らせる。


「その一! 優勝者には栄えある新支配人の称号を進呈〜♪ つまりつまり、リングのルールも、罰ゲームの方針も、おねーさんたちのコスチュームも! ぜ〜んぶ自分の思いのままになるってことだよ! ふふっ、素敵でしょぉ?」


ざわっ、と選手たちがざわめく。ルールを決める者が、このリングのすべてを握る――。


「その二! これまで良い働きをしてくれた選手たちには〜……シード枠のご褒美ぃ! 予選をスキップして、楽に進めちゃうの。ルミちゃん、あなたはもちろん該当ねっ♪ ……あとは、当日まで内緒のシークレット枠もあるから、楽しみにしててねぇ〜?」


ルミが、肩をすくめながら目を伏せた。自ら望んだわけじゃないだろう、それでも、与えられる役は果たす――彼女のそんな覚悟が滲む。


「その三っ! 残念ながら途中で負けちゃった選手たちにはぁ……“罰ゲーム”のプレゼントぉ〜☆ 疲れ切った身体で、僕のお抱えの男の子たちと〜♪ 連・戦っ!」


どよめきが、悲鳴に近い声へと変わった。


「心配しないで。観客の倫理感にはちゃんと配慮するから、いやん♡なことは、しない。してもらわない。あくまで“拳”で、丁寧にお仕置きしてもらうだけだからぁ♪」


明るく言うほどに、言葉の重みは増していく。あたしは、ルミと一瞬目を合わせ、無言で頷いた。


「そしてそして、目玉はこちらっ!」


アングラ卿が嬉々として指を鳴らすと、黒衣の女が手を引いて、縛られた少年を連れてきた。


「じゃじゃ〜ん! 今回の副賞は……こちらの坊やの、“ハジメテ”でぇ〜す♡ これまで不思議と守られてきたこの純潔、栄光の優勝者に差し上げちゃう!」


ソウタだった。


あたしは心臓を鷲掴みにされたような衝撃を受けた。頭が真っ白になる。


「はぁ〜い、それじゃみんな、気合い入れてがんばろぉ〜!」


仮面の奥から響く笑い声が、嫌に長く耳に残った。

拳を握りしめたとき、横でルミがそっとささやいた。


「……私は、あの男を逮捕するためにここにいる。あの子を助けるのも、あなたの正義なんでしょ?」


あたしはうなずいた。


「うん。やるよ。絶対に勝って、ソウタを取り戻して、こんなリング、変えてみせる」


ふと見ると、ミクも手を挙げていた。


「わたくしも、参加いたしますわ! 女の子同士の命の火花を散らす……ああ、興奮いたしますわね! ついでに、男女混合マッチももっと刺激的に演出いたしましょう!」


方向性はどうであれ、戦う理由は三者三様だった。



(つづく)


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