女子高生の会話
「なんかさ、あれラブストーリーって括り、違和感ない?」
ゆうかがストローを嚙みながら、低めの声で言った。下北沢の雑居ビルの2階、こぢんまりしたカフェの隅。高校の帰り、制服のまま、3人は例の映画の感想会をしていた。
「うん。“世界なんてどうでもいい”って叫び、普通にロマンチックなはずなのに、どこかずっと苦しかった」
ちかがうなずく。抹茶ラテの氷が音を立てた。
「帆高って、“誰かを救う”とか言いながら、自分がこの世界で息できなかったんじゃない?」
さやがそう言って、窓の向こうに目をやる。小雨。この東京は今日も、濡れていた。
「それな。晴れ間とか愛とかの話じゃない。あれは“この社会に置き去りにされた子ども”の話だった」
「拳銃が出てきたとこ、めっちゃ浮いてたけど、逆に一番リアルだった」
「そう! 私も思った。あの銃、ただの小道具じゃなくて、“社会の形”そのものだったよね」
ゆうかが強く言い切る。
「帆高って、制度に“殺されそうになった”んだと思うよ。家出して、自活して、それでも誰にも認められなくてさ。児童相談所、警察、補導員、全部“大人の正しさ”で迫ってくる。でも、陽菜と凪といたあの部屋だけは、“生きていいって思えた場所”だった」
「でさ、そのささやかな暮らしに、社会は土足で入ってきたわけじゃん。拳銃を持って逆らうしかなかったって、めちゃくちゃ切ない。だってあれ、子どもが“生きることを守るためにしか使えなかった”でしょ」
ちかの声が少し揺れた。さやがゆっくり言う。
「でも、陽菜の方がもっと救われてない」
「そう。彼女って、選んでないよね」
「そうそう、そこ! “自己犠牲”って言われるけど、実際は“気づいたら犠牲にされてた”だけ。人の笑顔が見たくて晴れ間を作ってたのに、気づいたら自分の存在が代償になってた。本人が“決意”した瞬間には、もう運命の方が先に動いてた」
「うち、あのホテルのシーン、泣きそうになった。消えた理由が“神秘”とかじゃなくて、“都合のいい機能”になってしまった結果って分かって、しんどすぎて」
「で、帆高が空に行って彼女を取り戻すのは、愛とかじゃなくて、“運命を拒否する”ってことなんだよね」
「そう。あれは“救済”じゃない、“異議申し立て”だよ」
ゆうかが力を込める。
「陽菜を取り戻すってことは、“この世界の秩序では生きられない個人”を、それでもここに存在させるってこと。帆高の選択って、“公共の利益”とか“社会的善意”を否定してでも、目の前の一人を肯定することだった」
「それって、須賀さんのキャラとも対照じゃない?」
「うん。須賀は“社会の中でなんとかやってる大人”だった。諦めと折り合いの中で生きてて。でも最後には帆高の行動に動かされて、“一度手放した正義”にもう一度触れた。変わってないけど、受け取ったよね、何かを」
「夏美さんもさ、あれ就活やめたわけじゃなくて、“どんな大人になりたいか”を見つけようとしただけだったよね。“この社会に生きる”って前提を捨てずに、“どんな態度でいるか”を考え始めたっていうか」
「大人たちの方が、“変わらないことで支えた”キャラだったんだね。無理にアーク作らずに」
さやが、小さく笑った。
「ていうかさ、晴れって、あんなに無邪気に“いいこと”だったのかなって思ったよ。晴れた空の下で泣いてる人のこと、私たち見ないふりしてるのかもって」
「私、ラストの東京好きだった。沈んでるのに、人がちゃんと暮らしてる感じ。答えは出てないけど、“今を生きる”ってことは嘘じゃないって、あれ見て思った」
「狂ってるのは、天気じゃない。最初からずっと、世界の方が狂ってるんだよね」
雨が止んだ。カフェの外、東京の午後は、まだ少しだけ濡れていた。




