後編
これで完結となります。
「戻って来たのか?」
「そうみたいです…」
トラバルトとマグノリアは、抱き合った姿のまま、卒業パーティー会場の人々の前に現れた。
二人共、何が何だか分からず、目をパチパチさせている。
「本当に仲の良いこと。あなた達の真実の愛は今、ここで証明されました。
皆様は、その証人です。よろしいですね?」
会場からは割れんばかりの拍手が巻き起こった。
みんな、あの状態でも互いを思う2人に、これこそ真実の愛だと認めたのだ。
もちろんローゼリアがそれを認めているから自分達も…というところもある。
すでにこちらに戻った時点で、2人の姿は元の姿に戻っていた。
そうでないと、笑い上戸なローゼリアはまともに話が出来ないからだ。
「ローゼリア…すまなかった」
今まで、どんな時でもローゼリアに対して頭を下げたことなど無かったトラバルトが初めて、しかもこんな沢山の人の前で謝った。
愛は人を変えるのだな…と感心した。
「それは、何に対して?」
じっと見つめるローゼリアから、いつもは視線を逸らしていたけれど、今回はちゃんと目を合わせて答えた。
「ずっと優秀な君に嫉妬していた。
君は全く悪くないのに、理不尽にも君を疎んで、冷たい態度を取り続けた」
「そうね。幼い時は、どんなに打ち解けようとしても無視するあなたの態度に傷ついたわ」
「…マグノリアとは…最初は同じような境遇に共感し…話ししているうちに、彼女自身の持つ魅力に惹かれていった。君という婚約者がいたのに、蔑ろにしてすまなかった。
もちろん、この度の責任を取って、私は王籍離脱を願い出るつもりだ」
マグノリアは、あの頃の2人の気持ちを語るトラバルトを見つめていた。
ローゼリアは、そんな彼女にも視線を合わせ、話すよう促した。
「あなたは、何か言いたいことは無いの?」
マグノリアも、もう姉から目を逸らすことはなかった。
「お姉様、申し訳ありませんでした。せっかく家族としてご紹介いただいたのに、それを裏切り、トラバルト様を好きになってしまいました…」
「それは、もう真実の愛として、みんなも認めたことだから良いの。でも家族としては、こうなる前に頼って欲しかったかな…」
「お姉様ごめんなさい。そして、私達の愛を認めていただきありがとうございます。
私もトラバルト様と一緒に平民となる身なので、もうお会いする事はないかもしれませんが、お姉様の幸せを心よりお祈り申し上げております」
そう言って立ち去ろうとする2人に、待ったをかける人物がいた。
「いやいやいや、何で2人共平民になろうとしてるの?」
第2王子のローランドだ。
「「えっ…」」
まさかの第2王子の引き留めに、出て行こうとしていた2人は、驚き足を止めた。
特にトラバルトは、嫉妬心から異母弟につまらない嫌がらせをしていた覚えがあるので、余計にだった。
「まあ、今回の事で、異母兄さんは廃嫡にはなると思う…。そして僕が繰り上げで王太子になるだろう。
ローゼリア嬢はそのまま、僕に嫁いで王太子妃になるだろうし…そうなると、トラリス公爵家を継ぐのはマグノリア嬢しかいないだろう?」
マグノリアに関して言えば、当初からその予定だった。けれど…
「ローランド様、あなた第2王子なのに、婚約者いなかったの?」
ローゼリアとしては、トラバルトが廃嫡になったら自分はそのままトラリス公爵家に残り、婿を取って跡を継ぐのかと思っていた。
まさか、ローランドにまだ婚約者がいないとは、思っていなかったのだ。
そう言えば、聞いたことなかったな…。
「君って、本当に魔法以外には関心が薄いよね…。結構長い付き合いになるのに…」
ローランドは目に見えてがっかりした様子で、肩を落とした。
ローランドが婚約者を作らなかったのは、彼がずっと初恋を拗らせていたからだ。
もちろん、その初恋泥棒はローゼリアだ。
始まりは、トラバルトと似たようなものだ。
自分と同じ転生者で、置かれている状況が似ていたことから、一緒にいるとずっと感じていた孤独感が癒された。
そのうちに素のローゼリアを可愛いと思うようになった。
普段ツンツンしてるのに、意外と気を使うタイプで優しいところ。
美味しい食べ物を見つけると、目が嬉しそうに輝くところ。
強く言い過ぎたと後悔して、一生懸命優しい言葉を探して思い悩むところ。
ローゼリアの好きな所を、挙げればきりがない。
「異母兄さんは、トラリス公爵家に婿入りして、安心してローゼリア嬢が僕のところに嫁げるようにしてください」
「ローランド、お前ローゼリアの事が…」
「好きですよ。ずっと昔から…。
だから彼女を大切にしないあなたの事が大嫌いでした。せめて最後くらい、僕と彼女の役に立ってください」
いつもは自分が何を言っても、困ったように微笑んでいただけの異母弟の、心底吐き捨てるような物言いに、秘められていた怒りを感じた。
「あなたもモノ好きね…。わたしと一緒になったら、ますます馬車馬のように色んなもの作らされるのに…」
ローゼリアは呆れたような…でも少し照れて赤くなった顔でローランドを見た。
「それでローゼリアが喜んでくれるなら、僕は満足だよ。それに君の望む物は、確実に売れるから、国としても儲かって一石二鳥だしね」
その後もローランドは次々と新しい魔導具を発表し、ローゼリアも生活魔法など、今まで無かった便利な魔法を産み出して、ハーベスト王国は様々な分野で、世界の中心となった。
トラバルトはローランドと比較されたために凡庸な王子と思われていたが、普通に王太子になれるほどには優秀だ。
しっかりトラリス公爵家を盛り立て、妻のマグノリアとはいつまでも仲睦まじく過ごした。
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