中編
「何かあっちの方に、自分の事を『リア・リア』のトラバルト王子だと成りきってるおばさんがいるらしいよ」
「えっ、おばさんが王子のコスプレしてるの?」
「しかも、海外の人みたい。目とか自前みたいだけど、そこだけは本当にトラバルト王子みたいに綺麗な青い瞳なんだって…」
『トラバルト王子?』
私は、突然聞こえてきた愛しい人の名前に、何か手掛かりは無いかと、その名前を呼んでいた彼女達に声を掛けてみることにしました。
全然似ていませんが、何だか姉によく似た髪色と瞳の色をした女性と、姉の使い魔の黒猫のような格好をした人達でしたので、声を掛けるのに一瞬躊躇しました…。
「あの~、ちょっとお尋ねいたしますが…」
彼女達は、声を掛けられたので振り返り、私を見ると、目を見開いて叫んだ。
「あーっ!!マグノリアのコスプレした人もいるよ!!しかも、こっちは外国人のおじさん。向こうにいたトラバルト王子とお友達同士で来たの?
でも、何で男女逆にしたの?」
「本当…何で逆にしたの?いくら何でも、あれでは兄さんもマグノリア嬢も可哀想でしょう。
どうせ最初から、二人の事は認めるつもりでいたくせに…」
「あら、試練があった方が恋は燃え上がるでしょ?何せ私は意地悪な魔法使いの姉ですからね」
現代日本に転移させた2人の様子を、卒業パーティー会場に設置した巨大スクリーンに映し出しながら、美しき大魔法使いは微笑んだ。
異母兄の婚約者であるローゼリアが、自分と同じ転生者だと知ったのは、知り合って割と早い段階だった。
子供の頃の彼女は、まだ完全に覚醒していなかったため、よく前世と現世の記憶が入り混じって、前世にしかあり得ない物の話をしていた。
例えば、馬車に乗った後に、「どうして車がないのかしら?お尻が痛くて痔になるじゃない…」みたいに…。
異世界で一人疎外感を感じていた僕は、同じ世界の記憶を持つ彼女の存在に歓喜した。
そして自分が前世日本人であった事を告げた。
彼女は僕のように生まれた時からではなく、異母兄を見て、前世の記憶を取り戻したそうだ。
何でも彼女が言うことには、僕達が今いるこの世界は、前世で流行ったアニメ『意地悪な魔法使いの姉と心優しき無能な妹』 通称『リア・リア』の世界なのだそうだ…。
そんな馬鹿な!?と思ったけれど、よく考えたら今自分が日本人だった前世があること自体、おかしな話なので、この世界が例えアニメの世界だと言われても、そう不思議ではない。
普通に魔法もあるし、ドラゴンもいるしね…。
そのアニメの世界通りなら、将来異母兄は婚約者の彼女を断罪し、彼女の異母妹のマグノリア嬢と結ばれるそうだ。
「どうするの?」
と僕が聞くと、
「どうもしない」
と彼女は答えた。
あくまでもアニメの世界はアニメの世界で、現実とは異なるかもしれない。
自分の思うように生きてみて、異母兄と上手く行くようなら、そのまま結婚するし、駄目だったら、またその時考える。
とりあえず、自分は異母妹に嫉妬して虐めたりしないし、異母妹も普通の感覚の子だから、断罪されることもないだろうと…。
そうして迎えた卒業パーティー。
兄はアニメの中と同じように、ローゼリアに婚約破棄を告げた。
ただ、アニメと違ったのは、僕達が転生特典と言うやつだろうか?とてもチートな才能に恵まれていたことだ。
ローゼリアの魔法使いとしての才能は桁違いに優れていた。
そして僕は、前世技術者だった事もあり、ローゼリアに請われるままに前世の便利な電化製品を、その電力を魔力に変え、魔道具として次々に産み出していった。
今ではこの世界に僕達は、無くてはならない存在となっていた。
異母兄がローゼリアを敵に回した時、全ての人がローゼリアの側についた。
それこそ異母兄を王太子として大切にしていた父上や正妃様までもがだ…。
トラリス公爵家の人達も信じられないといった表情で、2人を見ていた。
ローゼリアは、「私達の成功は努力もあるけれど、転生チートな所も多分にあるから、フェアじゃないわね」と言って、異母兄とマグノリア嬢にチャンスを与える事にした。
それが、この異世界転移だ。
例え異世界でも、彼等が障害を乗り越えて、真実の愛を証明することができたら、2人の愛をみんなで祝福することにしたのだ。
「あれが、マグノリア嬢?」
「え~っ!!あれがトラバルト様!?」
「あの、地味だけど小リスのような、愛らしさはどこに行った~?」
「あぁ~、麗しい微笑みの王子様が…嘆かわしい~」
「あの、うちの父と同世代としか思えない、おじさんのような容姿では、いくら真実の愛で結ばれた2人といえども、もう愛せないだろう…まだ、女性の姿なら辛うじて…いや、無理だな…」
「いくら王子様でも、あんな姿では、わたくしも無理ですわ…色合いが同じせいか、正妃様にも似て見えますし…」
スクリーンに映し出された2人を見て、みんな口々に好き勝手なことを言う話し声が聞こえた。
「皆様、お静かに!!二人がお互いに気づき、動き始めましたわよ」
元々、早い段階で出会えるよう、2人を誘導するつもりだったけれど、偶然出会ったセーラー服姿のお姉さまが良い働きをしてくれた。
流石、ヒロインとヒーロー。良い運持ってるわ…。
「その優しいアクアマリンの瞳は、トラバルト様?」
「その愛らしいチョコレート色の髪に、小リスのような、つぶらな瞳はマグノリア…なのか?」
2人はしばし、じっと見つめ合った。
スクリーンに映る姿は、若い娘が着るようなピンクのドレスを着て、緩やかに癖のある茶色の髪を可愛らしくハーフアップにしたおじさんと、少し艶の落ちたブロンドヘアを水色のリボンで纏め、金の刺繍が入った白のロングコートに同じく白のズボン姿のおばさん。
彼等の目にも、同じように映っているはずだ。
けれど、トラバルトとマグノリアが互いを見つめる瞳は、こちらにいた時と変わらなかった。
「すまない、マグノリア。愛しい君を、こんな目に合わせて…」
「いいえ、あなたと一緒なら、どんな所でも私は幸せです」
2人は人目も憚らず、やっと巡り会えた喜びに、涙を流して抱き合った。
その途端、また2人は金の輝きに包まれ、その輝きが収まったと思った時には、もとの卒業パーティー会場にいた。
「ローゼリア、あちらの世界は大丈夫なのか?あんな大勢の前でいきなり2人が消えたらニュースになるぞ」
「転移と同時に、2人に関する記憶は消しといたから大丈夫よ」
さすが世紀の大魔法使い、その辺は抜かりない。
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