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05:伝えたいことはほとんどここに書かれています

「つまり僕は、

『死後はただの虚無しかない、とは限らない。

 あの世は宗教家だけのものではなく、未来人だけのものでもない。今を生きる無神論者たちにもあの世がある』

 という提言がしたいんだ』

「そういうことか。タイムトラベルと言っても個人が過去に生身で転移したり精神だけ過去の自分に飛ばすようなものではなく、

 地球が誕生する何億年も前にナノマシンみたいな小さな物質を送ったりして、意識のアップロード先を過去の世界に建設するということか。

 これならさっき言っていた理想的な人工脳へのアップロードができる。

 それも全人類が対象だ。

 もちろんどうやって脳幹に通信機を組み込むかなど疑問はいくらでも出せるが、タイムマシンまで技術が到達したならこれらの問題は些末だろうな」


「まぁ方法は重要ではないんだけど想像の助けになったようで嬉しいよ。

 遠い未来、シンギュラリティの果てに永遠の寿命と限りない自由を得られるデジタルスペースに全人類がマインドアップロードすることができるようになる。

 でもそれだと現在の僕たちはただその葡萄を見上げて妬み、貶してみたり足を引っ張ってみたりと非建設的なことしかできない。

 なのでシンギュラリティを起こすAIに

『時間を超越し、過去すべての人類をアップロードできるようにしなさい』

 というタスクを与える。

 これなら僕たちも未来の人類が葡萄を収穫できるように協力するモチベーションができるし、上手くいけば僕たちも甘い葡萄が食べられる。という案なんだけど、どうかな?」


「まいったな、こいつはコロンブスの卵だ。

『あの世』を造るという話をすることで、既に『あの世』を作ってしまったと言える。

 この案を耳にしたほぼ全ての人に平等な恩恵が与えられ、それも即時に効果が発揮されるんだな。

 つまり『あの世』を創造(クリエイト)できるというのは至上ではあるが二の次。

 肝要かつ即座に効果を発揮するのはあの世を想像(イマジン)すること、これにより宗教における『あの世』という概念がもたらす心の安寧が得られQOLが向上する。

 それにより個人のポテンシャルは上がり、個人の集団である社会にもポジティブな影響が出るってのは言い過ぎか?

 とにかくちゃんとメンタルヘルスの話だったわけだ」


「付け加えるなら、その過程で不死や理想郷に根付いた悲観的先入観を払拭するというのも思想的な役割として期待している」


「そういった先入観を変えていくことでASIにこの案を遂行するように命じられる可能性が出てくる。

 これを如何にして高めるかがこの案の主義的な活動だな。

 自分が何かをするか、誰かがしているところを観測すればメンタルヘルスの向上に繋がって自分もハッピーってわけだ」


「そういうことだね。僕からの補足は必要なさそう」


「いや、まだ語らせてくれ。

『あの世』が創造されることが確定されていないところが奇しくも、この案の価値を高めている。

 もしあの世が確実に造られるなら現世を生きる理由がかなり薄れ、星新一の『殉教』みたいに自殺者が沢山出るだろう。

 しかし確実にあの世に行けないならそうはならない。

 この案は俺が不老不死になれる可能性が最も高いものだと確信はしているが、確率を論ぜられる段階にもない不確かなものだ。

 この確率を高めるための努力こそが生き甲斐になるし、楽観的になりすぎて現在を蔑ろにしてしまわないようにするリミッターになる。

 むしろ生きる希望を見出せずに命を絶つ者を引き留めることすらあるんじゃないか?

 この不確定性がもたらす効能はまだ考えられるぞ。

 まず自分が死んだ後の事なんて自分には一切関わりがないのでどうでもいいし、いずれ死んですべて無になるなら人生だってどうでもいいという虚無主義(ニヒリズム)の否定だ。

 それにこの次世代への打算的思い遣りはこの思想の核であるシンギュラリティの受容へもポジティブな影響がある。

 この思想はシンギュラリティに対する高い期待を持っているがこれが妄信になってしまうとリスクを軽視した早計な開発を後押ししかねない。

 だが未来でAIの暴走などによって人類が滅亡した場合自分の未来も虚無になってしまうという恐れもある。

 それを防ぐためには積極かつ慎重な技術の発展が必要で、その実現に貢献する良好なリテラシーを育むと期待できるぞ。

 この不確定性がもたらす影響はこの思想における黄金律と言えるんじゃないか?」


「黄金律か。であるなら善意の押し売りになりかねないところも共通してそうだね。

 ここは各々気を付けないといけない」


「こうして見ると、最初に話したエピクロス主義を補完したような内容だな。

 エピクロス主義の問題点である『死の恐怖に対する対処の投げやりさ』と『個人主義故に社会との繋がりが希薄になる』という要素を解決している。

 もう『ポスト・エピクロス主義』と称してもいいのではないか?」


「おこがまし過ぎるからやめてくれ。目指すのはアタラクシアでもないし」


「そいつは残念。

 あと俺がこの案で特に気に入っているところがふたつある。

 ひとつはさっき話したが極めて打算的だということだ。

 善とか正義みたいな主観的かつ時代や立場によって揺らぐ相対的なものを指針とせず、ただただ利己的に自分のためだけの思想でありながら、利他的行動を推奨する社会とも矛盾しない、どころかポジティブな影響すら期待できるなんて、出来すぎているとすら思える」


「べた褒めだね」


「もちろんおまえを尊敬しているし喜ばせたいという利他的な気持ちはあるが、これは(タナトフォビア)のための利己的活動だ。

 俺はもう半分営業トークの草案として話しているところもある。

 この案の魅力を引き出し広めるほどにタナトフォビアへの効能は高まり不死に近づくんだからな」


「その通りだね。君は僕以上にこの案を理解してるみたいだ」


「恐悦至極のお墨付きだな。

 んで、もうひとつは非常に単純だということだ。

 ただ『タイムマシンで楽園に行くために今できることをやる』ということだけ信じれば、あとは各々がやれることをするだけでいい。

 とにかくこの気軽さは生きることに精いっぱいで毎日クタクタになってる俺みたいな人には刺さるはずだ」


「シンプルなことのほかの利点はこの案をメインの信仰やイデオロギーとして採用しなくても、それらのサブプランとして採用し易いというのもあるかな。

 言ってしまえば()()()()として利用できると思ってもらえたらこの案にとってはプラスになる」


「ところで有神論者もこの案の対象に含まれるのか?」


「へ? そりゃもちろん希望者はそうなんじゃないかな」


「だよな、すまん一応確認しただけだ」

 異世界転生や異世界転移については、

『10:異世界転生の仕方 ~あの世は楽園たりうるか~』

 に書かれているので、お急ぎの方はそこまで読み飛ばしていただいても問題ありません。

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