03:過去へのタイムトラベル
「僕は時間とは出来事や記憶、エントロピーなどから生じる主観的な概念であるという考え方を支持してる。
君はどう?」
「おいおい急に難解だな」
「ごめん。時間は物質とか力ではなくただの座標みたいなものって感じかな?
今は座標以上のものとして扱われているけど、研究が進めば純粋に座標として扱えるようになる、みたいな」
「まぁそれはわかった。まさかこれから物理学の難しい話が始まるのか?
超弦理論とかループ量子重力理論とかマジでわからんぞ」
「ううん。僕が話すのはとてもシンプルで誰にでも思い至れるものだよ。二つ目の技術は過去へのタイムトラベルだ」
「またぶっ飛んだことを。たしかホーキング博士が否定してたよな、未来人招くパーティーを開いて」
「詳しいね。年代記保護仮説かな」
「詳しくはない、ほぼSF小説の知識だ。ホワイトホールとかカーブラックホールとか」
「最近ではさっきも出た量子もつれが熱いよ。
しかしもっと物理学が進歩しないとなんとも言えない、僕はそもそも人間にはタイムトラベルの実用化はできないと思ってる」
「話し出しと矛盾してないか?」
「いや、タイムトラベルの実現の前に技術的特異点が起こり、汎用人工知能や人工超知能が長い時間をかけて辿り着く技術の最終端にタイムトラベルがあると思ってる」
「あぁ……言いたいことはわかった。
これはなかなか面白いアイデアだが、しかしそうなるとそのASIにタイムトラベルして俺の意識をアップロードするよう予約するのに莫大な金額を払わなきゃならなくなるんじゃないか?
そもそも誰にそんなサービスを依頼するんだという話だが」
「おや、君ならそろそろ察しがついてくるころだと思ったけど」
「なにが……ああっ! そういうことか!」
「そう、僕はたったひとりのタナトフォビアが救われる話をしてるわけじゃない。
世代を超えた何兆人もの力を合わせて死後の世界を築き上げる一大事業の提案をしてるんだ」