第2話 暴君
「ぐはっ。」
ニルは倒れた。突如眼前に現れた少年がニルの腹を蹴り上げた。
「お前、俺よりガキじゃないか。魔族か? 人間か?」
少年はニルの言葉に反応することはなかった。長い黒髪は後ろに束ねられ、紅白の着物のような装束を着ていた。
「馬鹿が。」
駆け付けたノヴァは少年に斬りかかる。少年はノヴァの一撃をいともたやすくかわした。
「ノヴァ? なんで?」
「お前に死なれちゃ俺らも気分悪いだろ。」
ノヴァはそういうと少年に剣を向けた。
「まさか、お前がキラじゃねえよな?」
ノヴァの言葉にも少年は口を開くことはなかった。
「そいつは何も喋らねえぞ。」
ノヴァの後ろからどすの聞いた男の声が聞こえる。黒目と白目が反転した目の下には大きなクマがあり、口元に傷がある長身の男だ。手のすべての指に指輪がはめられており、黒のピアスとロングコートが異様な雰囲気を醸し出していた。
「・・・お前がキラか?」
「ああ、首狩りの暴君ことキラだ。そういうお前はノヴァだな。最近よく耳にする。俺の仲間たちを片っ端から殺してるとか?」
キラは目をぎらつかせながら言う。
「ニル、お前逃げろ。そしてもう二度と魔族とは関わるな。お前の復讐はお前のやることじゃない。代わりに俺らがやっておく。」
「ふざけんなよノヴァお前、偉そうに言いやがって、そもそもお前らが魔族共と戦り合っているから俺の家族は、」
ノヴァはニルの胸ぐらを掴んだ。
「失せろと言っているのがわからないのか? 家族の二の舞になるだけだぞ。もういい、勝手にしろ。」
ノヴァはニルから手を離した。そしてキラに剣を向けた。
「キラ、お前とだけは戦いたくなかったが、こうなっては仕方ない。こっちもただでは死なないぞ。」
ノヴァがキラに剣を向けた瞬間、キラはノヴァの背後に回り込んでいた。ノヴァは肩から腸にかけてまで斬られていた。
「おっと、危ねえ、殺すとこだったぜ。こいつはじっくりと痛ぶってやらねえとな。さて、そこの餓鬼。お前も殺してやろうか迷ったがな。お前のお陰でこいつを狩ることができた。それに免じて許してやる。ま、こういう足手纏いが敵にいた方がこちらとしても都合がいいからな。」
キラはそう言うと高笑いした。ニルはキラに斬りかかるが少年に首を打たれ、意識を失った。
「よし、行くぞ。こいつの首は上層部に届ける。あの方に伝えておけ。」
キラは少年に言う。少年は答えることなく頷いた。そして2人は森の奥へと消えていった。
「っ、待て、待てや、馬鹿野郎が。」