第1話 復讐
「はあ、はあ。」
ニルは息を荒くしながらうなだれていた。首元まで伸びた赤髪に対照的なグレーのフード付きのパーカーのようなローブが特徴的な少年だ。魔族との戦いで左腕に重傷を負っている。
「雑兵30体、敵の指揮官1体。これが俺の戦果だ。他のやつらも1人で10体はやっている。お前だけだぞ。1体も倒してないのは。いつまで新入り気分でいるんだ? ニル。」
ノヴァは剣についた血を薙ぎ払いながら言う。茶色の短髪に白のワイシャツ、髪よりは薄い茶色のコート。その上から青のマントを羽織っている。目つきの悪さとは裏腹にまだどこかあどけなさの残る少年だ。
「まあまあいいじゃないの。これじゃいてもいなくても変わらないんだから。」
ラディウスは笑いながらそう言う。肩ほどまでのびた金髪に魔術師のローブ、膝よりも丈が上のスカート、ノヴァより少し年上の少女だ。
「あのなぁ、ラディウス。仲間を見捨てる前提で話すな。」
ノヴァは呆れながら言う。
「安心しろ。いざというときは俺が守ってやるからな!」
ミネラが言う。短く無造作な金髪に着物のような造形の服、こげ茶のローブを羽織った巨漢だ。
「はぁ。みんながそんなんだからニルもうまく馴めないんですよ。大丈夫? 立てますか?」
負傷し、倒れたニルにミアは手を差し伸べる。鎖骨辺りまで伸びた整った黒髪にラディウスと同じ造形の魔術師のローブ、脛辺りまで丈のある長いスカート、ローブには大きなフードがついている。この中では一番年下の少女だ。
「うるさい! 触るな。」
ニルはミアの手を払いのける。
「そうだな。俺はお前らほどいい生まれじゃないからな! 辺境の島で細々と暮らしていた俺たちの故郷はお前ら中央の人間と魔族の戦争で死んだ。俺の家族は魔族に殺された・・・。だからお前ら人間側についただけだ。俺はお前らも魔族も、どっちも憎くてしょうがねえんだよ。」
ニルは涙をこらえながら言う。
「ニル・・・。」
ミアは何か言おうとした。だが何もニルにかける言葉がなかった。ラディウスはまた笑いながら何か言おうとしたがミネラに止められた。
しばらく沈黙が続いた。そしてノヴァが口を開く。
「ニル、まずはミアに謝れ。そして俺たちの元を去れ。お前1人の復讐に付き合ってる暇はない。足手纏いの落ちこぼれはいらない。」
「ああ、そうだな。俺もこれ以上お前らとつるむ気はない。短い間だったが世話になったぜ。」
ニルはそう言うと東の森へと走っていった。
「はぁ、上に報告しとかねえとな。1人逃げ出したって。」
ノヴァはそう言うと殺した魔族の首を回収した。
「逃げ出した? 死んだの間違いじゃないの? だってあっちは・・・。」
ラディウスがそう言いかけるとノヴァは敵の首を投げ飛ばした。
「そうだ・・・。」
ノヴァはニルの後を追い、東へと駆け出した。
「そうだ・・・。あそこには、あの森には・・・。奴がいる。首狩りの暴君の異名で恐れられた、あの大魔族 キラ がいる・・・。」