序章 祓焔
何もかもが消えた世界、焼き尽くされた世界。地表すべてが炎に包まれ、赤い炎と黒い炎の渦が交差する、それだけが延々と繰り返される世界。
パチパチと燃え盛る炎の音だけが聞こえる中、1人の男の足音が世界に響き渡る。
ツヤのある黒い髪は腰の位置まで伸び、執事のような黒い服と端正な顔は血で赤く染まり、周囲の炎と一体化していた。
「これ全部あなたがやったのよね?」
突如何もない世界に女の声が響く。男は声の方に振り替える。男と同じくらいに伸びた金髪に彼岸花と狐の面が不規則に描かれた黒の着物、妖麗な顔立ちに一八〇はあるであろう長身の女。それでも更に長身の男からしたらひどく小さく見えた。
「驚いた、まだ生きている人間がいたとはな。」
男は女に向けて手を翳す。それでも女は動揺することなく話し続ける。たった今世界を滅ぼした男を前にして。
「あなたは文字通り、世界をその手で焼き尽くした。でも残念、中途半端だったわね。まだ少なからず生きている人間はいるわ。」
薄ら笑いを浮かべながら女は淡々と話す。男は表情1つ変えず答える。
「そうだな。だから今からそいつらを殺す。まずはお前だな。」
翳した男の手から放たれた赤い炎が女の体を燃やす。
「フフッ。」
女は笑いながら炎を弾いた。
「残念だけど魔力が底を尽きたみたいね。今のあなたなら私でも倒せるわ。」
女がそういうと男はその場に座り込んだ。
「やるならやれ。」
「フフッ。」
女は再び笑いながら話す。
「あなたは世界を壊そうとした。でも失敗したわね。ならもう一度やり直しましょう。」
女は座り込んだ男に手を差し出す。
「私もこの世界の破滅を望んでいてね。でも私の力じゃそれは難しいわ。だからあなたの力が必要なの。私と手を組みましょう。そしてもう一度この世界を焼き尽くしましょう。」
暫く沈黙が続いた。そして男は女の手を取った。その時も男の表情は変わることはなかった。
「その時は真っ先にお前を殺してやる。」
男がそういうと女は笑いながら答えた。
「フフッ。ご自由にどうぞ。」
そしてそれから数千年後、男は再びこの世界を滅ぼすことになる。