回想――とある殺人犯の愛した物
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緑生い茂る木々が春風に揺られる下で、その身一杯に駆け回る少年がいた。膝下程度のカーゴパンツに黒い無地のランニング。髪も瞳も黒く時代に珍しい純日本人。そんな少年を追いかける少女がいた。彼女は白のワンピースに薄手のカーデガンを羽織っている。こちらも黒髪で黒い瞳。腰まで届く長い髪は一つに束ねられている。
まだ小学校にも入学していない彼等はこの森によく遊びに来ていて、怪我をしては親に怒られ、それでもこの森を遊び場にしていた。
駆ける少年を追う少女。少女の興味を引いた虫を必死に捕まえようとする少年。その仲睦まじい様子に誰もが微笑んでいた。小さな村の大きな山。大きな山に囲まれた小さな村。
――今日はなにしてあそぼうか
――今日はかけっこしてそびましょう
――でもかけっこは昨日も一昨日もしたよ
――でもかけっこはなんかいしてもたのしいよ
やれやれ、と。年端もいかない少年には不似合いな態度に少女は笑顔で走り出す。向かう先は大きな山。
二人だけが大好きな、二人だけが駆け回る。
少女は姫子と少年に呼ばれた。
少年は春空と少女に呼ばれた。
真冬も過ぎ去った暖かな春の頃だった。