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異常なアイツ――3

PAGE3

 今日は一日中相羽さん祭りだった。授業が終わると休み時間になる度人が七組に殺到し、その為僕は毎時間毎時間トイレなり階段の踊り場なりに非難していた。それでも流石に昼休みを終えると少し落ち着き、教室に人が溢れるような騒ぎにはならなかった。

 相羽さんは完璧に近い存在に思えた。クラスメイトにも、他のクラスの生徒にも、鬱陶しい素振り一つ見せず同じ質問にも丁寧に答えていたし、その美貌を振りかざすような嫌味ったらしさはなかった。だからこそこのクラスに既に溶け込んでいた。話をしてみると壁はなく、それは人気の理由の一つでしかないにしろ、充分な理由であるとも言える。

 完璧な存在。不完全こそが人間なのだから、相羽さんにはどういった不完全要素があるのだろう。実は物凄く頭が悪いとか?実は物凄く不潔好きとか?実は体を金で売るような人だとか?考えて、百万出しても足りない気がするな、と鼻で笑う。加えて相羽さんはそんな素振りを一度も見せてないにもかかわらず、他者から見た自分の価値を余すことなく識っている。そんな気がしたのだった。


 帰りのホームルームを終えると、相羽さんがいつぞやの時のように背中を軽く突いた。ただそれだけで周りの生徒の視線が痛い、と思いきやそうでもなかった。泪の”大親友”発言に余程効果があると見える。


「それでさ、どこに行くの?」


 あの授業中の時と同じ質問。

 あの後、相羽さんは罰の悪そうな顔をして謝ると授業中に話しかけてくることはなくなった。休み時間の時には話をしようと僕に声をかけようとしていたが、相羽祭りから避難するため僕は直ぐに席を外していたこともあって、結局放課後の今まで相羽さんと話をしていない。


「さあ、どこだろう。泪は自分勝手な奴だから、僕が考えても意味がないとは思うけど」


 なぜこんなことになったのか。それは簡単な話だった。三人で話していた(僕は二人を見て頷いていただけだけど)時にどうやら泪が「今日はうー―――――んと町を案内するね!春空とさ!」と言っていたらしいけれど僕はかなり意識が外に行ってしまっていてその言葉を覚えていなかった。


 と、相羽さんと向かい合いろくな会話もしない内に、地鳴りのような音の連鎖が段々近づいてきた。ああ、来たな、と。とりあえず僕は鞄を机の中に閉まった。手ぶらでないと泪の勢いには付いていけないと、なんとなくそう思ったからだ。


「はっるあきぃ!由兎ちゃん!行こうぜ!」


 いつの間にか名前で呼んでいる。流石自由人泪だ。尊敬すべき点がないでもない。


 そんなわけで、泪の登場によりF1の如く急ピッチとなった展開は僕を少しばかり困惑させたのだけれど、妥協と許容のクオリティをそれなりのレベルで獲得していた僕はなんとか現状に混乱はしていない。


 しかし、目立つなあ、やっぱり。


 片や青髪で無垢な少年。片や金髪で形容詞の見つからない美人。間にいる僕は只のモグラである。なるべく僕も周りの目を気にしないようにしていた。二人に至っては周りの目など意識の範疇に元々ないのだろうけど。


「そういえば」


 僕と相羽さんを連れてどこかに向かっている最中、唐突に思い出したように泪が言った。といってもずっとなにかしらのくだらない会話はしていた。僕らの町には繁華街があり今はそこに向かっているだの、繁華街から北に三十分歩いた所には山があるだの、正反対に一時間も歩けば海があるだの、だから冬は山の下り風で冷え込むし、夏は海から潮風が吹いて涼しいだの、そういった話。


「由兎ちゃんはどこから来たのぉ?」


「さあて、どこでしょー」


 意地悪な笑みを浮かべる相羽さん。どうやらこれは問題を提示しているようだった。


「ヒントは?」


 僕が聞く。


「車で五時間位行った所だねー。あとは……犬がいるし人がいるかな。他にもたっくさん、色々あるよ」


 犬がいて人がいる。それは全国共通だろう。だが、あえてその二つを言った。そして車で五時間か。ここから車で五時間。加えて人と犬。そんなに頭が良いわけじゃないから、僕は一つの場所しか思い浮かばなかった。


「東京?」


「せっいかーい!よく解ったねー」


 相羽さんは目をまん丸にして拍手する。

 まあ、偶然だ。たまたま僕が家族旅行の時に車で五時間かけて行った場所が東京だったというだけ。犬はハチ公か。それに、あそこは無駄に人が多い。


「ぐうぜ「春空はむっっっっかしからクイズには強いよなぁ!」


 言葉を遮り泪がそんなデマを言う。


「そんなことないよ」


「えぇ、でも俺が出したクイズに全部正解してるじゃんかよぉ」


 なんで自分が出したクイズの正解率なんか覚えてるんだ?それに、僕は覚えていない。泪と遊んでいたのは確か小学四年生までだ。もし僕が泪のクイズに答えていたとしてもそれは子供のお遊びだ。信憑性はやはりない。

 

 学校から歩いて二十分。繁華街にはちらほらと他校生の姿が覗える。相羽さんはとても目立つ。目立つし人の悪意のような視線も充分に感じられた。だが、隣には泪がいる。泪がいる限り悪さをするような連中は暴力社会の枠組みの元、近寄って来たりはしないだろう。

 泪は思ったよりやんちゃだな、と。やんちゃで片付けられないだろう泪の傷害事件の数々に思う。それでも泪が捕まったりしていないのは理性が無い割には限度を知っているからなのだと思う。

 中学に上がった頃、当時の泪の髪色はオレンジだったけれど、上級生に目をつけられるには充分だった。一年生のクラスが並ぶ廊下に数人の上級生が来て、泪の行く道を遮りどこかに連れて行こうとしたのだろう。泪が怒る理由としては充分すぎる理由に、案の定泪は言ったらしい。


「邪魔」


 そこからは泪の一人舞台だったと聞く。泪は生まれた頃からこんな性格だ。小学生の時から道端で自分の道を偶然にも遮る不良中学生がいると冷たく言い放っていた。だが、勝てなかった。体格差もあるが、小学二年だった僕達が中学生に勝つという行為は無理そのものだった。

 泪は空手に通った。連れられて僕も。二年も道場に通った頃に泪は辞めてしまったけれど、最強の自由を作るには充分だった。

 だが、だからこそか、泪はやり過ぎない。相手がごめんなさいといえば泪は笑って許したのだと、それも人づてに聞いた。


 高架下に連なる二十三十の店を歩く。主に学生はここで服を買ったりしている。カラオケやビリヤード、ダーツ等の遊び場所や、意外にも泪はまともに案内をしていた。それだけ歩くと日も暮れて来て、最後に案内したい場所があると泪は言う。僕達は海辺行きのモノレールに乗った。

 モノレールからは既に海が見える。水面下に篭ろうとする太陽が放つ赤焼けは世界を変えている。そして、移り行く世界にこんなにも映える人を、生涯知ることはないだろう。相羽さんを除いて。


 海辺に着いた頃には世界は月が光を照らしていた。丁度境目だったのだろう。

 コンクリートで舗装された道を無邪気に歩く泪。優雅に歩く相羽さん。後を付いて回る僕。不似合いな状況だと思う。美男美女のカップルに砂利が一粒混ざってしまったかのような、まるで特異点のような僕。どうしてここにいるのか、僕にはわからない。本当に成り行きだとしか思えない。


 今までよく笑っていた泪が不意に笑わなくなった気がした。合わせて笑っていた相羽さんも表情が少なくなった気がした。あくまで気がするだけだ。これが夜の魔法なのだろうか。

 けれど、それは勘違いではなかったようだ。多分、きっと。これが僕の最後の平坦。最後の一般だったのだろう。なぜ僕がここにいるのかわからない。これからもきっと、僕はそう思い続けるのだろう。


「それで」


 暗闇を照らすのは月と設置された灯りだけだ。その灯りの下に泪が留まる。境界線を感じた。境界線が見えた。境界線を引かれたのだと、僕は思う。


「何しにきたんだ?――」


 今までで聴いた事がない泪の声。全身全霊の敵意。それは僕ではなく、どこかの誰かにではなく、相羽さん向けられていた。


「ゴミが」


 吐き捨てる泪の無常な言葉。世界最高の美貌だとしても過言ではない相羽さんと、泪は見下すように対峙していた。

 

どんな感想でもいいのでいただけると嬉しいです。


・後書きのような

改めて整理。

語り手香燈春空(かとうはるあき)

中性美人相羽由兎(あいわゆう)

自由人天童泪(てんどうるい)

名前に意味を持たしたい性格なので、彼らも例外ではなかったりします。

かとうはるあき。夏冬春秋。四季の名前。

あいわゆう。愛は優。愛は優しい。

てんどうるい。天の童。泪が感情を表わす。自由人の後に名前の泪をつけると読みかたが自由人類になる。

とまあこんな感じで。

これから先に登場するキャラも(それが今のところどんな役割でどんな意味を持つのかは当然考えていないけど)こんな風に何かしらの意味を持たせたいな、なんて思いますのでお暇があれば考えてみてください。

ではでは、宜しければまた次話で。

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