回想――とある殺人犯の愛した物
回想PAGE2
「いつまでこの村にいれるの?」
木々に遮られた太陽の光が隙間を縫って柔らかな土を照らしている。その暖かな光に二人の黒い髪は鮮やかに映しだされていて少年の髪も少女の髪も更に黒が際立っていた。
かけっこをしていた二人だったが少女の姫子が転んでしまい膝を擦り剥いたことによって、少年の春空が休憩を提案した為、今は二人大木に寄り添い動かずにいた。
「さあ、僕にはわからないよ」
元々、春空は親の都合でこの村に来ていただけだった。仕事の兼ね合いで今まで住んでいた町を一時的に離れ、春空の家族はもう三週間をこの村で過ごしている。当然、まだ幼い春空にはそんなことが解るわけはないのだが、親に「いつか元の町に戻るからな」と言われていたこともあり、わからないなりにも行く末を漠然とではあるが知っていたのだ。
「そっか……」
とても寂しそうに、悲しそうに俯く姫子。
それも無理はなかった。初めて仲がよくなった同じ年の男の子。この村に子供は少ない。姫子と一番年が近いのが八つ離れた青年なのだが、青年は一日中外に出ることはなく、自室に引きこもって何かをしているような、一つも二つも距離を置きたくなるような青年であるため、姫子も遊んで貰った記憶はない。そのことも手伝って、いつも姫子は一人で遊んでいた。
「えいっ」
と、近くに落ちていた緑の葉っぱを拾い姫子の頭に春空は乗せた。
「なにすんのよぉ」
その葉っぱを取り春空の顔に投げつけるが葉っぱはひらひらと風に舞っていく。
「へへへ、ばーか」
どちらが言ったわけでもなく鬼ごっこは再開された。沢山の木々を避けて駆ける二人にしんみりとした雰囲気はただ悲しくさせるだけと、春空は小さな身に感じていた。
駆けて、翔けて、駆け抜けて。
二人の子供は山の奥へ奥へと入っていく。いつの間にか普段でさえ来ないような山のとても奥深くに来てしまった二人は、足を休めて困っていた。
「どうやって帰ろうか」
言葉にしてしまえば更に不安は膨れてしまうが、言葉にしなければ今の状況を深刻には考えられなかった。沈黙が流れる。姫子は泣きそうな顔で春空を見ていた。
さて、どうしようか。
と、春空が考えていた所、姫子が途端に小さな悲鳴を上げる。
「どうした?大丈夫!?」
姫子に近寄って肩に手をやる。
姫子は何かに襲われた様子はなく、痛がっている風でもない。だが、何かに怯えているようではあった。
「あ……あれ、なに……?」
ぷるぷると震えた小さな指で一つの方向を指す姫子。その先を覗くようにして、春空はゆっくりと振り返る。
衝撃を受ける。
それは、人だ。
いつからそこにいたのか、這ってきたのか。ただそこにいることが当たり前であるかのように溶け込んだ人間。
大木に体の全てを預けている、真っ白な、人間。
肌は白く、髪も白く、シャツも白く、パンツも白く。
土で汚れてしまっているとはいえ、その人間はとにかく白かった。
姫子が怯えている理由。春空が衝撃を受けた理由。
近づかないまでも解るほどに衰弱した人間。その人間は、まるで、死体だったのだ。
ただし、よく見てみれば肩がうっすら上下に揺れていて、それを材料に春空は生きた人間だと判断し、恐る恐る近づいていった。
白く白に包まれた人間は腰まで届きそうな髪を揺らして、前髪を横にやり、ぎろりと春空を睨んだ。
瞬間硬直した春空だったが、その力強い瞳から視線を外せなくなり、春空はただただ暫くの間、その人間と見詰め合っていた。
小さな顔のはっきりとした目鼻立ち。
その人間は、女だった。