プロローグ「蒼穹の瞳光」
咲き乱れし花々
プロローグ「蒼穹の瞳光」
それは夕闇の中で踊る怪物のようでありながら。…朱色の閃光を迸らせる、ただ一つの陽光の様にーーー美麗な髪をなびかせていた。
私たちの生きる世界は、「とある因子」が支配する世界。
そのとある因子の名を。「万能因子」と呼ぶ。
「我ら人間はこの因子に解釈を通して、その型に嵌める。
そうすれば「異能」へと変わり、それらを固形化し、銃のような機構に挟んで自身の脳髄へとうち抜けば異能を発現させる
「異能チップ」を生み出した。
何故こんなものを生み出したのか。それはーーーー。亜人。そいつらの存在のせいだ。
亜人とは凶悪であり、凶暴であり、尚且つ…姑息であると。
我々は許せない。許せるはずが無い。人よりも下だと、我々がその身をもって教えてやる、と。
さぁ、立て。立ち上がれ。
亜人の持つ特殊なその力を粉砕し、自分の脳すらも殺しながら抗え。
それがーーー我々、人間というものだ。
分かったかい?人間達よ」
咆哮が。歓声が。弩声が。響き渡る。嗚呼…プロパガンダに囚われて、なんの意義もなく亜人を滅する道具ばかりだ。
「ーーー下らない」
元「亜人」にしてーー。厄災と称され、人類の懐刀へと変異させられた僕の名前は。
「ーーーーそうね、本当にくだらないものよね。アベル」
アベル。
「……そうですね。僕から見れば貴方だって。同じ人間ですよ。ルカナ様」
ただ、そう呟いて、僕はそっぽを向いた
++++++++++++++++++++++++
数年後、薄暗く、時折雨漏りさえしてしまうような実験室にて…。僕は当たり前のように解剖され、拷問され、戦闘データを取られ…。メンタルケアのみされぬままに、ひたすらに身体を刻まれていた。もう僕には痛覚なんて備わっていないから…。
別になんとも思わない。
「……ねぇ、お兄ちゃん」
ぽつりと、僕の隣にいる、白髪の幼女がそう呟いた。
「ーーーー。いつまでこんなに、辛い生活をしたらいいのかな」
「…さぁね、分からない」
僕は呟いて、目を伏せた。
然し、突如として時は訪れる。
「ーーーーうぉぉおおおおおッ!!」
「な、お前は何モノーーーっぐぁぁあっ」
勝鬨を上げ、瞬く間に研究者を穿いて道を切り開く赤い髪のその女性。真っ黒なスーツとその少女の清廉さを表すかのような真っ白な手袋。まるで空のように真っ青な蒼穹の瞳から溢れる鮮烈な光に……僕は惹き付けられた。
「っ…あ、あれは。何?」
僕が分かるはずがないのに、隣の幼女へ向けて声を掛ける。もちろん幼女は「わからない」と首を振った。
その刹那の出来事だった。
突然警報が鳴り響き、爆発が起こり、僕らを繋ぎとめていた牢が破壊される。
嗚呼。また僕は暴れなければならないらしい。
『ーーーー厄災“アベル”。実験体0020。動きなさい、彼女等を…止めなさい』
「「ーーはい、了解。しました」」
すると、その燃え上がるような赫の少女は。歯を軋ませる。
「ーー巫山戯るなよ。亜人を。亜人をこれ以上。弄ぶんじゃ無いぞ、ルカナ・ソフィアミィスッ!!」
その赫を靡かせて、少女は突き進む。ああ。目的があるとは…強いな。いい事だ。でも
「ごめんなさい。僕はーーこれしかないので」
何度も切断されたはずの腕から当たり前のように指を生やして。
そしてーーー。
自分に銃口を向ける。
「ッ?! 何をする気なの、貴方ーー」
赫い少女は蒼穹のように透き通った瞳を濁らせ、驚きの表情を浮かべる。
御免なさい。
「ーーーー」
銃声が響き渡る。然し……僕の身体に異常はない。否、『損傷』は無い。
途端に僕のからだから電磁波と電流が流れ、掌からバチバチと放電し始める。
赫い少女は…。僕の成すことを理解したらしく。臨戦態勢を取った。
「ーーーー私は。止まらないわよ。貴方達を。亜人を解放してみせる」
亜人は……『魔術回路』と呼ばれる物を持っている。魔術回路とは。万能因子に肉体が適応した結果、万能因子を取り込んで魔術回路で魔法と呼ばれる亜人のみが持つ独自の解釈へと通してから…活用する。
生まれながらに戦闘力に愛された種族。
その中でも彼女はどうやら…
「ーーーー焔魔法」
一気に指が明々と染まり。薄暗い実験室が一気に明瞭に冴え渡る。
ああ。なんて明るい力なんだろう。
「焔の使い手ですか」
「そういう貴方はどうやら『紫電』ね?」
「ええ。そうです」
僕は本来、戦闘向きな亜人ではない、つまり魔法は支援用の魔法しか扱う事が出来ない。
だから、異能チップ。control・bug・companyと呼ばれる、世界で最も巨大な亜人実験会社にして、亜人の持つ魔術回路を応用したことで生み出した『異能チップ』を使わされている。
中でも僕が使用するのは。
CBC-0003-型番『紫電』
紫電という解釈を与えられた因子の塊だ。
「ーー名は?」
「アベルです。貴女の名を。良ければお聞かせください」
そう言うと、彼女は微笑みながらこう名乗る。
「アルナ。ーーアルナ・マグヌスよ」
どうも、奏主です。新作出して頑張りたいです。