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愛する事はない

「お前を愛する事はない」と言われた件について

作者: しまね

 前世では異世界物の小説をよく読んでいたけれど、どの小説も結局は「幸せ=結婚」が前提だったから斜め読みが多かった。

 特に馬鹿な婚約者や配偶者に酷い扱いを受けていた主人公が、心を入れ替えた馬鹿な相手と元サヤになるのは理解が全く出来なかった。

 自分を虐げた人間とよく関係改善出来るな。

 はっきり言って主人公は人生投げているとしか思えなかったし、ある程度大人になった人間がそうそうと性格が変わるとも思えない。

 実際、世間ではそういった「健気な女主人公」が受けるし、そういった「女性像」が洗脳されてるんだろうな。

 もっとも創作物だし、「めでたしめでたし」なんだろう。

 婚約者や配偶者を虐げた男は関係改善した後はちゃんと心を入れ替えただろうし、主人公も平穏な生活を手に入れるんだろう。

 だけど、現実的に考えて私にとっては「ありえない」事なのだ。

 DV野郎とDV被害者にしか見えなかった。


 恐らく、私がそういった境遇の主人公としての小説なら受けないんだろうな〜。

 そんな事を本日初めてお会いした、先ほど婚姻届を出した夫の前で思っていた。


「私はお前を愛することはない」


 ああ、悪役令嬢の物語の次に流行ってた話にスライドしてるわ。


「お前はお飾りの侯爵夫人としていればいい。

 私はお前に興味はないし、周りが煩いから結婚しただけだ」


 一応、淑女教育賜の口角を上げて馬鹿な自分の夫の話を聞いていたけど、小説は読むだけだったからよかったけど、自分がその状況になると心底こいつの事どうでもいいような感じになるな。

 私は右手を頬に当て笑顔で対応した。


「それでは旦那様、契約をしましょう」



 ********************************************************

 私はアリエス・エリス・ファーレン。

 アルカシア帝国、ファーレン領を持つファーレン子爵家の次女に生まれた。

 お父様と同じ黒に近い藍色の髪に、翠の瞳で、顔はまあ悪くないとは思う。

 この国の貴族は12歳から5年間帝都の学園で学ぶことが義務付けられていて、私は昨年卒業した18歳。

 普通は幼い頃から婚約者がいて、女性なら男性が同い年か年上だと卒業と同時に結婚する事が多いのだけど、私の婚約者は家が不正をしていたそうで、私の卒業時には没落していた。

 もちろん、私との婚約も解消。

 その時の私はものすごくショックだったらしく、その衝撃で前世の記憶が蘇ってきた。

 前世の名前も歳も思い出せないけど、前世と今世の記憶が交わって思い出した当時はかなりの日数寝込んでしまっていた。家族や周りは婚約解消の件がショックだったのだろうと思われていたけど。

 私は前世も含めて結婚は進んでしたいとは思わない感じだったので、弟が子爵家を継いだら平民になってだらだら好きな事して生きていくかな〜。と呑気に考えていた。

 しかし、この世界の常識が「結婚出来なくては可哀想だろう」という事で周りが相手を探していてくれていたらしい。そんな事は全く知らず、前世の知識を生かして無双しよう(笑)と行動している最中に、父が知り合いのそのまた知り合いから結婚話を持ってきてしまった。

 しかも侯爵家。これはこちらからのお断りは難しい。


 あれよあれよという間に私は、アリエス・エリス・ローゼンハイム侯爵後継夫人になってしまった。

 昨日ローゼンハイム領にある侯爵邸に到着し、本日初めて見る結婚相手、ジークベルト・テオ・ローゼンハイム侯爵子息(22)とご対面、一言二言話して婚姻届にサイン、教会に提出して婚姻がなされたのでお茶をしているところに、旦那様からの「愛する事はない」発言を聞いたところでした。

 婚姻届け出してから言うところがクズだね。

 だいたい「お前を愛する事はない」って、私から見た自分もそうなるとは思っていないから出てくる言葉でしょ。貴族の政略結婚になに夢見ているのか。

 どうやら、この侯爵ご子息様は3年前に愛し合っていた婚約者を病気で亡くして、それからずっとその婚約者を思って過ごしていたらしい。

 ただ、やはり後継である彼の元には次々と釣書が届き辟易していたらしいが、あまりにも周りがうるさいので侯爵家にとって毒にならない、尚且つ元婚約者の没落で評判の良くない私だったら恩も売れるし侯爵家の為に尽くすだろうと私に白羽の矢が当たったというワケ。

 そんな白羽の矢はいらんわ!

 まあ、でもバカとハサミは使い様だからな〜。

 ある程度は使わせて頂きますよ、旦那様。

 ちなみにジークベルトとは金髪で紫の瞳を持つ美青年である。元婚約者が亡くなった途端に縁談も来るのも納得のイケメンで、しかも侯爵後継とくれば例え釣書持って来る令嬢に婚約者がいたって乗り換えたいと思うだろう。


「契約とは?」


 頭の上にハテナマーク付けていそうな顔で問いかけてくる。

 顔がいいとどんなバカな事を言っていても様になるからいいね。


「ローゼンハイム侯爵子息様が私に対して愛することはないというのは分かりました。

 私も周囲が心配してこの結婚を進められてとても戸惑っております。

 でもお互いそういった事情でしたら、いっその事それを文章にして契約での婚姻というのを明文化してみたら、例えば『もしかして私の愛を欲しているのか、嫉妬しているのか』とか馬鹿な考えを持つこともないですし、状況によって疑心暗鬼にならずに平穏に過ごせると思うのです」

 いけない、ちょっと本音が出てしまっている。【馬鹿な考え】の部分はいらなかったな。


「ジークベルトだ」


「は?」


「もう婚姻しているのになぜ名前で呼ばない。

 ジークベルトと呼べ」


「まあ、失礼しました。ジークベルト様から許可をいただいておりませんでしたので」


「・・・・・・・」


「では私の事は【お前】ではなく、アリエスとお呼びください」


 さっきから人の名前を呼ばないで「お前」「お前」と人の神経逆立てまくってるんだけど。

 なぜ、私の言葉で驚いた顔をする。せめて「貴女」とか「君」だったら良い印象を持ったのにね。

 私は前世でも、いくらイケメンでも「お前」とヒロインを呼ぶ相手だと話が良くても辟易して読んだ事を思い出していた。


「契約のお話に戻りますが、これはお互いの為だと思うのです。

 婚姻に対して細かい契約を交わせば、私がジークベルト様の愛が欲しいとか思っているだろうと思わずに、大切な思い出をお持ちになって平穏な日々を過ごせるでしょう?」


 ぶっちゃけ、契約に関しては後で私に欲情などしないようにけん制の為でもある。

 いや、自意識過剰とか思われそうだけど、大きい屋敷だから顔を合わせないようにすればそれなりに出来るが、社交界では夫婦で参加しなくてはいけないので、その時には会わなくてはいけないし、私は自身の事業を持っている。女性が事業をすることは珍しいので、「おもしれー女」枠になったりしたら問題だ。なぜなら「おもしれー女」から溺愛される場合もあるかもしれない。

 小説の読みすぎだと思われようが、女である以上ある程度の自己防衛は必要なのである。

 フラグは完璧に叩き折って跡も残らないようにしたいくらいだ。

 だいたい、私は一度嫌いになった人間はとことん嫌うし、根に持つ性格である。

 ジークベルトへの好意などまったくなかったが、「愛することはない」宣言で上がる事もなくなった。

 それならば、あとは自衛だけが問題である。

 私の舌先三寸でジークベルトも納得したようで、契約を交わす事になった。


 細かい事を紙に書いていく。


「白い結婚になりますので、離縁が可能ですがその予定はありますか」


「いや、離縁したらまた新たに婚姻を結ばなくてはならなくなる。わたしは離縁の予定はないのだが、おま・・・アリエスはどう考えている」


 おっ、「お前」を言い直しているわ。案外素直なのね。


「私はもともと結婚する予定はなかったので、そういった予定は今は考えられません」


 などなど、色々と契約に至る文章も仕上がっていた。

 それを羊皮紙に書き直す。せっかくなので、魔法契約はいかがでしょうかと遠慮がちに云ってみる。遠慮がちというか、私はそっちまで契約を持っていきたいんだ。

 魔法契約はその言葉のままで、契約を反故にしようと行動すると体に障害が出てしまう契約である。

 例えば、白い結婚を反故にしようと行動に出ると雷に打たれたような症状が出るという。

 契約魔法の解除はお互いの同意が無いと出来ないので、まさにこの契約にぴったりなのだ。


「そこまでの契約をする内容だろうか」


 まあ、男性にとってはそう思うでしょうね。

 でもこちらは死活問題なんですよ。嫌いな男に迫られるかもしれないと思うだけで寒気がする。


「ただの羊皮紙だと、口約束とほぼ変わりありません。

 むしろ、今後の人生の為にもお互い魔法で契約をしていた方が気持ち的にも楽になるかと。

 ・・・・人の気持ちは変わることもありますし」


 最後の言葉は口の中で小声になった。

 それでも、ジークベルトは納得したので魔法契約に切り替える。

 ちなみに、今回無理に結婚を推し進めた事と先ほどの暴言のお詫びに土地を私名義でもらえる事になった。

 ついでに、私が設計した屋敷も侯爵側で建ててくれる事になった。

 ま、私が上手く誘導したんだけどね!チョロいよ、旦那様!


 契約を魔法でする魔道具は、貴族は必ず持っていなくてはいけない物なのでそれを使ってあっさり契約を魔法で縛ることが出来た。

 ここで私はようやく緊張が解けた感じになった。


 そんなこんなで「お前を愛する事はない」と言われた件について、いい感じに納めた私の手腕よ!

 さあ、今後は自分の事業に専念しよう!


 ********************************************************


 その後事業が軌道に乗り、どんどん拡大していったり、他国の王族に頼られたりして前世の知識で無双した。

 テンプレ展開だけど、やっぱりジークベルトにとって前の婚約者みたいに大人しくない私は新鮮だったらしく、「おもしれー女」枠になって、改めて謝罪と契約魔法を解いて本当の夫婦になりたいとかふざけた事を云ってきたので一蹴したけど、結構しつこいので私の中でストーカー認定した。

 あと少しで結婚して3年になるので、あまりにもしつこいと離婚しようと思ってる。






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