隠れた問題
誤字脱字など有れば指摘していただけると幸いです。
関係各所に連絡を済ませ、シライも現場を後にする。
その足で電話相手の元へと向かう。
建物に入り、部屋へと歩く。途中で背広を着た二人とすれ違う。
目的の部屋の前で身だしなみを軽く整える。一呼吸してノックする。
どうぞ、という返事を聞いて扉を開ける。
「君にしては遅いんじゃないか?」
そう言いつつ部屋の主は微笑む。
「いえ、これより早いと防衛省の邪魔になりますから」
「よく見てるな」
シライの前に立つ男は上司である。しかし、ただの上司ではない。上司の中の上司、企業で言えば社長である。シライからすれば、それは内閣総理大臣ということになる。
十の選挙を乗り越え総理になっただけあり、落ち着いた雰囲気と威厳ある佇まいをしている。
決して痩せてはいないが、その姿には貫禄がある。
お茶を少しすすって自身の机に置くと、会議用の丈が低いテーブルの上座にドスンと座る。
それを確認してシライも着席する。
「その防衛省から報告を受けた。どう試算しても日本に到着してしまうらしい」
「我々の予測とも合致しています」
「自衛隊は全国の人員と装備を地域に縛られず運用する方針だ。たとえ、一部地域に防衛の空白地帯が発生しても致し方ないとするそうだ」
総理が両手を膝につき、身を乗り出す。
「私は自衛隊の最高指揮官として決断しないといけない。そのためには少しでも多くの助言がほしい」
言葉にすれば単純な要請だが、その声には一億人の命を背負う重さを感じる。
「防衛省には申し訳ないですが、現在配備されている人員と装備を全て投入しても勝ち目はないでしょうね。これは自衛隊が弱いのではなく、仮に全国連加盟国の軍が束になっても同じです」
その言葉を聞いて総理は背もたれに寄りかかり、天を仰ぐようにして腕を組む
「そうであっても私は日本のために命令するつもりだ」
「その決断に異論はありません。たしかに自衛隊でなければ対処できないのも事実です。そこで以前お話しした例の…」
「うまくいってるのか?」
「研究と設計は完了して、いよいよ加工段階に入りたいのですが…」
「人材がいないか」
「ええ、やはり自衛隊の協力が不可欠ですね」
ため息をつかない替わりに鼻で大きく息を吸って出す。
「となると、やはり法案を通す必要があるのか。しかし、到着日までに間に合うか」
「悠長に審議などしている時間がないことは、総理が一番理解されていると思います。そこで公安で工作を行おうと考えています」
「議員連中に圧力をかけるのか?一筋縄じゃいかないぞ。週刊誌か新聞にリークされて、下手したら政権が倒れる」
「ご心配には及びません。議員の方々には接触しませんよ。総理には支持率と前後の地方選挙を覚悟していただけますか」
「支持率で日本を守れるなら安いもんだ」
両手を膝について今度はそのまま立ち上がる。お茶をすすりつつ、振り返って話を続ける。
「さて、法案を通すなら君の身が自由にならないとだろう。そっちはいつ片付くんだ?」
「私の信頼する部下が対応にあたっています。外交問題にならないように慎重に動いています。それこそ政権が持ちませんから」
湯呑みを机に置く。
「いざとなったら君が動くんだろう?」
シライは何も返さず、ただ総理の目をまっすぐと見つめた。




