期待
誤字脱字など有れば指摘していただけると幸いです。
「ん、どこだここは」
目が覚めたアカツキの周りには、無数の水色に光る糸がある一点から伸び張り巡らされている。
「確かあの男から腕時計をもらって、腕に着けたら気を失ったのか」と独り言をつぶやいた。
「しかし、これはどうやって戻れるんだ。こうも体が浮いていると身動きも満足に取れやしない」
一人で愚痴を吐きながら帰る方法を考えていたアカツキは、不意に一本の糸に体が吸い込まれるように動き出した。
「いかん、また意識が」
次の瞬間、アカツキの体は完全に糸に吸い込まれた。
「お、やっと起きたか。と言っても君は他の人に比べればだいぶ早い方ではあるけど」と言いながらも満足な顔をした男は言う。
意識が朦朧とするアカツキは何とか言葉を振り絞る。「私の体に何が起きたんですか」
「君はたぶん無数の糸の世界を見たね。それは時計を着けた者が皆体験する現象なんだ。まあそれが見れたっていうことはTCCが君の体と適合したということだから安心していいよ」
男はそう言いながら後部座席から今度は封筒を取り出した。
「さて、色々と説明したいことはあるけれど君の体調的にも時間的にもこれ以上長引くと良いことにはならなそうだから、この説明だけ最後にさせてもらおう」
男はアカツキに封筒を渡す。
「君がこれから潜入する組織の名は96クラブと言う。お金を払えばTCCを売ってくれる組織ということ以外には判明していることはない。これまでにも何人か公安を送り込んだが結果は芳しくなかった。彼らも警戒を強めていてね。次失敗すれば拠点を移す可能性が高い。そういう意味では君が最後の砦という訳だ」
そこまで話すと男は封筒を指さして
「そこには96クラブの招待状と私からの指示書が入っている。今後のことはそれに従って行動してもらおう。そして、君の任務の最終目標だがそれは96クラブのトップのTCCを回収するか破壊してほしい。さっきも言ったが君が最後の砦なんだ。期待しているよ」
話終えた男はエンジンをかけ、ハンドルを握った。
アカツキに降りるよう促しているのだ。
それを察してアカツキは素直に降車した。だが、アカツキはどうしても気になったことをドアを閉める前に一つだけ質問をした。
「最後に一つだけ教えてください。あなたのことは何と呼べば良いんですか」
男はただ前を向いて言った「私かい。私の名前はシライだ」