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第一部 時を売る商人

誤字脱字などあれば指摘していただけると幸いです。

 陽は暖かく風は冷たい春のことであった。世間は新年度ということもあり、新社会人や異動になった人等が期待と不安の顔をして歩いている。多分に漏れずアカツキもまたそんな顔をしている一人である。


 アカツキは公安の調査官である。地方の大学を卒業し、警察学校で上位の成績を収めたことで公安に配属された。以来、経済犯罪を主に担当してきた。新年度になるにあたり新たな部署への異動の辞令が下ったのである。


 「指定された場所はここで合ってるよなぁ」アカツキは一人つぶやきながら辺りを見回す。都内某所の地下駐車場。1台の車も停まっておらず空調の音だけが響く。


 少し待っていると1台の車が入ってきてアカツキの傍に駐車する。運転手に目を向けると手招きをされた。どうやら場所は間違えていなかったようだ。


 助手席に乗り込むと、早速男は話し始めた。


 「ようこそT処理班に。アカツキ君だね。ここにくる前に説明は受けているかい」と男は公安には似つかわしくない明るさを含んだ声で問いかける。

 「いや、T処理班に配属されるということ以外には何も」

 「それは良かった。まあそもそも私が説明しないよう上に要請していたからね。何せ仕事内容を聞いて逃げ出されては困るから」

 

 アカツキは少し嫌な気分になった。公安という職業上、次の仕事内容が直前まで明かされないことは珍しいことではない。しかし、どんな内容であろうと国のために私情を捨てて仕事に臨んできた。運転手に覚悟の無い男に見られた気がしたのだ。


 そんな思いに男は気づかないようで話を続ける。

 「単刀直入に言うと、君にはこれから潜入調査をしてもらう」

 「潜入調査ですか。それ自体は問題ないんですが、私には潜入の経験がありませんが良いんですか」

 「もちろん良いに決まっているよ。いや、むしろ経験が無い方が良いんだ。」

 「はあ、何故ですか」

 「君はこれまで経済犯罪担当だっただろう。しかも現場ではなく情報分析や調査状況の整理など裏での仕事がメインだった。そういう調査官は相手に顔が割れていなくて潜入に最適なんだ」

 「それだけの理由で私が選ばれたんですか」

 アカツキだから求められている訳ではないと感じ、少し残念な声で問う。しかし、返ってきたのは期待を抱かせるものだった。

 「それだけで選ぶ私ではないよ。これは君でなければいけない理由がある」

 

 そう言って男は後部座席からアタッシュケースを取り出してアカツキに向けて開けた。

 そこに入っていたのは腕時計である。


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