演説
誤字脱字など有れば指摘していただけると幸いです。
「申し遅れましたが、私の名前はイチジと申します。さて、皆さんは何かに選ばれたという経験はありますか」
皆不思議そうに顔をする。イチジの言いたいことを掴みかねている様子である。
イチジは笑顔で話しを続ける。
「いきなり変なことを聞く人だなと思ったでしょう。しかし、これは重要なことなのです。例えば、大会の選抜メンバーに入っただとか。あるいは、作文コンクールに入賞しただとか。はたまた大学受験に合格しただとか。人生において何かに選ばれる場面は多くあります。ただ、ここに集まっていただいた皆さんはそういった経験が無い人ばかりです」
聴衆はどこか思い当たる節があるのかくらい顔になっていく。
(自分の人生をそこまで悲観的に捉えられるものなのか)と一人考えるアカツキであった。
イチジは聴衆を見渡し、一際声を大きくして話し出す。
「しかし、今日からは違います。皆さんが身に着けている時計に選ばれたのです。時計とはすなわち時間を表すもの。つまり皆さんは時間という超常的なものに選ばれたと言っても過言ではありません」
訴えかけるように手を振り下ろし、顔も険しくなるイチジ。
「そして選ばれた者には使命があります。それは自らが選ぶ者になるということ。いずれは選ばれた者だけが暮らす素晴らしい社会が実現することでしょう。そんな社会を皆さんと築きたい」
そこまで話すと再び笑顔になり落ち着いた声に戻る。
「不安に思うことがあるかもしれません。しかし、皆さんが着けている時計はあなたの力となって必ず助けてくれます。長々と話しましたが、皆さんと素晴らしい社会でまた出会えることを楽しみにしています」
どこからともなく拍手が始まる。それは瞬く間に全体に拡がり、壁に反響して音が増幅されていく。アカツキも流されるように拍手をしている。
演説を終えたイチジに代わって小柄な男が登壇した。顔のしわを見るにだいぶ高齢である。
少ししゃがれた声で話始める。
「それでは次に皆さんにはペアを作っていただきます。ペアになった方からイチジ会長からお話がございますので、私の元までお越しください」
(さて、どうしようか)と考え始めたアカツキの右隣から声がかかる。
「あんた、俺とペアになってくれないか」




